『いじめ文学専用サイト総合情報センター』

ついったー新アカウント、作業用アカ
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このサイトは、性的なコンテンツを多大に含んでおります。
そこで、ある重要な質問をいたします。
貴殿は18歳以上ですか? それとも以下ですか? あるいは15歳以下でいらしゃいますか?
もしも、18歳以上ならばこちらをクリックしてください。
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『いじめ文学専用サイト総合情報センター』



contents 1 ・・・・・・・・・長編小説『由加里』
contents 2 ・・・・・・・・・長編小説『マザーエルザの物語・終章』
contents 3 ・・・・・・・・・二次製作、新釈『氷点2009』
contents 4 ・・・・・・・・・長編小説『おしっこ少女』
contents 6 ・・・・・・・・・長編小説『少女が死にました 18禁バージョン』
contents 7 ・・・・・・・・・長編小説『姉妹』
contents 8 ・・・・・・・・・長編小説『ふたり、あるいは友情』
ついったー始めました。執筆状況など、近況報告はここまで
『いじめ文学専用サイト総合情報センター』



contents 1 ・・・・・・・・・長編小説『由加里』
contents 2 ・・・・・・・・・長編小説『マザーエルザの物語・終章』
contents 3 ・・・・・・・・・二次製作、新釈『氷点2009』
contents 4 ・・・・・・・・・長編小説『おしっこ少女』
contents 6 ・・・・・・・・・長編小説『少女が死にました 18禁バージョン』
contents 7 ・・・・・・・・・長編小説『姉妹』
contents 8 ・・・・・・・・・長編小説『ふたり、あるいは友情』
ついったー始めました。執筆状況など、近況報告はここまで

Contents 8
『いじめ文学専用サイト』へようこそ!
新長編小説『ふたり、あるいは友情』
『ふたり、あるいは友情1』
人間は何を思うのか、考えるのか、自分のものだといって本当に制御可能なのだろうか?中学1年生のごくふつうの女の子である如月美佐枝はリノリウムの床がきらきら光るのを見て、忘れかけていた、ある同級生のことがインスピレーションのように浮かんでいた。
彼女のクラスには一人の少女がいじめられている。
宮間未華がそのような立場に置かれたのは自業自得だと、美佐枝は思っている。いや、彼女だけでなくクラスのほぼ全員がそう考えている。
それにはある切っ掛けがあった。
ある朝、クラスメートたちが登校すると、教壇の上にCD_ROMが置かれていた。それを再生してみると、美香がクラスメートを罵倒する内容が長々と20分ほどに渡って録音されていたのである。誰の耳にも、それは彼女の声であることはあきらかだったし、本人も否定しなかった。
単に美貌で頭がいいというだけでなく、弱い人間に惜しみない助力を差し伸べるなど、精神的にも高潔な人間だと、みなに受け止められていた。しかし、録音はそれと完全に相反する内容だった。
いったい、誰がどんな目的で置いたのか、という根本的な問題を完全に忘れ去って、ただ、信頼していた人に裏切られた思いだけが勝ってしまった。その結果、少女は一瞬にして、クラスの人気者から忌み嫌われる存在に落ち込んでしまったのである。
あんな台詞を録音した声を聞かされてしまえば、クラスのほとんどは彼女を嫌うだろう。さすがにあそこまでひどいことをする必要はないが、少なくとも、かかわろうとしなければいいのだ。
今は、放課後、HRが終わったばかりで、運動部のかしましい声がまだ響いてこない。嵐の前の静けさとでもいうべきひと時だった。
音楽室に向うために渡り廊下を歩いている

Contents
『いじめ文学専用サイト』へようこそ!
本サイトでは、U15の少女を主人公としております。
なお、性的なコンテンツを含みます。18才以下の方は、即時、退去していただくようオネガイします。
本サイトが、内容の中心に置いているのが『いじめ』です。これから、数多くのいじめられっ子談を紹介したいと思います。まずは、トップバッターを連れてきました。西宮由加里さんです。
顱 慷害知ぁ
私は、西宮由加里といいます。高校二年生の、ふつうの女の子です。今の私を知っている人には、理解してもらえないのですが、中学の時にいじめられていたことがあります。
これから、語られる物語は、夢の中で出会った男性に話したことです。彼は、何でも、小説家志望だそうです。もしも、作品に悪いところがあったら、いくらでも注意してあげてください。
『由加里1』
少女は、闇の中にいる。それは、彼女の内面をも表していた。闇とは意識無意識のうちの無意識を意味する。一言で言えば、ぼっとしていたということだ。だから、ドアがおもむろに開いたことにも気づかなかった。
「由加里?もう寝たの?あれ起きてるんじゃないの」
「・・・・あ、ママ」
由加里と呼ばれた少女は、返答に窮した。
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『由加里2』
『由加里3』
『由加里4』
『由加里5』
『由加里6』
「ひどい!何だろう、これは?!」
翌朝、由加里は鏡に映った自分の下着姿を見て、思った。黒いボンデージ風の下着は、あきらかに、13歳の少女には似合わない。少女は、身長は155センチで、平均からそれほど低いわけではないが、そのほっそりした肢体は、年齢よりも一つか二つほど下に見える。
「恥ずかしい!」
由加里は思わず目を覆った。その日は、彼女にとって大変な問題を抱えているのに、さらに困難を抱えるなどと・・。
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こんにちは。西宮由加里です。ここまで、読んで頂いてありがとうございます。多少は、脚色が為されていますが、書かれていることは、結構、本当のことです。これから、性的ないじめが、始まります。
『由加里7』
安閑とした教室で、由加里がたったひとりで、英語の授業を受けている。
多賀の発音は、留学経験を自慢するなりに、それなりにマトモだった。しかし、それは、彼の人格や、教師としての資質にまったく関連しない。こんな状況で、平然とした顔で、授業ができるのだ。どう考えても、まともな教師ではない。
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『由加里8』
『由加里9』
「なんて、破廉恥な下着かしら」
「ぃいやああああああ!!見ないで!見ないで!!」
クラス全体がどよめいた。しかし、照美は冷静なまま話しを続ける。あたかも、予め、由加里の下着のことを知っているかのように、話し出す。
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『由加里10』
「由加里!どうしたの!?」
「ママ・・・・・・」
春子は、娘の顔を両手で包んだ。そして、その顔を眺める。由加里は、思わず目をそらす。
「由加里ぃ!」
「か、母さん・・・・・あ!ああああっっぁあああ!!」
由加里は、いきなり、母の胸に飛び込むと号泣をはじめた。
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ママに、いじめられていることだけは、バレたくなかったのです。でも、このとき、全部、打ち明けていたら、あそこまで、ひどいことにはならなかったと思います。
『由加里11』
6月の陽光は、新緑にきらめいて、生命の謳歌に満ちているはずだった。しかし、どうして、こんなにねっとりしていて、気持ち悪いのだろう。由加里は、隠れていたトイレから引きずり出されて、教室に連行された。ちなみに、どうしてトイレかと言えば、そこで弁当を広げていたからである。哀れな由加里は、もはや、ここでしか昼食を取ることを許されないのだ。
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ここまで、読んでくださってありがとうございます。由加里です。トイレで、ごはんを食べるのは、とても辛いことでした。四方の壁からつぶされるような気がするのです。私の中学のトイレには和式と洋式があるのですが、いじめっ子たちは、和式で食べろと言いました。和式だとうまく座れないのです。彼女たちは、それを知っていて、命じたのでしょう。
四時間目が終わると、お弁当を持って、トイレに行くように命令されます。具合が悪かった時など、無理矢理に押し込められました。そして、全部たべるまで、出して貰えませんでした。流さないように、上から監視されていました。だけど、ママが作ってくれたお弁当をトイレに流すことなんて、できるはずはありません。一番、何が辛かったって、お弁当に対して、ママに対して、悪くって・・・・・・・・・・・ごめんなさい。もう言えません・・ウウ・・・・・ウ
『由加里12』
『由加里13』
「アれい?どうしたのカナ」
「いやああああ!ぁ」
由加里は、大腿を狭めて、いじめっ子たちの視線を防ごうとした。上品なかたちの鼻梁が、恥辱に狭まる。
「西宮ったら、おもらししちゃったのかな」
ちょうど、放送委員の仕事を終えた似鳥ぴあのである。
「ぃやあ!ぃやあ!み見ないで!」
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本当に、辛い体験でした。西宮由加里です。よく、こんなひどい目にあって、生きていられたと思います。今、思い出しても涙が出てきます・・・・・・・・・。
『由加里14』
『由加里15』
『由加里16』
「なあに、朝から出かけるの?休みなのに」
春子は心配になって、娘の背中に声をかけた。
「由加里姉ちゃんたら、早いのね」
妹の郁子は、眠い目を擦りながら部屋から這い出てきたばかりだ。
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『由加里17』
似鳥かなんが、選んだのは、とある空き屋だった。
「・・・・」
「何しているの、入ってきなさいよ、はやくいじってほしくてたまらないんでしょう?」
「そ、そんな・・・・・・・・」
意地悪く言うかなん。
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似鳥先輩・・・・この人の名前は、もう二度と聞きたくないです。先輩は、私の弱みを全部知っていて、ああいうことをしたんです。ファーストキッスが、同性だなんて・・・・・・・。
『由加里18』
由加里は、帰宅するなり、風呂場に直行した。まだ、午後4時30分を回ったばかり・・・・・・・である。母である春子は驚いたが、何も言わなかった。
びりびりという擬音は、本来、水に対してふさわしいものではないであろう。しかし、今、由加里が浴びているシャワーは、まさに、その擬音そのものだった。水が痛い。それは、汚れた少女の躰に当たって、無機的な音が木霊する。
続きはクリック。
本当にひとりでした。ミチルちゃんでさえ、信用できませんでした。
クラスの女の子のひとり、ひとりに、わずかな可能性を求めて、アプローチしました。もちろん、誰も口すら聞いてくれませんでした。
そんな辛い時、唯一の慰めがオナニーでした。自慰とはよく言ったものです。私は、いじめられる自分を思い浮かべてオナニーしました。もちろん、いじめっ子の中に、私もいるのです。もう一人の私は、先頭に立って、西宮由加里をいじめていました・・・・。本当にひとりでした。
『由加里19』
『由加里20』
『由加里21』
夜のしじまに、一つの果実がなった。それが腐って落ちるか、貴人に食べられるかは、果実しだい。
「痛かったですか?西宮先輩」
「全然、痛くなかったよ、貴子ちゃんが教えてくれた方法が、よかった」
「・・・・・・・」
小池貴子と高島ミチルは目を合わせた。
「でも、惨めだよね。こんなことまでしなきゃいけないなんて・・・・・」
由加里は、顔を自らの膝に埋めると、泣き出した。
由加里の目には、その日の昼間のことが、鮮やかに復活していた。
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『由加里22』
高島ミチルは、由加里と小池貴子を、富士山の麓にあるコテージに誘った。ミチルの伯母夫婦が経営しているのである。青木ヶ原樹海の近くにあるこのコテージには、テニスのコートが何面もあって、 それは、プロレベルの選手すらが、利用するほどである。あの西沢あゆみも訪れると聞く。ミチルは、彼女からサインをもらったことがあった。
「月曜が、創立記念日だから、三連休じゃないですか」と誘ったのである。
たまたま、海崎照美や似鳥かなんからの命令もなかった。
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『由加里 23』
昼過ぎにコテージに入った三人は、ミチルの母親が作ってくれたお弁当を手に、樹海の散策に向かった。おやつ代わりだと言うのだ。
もともと、高島家は体育会系の家である。運動少女たちが、どのくらい食べるのか、100も承知なのである。テニスコートの裏には、広大な樹海が横たわっている。そこは死の別名だ。磁石すら通用しない樹海。そこに、間違って、入れば二度と帰ることができなくなる。一方、自殺者は、それを利用して、自分を苦痛から解放される道を選ぶ。
人間の目に親しい緑は、その迷路の恐怖を和らげては・・・いる。しかし、それ故に、樹海はおそろしいのである。
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『由加里 24』
「西宮先輩、いじめられているんですよ」
いきなり、貴子が切り出した。ミチルは目を丸くしている。親友が、積極的に動く姿は珍しいからだ。
「それは、テニス部内のことなの」
あゆみが言う。予め、ミチルと貴子が後輩であることは知らされている。
「それはいけないな・・・・・・」
はるかは、まるで他人事のように言う。
「でも、はるか姉ちゃんは、同じクラスなのよね」
「私は、あまり親しくしてないし、口を聞いたのも二年になって一回か、二回ぐらいかな」
「じゃあ、教室で話しかけられたら無視しないよね」
続きはクリック。
『由加里 25』
「やめて!来ないでええええぇ!」
「由加里!開けなさい!一体!何があったの!?出てきて、ママに説明しなさいぃ!!」
春子は、由加里の部屋のドアを激しく叩きながら怒鳴った。
由加里の自殺騒ぎは、必然的に、両親に知らされることになった。楽しいはずの旅行は、日曜日の夜のうちに切り上げとなり、その日のうちに、父親の運転する車で帰宅した。その最中、由加里は両親の質問には、一切答えなかった。
そして、帰宅するなり、自室に引きこもった。その上に、机やら本棚やらを放り投げた。ドアにバリケードを作って立てこもったのである。
部屋の中から、聞こえるのは、由加里の悲愴な泣き声だった。
続きはクリック。
由加里です。ここまで、読んで頂いた方の中には、ここでようやく光が射すと想っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?残念ながら、それは違います。本当の意味での地獄はこれからはじまります。
どうして、それを、彼に話すことができたのかわかりません。
あれから二年になりますが、ようやく、本当の意味で笑うことができるようになりました。ここまでなるために、信頼できる精神科医の先生や家族の愛、友達、それに・・・・・・・。とにかく、いろんな人の手助けが必要だったのです。
『由加里 26』
夏休みが間近になったその日、由加里は、いつもよりもさらにダークな心持ちで登校した。太陽が、まだ午前8時を回ったばかりだというのに、陽光がまばゆい光を放つ。
由加里の心の中は、それとは真逆に暗雲が立ちこめていた。昨日、すなわち、月曜日は、学校が創立記念日で休みだった。土日は当然のように休みだから、結果、三日ぶりに煉獄のような学校に赴くわけである。
続きはクリック。
『由加里 27』
「ゆ、・・・・ううウウ・・・由加里は、・・ううィウ・・全身、汗まみれに、・・うウ・・なって上下に、・・ううウウウ・・動いている・・・・・お、男に、両手を、・・うウウ・・奪われ、背後から、・・ううウ・・付かれている・・・・」
由加里は、モニター上に、展開している映像を、文章にしていく。その間にも、はるかと照美の、指がにちゃにちゃと少女の性器に食い込んでいく。
「・・・・ぅああ!!」
「感じてる場合じゃないでしょう?」
つづきはクリック。
みなさん、こんにちは、由加里です。このころは、ほぼ毎晩オナニーに耽っていました。麻薬のように、中毒になっていたとさえ言えます。やらないと眠れなかったのです。オナニーをやって、やって、疲れていつの間にか寝入ってしまうという毎日でした。
新しいオナニーの方法も知りました。それは、悲しいことに、照美たちから受けるいじめを通じてのことです。
手術用のゴム手袋を使ってやると、飛び上がるほどに感じるということです。ゴムの感触が、キュキュと言って、とても気持ちいいのです。
みなさん、こんな由加里をヘンタイだとか言わないでください・・・・・・・どうか。
『由加里 28』
ガタン・・・・ガタン・・・・ガタン・・・ガタン。
午後4時半、初夏を過ぎた太陽はまだ、空にある。凶暴な熱を予感させる太陽は、地上を睥睨し、そこに棲む人間の幸不幸を完全に支配しているように見えた。電車の中は、冷房が効いているとは言え、その光線は、強烈な熱を有している。
京王線は、新宿行きの特急に、由加里たちは乗っている。少女の場合、無理矢理に乗せられたというべきか。
がら空きの車内には、由加里たち五人の他に、ポツポツとしか客は見えない。
ちょうど、由加里の向かいの席には、腰が90度に曲がった老婆が休んでいる。
つづきはクリック。
『由加里 29』
電車から降りた由加里は、すぐさま、後から追いかけてきた照美たちに捕まった。
「いや!いや!いや!もういや!」
泣きながら、激しく抵抗する由加里。しかし、いじめっ子たちは、無理矢理にトイレに押し込もうとする。駅構内を往来する人々は、この顛末を、まるで映画の撮影か何かと思っているようだ。
つづきはクリック。
『由加里 30』
石毛まりは、椅子に座って泣き続けている少女を見下ろした。まるで、刑事と被疑者の関係に見えた。
ここは、通常、万引き犯を連れてくる場所である。しかし、特別にそのために設えたわけではないが、結果として、取調室になってしまった。決して、万引きが減ることはあっても、無くなることはないからである。
しかし、この少女は万引きをしたわけではない。ただ奇矯な行動を石毛に見せたために、連れてきたのだ。
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『由加里 31』
由加里たち三人は、下北沢では有名なステーキ店に入っていた。個室のこの部屋は予約無しでは、この時間帯では部屋がとれない。淳一が常連だったために、余計な注文に応じたのである。既に、食事は終わり、恭しい(うやうやしい)手つきで給仕がコーヒーを持ってくる。
由加里は神妙な面持ちで、ふたりの会話を聞いている。それは、彼女が想像した恋人同士の会話ではない。音楽の話しばかりが続く。Assemble Night というバンドを彼等は組んでいる。
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『由加里 32』
夜の下北沢。そこは、由加里にとって未知の世界だった。時計店を盗み見ると、午後8時半を超えている。こんな時間に、ひとりだけでこんなところを走っている。それは現実感のない体験である。股間から込み上げてくる官能も、由加里を麻薬に誘うことはできない。
例え、おむつが必要なくらい濡れそぼっていても、少女はそれを気持ち悪いと思うだけだ。それに、ちょっぴり羞恥心が加味される。心臓がドキドキする。何処をどうくぐりぬけたのかよく憶えていない。ただ、ネオンサインが目にしみた。
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『由加里 33』
その日は一日中雨だった。きっと、梅雨の最後の一絞りだろう。小さいころは、雨雲が綿飴に見えた。雨を絞ると、完成するのだ、甘くて美味しい食べ物に変わる。
由加里は、しかし、今日の雨雲のようには行かないだろう。一涙で、いじめが無くなるとはとうてい思えない。天気はいづれ晴れるだろうが、残酷ないじめは続く、・・・・・たぶんずっと。
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『由加里 34』
「イヤアアああああ!!」
泣き叫んで暴れる由加里は、瞬く間に、四股をいじめっ子たちに押さえつけられた。
「ほら、もう一度、ママのお腹の中に卵を戻してやンな」
はるかが命ずる。
すると、有紀はほくそ笑みながら、性器に卵を埋め込んでいく。
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『由加里 35』
「こづえちゃん、『24の瞳』ってどんな話しなの?」
「とても破天荒な女教師の話よ、大石先生ってのが、田舎の学校に転任して、苦労するんだけど、渡された台本は、それから10年後の話しね、戦争が終わってからのことみたい」
ここは、向丘第二中学テニス部、部室である。校舎脇にあるプレハブの建物は、冷暖が完備されている。元々は、無化粧な内観は、少女らしい装飾に、リフォームされている。ミッキーマウスの張り紙は、その良い例だ。
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『由加里 36』
「あははは!帰ってきた、帰ってきた!」
「たっぷり、可愛がってもらったみたいじゃない、普段、誰にも相手にされないのにね」
「本当、一年生に、面倒見手もらったっていうじゃない!?西宮さん、よかったネ!1年生とはいえ、いい迷惑よね、こんなのの相手なんて!あはははは!」
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『由加里 37』
裁判は、6時限目に、厳かに始まった。道徳の授業という表向きである。今回は、担任の公認ということで、クラスメートの目の色がちがう。いつものように、手錠や腰ひもの演出こそなかったものの、クラス全体が、由加里を責める空気は、普段よりも、陰惨で残酷な空気に満ちていた。
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『由加里 38』
波乱の内に、裁判は終わったが、終わらせたのは、チャイムであって判決ではなかった。由加里は心身共に、さんざん打ちのめされた。その衝撃で、ぼっとしているうちに、終わったという感覚だった。
「ねえ、人間のクズ!はやく、移動しなさいよ!そこ、私の席よ!?」
「ひっ!!」
由加里は、背後から蹴り飛ばされた。床に両手をついたその姿勢は、まさに犬だ。
「西宮さん、鬼畜にふさわしい恰好ねえ、これからよつんばいで歩いたら?あなたにふさわしいんじゃない?!」
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『由加里 39』
由加里が妹に、平手打ちを喰わせるちょうど、2時間ほど前に、時間を遡ってみよう。
おまけに、空間的にもちょっと移動する。何?Google earthで見るならば、所詮は数ドットにすぎない。
夏休み直前の太陽は、時間の感覚を誤らせる。既に、帰宅すべき時間なのに、照美とはるかは、放送室に居座っていた。しかし、日が長いとはいえ、二人の影の長さは、彼女らに、帰宅の催促をしているようだ。それとも、不安の深さや広さを暗示しているのだろうか。
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『由加里 40』
京王線の駅は、何処も似ている。都心から離れるほどに、その度合いを強くしていくのだが、その疑似宮殿性である。ディズニーランドの、お城のように、そのコンクリートの塊からは、虚無ばかりが目に付く。由加里は、財布だけ持って、フラフラと、そんな駅の構内へと入っていく。
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『由加里 41』
その夜、金属に何か硬いものを打ち付ける音が、幾つも虚空に響いた。それは、一様に赤で着色されていたという。
由加里は、螺旋階段を走った。ひたすらに、夜の虚空を回転して、落ちて行く。この時、どうして、エレベーターを使うことを思いつかなかったのだろうか。冴子をまくためか。いや、姉が追いかけてくることなど、思いもよらなかったはずだ。
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『由加里 42』
貴子の誘いで、マックに行くことになった。
由加里とミチルは、かなりの時間、二人で対峙していたらしい。彼女に話しかけられるまで、二人は、そのことにすら気づかなかった。三人とも蝋人形のように、無言のまま、レジに押しかけると、夜の街がよく見える場所に席を求めた。トレーを運んだのは由加里である。
「夜景がきれいですね、こんな席で、ロマンティックな気分ですか?よくそんな気分になれますね、私はなれませんけど」
付き合っていながら、不満たらたらの体で由加里にあたる。
「ミチルちゃん・・・・・・・・・!?」
「ミチル!」
由加里は絶句し、貴子は切れた。
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『由加里 43』
邸町とは、何と、少女たちが通う中学の学区である。由加里の家から徒歩で、20分ほどの場所にある。
「じゃあ、明日にでも張り込みに行こうよ」
「まるで、刑事か探偵みたいね」
「バカ、ミチル、遊びじゃないのよ」
「・・・・・・じゃ、帰ろうか」
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『由加里 44』
「さあ、これから行きますよ」
担任である大石久子の号令で、教室を出る。由加里を囲むのは、照美、はるか、高田、金江。それに付属するように、穂灘翔子、青木小鳥。男子は、山形梨友、丸当大善の二人である。ひとつ、不思議なことがあった。由加里は、出発の前にトイレに行こうとしたとき、高田と金江に妨害されたのである。
「幼稚園のトイレに行こうよ」
「ど、どうしてですか?」
「クラスのペットで、奴隷が口答えするんだ!?」
「・・・・・・・ハイ・・」
由加里は、頷くほかなかった。
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『由加里 45』
赤い車から、颯爽と出てきた婦人。女性にしては、相当の長身だ。躰を少し折らないと、車から出られなかった。
年齢は、30を幾つも超えていないように見える。シックな感じの黒い服とタイツからは、大人の女性の官能が、そこはかとなく漂ってくる。肌の張りは、ほとんど失われていない。しかし、目や躰ぜんたいから発せられるエネルギーは、20代の小娘のそれではない。
海崎百合絵、照美の母親である。
顔面は蒼白で、目は確と前方を睨みつけている。
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『由加里 46』
由加里の目に飛び込んできたのは、赤い車だった。その車体は、妖しく煌めいてきた。まるで、魔女然として、やってきた。
――――あれにぶつかれば、死ねる。
少女は、涙にまみれながら、身を投げた。
衝撃。
強烈な、衝撃だった。身体が、何処かに持って行かれるような気がした。見えざる巨大な手に、摑まれて、躰をもがれるかと思った。しかし、既に、いじめっ子たちの身の毛のよだつ行為によって、身も心も、十二分に、切り裂かれているのだ。それが、実際に肉体に起こっても、おかしくはなかった。
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『由加里 47』
「さ、冴・・・・ウ・ウ・ウ・ウウ・・・・・・・・・!?」
「由加里ぃ!!」
由加里は、まだ覚醒がしっくりいかない状態で、入室者の顔を見た。頭の中で、渦巻いている思いを言葉にしようとしたが、なかなかうまくいかない。
「さ、冴子姉・・・・・・・!!」
「もう、何も言わなくていい ――――――――」
冴子は、黙って妹の黒髪に触れた。
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『由加里 48』
西宮冴子は、妹の無事を確認すると、とんぼ返りでマンションに帰宅せざるをえなかった。後ろ髪引かれる思いだったが、大学の試験のために、やむを得ない処置だったのである。
病院を出て、2時間ほどで、自宅マンションのてっぺんが姿を現す。この2時間のドライブの間、冴子の頭の中は、後悔とやるせない思いで、ぐじゃぐじゃになっていた。
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『由加里 49』
清冽な朝日が、病室に差し込んでくる。もう、夏休みは間近だ。しかし、いつものウキウキとした気分は皆無だ。
このところ、由加里は自己嫌悪に苦しんでいる。自分は醜くて、臭いのだ、だから、みんなに嫌われていじめられる。そんな固定観念にはがいじめにされている。そのために、自分の醜い姿を顕わにする夏の太陽は大嫌いになった。他人から見れば、嫉妬するほど知性と容姿に恵まれているにも、かかわらずだ。
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『由加里 50』
「あーら、どうしたの? 赤ちゃん? 出しちゃいなさいよ ――――」
「ヒイ! ひどい!ィイイイイ」
似鳥可南子の言葉は、由加里の精神ばかりか、肉体まで打ち砕く。悲鳴は、それによる苦痛の表明である。溲瓶を押しつける圧力はさらに増していく。
「ムグ・・ムギ・・・ウウ・ウ・・ウ・ウ」
緊張のあまり、膀胱付近の筋肉が過活動してしまったのだろう。尿がなかなか、顔を出さない。
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『由加里 51』
教室というのは、学びの室(へや)だったはずである。しかし、いつから戦場になったのだろう。しかし、こんな命題に、きょうび、誰も解答しようとすらしない。生徒はおろか、教師すら、こんな命題に意味があるなどと、牧歌的な夢を見たりはしない。
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『由加里 52』
由加里の病院に、鈴木ゆららが現れたのは、入院して、二日目のことだった。受業が終わるとすぐ、その足で病院に向かったのである。しかし、由加里は、ゆららの顔を見つけると、すぐ布団を覆ってしまった。
「由加里、どうしたの? せっかく来てくれたのに」
母親である春子が、声をかけても、梨の礫だった。
「西宮さん、みんなで手分けして、ノート取ったんだよ ―――」
ゆららの声は、由加里には地獄への招待にしか聞こえなかった。
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『由加里 53』
姿を現したのは、幼児のように、指をくわえている由加里だった。
それは、もしかしたら、ゆららの錯覚だったのかもしれない。しかし、少なくとも彼女の目にはそう見えたのである。
「由加里、鈴木さんがお見舞いに来てくれているのよ」
社交辞令のような、春子の言い方。病床の娘よりも、ゆららに気を遣っているように見える。
「西宮さん ―――」
ゆららは、改めて由加里を見てみる。
まるで金目鯛のような瞳は、一体、何処を見ているのかわからない。それは完全に無垢な乳幼児のそれとは、自ずから異なる。
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『由加里 54』
その花は、赤いスイトピー。アイドル全盛時代に、かつて、そのような歌を歌った歌手がいたはずだ。しかし、その歌手の名前が思い出せない。何というアイドルが歌っていたのだろう。
由加里は、この花を見せられたとき、一抹の不安がよぎるのを感じた。
赤い血の塊が浮遊している。
まるでその外観は赤血球そっくりだ。それも、重症の貧血患者のそれのように、いびつな姿は、由加里そのものを暗示しているようだ。
続きはクリック。
『由加里 55』
「由加里ちゃん・・・・・・そう呼んでもいいんだよね」
「・・・・・・・」
由加里は黙って頷く。まるで、ぬいぐるみの首が曲がったように、見える。
「今日、一日だけで、信頼されるのは無理だってわかってるよ。私たちが、由加里ちゃんにやってきたことを考えればね ――――――」
この台詞は、高田でも、照美でもなく、ゆららの独創だった。
続きはクリック。
『由加里 56』
「ほう、早速、創作意欲に燃えてきたようだな」
鋳崎はるかは、ほくそ笑んだ。
由加里は、ほぼ本能的に目を背ける。それは、怖ろしいものから、身の安全をはかるための当然の行動だろう。
「ウウ・・・ウ・・ウ・・ウウ・・・ もう、もういじめないでください!ウウ・・ウ・ウ・ウ・・ウ・・・うう!」
まるで園児のように、両手で顔を覆って、泣き出す。
「よくある現実逃避だな、西宮、だけど、これがおまえの現実なんだよ! 見ろ! 目を背けるな!」
はるかは、本を一冊、彼女の鼻先に押しつけた。さきほどまで凝視していた18禁本である。整った鼻梁が歪む。
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『由加里 57』
白亜の宮殿に、声に依らない泣き声が、響く。その廊下を照美とはるかが歩いている。外部から見ると、大小の箱を取り合わせたように見える。その簡素な建築様式は、ル・コルビュジエを思わせる。
モダニズム建築が、宮殿と矛盾すると言う人がいるかもしれない。
しかしながら、アラビア世界あたりに、そのような宮殿があったような気がする。病院という女性を収容し、性的な羞恥を与える施設には、相応しい比喩であろう。言うまでもなく、この文脈においては、イスラム世界のハーレムを志向しているのだ。
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『由加里 58』
「ヤグググググッメエエエエエエ・・・・・・」
「あははは、由加里チャンたら、やぎさんになっちゃったの? 」
可南子は、由加里の眼前で、高笑いをする。
彼女の顔に、絶体絶命の4文字が見えた。膣を貫く異物感よりも、精神的なショックの方が強い。 精液を注入されるという恐怖が、少女の華奢な体に侵入しつくす。彼女の美しい肌を詳しく見て貰えばわかると思うが、細かいキメからも、恐怖は、冷や汗のようにあふれている。
可南子は、そのガスを吸って悦に浸っているのだ。自分が支配するペットが嘆き悲しんでいる。その事実をより強める演出の働き、料理で言うならば、スパイスの役割だろうか。
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『由加里 59』
由加里は、可南子に、命じられるままに、そのおぞましい料理を噛み続ける。
「ふふ、よく噛んでから、呑みこむのよ。そうじゃないと消化に悪いからね」
「フグウ・・ウ・・ウ・・ウ」
さらに畳み掛けてくる可南子の言葉に、戦慄すら憶える。由加里は、自分の口が自分のものではないような気がする。今、動いているのは、何ていう器官だろう。何のために上下しているのだろう。
咀嚼しながら、五里霧中の思考を続ける。
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『由加里 60』
さて、ここで、時間を少し、巻き戻してみようと思う。何、そんなに前のことではない。由加里が耐え難い陵辱を受けている最中のことである。
その時、三人の少女が連れ立っていた。鋳崎はるか、海崎照美、そして、鈴木ゆらら。以上の三人が、アルミニウムの靴音を立てていた。そう、友人を見舞ったすぐ後のことである。
ここは、由加里が入院している病院の表玄関、いわば、ロビーのような空間である。さて、三人が行った見舞いとは、どのようなものだったのだろう。
ちなみに、それは、同時に、行われたわけではないが、たいへんに、友情という点において、比類ないくらいに豊かだった。
しかし、それにしては、三人三様、複雑な色を顔に乗せている。
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『由加里 61』
少女の耳には、イヤフォンが詰め込まれている。そこから聞こえてくる音楽は、深海を泳ぐ紳士淑女のようなものである。彼らは、しかし、いくら金銀のような美しい色で飾られようとも、その真価を理解するものは、ひとりしかいない。
イヤフォンは聴く人のみに、音楽を観る視力を与える。
深海においても視力を有する者。
それは、海神、ネプチューンである。
ただし、音楽を嗜む海の神というのは、絵にならないか。何故ならば、水中を音が伝わることはないからだ。もっとも、神話に科学を持ち込むのは、無粋かもしれない。
非常灯が、妖しく緑に光る。
夜のとばりが降りた病院は、深海に似ている。『出口』と表示された文字は、闇の中に、何か投げかけている。その冷たい光は、蜃気楼のように、うつろで、実体がないように見える。
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『由加里 62』
「ママ、もう面会時間終わりが近いよ ―――」
「何よ、母親を追い出すつもり?」
春子は、娘の言葉におもわず、鼻白んだ。自分の提案に対して、そのような返事が返ってくるとは、夢にも思わなかったのである。
―――由加里の個室は、18時を迎えようとしていた。それは、この病院の面会時間が終了する30分ほど前のことである。 続きはクリック
『由加里 63』
女は、鼻歌を歌っている。口笛を響かせたいと思ったが、ごく控えめに、ハミングを響かせるに留めていた。
自分に聞かせるためならば、周囲にとどろかせる必要もない。それは、ストレスのたまることだが、あいにくとここは、野中の一軒家ではない。あるいは、ここは数万の観客を擁するコンサート会場でもない。すんでの所で、そこに立ち損ねた彼女は、余計な感傷を穿つためにここにいるわけでもない。 少なくとも、そう思いたくなかった。
しかし、今、ここにいる以上、そんなことは眼中になかった。いや耳中になかったとでも表現すべきだろうか。 続きはクリック
『由加里 64』
「私、どうしたら、照美さんとはるかさんに・・・・・・・・」
その空気の乱れが、人の耳に到着するまえに、語尾は、かんぜんに雲散霧消してしまった。それは、ホームランと見せて、フライにすぎなかった。
しかし、はるかは憮然とはならない。列車の窓に映るゆららの顔が、あまりに悲しすぎたからだ。透明すぎるその容姿と表情は、はるかの心を融かしていた。一般に、ドライアイスのハートと異名を持つはるかの心は、限りなく融点に近づいていたのである。
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『由加里 65』
「あははは、なんて臭いかしら? これじゃ、奇形児しか生まれないわね。それにしてもなんて臭う月経なのかしら?臭い!臭い!!臭いわ!!」
少女のハマグリが鉄臭い血液を吐き出す。それを見ると、すぐに可南子はクラクラと笑声を立てる。すると、女の鼻梁がヒクヒクと動く。そこから腐ったマヨネーズの臭いが漂ってくる。
「ウウ・・ウ・ウ・ウ・ウウ!!」
由加里の目には、異常にきらきらしている可南子の鼻梁がやけに目立つ。脂を塗り付けたかのように、いやらしく光を反射する鼻梁は、女のいちばん、醜い部分を暗示しているように思えた。
男ならば、一瞬で卒倒しそうな腐った臭いのなかで、二人は相対していた。はたして、どちらが臭いを発しているのか、傍目にはわからない。病室は、自分の胎内で行われている行為をどのように感じていたのだろう。腹が痒いとでも思っていたろうか。
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『由加里 66』
「はーい、笑って、笑って!」
年甲斐もない笑い声を上げて、可南子は由加里に携帯を向ける。彼女の指が動くと同時に、由加里はムリに笑顔を作った。それは片栗粉で固められている。
「ふーん、そういう態度に出るんだ? アレ?」
粉臭い味に舌までやられた可南子は不満の表情を造った。由加里に戦慄が走る。今や、可南子の表情のすべてに、敏感に反応する奴隷になってしまった。それが楽しいのかやや機嫌を取り戻す。
「なあに? 笑えないの?ママと遊んであげたのに楽しくないの?」
「ヒ?・・・・?!」
ただでさえ引きつった笑顔が、精鋭化した恐怖によって、さらに硬化する。目尻から崩れた皮膚がポロポロと落ちる。夜に散らばった水晶の美しさを彷彿とさせた。それは肌の流す涙かもしれない。
「うふふふ」
可南子は悪魔特有の笑いを浮かべる。
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『由加里 67』
『鬼』は自らの車に寄りかかって文庫本を手にしていた。その様子は異様さを極めている。
街を歩く人たちは、ほとんどある距離にいちどは立ち止まって様子をうかがう。そして、しばらくすると去っていくのである。明かに一定の距離以上に近づくことができない。それは、プライベートエリアというわけではない。明かにそれよりも遠いからである。むしろ、彼女のオーラに惹かれ、あるいはそのオーラに妨げられている。そういう感じなのだ。
それに加えておかしいのは、当該人物の自意識である。自分が人を惹き付ける存在であるという自覚が、明かに欠如している。
鋳崎はるかもその例に漏れなかった。いや、普通の人たちよりもその人物の見えぬ力に圧倒されていると言って良いだろう。
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『由加里 68』
南斗太一郎くんへ
いつも、あなたのこと見ています。授業中も休みもずっとです。体育や家庭科でも、いつも太一郎くんの顔を思い浮かべています。
由加里は、あなたのことが大好きです。
太一郎君のことなら、なんでもできちゃいます。裸になれって言われたら、何時でも、何処でも、なっちゃいます!
好きです!
お願いです。由加里を恋人にしてください。
あなたの永遠の恋人 西宮由加里より
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『由加里 69』
「ねえ、お姉ちゃん、どうしたの?」
知らない子供がうなだれた由加里に風車をプレゼントしようと差し出した。しかし、少女はそれに気が付こうとせずに、もくもくと自分の世界にはまりこんでいる。この病院では彼女しか知らないはずの過去の世界に、手足だけでなしに、頭まで完全に浸かってしまっている。
「ヘンなの!?」
「ほら、和之くん!」
これまた知らない看護婦の声が病室の一部を黄色に変えると、子供は風車をベッドの上に投げ入れた。そして、奇妙なものを見る目で由加里を見上げると廊下へと掛けだした。
『由加里 70』
病院の夕食は早い。大抵、午後6時には患者のベッドの上にトレイが乗っているものだ。特別に設えたテーブルは、上に物を置くと頼りなく揺れる。ノートパソコンですら、キーボードを打つたつたびに、年老いたウグイスのように情けない音を出す。それはほぼ悲鳴に近い。
まるで今の由加里を写し取ったポートレートのようだ。ルノワールのような印象派ではなくて、ルネサンス時代のキリスト教絵画のように、精密、緻密な筆致により人間そのものを紙上に再現した絵画のことだ。
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『由加里 71』
由加里はふたりの顔を並べてみた。
塚本誠二と南斗太一郎。
両名とも自分を待ちかまえている悪魔たちだ。いじめられている自分を求めている。しかし、それは同性のいじめっ子たちが少女に求めるそれとは何かが違うように思える。いや、もしかしてそう思いたかっただけなのかもしれない。思えば、あの二人のような人物にそれを求めるくらいに、由加里は追いつめられていたのである。
夕食後、少女はすぐに消灯してしまった。まだその時間までそうとう残っている。
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『由加里 72』
「ぃイやぁぁァ!」
くぐもった声が薄暗い部屋に充満する。それはこの部屋の主である埃と婚姻して、不実な夫婦を形作っている。
南斗太一郎と西宮由加里もそれに習っていた。
擬装の恋人。もちろん、少女が望んだことではない。
そもそも、この太一郎という少年は、由加里にとって真冬の小虫ほどにも印象に残っていない。小虫ならば、それでも不快という感情は残るだろう。
しかしながら、彼には印象らしい印象を感じることがなかった。言うなれば、透明人間と同じである。それは塚本誠二も同様だ。
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『由加里 73』
「どうしたの?」
由加里の剣幕に「お姉さん」は首を窄めた。まるで思いもよらずに熱いやかんに触れたときのように、手を引っ込める。
少女は泣き続けている。そのようすは梅雨時の鬱陶しい雨音のようだ。
「お姉さん」は困ったような顔をした。
甘酸っぱい匂いのするこの少女に何の秘密があるというのだろう。
局所を隠そうとするその姿は、たいへん可愛らしく仄かな意地らしささえ見て取れた。白一色だけが支配する殺風景な病院にあって、一輪咲いた可憐な花だった。
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『由加里 74』
神崎祐介は物陰で震えていた。事もあろうに、この豪毅な男が由加里の泣き声を聞いて股間を縮み上がらせていたのである。
はじめ、祐介はいつものように威勢を轟かせるはずだった。誠二と太一郎などという小物は、祐介が一睨みするだけで世界の塵と化すはずだった。しかしながら、ふたりに責め立てられて許しを懇願する少女の声を聞いたとたんに、気を萎えさせてしまったのである。
もはや、かつての祐介の勇名は地に落ちたと言ってもいい。ただし、この場に誰もいないのでことさら風潮されることもないが、いちばんそれを許さないのは、祐介自身のプライドなのである。かと言って、いちど縮んでしまったものは簡単なことで復活するものではない。
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『由加里 75』
しかし、すぐにゆららの視線に気づくとあゆみは、何か重大なことを気づかされたような顔をした。あたかも、出陣寸前の騎士が戦いを前に矛を収めるように、それは重大な決意に見受けられる。戦闘までに、人は相当な精神の高ぶりが必要だろうが、いちど完成形にまで準備できた精神の高揚を鎮めるのは、端で見るよりも大変だろう。ゆららは、その真意を測りかねるようにあゆみの顔をさりげなく見遣った。
「そ、それにしても、はるかったら本当に大人げないわね ――――」
「え?」
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『由加里 76』
「はあ、はあ、はあ」
由加里は、淡い呻き声を上げた。別の言い方をすれば、深い森に燦然と突き刺さる木漏れ日のように見えたと表現すべきかもしれない。しかし、それは加害者にしか通用しない。
暗室の中で、外から侵入してくる外灯によって辛うじて照らし出されている少女の姿は、囚われの女神を思わせた。古代ギリシア人は、有名な女神デメテールの娘、ペルセフォネにその原型を見ていたのだろうか。きっと敵方に囚われたお姫様のような存在があったにちがいない。それを神話の人物に重ね合わせたにちがいないのだ。
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『由加里 77』
「女の子なのに?」
「ウウグググ・・・ハイ」
まるで自分自身の死をモールス信号で表すように、由加里は答えた。
「よく言っていることがわからないんだけど、あいにくと、私は、ごくノーマルな人間なのでそのヘンのことは詳しくないのよね。誰かと違って・・・・・」
自分のことは何処かの棚に上げて、大胆に言ってのける。おそらく、その棚は、この地球上の何処にも存在しないにちがいない。近くて、太陽系の外縁くらいだろうか。
一方、由加里は、まっすぐに妖女の侮辱を受けて止めていた。
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『由加里 78』
はるかと照美、それにゆららの3人が大人を巻き込んで、青春ドラマに明け暮れている時に、別の空間では人倫と人間性を同時に無視した行いが続いていた。
それも病院という清潔と奉仕の白に塗り込められた場所においてのことである。暗い病室の中では絶対的強者が弱者を思うがままにしていた。まさにしたい放題とはこのことであろう。
白衣の天使は妖女となって幼気な少女に絡みついている。大蛇が小蛇を捕って喰おうという絵画が額に嵌ってひとつの作品になろうとしている。
「ァァ・・・ウウウ、ウ・ウ・ひ、いや・・・・・や、やめて・・・・・ウウ」
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『由加里 79』
鈴木ゆららが見つめている闇は確かに深かったが、それ以上の暗がりに沈んでいたのは、由加里のふたつの大きな眼(まなこ)だった。
虚ろな目は何を見ているのかわからない。双眸は、完全に見引かれているというのに、全く光を反射しない。その奥にはブラックホールが隠されているのだろうか。
それは何でも吸収する挙げ句、光さえ溜め込んでしまうというから、どんなに高性能な天体望遠鏡を夜空に向けても、確認できないらしい。すると、由加里の黒曜石も闇の中に埋もれてしまった可能性がある ―――否、闇そのものに変わり果ててしまったのかもしれない。
――――あらゆる光を吸い取ったあげくに。
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『由加里 80』
「え? それ、ほんとうなの?あの子ってまだ中学生でしょう?」
「最近の子は、すごいわね。それともあの子が特別なのかしら? オトコを求めているのかしら?
あんな幼い顔してね。ふふふ」
聞きたくない言葉は、概して、耳に入ってくるものだ。世界広しと言えど、それは、古今東西において、変わらない定理にちがいない。
今、ちょうど午前8時、由加里は、病室にて気乗りでない箸を手に取ったところだった。非常に疲労しているのに、何故か食欲がない。ほぼ義務感から食物を口に運ぼうとしていたのだ。そんな少女の涙ぐましい努力をふいにするような会話だった。
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『由加里 81』
照美とはるかの悪魔的な笑いにチクチクと突き刺される中、二人に対して何ら抗うことができないという事実は、ことは由加里を奈落の底に叩き落としていた。
由加里は、蟻地獄に捕らわれた蟻のように身体をゆっくりと、しかし、確実に喰われていくのだった。蟻は、意識が残存したまま捕食者に呑まれていくのだ。それは、ある意味、ライオンに殺されるよりも残酷である。後者のばあい、まず、喉元を咬まれたあげく、窒息により意識を奪われてのち、捕食者の胃袋に収められるからだ。
いじめとは大抵後者を指す。
さいきんの、というよりは、戦後しばらくして受験戦争が始まってからは、そういう傾向が顕著である。
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『由加里 82』
「照美お姉ちゃん、予め、西宮先輩にも聞いてるんだけど、 ―――」
ここまで言って、ミチルは声のトーンを落とした。さりげなく由加里を見る目には、彼女を思いやる気持がこもっている。それを目敏く見破った照美は、本人でさえ理解できない感情に心を侵食されるあまり、少女を踏みつけにしてやりたくなった。
しかし、このときばかりは、辛うじて理性が打ち勝った。
「西宮さんがどんな目にあってきたか ――――ね」
――――私の口からいわせる気?
このとき、照美は妹を見る姉の顔になっていた。由加里はそれを見つけると、嫉妬心でいっぱいになった。
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『由加里 83』
「由加里ちゃん、可哀想に・・・・・・・!?」
母親がまるで身も世もない哀しみに打ち拉がれる愛娘を抱くような仕草で、照美は、由加里を抱き締めた。
彼女の美しい顔が涙にくれるいじめられっ子の上にある。獲物の肉の温度を顎で感じながら、彼女は、内面と外面を完全に切り離した。
感情を完全にコントロールする。
この種の技術は、女優に欠くべからざる能力である。ただ、当の本人は今、自分が行っていることがどのような技能につながる才能なのか想像することすらしない。ただ、この世で最も忌んで憎むべき存在に対して、致命的な打撃を与えるべく行動しているだけである。
しかし、はるかはそれを完全に見抜いていた。
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『由加里 84』
「え!?」
由加里は耳を疑った。正確には、耳に入ってきた空気の振動に驚いたのである。目の前には、似鳥可南子の凶悪な顔がある。
ジャガイモを彷彿とさせる、いちもつは、しかし、看護婦という表向きの身分に金メッキされて、偽物特有の浅い輝きを発している。
せめてもの抵抗の意思を示すために何か言わねばならない。だが、口が自分のおもうとおりに動いてくれない。口の中が渇いてたまらなない。唾液は乾燥の上に乾燥にを重ねて、はては、粉になって歯間に侵入してくる。食べ物のカスとそこに棲まう得体の知れない病原菌のミイラが、歯茎にその汚らしい手足を突っ込んでくる。
我慢しがたい吐き気に密かに苦しむ少女。
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『由加里 85』
まるで雪だるまのように膨れあがっていく妄想でさえ、由加里に恐怖からの逃亡を許さなかった。それはまさに目の前に差し迫っていたからである。
ミチルと貴子が座を辞したものの、まだ、照美とはるか、それにあの悪魔の看護婦、似鳥可南子が被虐のヒロインを魔性の光で照らし出しているのである。
由加里は怯えた。あまりに眩しすぎて完全に目がくらむ。いったい、自分はどんな目に遭わされるのだろう。その具体的な内容はわかっているはずなのだが、その背後に横たわる意味と恐怖に注意が行ってしまう。
「や・・・あ、止めてクダサイ、おしっこなんかしたくありません」
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『由加里 86』
ゆららは、思いだしたようにある名前を出した。
「そうだ、工藤さんとは?」
「ああ、工藤さんは、なかなか、私たちと関わり合いたくないようでね」
「いや、あの子は由加里と関わり合いたくないらしい」
――――お前と違う意味で、あいつを憎んでいるのかもね。
それをあえて言葉にしなかったはるかは、思案下にガラス張りの壁ごしに空を見た。その時、太陽を横切った鶴のような鳥。その長い足は彼女に何を問いかけているのだろう。
あるいは、それをどう受け取ったのか、今のところ、その疑問に答える用意はないようだ。
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『由加里 87』 溢れようとする涙を必死に堰き止めようとしている姿は、さすがに、ゆららの感情の何処かを刺激する何かしらのものがあった。
しかしながら、一方で、沸き起こってくる感情を、彼女も懸命に堰き止めていたことも事実である。ここで、一時の感情に流されてはいけない。心を鬼にしなければと、ゆららは奥歯を密かに噛みしめていた。
「そうね、わかっているわよ、由加里ちゃん・・・・」
「ウウ・・ウウ・ウ・・ウウ!?」
ゆららのその一言を聞いたとたんに、高いダムは大自然の驚異の力によって、いとも簡単に崩れた。そして、白魚のような手が少女の元に忍び寄ってきたのだ。その瞬間、彼女の背中に無数のウジ虫が登ってきた。
押さえきれないおぞましさを堪えながらも、ゆららは、しかし、現在、彼女に科せられている任務が女優であることを忘れなかった。
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『由加里 88』
涙にくれる由加里を抱き続けた。ゆららは、その冷え切った背中を華奢な身体で温めたのである。
自分が泣いているときにしてくれなかったことをどうして自分がしなくてはいけないのか、非常にシャクだったが、照美やはるかのことを考えると、そうせざるを得なかった。
さて、車イスを病室に運ぼうとしたゆららは、意外な人間と相対することになった。
由加里の姉である西宮冴子。
どうやら妹の見舞いに来たらしい。シックな色のスーツからは自分たちの世界とは別の人間だという空気を感じ取れる。そして、妹に似たほっそりとした肉付きながら、由加里とは違う芯の強さを見いだす。
これが大人ということだろうか。ゆららは思わず、その迫力に煽られた。
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『由加里 89』
「西宮さん、もう少し、足を踏み込んで下さい」
「ハァ・・・ハ・・あ・・・・あ」
両者の応酬はプロアスリートとコーチとの関係を彷彿とさせる。
柔らかいというよりは、季節通りにけっこう強い日差しが入るなか、由加里はリハビリに励んでいる。平均棒のようなバーに両手を添えてよちよちと両足を交互に揺らす。
腕の骨折はすでに治癒しているので問題はないのだが、まだ痛みが残っているために微妙に両肩の角度が歪んでいる。それがやけに痛々しい。
しかし、それだけが由加里に息を乱させる原因ではない。実は、この瞬間をも、可南子の企みによって性器に挿入された異物が底意地悪く少女を攻め続けるのだ。股間を丸く覆ったおむつが生じさせる圧力は、少女が感じる羞恥心を倍加させている。
知的な美少女は訓練士のものではない誰かの視線を感じると、ぷるぷると震えた。
「ハァ・・あ・・はあ・・」
「少し、休みましょうか」
『由加里 90』
テーブルの上に五線譜を取り出して、いや、投げ出すように置くとやや殴り書きするように、オタマジャクシを並べていったのである。
「ふふ」
思わず微笑が零れる。まるでビデオテープを再生したかのような目の前の出来事に、照美は心が溶かされるのを感じた。あの由加里と酷似しているのに、どうして、この人には憎しみを抱かないのか、その理由はわからない。
しかし、冴子に好意を抱いている自分に気付いたことは確かである。自我への新たな闖入者をどう扱ったらいいのか、青春の途上にいる少女にはわからないことばかりだが、プライドが高い彼女は、そんな自分じしんを認めたくなかった。
ロックバンドのヴォーカル。
現在の音楽シーンにたいして興味を持たない自分だが、その言葉が持つ神話性には覚えがある。
何故かわからないが、この時間が永遠に続けばいいと思った。不朽のものなぞこの世に存在しないことはわかってはいるが、このまま、新しい人間関係に深入りせず、と言って遠ざかりもせずに、曖昧な関係のままで過ごしていたいと、絶世の美少女は考えた。
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『由加里 91』
「ねえ、郁子ちゃんでしょう、私、海崎照美って言うんだけど」
「・・・・・」
支払いを済ませた照美は、喫茶を出るなり由加里の妹に声をかけた。しかし、少女は黒目がちな瞳を微動だにせずに不審そうな視線を送ってくるだけだ。
「郁子ちゃん」
「お姉さん、どうしてあたしの名前、知っているの?」
「西宮さん、冴子さんに教えてもらったの」
「冴子姉さん?冴子姉さんと知り合いなの?」
「そうよ、私、冴子姉さんのバンドの関係者なの」
「かんけいしゃ?」
「友だちなの」
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『由加里 92』
由加里が毒牙にかかろうとしている時、照美と郁子はカラオケを後にしようとしていた。もちろん、携帯は料金を考えて、すでに切ってある。
「郁子ちゃん、楽しかった?」
「うん・・・そうだ、あたし、携帯、持ってるんだ」
思いだしたように言い出した郁子。照美にとって見れば、それは意外な事実だった。最近の小学生の動向は、ニュースなどでは頓に耳にしていたが、情報化がそこまで進んでいるとは思わなかった。
「じゃあ、アドレスの交換しようか、わからない?こうやるんだよ、貸してごらん」
その時、小学生の小さな頭に浮かんだのは、海崎百合絵のこんな言葉だった。 続きはクリック
『由加里 93』
海崎照美と西宮郁子が病院を後にした、ちょうどその時、由加里は看護婦の毒牙にかかろうとしていた。
短髪を茶色に染め上げ、肌をも焼いたその姿からは、もしも淡いピンク色のナース服をきていなければとうてい看護婦には見えないだろう。20歳の半ばを優に過ぎているのだが、そのような風体からまだ20歳そこそこ、間違えれば19歳ていどに見られてもおかしくない。
看護婦は、由加里を見るとほくそ笑んだ。
しかしながら、彼女にそのような趣味が以前からあったわけではない。べつに今でもそのような趣味があるわけではないが、ふと何かの拍子に催してしまったのである。
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『由加里 94』
看護婦、野上怜夏に陵辱された由加里は、その夜、鈴木ゆららと電話のやり取りをやっていた。午後十時をすぎて、すでに消灯時間となっていたので、密かに非常階段に隠れて行っている。
「ゆららちゃん、お願い、会いに来て・・・ウウ」
既に、相手の都合を気遣う余裕はなくなっていた。知的な美少女の精神はそこまでぼろぼろになっている。
「・・・」
ゆららは、時計を視て、一瞬だけ沈黙した後に諒と回答した。
既に門は閉まっているので、裏門から入らねばならない。そこから非常階段が見えるとのことだ。
因みに、母親は工場で夜勤のために家はからっぽになる。だが、突然、電話がかかってこないとも言い切れない。
「仕方ないか・・・・」
少女は、手を洗うと夜の街に飛び込んだ。実は、さいきん憶えはじめたオナニーに耽っていたのである。少女にとってみれば、それは怖ろしい秘密だった。偶然、入浴中に性器の周囲を洗っているうちに不思議な感覚に気付いたのである。
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『由加里 95』
「ぁあ・・・や」
自分よりもはるかに劣る、あるいは、そのように見なしてきた相手に性的な慰めを受けるという恥辱に我慢できずに、ゆららの手を解こうと思ったが、もしも、そんなことをしたら友人として彼女を失ってしまうのではないか、由加里はそれが怖くて何も出来ずに、恥ずかしい局所を晒すだけだった。
しかも、照美に縛られた縄じりまでが、顕わになってしまいそうだ。曰く、自分の性器になお、ゆで卵を挿入しているのは、彼女に対する恭順の証、いわば、奴隷の刻印のようなものだ。そんなものをこの小学生のような女の子に探り当てられるほどの屈辱がこの世の中に存在するだろうか。
由加里は悶えるしかない。
「ぃや、いや、もう、やまて、ゆらら、ちゃんぁ・・・あ」
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『由加里 96』
鈴木ゆららが、由加里の元から脱兎のごとく逃げ出した、まさにその瞬間、海崎照美と西宮郁子は携帯電話で通話中だった。
午後9時30分。
因みに、かなり夜も更けているというのに、小学校5年生の少女は戸外を遠くのネオンサインに照らされながら滑り台の上にちょこんと腰掛けていた。塾からの帰り道だが、照美と話すために公園に屯しているのだ。
携帯を彼女が持っていることは、海崎百合恵からの厳命によって、両親には知られないように自宅で使用することはないように躾られている。よって、余計に危険な状況に追い込んでいるわけだが、そこまで考える余裕は百合恵にはなかった。
だが、照美は心配のようだった。
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『由加里 97』
西宮郁子が友人とともに校舎から出てきた。彼女は、その瞬間に太陽から感じる以外の眩しさに反射的に虹彩を閉じた。
彼女が照美であることは一目瞭然だった。校門の先に咲いた美しい花は、周囲に存在するあらゆるものを凌駕して輝いていたからである。
「・・・・・」
既に一緒に帰宅しようとしていた友人のことなぞ、郁子の目と耳から完全に除外されている。それでも、そこいらへんに転がっている蛙の死体程度の注意を払うぐらいの、反応はしてやる。
「え?郁子ちゃんのお姉さって、入院しているんじゃなかったけ?」
「アレは、別のお姉さん、あの人は照美お姉さんって言うの」
「ふうん」
予め、ハードディスクに記録しておいた音声ファイルを再生するかのように、機械的な声をだした。
「私、用があるから先に帰って」
「うん」
友人を追いやるように返すと、郁子は照美に顔を向けた。
「あの子、友だちなの?いいのかしら?」
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『由加里 98』
「そうだね、西宮さんとテニスが出来る日が楽しみだね、退院したら、どう」
「ええ・・・・」
まさに猛禽類の目をして、照美は、こともなげに言った。
「改めて、西宮さん仲よくなりたいな。仲が良いのに、姓で呼び合うなんておかしいでしょう?私は、由加里ちゃんって呼ぶわ、由加里ちゃんも、私のことを照美ちゃんって呼んで・・・・いいでしょう?」
心筋梗塞を起こすのではないかと思われるほどに、胸が痛くなった。この人は、いつ、いかなる状況にあっても自分と同席している限り、どのような方法を使ってでもいじめようとする。常に攻撃の手を休めようとしない。怖ろしい、本当にいかようにも表現しようもなく、目の前の美少女が怖くてしょうがなかった。
鋳崎はるかによって、小説まがいのものを書かされて、それなりに表現力に自信がついてきたとは思うが、この人の美しさと恐怖を正面から描けるほどに、文章が上達したとはおせじにもいえないだろう、たとえ、自画自賛とすらも言えないということだ。
『由加里 99』
「ふふ、今度は精神科に入院してみる?鉄格子の嵌った部屋で、毎夜、拘束服に全身をきつく縛られた上に、猿轡を嵌められるから涎が垂れっぱなしよ、あなたにはお似合いの姿かもね、それにしても、両腕は縛られているから、あなたが大好きで堪らないオナニーができないことが厳しいわ、そうなったら、とても辛いと想わない?想像してごらん、この優れたアタマでね!ありえる?オナニーしない夜なんて、耐えられないでしょう?インランで多陰症の由加里チャンは!」
「・・・うぐ・・うぅっぅ!?そ、そんな、だい、大好きじゃ・・・・じゃ、ありません・・ううう」
由加里は、似鳥可南子によって女子トイレに連れ込まれて、陶器の肌を、それこそ、瞼から小指の先まで、身体のありとあらゆるところを所有され、まさぐられている。
つづきはくりいく
『由加里 100』
「ウグ・・うぐぐぐ・・・!?」
突如として、可南子に侵入された由加里は、追憶を中止せざるを得なくなった。双頭のペニスの張り型を装着した看護婦は、男がそうするような腰つきで少女を貫いた。この悪徳看護婦は、既に知的な美少女の処女を奪っていた。
可南子の激しい動きにも、次第に苦痛を感じない身体になっていく、あるいは、強制的に替えられていく、どんどん自分が自分でなくなっていくような気がする。
それは、女性が生まれて始めて知る性との邂逅、すなわち、生理に似ているかもしれない、と思った。
だが、それには、恐怖がストーカーよろしく忍び歩きをしていながら、性という未知なるものへのワクワク感がなかったとはいえないこともない。
あの時、可南子によってはじめて全身を貫かれた。
つづきはくりっく
『由加里 101』
まるで何年も入院していたような気がする。思えば、あの事故から1ヶ月あまりしか経っていない。洗濯物とエトセトラが入ったバッグは、旅行鞄のようにも思える。
刑務所か、少年院と考えれば、今日の今日まで経験した地獄を表現するのに適当な言葉かもしれない。
自分は本当にここから解放されるのだろうか?母親の顔を見るまで、由加里は素直にそれを信じる気になれなかった。本当に心細かった。入院しているときに、いくら面会に来られても、家族と出会ったような気がしなかった。そのまま彼女は帰宅してしまい。自分を置いて帰ってしまうからだ。
可南子と母が和やかに語り合っている。
彼女が一体、どんな人間なのか、あの厚化粧の下に、どれほど獰猛で残酷な肉食獣の素顔が隠されているのか、彼女は、想像だにできないだろう。
考えてみれば、自分はまだ保護観察の身分にすぎないのだ。自由の身はあくまで一時的なものにすぎず、一週間に一度は、あの看護婦に身体を委ねなくてはならない。
入退院の如何はすべてあの看護婦の手に握られている。下手すると精神病棟に放り込まれかねないのだ。
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『由加里 102』
藤崎さわと真野京子は、涙ぐみながらもにこやかに笑う由加里に違和感を覚えていた。罪悪感を引き起こすスパイスが、しこたまにかけられているためだ。自分たちが言っていることがすべて嘘だという事実、それが内心の葛藤を産み、自分たちを苛んでいる。彼女は、あきらかに自分たちを信用しはじめている。それが話し方からわかるのだ。
しかし、病室で久しぶりに出会った時から、こんなに心を許していたわけではない。高い壁と警戒心がベッドの前に立ちはだかっていた。少しずつ話し込むことでここまでもってきたのだ。
二人は、泣きながら笑うという、実に不思議な感情表現をする同級生と相対しながら、複雑な心理状況に陥っていた。
そこで二人は彼女について思い出せることをピックアップしようと思い立った。
西宮由加里とは、どのような少女だったであろうか。
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『由加里 103』
真野京子と藤沢さわがいなくなって一人になると、否応無しに不安が襲ってくる。たった数秒しか経ってないので日が傾くはずがない。だが、突如として目の前が真っ暗になったような気がする。
明日が来るのが怖い。ずっと、このまま時間が止まっていればいい。そうすれば重大な決断をしなくてすむ。
学校へ行くべきか、行かざるべきか、そのことで少女の頭の中は一杯になっている。どうしたらいいのかわからない。
何が真実なのかわからない。わけのわからないままに、携帯はベッドの隅に投げ遣った。誰からの着信も受け取りたくないし、メールでさえ目を通したくない。疑念が疑念を呼んで、それが作った視界ゼロの海に溺れそうになるからだ。
だが、一方、それに触れたいという気持も押さえられない。もしかしたら、完全に失われてしまった人間との結びつき、一般にそれは友人と呼ばれるが、それともう一度、ネットを再連結するように回復できるかもしれない。 そう思うとどうしてもすがりたくなる。
『由加里 104』
『由加里 105』
『由加里 106』
由加里にとって、照美の家族のことなぞ、いっその事どうでもいいことだった。自分を虐待する人間の母親のことなぞ、完全に関心の範囲外にある。今、一番大事なのはわが身であって、それ以外のことを考える余裕はなかった。照美の一方的な憎しみの前に、命の危険性すら感じているのである。
そのために、もしも、照美の両親なり家族が存在していれば、この場からの忌避はおろか、いじめそのものから解放される可能性すらあるかもしれない、という事実に気づくことすらできなかった。
思考回路はほぼショート状態にあっても、鋭敏な感受性は健在だった。
この家には、レモンに糖蜜を混ぜたような、実に甘酸っぱい香りが立ち込めている。
だが、この懐かしい匂いはなんだろう?
続きはクリック。
『由加里 107』
「こ、こんな・・・」
化粧用の大きな鏡に着替え終わった自分を映してみて、由加里は絶句した。なんと言うことだろう。まるでビキニの水着姿の女性ではないか。いや、それが学校指定の体操着である故にいっそう淫らに見えた。
おそらく、父親が帰ってきたのだろう、ふいに、階下から野球中継の騒音が聞こえてきた。巨人の四番が逆転ホームランを打ったらしい。由加里は、都民のくせに巨人ファンではない、いわば非都民なのだが、このような異常な状況におかれてそんなことは頭にない。
「ウウ・・・、こ、こんな恰好で外に?」
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2年3組、女子名簿
由加里の元クラスメートの女子を紹介します。
本当は、名前すら思いだしたくない子ばかりです。さんざん、浴びせかけられた罵声や、嘲りが、今、ここにあるかのように、思いだしてしまいます・・・・・・・・・。
でも、いいことがなかったわけでは、・・・・・・・・ありません。こうして生きているのですから・・・。
今のところ、交流があるのは2人だけです。交流どころか、今では親友と言える関係までに、なりました。
中学テニス部、女子名簿。
テニスは、小学校のときから大好きでした。あの西沢あゆみになりたいと、子供心に、思っていました。胸をわくわくさせて、中学にあがるなり、入部しました。
一年生のころは、夢のように楽しかったです。優しい先輩たちに、仲の良い友人たちと友情をはぐくみました。だけど、2年になって、しばらくして立場がガラリと変わってしまいました。教室で、始まったいじめは、部活にまで広がり、可愛かった1年生にまで、いじめられるようになりました。尊敬していた先輩たちは、ただ見て見ぬフリを決め込んでいました。・・・・・・とてもみじめでした。
西宮家、家族
私の大切な家族です。もしも、彼等がいなかったら、今の私はいないにちがいありません、楽しい高校生活なんかなかったと思います。
もっとも、一番辛い思いをさせられたのも・・・・・・・みんなだったのですが・・・・・・・・・。
学外、主要キャラクター
学外の人たちで、私に、大きな影響を与えた人です。特に、この人は、私は、本当に会ってよかったのか・・・・・・・とさえ思います。でも、会わなかったら、今の由加里はないんです。
向丘第二中学教師名簿
二度と、思い出したくない人たちとは、この人たちかもしれません。
『由加里が借りたエロマンガ、小説』
いじめられている時に、借りた漫画や小説です。最初は、単純な複製を命じられたのですけど、後に、創造活動の材料になりました。当時は、本に触るのもいやでした。顔から火が出そうになりました。今、思うと、とても可愛い子でした。
一体、だれのせいでこうなったんでしょう?!
「ねえ、逃げないでよ!だれのせい?ねえ?!」
由加里の夢日記
ここでは、由加里の夢日記など、私のプライベートなことを公開しています。えらそうなことを言っても所詮、私は、露出狂なのでしょうか?あんまり、詳しく見ないでくださいね。横目でちらりと見て貰えばうれしいです。
由加里日記
由加里の日記です。私がされたいじめが、事細かに書いてあります。
折原奈留は、くねくねと蠢くおぞましいものを性器に宛がう。
思わず舌打ちが出てしまう。自分のやっていることに疑問を感じなければ、こんなことが真顔でできるはずがない。何者かに、強制されているという感覚がなければ、単なる変態ということになってしまう。
「なんだっていうのよ!?ウウ・・・」
ミミズのちょっとした動きが性器に計算外の刺激を与える。もっとも強い性的な刺激とは、第一に予想外であること、そして、第二に強すぎない、適度な刺激であること、それらが総合すると最高の官能が訪れる。自慰ではけっして味わえない性的な快楽が、性交によって与えられるいい証左だろう。
このおぞましい軟体動物の動きは、まさにその二原則に忠実なのである。
「家族のみんながどうして、こんな態度を取るようになったのか、よく考えてごらんなさい。あなたに言いたいことはそれだけよ」
早朝に、母親に言われた言葉が頭に木霊する。情けないものを見る目で自分を見ていた。「どうして、私があんな目で見られなきゃ・・・アウウウゥ・・・あヒ」
必死の思いで最後まで入れ込む。ちなみにすでにアルコール消毒は済んでいる。熱を急激に奪う、その薬品の効力が性的な刺激に拍車をかける。
「あぅう・・こんな状態で学校に行け・・・なんて・・・ひどすぎる!」
まるで、いじめられっ子の体験を聞いているような気分になった。別にそのような立場にいたことはないが、もしも、そうならそれは親しい友人同士だったということができるだろう、書籍だったが、新聞の片隅に忘れ去られたような記事だったのか、忘れたが、とにかくそこで読んだ記憶があるのだ。
あまりにも真に迫った表現だったので、文章に没入してしまい、いじめられていた少女をカウンセリングする校医の立場になってしまったのだ。ついでに言うと、そのとき、ななぜか、性器が濡れてしまったのである。
昂奮を抑えるために、すぐに自室にこもると自慰をした。
あのときは、どうしてそんな気分になってしまったのかわからなかったが、今、思うと加害者の立場に自分を立たせていたのかもしれない。
人をいじめる人間を想像して、性的な興奮を得る。自分は最低の人間だろうか。ならば、いま、自分に起こっていることは自業自得だろうか。
ちなみに、けっして、自分をいじめられる立場に立たせなかったことからもわかるとおり、奈留は今までの生涯においていちどもいじめられたことはないし、そんな状態に陥ることを恐れたこともなかった、のである。
時計を見ると、午前6時。まだ一睡もしていない。
だが、すぐに家を出ないといけない。
まだ早朝に特有である、藍色の空気が漂っている。廊下から玄関に向かう間になぜかキッチンに寄るべきだと、心の声が言っている。
はたして、ドアを開けてみると二つ分の弁当が並んでいた。
「家族のみんながどうして、こんな態度を取るようになったのか、よく考えてごらんなさい。あなたに言いたいことはそれだけよ」
母親の声がまた木霊する。涙が頬を伝う。
「なにも悪いことしてないのに」
やるせない思いがさらに多量の涙をやや釣り目がちな瞳に要求する。
「はぁ、はぁ・・・」
弁当を持つ手が震える。ちょっとした身体の動きが、股間に影響する。こんなとき、自分はどれほどみっともないだろうか?と思う。家族、そのなかでも、けっして、奈々には見られたくない。
「うう・・・」
やりたくはないが、スカートのポケットから手を入れて下着を上げる。
「うぐぐ・・ぅ!?」
そうしないと、ミミズが落ちそうに思われたからだ。
「ぁ・・・」
弁当を鞄に入れ込むと、気を取り直して玄関に向かう。革靴がいつもよりもきらきらしている。まるで黒曜石のようだ。それは涙のせいではないかと思える。
靴が主人の境遇を嘆いてくれているのか、それとも、涙で曇った網膜がそうみせるのか、どちらだろう。こんなばかばかしい妄想も、ひどい現実から逃げる手段でしかない。自分には味方がだれも、すくなくとも、この世界においてはいないのだから、せめて、靴のような無機物にそれを求めるより方法がなかった。
家から出ると、さわやかな青空が広がっていた。いつもならば、心の奥底から笑いたい気分になるだろう。だが、あの青は何処までも残酷に思えた。あるいは、とても非現実的だった。まったく無駄のないコンピューターグラフィックスが、完璧なはずなのに何処か不自然な印象を与えることはよくあることだが、今朝の空はそれに似ているかもしれない。
「空に堕ちていく」という歌詞は何処かのロックバンドのナンバーだったろうか、奈留は覚えていないが、そのフレーズと曲だけは頭に残っていた。
蒼天に落ちていく、引っ張られていく、とてもきれいな地獄に向って無理やりに移送される。そんな文章が続くような気がした。
奈留の心にあるのは、「はやくいかないと・・・」というただ一言だった。私立なので自転車通学も可能だが、汚らしい液体で汚したくなかった。
ブロック塀を伝いながらやっとのことで進んでいく。こんな調子で命令通りの時間に間にあうだろうか。
まだ早朝だとはいえ、公道で性的な興奮を得ている。そのことが、奈留に強烈な羞恥心以外のものを与えていた。それは、自分がおぞましい、汚らわしい、という感覚である。
自分が触れるもの、すべてを汚しているような気がする。スカンクのような臭いを発しているように思えるのだ。
今、たまたますれちがった赤い自転車の高校生。顔をしかめていた。きっと、奈留の臭いが耐え切れなかったんだ。
ごめんなさいね、朝ご飯を食べたばかりなのに、大切な一日がはじまるというのに、しょっぱなからこんな不快な目にあわせて、奈留はとても臭いでしょう?
急がなくてはいけないと足にいくら言い聞かせても、なかなか進まない。風景が動いてくれないのだ。まるで、ウォーキングマシンに乗っているかのようだ。
しかし、奈留に選択肢があるわけがなかった。足は動きはじめる、学校などに行きたくないのに。この身体は、これまで彼女がどれほどひどい目にあったのか知っている。もしも、奴隷として主人の命令に従わなかったら、さらにひどいことをされるのが必定なのだ。
流れ込んでくる、この世界の奈留の記憶。
よそ者のはずである奈留にとってみれば、それと同化することはまさに恐怖である。
今井真美の姿はなかなか見えてこない。あくまでも、よそものである奈留が知っているはずのおとなしい今井真美が・・・いや、それは奈留にとってみればいささか感想がちがう。確かに、あの時、自分に対して敵意を抱いていた。しかし、それにしてもこの世界における彼女と、どうしてもつながらないのだ。まるで見えない何者かに支配されているような気がする。
最寄りの駅に特徴的な塔が見えたところで、携帯が鳴った。奈留の主人であり、所有者でもある、今井真美だった。とたんに、心臓をえぐられるような衝撃を受けた。携帯の液晶に表示された、その名前を見ただけで、この身体は銅像のようになってしまう。
あきらかに、この世界の奈留は彼女に対して尋常ではない恐怖を抱いていている。このようなおぞましい行為を強制することからも、それは簡単に理解できるだろうが、じっさいに、体験したものでしかわからないこともある。
「折原?ちょっと、気が変わってさ。駅前でやろうよ、検査」
「・・・・!?」
まさか、通勤通学の客が押し合いへし合いするところで、検査をしようというのか。背中に冷たい汗が流れる。
どうやら、検査という言葉に敏感に反応するようだ。
思わず絶望的な吐息が唇を震わせる。
「そ、そんな・・・!?い、今井さま・・・」
この世界の奈留が口走った。さま付には驚く。彼女と今井真美との関係を端的に現している。
「ふふふ、本気にした?それとも露出狂の折原にとってみれば夢のようなことかしら?」
「・・・・!?」
「どうなの?したいんでしょう?!」
「ハイ・・・」
力なく、真美の望む答えを返す奈留。かなり奴隷化が進んでいるらしい。奈留はぞっとした。しかし、よくよく彼女の気持ちを慮ってみると、その裏にはかなり深い物があるらしい。気が付かないうちに唇をかみしめていたからだ。それはすこしばかり温かかった。触れてみると出血していることがわかった。
真美は駅前にあるトイレにまで来るように命じた。その猶予はわずか5分である。間に合うだろうか、だが、考えている暇はない。奈留はよたよたともたつく脚をひっしに動かしながら歩を進めた。
「おはよう、折原」
駅前の雑踏の前には、今井真美の悪魔的な笑顔があった。その背後には数名のクラスメートたちが控えている。彼女たちは同じように微笑を浮かべているようだが、何処かちがう。それが人間としての品の問題なのか、その他の要因が働いているのか、奈留には想像すらできない。
悪魔的と言ったが、このサラリーンマンたちや、学生たちの目から見ればごく普通の女子中学生にしか見えないにちがいない。
彼女は、その笑顔を崩すことなく近づいてくると、おもむろにネクタイに手を伸ばした。
思わず、身体をのけ反らせる。整った顔が引きつる。
「ヒ!?」
「何よ、その眼は・・それがやさしいご主人さまに対する忠実な奴隷の立場なの?」
真美の笑顔が、しかし、ほころびをみせることはない、他のクラスメートたちはすでにいじめっ子の本性を顕わにして、眉間にしわを寄せているのにかかわらずだ。
「さあ、時間がないからこちらに来るのよ」
「・・・・!?」
手首を摑まれると、強引に障害者用のトイレに連れ込まれ。平静を装っているようで、サディスティックな欲望を満足させたくなったのである。いわば、腹ペコの肉食動物がインパラを目の前にいて寝転んでいられるだろうが、真美たちはそういう心持だったのである。
障害者用のトイレの個室は、がらんとしている。四畳ほどの広さはないだろうが、空間的な理由か、あるいは、奈留の気分のせいか、大げさに言うと地平線が見えるほどの広さに思えた。
真美は、すこしばかり屈むと奈留の整った美貌を上目使いで睨んだ。早朝の青い光はまだ残っている。そのせいか、血の色を失っている。しかし、そうであってもかなり可愛らしく見えた。少女はぞくぞくと全身の血管をとおって全身に広がっていく、サディスティックな欲望に武者震いに似たものを感じた。
「折原、ここまで聞て、あえて言わないけど、よもやとは思ないけど、ちゃんと言いつけどおりの、おしゃれな格好をしてきたんでしょうね?」
今井真美と奥原知枝はグルなのだ。というよりも、クラス全体が奈留をいじめているのだろうが、問題は上下関係である。どんな人間関係にもヒエラルキーというものは存在するが、彼女たちの場合はどうなのか。ちなみに、かつて、奈留がいた世界のことはまったく当てにならない。真美は、インドのカーストで言えば完全にその外にいる人物だったし、知恵は、奈留の信望者だったからだ。
それにしても・・・・本当に親しい友人は自分にいなかったと、おぞましい気持ちで捕まえてきたミミズを、外に敷設された水道で洗いながら思う。
自分はクラスのことなんて、ほとんど知らなかった、もっとも、それを仮に深いところまで知っていたとしても、こちらで応用できる知識は何もないのだろうが。
ミミズはくねくねと奈留の指にからんでくる。命を全うしようと必死の動きなのだろうが、それらが各自、意思を持っているようには思えなかった。10匹はいるであろうミミズはそれぞれがつながっており、一つの意思系統に統一されているような気がする。奈留にからんでくるのは、性的な動機に駆られてのことだと思われる。これが、明日には、奈留の性器、陰核や小陰脚に絡み付くのだ。そのまま授業を受けさせられる。一日、この生き物が与える官能と戦いつづけねばならない。まさに、自分の理性が問われている、奈留は淫乱なのか、そうではないのか。
おぞましい・・・・。
ただ、ぴくぴくと生への渇望を表現しているだけのことなのに、感じる気持ちはそれだけだった。ガラス瓶に入れる。アルコールをかけるのは明日、知恵から命令された通りに性器に埋め込むのは、登校する直前のことだ。学校に行ってすぐに検査を受けるから、そのときに生きていてもらわないとどんな目に合わされるのかわからない。アルコール漬けにしたら、明日まで生きていないだろう。
ミミズが死んでしまったら、少なくとも、今井真美が言うところの、命令通りの格好には、すこしばかり点数が足らないのである。
ミミズをコップに入れて、部屋へと戻る。
赤々と点灯しているのは水槽だけだ。それだけは、なぜか奈留を歓待してくれているような気がした。「彼女が」となぜか、擬人化してしまいたくなった。
何処からか流れてくる、この世界の奈留。
本当に不思議でたまらない、こんな目にあわされていながら、どうして学校に行けるのだろうか。もしも、彼女が自分ならば、とっくのとうに学校なんてやめていたはずだ。すくなくとも、家庭に逃げ込めば味方しかいないはずだ。
そこまで思考を進めて、おもわず目をつむった。
こちらの家庭は、すくなくとも今は、敵しかいないのだ。
「すくなくとも?」
奈留は、ひとりごちた。どうやら、生まれてかたこのかたずっと、家庭内で疎外されて育ったようではない。それはこの部屋を眺めまわしてみればわかる。PCにテレビ、明々と点灯した水槽には熱帯魚が煌めいている。
あくまでも経済的という視点からすれば、かなり恵まれた部類にカテゴライズされるのではないか。ならば、学校で行われるいじめのように突然、そのような境遇に落とされたということか、いったい、この世界の奈留は何をしでかしたというのだろう。
何か、ヒントはないかと脳内検索にかけると、日記を書いていることを思い出した。はたして、この世界ではPCのどの部分に格納されているだろう。
まったく自信がなかったのだが、とにかく、思うままにキーボードを叩いていると、『なるの日記』というフォルダーが見つかった。
しかし・・・。
本当に自分が見ていいのであろうか、そのような疑問が急にガマ首を擡げてきた。日記というものは、作者以外にのみ閲覧権があるという、一種の道徳心から指が止まったのであろうが、そのうちに別の考えが起こってきた。
そうではなくて、中身を見るのが怖いのだ。いまのうちは、この世界における記憶はかなりあいまいである。まだ、クラスの人気者であるという自負は、奈留の中で命脈を保っている。しかし、これを見た瞬間に、それはもろくも崩れ去ってしまうのではないか、それが怖い。まさにこの世界における折原奈留に、身も心も成り果てたら、はたして、正気を保てるだろうか。
人並み外れて整った、しかし、すこしばかり目じりが上がった、気の強そうな容貌に影がまとわりつく。机の隅に置かれていた鏡、ちなみに、かつての世界にいた奈留の記憶によれば、奈々からの誕生日プレゼントだったはずだ、その中に映った自分の顔は、確かに折原奈留であって、その他の人間でありえようがない。
「もう、何も考えたくない!」
何ものかに完全にさじを投げると、少女は五本の指を自らの性器に、下着越しに触れた。それは、完全に精神的に追い詰められたときの、いわば癖だった。
そこはとても温かい。
いま、彼女が置かれている状況とまさに真逆だ。
「う・・ッ・・!」
まだ理性が働いているようだ。奈留は、指を濡らす前にドアの方向へと顔を向けた。もうそろそろ、11時になる。
かつて、彼女がいた世界においては、「奈留、そろそろ寝なさい」と母親が声をかけにくる時間帯だからだ。だが、それはありえないだろう。安心して、現実から逃れることができる。
奈留は、指を性器に埋め込めると同時に、身体を寝具に滑らせた。彼女は時々なんのり具体的な理由もないのに精神的に追い詰められることがあった。そういう時には、これをやるのである。
「ウゥ・・・うう?!」
指が溶けてしまいそうなくらいに局所は熱くなっていた。胎内から零れてくる粘液は強烈な酸かアルカリではないかと錯覚するくらいに、指が沁みる。いままで何度もやってきたが、こんなに強い快感は生まれて初めてだった。少女の未発達の身体がそれに対応できずに、思わず背骨を限界まで逸らさせた。一瞬、ドアが目に入る。自分のおぞましい声が外に漏れると思うと、気が気でない。もしも、奈々にでも見つかったらどうなるか、命の危険すら感じる。
もしかしたらと思う、原因不明の不安とはこちら側の奈留から伝わってきた悲鳴ではないか、もしも、そうならば、かつてその奈留はきっとさぞかし当惑していることだろう。もしも彼女と対面できたら何を言いたいだろうと、想像しながら、自慰をする。だが、彼女は困ったような顔で立ちつくしているだけで、口を開こうとすらしない。まるで氷でできた人形のようだ。
胡蝶の夢という発想も浮かんだ。
きっと、どちら側かが夢にちがいない。願わくば、こちらが夢であることを、しかし、もしもそうならば自分は消えてしまうことになる。
「ウウ・・・!?」
あまりにも感じすぎて身体が勝手に動いて、背中をベッドに設えている棚にぶつけてしまった。それが鍵となったのか、少女は絶頂を迎えた。
「ヒヒヒン?!」
「あはは、まるで馬ね?みんな、聞いた?こいつがイく瞬間!?」
なんと、強制的に自慰までさせられているのか、この声はそのときの嘲笑にちがいない。同時に頬におぞましい温かさを感じた。きっと、唾を吐かれたのだ。もう、過去の記憶はいい。
早く手を洗いたい。このおぞましい粘液を拭い去りたい。
奈留は立ち上がった。手のひらを見つめて、少女は嗚咽を抑えきれなくなった。外から入ってくる青い光に、少女は気が付いた。もう早朝なのだ。この青さ加減から午前5時くらいだろうか。奈留は早朝マラソンをやろうと生き込んだことがあった、しかし、心配する母親の小言によって一か月を待たずに辞めさせられることになったが。そのときの母の温かさが、今となっては哀しいまでに思い出される。そして、すでに彼女には完全に無縁であることが、痛いほどに思い知らされる。
指を開いたり閉じたりすると、透明な粘液が糸を引く。それを洗い落としながら、奈留は、蛇口のふちについた傷を眺めた。ふと、人の気配を感じて、振り返った。
はたして、そこには妹である奈々が立っていた。ものすごい、うまくそのときの彼女を表現する言葉が見つけられないが、あえて言うならば、幼い般若ということになろうか。
・・・そんな目で睨み付けたいのはこちら方よ!と奈留は怒鳴りつけたくなったが、代わりに彼女の口からついて出てきたのは、別の台詞だった。
それも、感情的ではなく、驚くほどに「彼女」は冷静な調子だった。
「あんたなんかに、うちの学校が合格できると思って?甘いわね、フフ」
般若の面がいっきに崩れ去った。しかし、そこにあるのは素顔などではなくて、別の面だった。
「うう・・・・?!」
少女は泣きながら、何処かに走って行った。
何処か?そんなことはわかっている。こんな状況で彼女が行くべきところは決まっている。両親の寝室だ。
きっと、彼らに泣きつくんだろう。そして、また、殴られるのだろう。この世界に棲んできた奈留の記憶がそう言っている。なんだか、わけがわからなくなって家から飛び出ようとしたが、彼女が選択する道は、再び殴られることだった。そうだ。自分はそうならないといけないのだ。なんとしても憎まれ役をちゃんと務めないといけない。そうすることでみんなが幸福になるのだから、きっと、それは正しいことなのだろう。
だが、その夜は妹の泣き声が絶え間なく響いてくるだけで、父親の怒鳴り声が金槌を構えて迫ってくることはなかった。ついに完全に見捨てられたのか、自分は家から放り出されるのだろうか。もはや、殴る価値もないらしい。せめて、義務教育中は飼ってもらえると思ったが・・・・止どめない思考が奈留の心に生まれては消えて行く。まったく眠れないとわかっていても、ごろんと寝具の上に寝転がると天井を見つめる。
そこに定着したしみは、そんなに短い時間でそう変わるものではないと思う。だが、毎日といっていいくらいに変わっていくのはどうしたことだろう。ある日はラクダが子供を咥えている。また、ある日は、椅子から転がった猫が泣いているように見えた。
それらがいったい、何を暗示しているのか考えていると、ドアが開いた。
はたして、そこには母親が立っていた。
予想もしなかった展開に思わずむくりと起きる。彼女が自分のする仕打ちといえば、徹底した無視か、凍りつくような冷たい言葉かの、どちらかだった。
今度はどんな言葉で罵られるのかと思ったら、投げつけられた、否、静かなクラシックのように響いてきたのは、それよりもはるかに辛い内容だった。
「家族のみんながどうして、こんな態度を取るようになったのか、よく考えてごらんなさい。あなたに言いたいことはそれだけよ」
「ママ、待って!」
ドアのところまで飛んで駆けたが、それは母親の奈留に対する感情を暗示するように、無碍にも鼻先で閉められてしまった。
そのときになって、自分があまりも不潔な行為をしたにもかかわらず、もちろん、奈留にしてみれば排泄行為よりもはるかにおぞましい、まだ手を洗っていないことに気づいた。
PCの電源をオンにしながらも、奈留は、PCのメーカーや品番が微妙に違うことになぞ一向に気づかなかった。
ただ、ひたすら、日時に注目した。
「え?5月12日?」
それは、少女がまさに帰宅しようとして拉致されたその日だった。あれから三日が経過している。いったい、その間に何があったのだろうか?
恐ろしいことだが、彼女の好奇心はネットに向っていた。自分たちの事件はどのように報道されているのだろうか?小説やテレビドラマから学んだことだが、人間が誘拐されたとき、人命が尊重されるために報道協定という名の規制を行うという。万が一、犯人を刺激したら、人命が脅かされかねない。そのための配慮であろう。
しかし、あの事件から三日が経過し、見事、自分たちは助かっているのだから、マスコミが動いていてもおかしくない。犯人が確保され、被害者がほぼ無傷で解放となれば、彼らはよだれを垂らして迫ってくるはずだ。しかし、病院の周囲にはそのようなものの気配などまったくなかった。
試しにネット検索にかけてみる。
姉妹、誘拐、外国人、というワードを打ち込む。
しかし、自分たちに関連する事件はいっさい起こっていないようだ。もしかして、PC電源を入れた瞬間にもといた世界に帰還したのだろうか?いや、すこし、考えればそれはおかしいことがわかる。なんとなれば、病院の周囲にマスコミはいなかったからだ。それとも、自分たちが知らないだけで、山村刑事や病院がうまく処理したのだろうか?
「そうだ、山村さん・・・?え?!」
腰をひねった瞬間に、何か紙切れのようなものがふらりと床に落ちた。それを拾ってみると、はたして、山村莞爾、携帯909・・・・・・・。という文字列が並んでいる。そうか、この世界では、909で携帯の番号は始まるらしい。
携帯を開いた瞬間に、はたして、その番号を押していいものか、奈留は悩み始めた。おそらく、別れるときに気づかないように入れたものだろう。恐ろしく完璧な手際だ。刑事というよりもすり師と言った方が適当かもしれない。
もっとも、あの時はかなり感情的に乱れていたから、気づく暇もなかったのかもしれない。だが、いま、彼女が実質的に頼れる存在は彼のみ、だということだ。
それよりも・・・さらに不可解なことがある。ようやく、元の回転速度を取り戻した少女の脳は、矢継早に記憶をよみがえらせる。
この世界の両親は、奈留を疎んじているにもかかわらず、この携帯やPCを与えているのだ。前者に限ってみれば、以前の世界から持ち込んだとも考えられるが、PCに関していえば、それはちがう。しかも、メーカー名が微妙にちがう。携帯もそうだ。この世界に持ち込んだ品ではないようだ。
目を皿のようにして点滅するモニターを睨み付ける。
使い方も違うのかと思ったら、それは杞憂だったみたいだ。
だが、・・・少女は、携帯を握りしめて、どんな顔が浮かぶのか確かめていた。しかし、誰も浮かばない。友人はいた。たくさん、自他ともに認めるほどの人気者だったはずだ。しかし、いざ、このような困った状況に置かれて、頼るべき人間が浮かばない。
もしかして、本当は自分に友人なぞ一人もいなかったのではないか。実に空恐ろしい考えが少女を襲ったのである。
何処かで犬が吠えている。帰宅当時に出会ったと同じだろうか。あいにくと、彼女にはそれと同定する材料がなった。
そのような、どうでもいいことに意識が逃げるほどに、少女は打ちのめされていた。あえて、心に浮かぶのはあの少女のことだ。
今井真美。
いままで、それほど仲がよくなかった子だ。だが、クラスのだれしもが自分を好いていない、そのような状況が耐えられずに、友人たちの制止を踏み切って話しかけた。彼女は、いつも、ぽつんとひとりで文庫本を広げているような子である。同じく、読書が好きな奈留は話が合うと踏んだのだ。しかし、奈留はそのような情報を友人たちには知らせていない、彼女たちとの間では、いつも流行の最先端を追いかけているような自分を演じていたのである。そうした方が、誰にも好かれる奈留を楽に演じられた。
それはともかく、真美はこともあろうに、奈留の申し出を断ったのである。
それも、気が弱そうでどんな嫌がらせを受けても眉間に皺ひとつ作らない彼女が、それいやそうな顔で言った。
「近づかないで」
真美の、そんな態度に、教室中は奈留の味方になったが、それを背に交際を迫るほどに奈留はプライドが低くなったので、クラスメートを制した。だが、さきほど以上にものすごい形相でこちらを睨み付けていた。
大げさな表現ではなく、比喩でもなく、少女は後ずさって床にへたり込みそうになってしまった。寸でのところで、それを防いだのは、このクラスのリーダーだという自尊心のなせるわざだったのだろう。
断っておくが、過去を見ても彼女と深いかかわり合いがあったとは思わない。実は、小学校の1,2年のときに同じクラスになっているが、奈留の表層記憶には残っていない。
いったい、この状況をどう判断するべきか。
机に手を乗せて、辛うじて体重を支えることに成功した。その手は震えているのに
気づいたのは、その机についている少女だけだった。あろうことか、本人すら気づいていなかったのである。
そんな苦い記憶がよみがえる。
だが、彼女の携帯番号は知らないだから、かけようもない。否、かけることもできない。しかしながら、安心したのも束の間、携帯が聴いたこともないメロディともに震えだしたのである。
いったい、誰の待ち受けだと思って、携帯を見ると・・・・・。
今井真美・・・。
絶句という言葉がこれほど適切な状況もないだろう。
どうして、彼女が自分の携帯番号を知っているのだろう。しかし、いっしゅんでそれは氷解した。ここはかつて奈留が知っている世界ではないのだ。自分は迷った旅人であって、予想もしなかった出来事に出会っても何もおかしくないのだ。
恐る恐る携帯を耳に当てる。
すると、自分の口が自然に動いた。
「ご、ご主人様、こんばんは・・・犬以下の奴隷に何用でございますか・・・?」
信じられない言葉が堰を切ったように口から零れる。これはどういうことか?考えるまでもなく、自分は学校でいじめられているらしい。その主犯は、あくまでも、いじめが刑事罰に値する罪であると仮定したうえでの話だが、あの今井真美だということになっているのだ。
すこしばかりの沈黙があって、同年代のものと思われる少女の声が聞こえてきた。
「折原、かなり奴隷が板についてきたわね。いや、ほんとうの折原になったということかしら?」
「ハイ・・・おり、折原、奈留は今井様をはじめとして、クラスのみなさまの、奴隷でございます・・・こんなおぞましいゴミ屑が・・・」
声は、奈留を制した。
「今晩はそれでいいわ。私も眠いの。要件だけは伝えるわ。メールで送るから、その通りの格好で学校で来るのよ、みんなで、奴隷にふさわしいのを考えてあげたのよ。感謝しなさいね」
「ありがとうございます・・・ご主人様・・・」
みなまで言わずに携帯は切れた。まるで自動機械のように口が動いた。きっと、普段からなんども言わせられているのだろう。それにしても、なんとひどいいじめなのだろう。奈留は戦慄を覚えた。しかし、もっとも恐ろしいことは、自分があくまでもこの世界にとってみれば客人にすぎない、ということを忘れてしまうことだ。
どう考えても、さきほどの声が真美のそれとは思えないが、よく記憶を反芻してみると、そう聞こえないでもない。
いままでおどおどしていた彼女の表情しか印象にないから、すぐにさきほどの声には結びつかないが、自分を睨みつけたときのものすごい形相からならば・・・ちがう・・・それでも、想像だけでは奈留の中で合致しない。
「あ、メールだ」
奥原知枝。
その氏名が点滅した瞬間に、奈留の頬はほころんだが、ここは異世界なのだ。知枝という少女は奈留の信奉者なのだ。それはここでは通用しないだろうと、覚悟を決めて携帯を見る。
「折原にお似合いのエサを用意しておくからね。ご主人さまより」
そのメッセージが目に入った瞬間に、奈留の指は勝手に動いていた。
「このみっともなく、とても臭い折原奈留のエサを用意していただいて、大変に恐縮です
ありがとうございます。奥原さまの忠実な奴隷より」
「・・・・・」
いったい、エサとは何事だろう。どんなことをさせられるのだろうか?それを想像すると、思わず嘔吐したくなった。身体は知っているのだ、毎日、自分がどんな目にあわされているのか。
そんなことをしているうちに、今井真美からメールが来た。
「こんなに遅くで悪いけど、ミミズを用意してちょうだい。家の周囲にいくらでもいるでしょ?それを数匹、アソコに入れて、学校に来ること・・・・わかった?」
「ミミズ?アソコ?」
とたんに、性器がうずいた。身体が自然と動く。奈留に告げている。何処にミミズが多く住んでいるのか、それ以外に何が必要なのか、そう、アルコール。よく洗って消毒しないと・・・。
「9時30分・・・・」
奈留は、懐中電灯を押入れから取りだすと、お目当てのものを得るために外に向った。できるだけ音は出さないようにする。これからすることを家族にけっして知られてはならない。
こんな時間だから、両親は起きているから注意しないといけない。別に自分のことを心配するからではない。こんな目にあっているのはすべて自分が悪いのだ。だれのせいでもない。
そんな思いが身体からじかに伝わってくる。
奈留の心は完全に無艇庫のまま、身体の奴隷と化している。
家を出る。裏はちょっとした森になっている。鬱蒼としたというほどでもないが、昼間はともかく夜ともなれば、少しでも足を踏み入れたら二度と戻ってこれないような気がして恐ろしい。
2、3歩ほど足を踏み入れると、少しでも掘ればミミズが手に入る。いつものことなので、バケツと小さなシャベルが置いてある。
いつものことなんだ・・・・。
奈留は哀しくなった。想像するに、とても、人が人にするようなことではない、とてもひどいことをされているのに、それでもなお学校に通っているのだ。この世界の奈留はとても強いのか、頭がおかしいのか。
少女は、幼い子供がよくする膝を抱えた格好で、シャベルを地面に突き立てた。大粒の涙が意識とべつの働きをする何かによって流される。身体が泣いているのだ。それにたいして、少女はかける言葉を知らない。慰めるすべはいったいどこに隠されているのだろうか、すくなくとも、この地下には見いだせないだろう。
懐中電灯が見つけたものは、ぶくぶく肥ったミミズだった。はちきれそうな、その代物は血色がいいのか、ピンクよりも赤により近い色をしている。こんなものを性器にはめ込んで、登校しろと言うのだろうか。
奈留は絶望的な気持ちになった。
「本当なの・・・!?本当に、こんなことしなくっちゃいけないの!?ひどい・・・・」
どうしてだろう、どうしてこんなに寒いのだろう?初夏の季節柄、ボンネットの中に閉じ込められていては、蒸し暑くて叶わないはずだ。しかし、この冷え状態はどうしたことか。当たり前のことだが、冷房がこんなところまで届くはずがない。そもそも、ここは人間が入れられる場所ではないからだ。
筆舌に尽くしがたい恐怖のために、温度感覚が麻痺しているのかもしれない。
車がカーブを曲がるたびに、少女の華奢な身体は大きく揺られて、飛び回る。それだけでなく、何かの荷物が奈留の身体の何処かに当る。とても痛い。もはや、上下左右の間隔も曖昧になりつつある。
だが、彼女の胸中を支配しているのは、そんなことではない。
いま、置かれているあまりにも不自然な状況が、この世界においては自然であることだ。それがあまりにも恐ろしい。
ここで生まれ育った奈留は、いったい、どんな少女なのだろうか?こんな目にあわされて、どれほど歪んでしまったのか、想像だにできない。いや、今の自分、元の世界においてみんなに愛されていた折原奈留がけっして歪んでなかったとは断言できない。
そうは言っても、これほど非人道的な状況下でまともに人が育つはずがない。
だが、そのように小説の世界で人を語るような言い方に、何処か違和感を覚える。折原奈留は、折原奈留であって他のだれでもないのだ。
ここはパラレルワールドと呼ばれる世界なのだろうか?奈留は、SFにはそれほど明るくないが、読書家であることを自認しているだけに、概念くらいは頭の隅に辛うじておさまっている。正確には理解していないかもしれないが、平行世界、すなわち、自分が住んでいる場所と並行して、似ているのだが、けっして同一ではない世界が無数、存在する。その程度のことは知っている。
もしも、ここがそのパラレルワールドならば、ここに元いた折原奈留はいったいどこに行ってしまったのか?あるいは、入れ替わりに、かつて、自分がいた世界に吸い込まれたのかもしれない。ならば、急に優しくされて戸惑うことだろう。ちょうど、今の奈留の逆の状態だ。
だが、今、彼女にとって喫緊の問題はそんなことではない。
ガラ、ガラとすさまじい音を立てて、ボンネットの中を泳ぎまわる。少女の自己意識においては、冷静にものを考えているようだが、実際は、両親を呼びながら激しく泣き叫び続けていた。
はたして、どのくらいの時間が経ったのだろう。永遠とも思われる時間が過ぎてようやく車が止まった。いままで何度か、福音ともとれる安息の時間があったにはあったが、それは、信号機に止められたためだろう。
しかし、今回はそうでないことがわかった。車の呼吸音や、人の歩く音が聞こえないからかもしれないが、何か、そこが郊外であって街中でないことが、五感以外の感覚によってなんとなくわかるのだ。折原奈留という少女は、昔からそういうことには人一倍敏感だった。
明らかに、ここは我が家だ。
ほんのわずかだが、少女の心に本当の安息の灯がともった。
だが、娘、それも誘拐されて解放されたばかりの少女をボンネットに放り込む両親だ。けっして、それが長く続くことはありえないことは想像に難くない。
それを警告するように、光の定規が急に出現した。ボンネットが開いたのだ。線だと思ったのは、街灯の灯りだった。
「はやく、出ろ!」
「ィイヤァ・・・」
大声を出そうとしたが、何者かがそれを妨害した。少女は、知っていた、両親や妹に何を言ってもわかってもらえないことを、いま、自分が置かれている状況は自分にふさわしい待遇だということを、そうだ、折原奈留という人間は誰にも愛される資格のない、いわば、粗大ごみでしかないのだ。
それをまさにアプリオリに理解している。
よって、余計に悲しみを誘うことになる。
突如として、伸びてきた凶暴な手によって頭を引っ摑まれ、車外、ボンネットからでもその用語を使うのはまことに皮肉だ、からつまみだされるのは、まさに荷物以下の扱いでしかない。たとえば、購入したばかりの商品ならば、そう乱暴に扱うこともないだろう。壊れてしまうかもしれないからだ。
荷物以下ということは粗大ごみということか?
そうなると、彼らは自分たちの娘がどうなっていいとても思っているのだろうか?いや、母親が奈留に言った言葉はそれ以上だった。
「あなたなんて、生きて、帰ってこなければよかったのよ」
そう言っただけで、一回の振り返りもせずに両親と奈々は家に入っていった。一瞬だけ玄関の電気が点灯したが、すぐに消えた。それは「この家にあなたの居場所はないの」と無言で告げているように思われた。
「・・・・!?」
少女はただ崩れ落ちた。もはや、呼吸する気力すら残っていない。このまま死んでしまう、否、死ぬことができるような気がした。
しかし、咄嗟に聞こえてきた女の声が、少女を現実に引き戻した。
「奈留ちゃん、そう簡単に人間って死ねないのよ・・ふふ」
「な?!」
それは金髪の美女、自称ドミニクの声だった。彼女は拘置所にいるはずだ。どうしてこんなところにいるのだろう。おもむろに立ち上がって周囲を見回す。誰もいない。奈留もよく知っている近所の野良犬が排尿しているだけだった。
「ふふ、私は何処にでもいることができるのよ、それを忘れちゃだめよ・・・」
少女をあざ笑うような声がした。われに返って、はじめて、自分が汗だくになっていることに気づいた。そうだ、今は初夏なのだ。底冷えする冬のはずがない。だから、こんなに暑いんだ。
だが、ボンネットの中の異常な寒さは何だったのだろう?
車庫からかすかに見える黒い姿は、少女にとってデビルそのものだった。此の世のものとはとうてい思えない。
遠くから、かすかに両親が話す声が聞こえた。
やがて、父親の声が声を荒げていることがわかる。少女にとって、それは驚天動地だった。14年間ほど付き合ってきたが、めったに感情的にならない人なのだ。
それがやんだと思うと、ドアが乱暴に開けられて、しかる後に同様に閉められる音が響いた。
「奈留!何をやっているんだ!!近所にみっともないだろう!!」
「ヒ!?」
先ほどと同様に髪ごと頭をひん摑まれた。そして、先ほどよりははるかに乱暴に家へ向かって引きずられる。父親の態度が不思議だった。どこかおどおどとしている。きっと、世間的を気にしているのだ。奈留も奈々同様に遇していると、みんなに思ってほしいのだ、じっさいは、その逆なのに。
「痛い!おね、お願いだから、パパ、手を離して!」
「・・・・」
今度は無言だ。こんなに門扉から母屋まで距離があったのかと思われるほどに、解放されるまでが長く広く感じられた。
家に入っていけない。そうしたら、近所の目がなくなるぶん、暴力はエスカレートするだろう。本気で殺されることを意識した。さきほどまでは、死ぬことを覚悟したというのに、なんという体たらくだろう。
いつの間にか、奈留は、異世界の奈留と同一化していることに気づいて呆れた。いったい、自分は何者なのだろう?
あの楽しかった日々は何処に行ってしまったのか。まるで夢のような気がした。これが現実、少女は、まさに物扱いで玄関に引き上げられた。
そして、父親は、自分の娘に一片の親らしい感情をみせずに、廊下の奥へと、ちょうとボーリングの要領で投げ飛ばしたのである。
するすると廊下の上を滑っていく。
ものすごくスベスベしている。そのはず、かつて、母親に命じられて夜中じゅう廊下を磨かされたのだ。
どうしたことだろう?やったこともない記憶がよみがえってくる。まるで過去を書きかえられるような、この異常な感覚は、もう、何が真実なのか本当にわからなくなる。
それにしても・・・、どうやら、この世界の奈留が体験したことらしい。
なんという皮肉だろう。自分がしたことのせいで、余計に苦痛を感じることになった。
腰の辺りがもろに何か堅い物に衝突した。身体を半分に折られるような苦痛が、奈留の全身に走った。
「・・・ぁ」
それは、少女から言葉を奪うほどに激しい。ようやく言えた言葉は、「ママ!助けて!」だった。しかし、それがいかに無意味か、この世界の奈留は痛いほど理解している。にもかかわらず思わず言ってしまったのは、この世界の奈留にも、かつて母親に愛された時間があるということか、あるいは、まだ、この世界に慣れ親しんていないせいか、判断ができない。
そんなことを考えているうちに、父親の攻撃はその度合いを増していく。
少女は顔を踏みつけられた。男の大人の靴下の臭いが鼻をつく。暗闇の中で父親の顔が歪んだ。いかにも、汚いものを踏んでしまったというような顔だ。何もかもを拒絶する、悪鬼の表情。
それは、いま、自分が叫んだことがまったく無意味だという返事だった。なんとなれば、薄闇は無言で何も答えてくれない。母親が駆けつけるような雰囲気すら漂ってこない。ただ、少女を取り巻く空気は硬質で、少女に対して何もかもを拒絶するような態度を取っていた。
いつの間にか、頭部に激しく与え続けられた圧力は消えていた。父親がいなくなる、その瞬間、意識が何処かに旅立っていたのか、足音は猫のようにまったく聞こえなかった。
もう、何も考えられなかったが、身体にまとわりついた汚泥のようなものを取り払いたくて、自室に戻ると着替えを用意して浴室に向っていた。
頭からシャワーを被って、身体を洗う、そして、自室に戻る。その間、わずか10分くらいだろうが、じっさいに、時計を確認するとそのていどだった、何時間もかかったように思われる。
身体が異常に重い。生理の時のようだ。いま、子供を産むなどということはとうてい考えられないのに、身体はその用意をしている。そんな理不尽さと何処か酷似している。
この苦痛は何か意味があるのだろうか?
濡れた髪をタオルで拭いながら考えた。
そのときにある違和感を覚えた。これには太陽の香りが染み込んでいる。ということは、母親は、奈留の分もちゃんと干しているということだ。なんという矛盾だろう。この家のひとたちは自分を排除したいのか、それとも、そうではないのか、まったくよくわからない。
三人の態度から推察するに、まさにお荷物ということだろうか。
捨てるに捨てられない。実に厄介な存在だということかもしれない。すると、この世界の奈留はとんでもないことを何かしでかした、そんな可能性もある。これは探ってみる必要性がある。
少女は、明日の宿題を平らげるために机に向おうとして、今日が何日なのか確認するのを忘れた。しかし、頭は正確に働いているようで、それに対する処方箋を自ら書くことができた。
PC電源をオンにすればいいのである。
人間は何を思うのか、考えるのか、自分のものだといって本当に制御可能なのだろうか?中学1年生のごくふつうの女の子である如月美佐枝はリノリウムの床がきらきら光るのを見て、忘れかけていた、ある同級生のことがインスピレーションのように浮かんでいた。
彼女のクラスには一人の少女がいじめられている。
宮間未華がそのような立場に置かれたのは自業自得だと、美佐枝は思っている。いや、彼女だけでなくクラスのほぼ全員がそう考えている。
それにはある切っ掛けがあった。
ある朝、クラスメートたちが登校すると、教壇の上にCD_ROMが置かれていた。それを再生してみると、美香がクラスメートを罵倒する内容が長々と20分ほどに渡って録音されていたのである。誰の耳にも、それは彼女の声であることはあきらかだったし、本人も否定しなかった。
単に美貌で頭がいいというだけでなく、弱い人間に惜しみない助力を差し伸べるなど、精神的にも高潔な人間だと、みなに受け止められていた。しかし、録音はそれと完全に相反する内容だった。
いったい、誰がどんな目的で置いたのか、という根本的な問題を完全に忘れ去って、ただ、信頼していた人に裏切られた思いだけが勝ってしまった。その結果、少女は一瞬にして、クラスの人気者から忌み嫌われる存在に落ち込んでしまったのである。
あんな台詞を録音した声を聞かされてしまえば、クラスのほとんどは彼女を嫌うだろう。さすがにあそこまでひどいことをする必要はないが、少なくとも、かかわろうとしなければいいのだ。
今は、放課後、HRが終わったばかりで、運動部のかしましい声がまだ響いてこない。嵐の前の静けさとでもいうべきひと時だった。
音楽室に向うために渡り廊下を歩いている。
美佐枝の中学の音楽室は、二階の行き止まりにある。その扉を開こうとしたときだ。けたたましい足音がしたと思ったら、今の今まで脳裏にいた彼女が駆け込んでくるではないか。美しい顔が涙で汚れてクラスのアイドルだった見る影もない。
「如月さん・・お、お願い、階段の下に逃げたって言って!?お願い!きょ、今日は・・・うう」
悲壮な顔で迫ってくる美貌を美佐枝は無視しようとした。音楽室に逃げ込もうとするその姿は悲壮だった。かつての堂々たる姿は何処に消えてしまったのか。完全に興醒めで幻滅だった。
彼女を追いかけるように迫ってくるあの足音たちは、きっと、聡子たちのものだろう。言わずと知れた、未華をいじめている主要メンバーたちである。きゅきゅっという、上履きのゴムがリノリウムの床をこする音が、未華にさらなる恐怖を抱かせる。
音楽室の奥を見ると、美少女がさらに悲壮な思いで頭を下げている。両手を合わせて、自分は観音様かしら?と突っ込みを入れたくなった。
いっそのこと、聡子たちに突き出してもいいと思ったが、ある一言を一対一で告げる機会は今回しかないと思い立ち、気が変わった。音楽室のドアを投げやりな手つきで閉める。
激しい足音からキリンが集団で襲ってくるような錯覚を覚えた。
聡子を中心とする五人がそこに立っていた。
あの優しい顔がこんな風に変貌するのか。
美佐枝は自分に迫ってくるリーダーの顔を見た。あんな人をあいてにする必要はないのにと思いながら、聡子はこちらから声をかけた。
「どうしたの?聡子さん」
息せき切って走ってきた四人組の少女たちは、すぐには言葉を発せられないようだ。なんといっても、未華は運動が得意で足が速い。陸上部所属というわけでないが、一度、逃げられたら捕まえるのはむずかしいだろう。
そのうちの一人がまず質問してきた。
「はあ、はあ、ここにあいつが来なかった?」
クラスメートがあいつと言えば誰のことか、今では代名詞ではなくなっている。
「宮間のこと?来なかったよ」
「やっぱり、右に回ったのよ!急ごう!」
いじめっ子たちの駆け足は、サイやスイギュウなど大型草食動物が集団移動するさまを思わせる。
とおざかる足音が消えると、音楽室のドアが開いた。
そこには顔を両手で覆って泣きじゃくる未華がいた。
「ぁ、ありがとう・・・・如月さん・・」
「あの人たちもひまよね、あなたなんかまともに相手にする価値なんてないのに」
「・・・・うう・・如月さん・・」
「気軽に名前を呼ばないでくれる?穢れるから」
「如月さん・・・・」
「そうだ、今日はどうしたっていうの?どうせ、明日にはずっとひどいことされるのになんで逃げ回っていたの?別にあんたのことなんて興味ないのよ、ついでだから聞いてるだけ、答えたくなったら、答えなくてもいいよ」
「せ、生理だから・・・・うう」
「・・・・・」
その一言で、いじめっ子たちに普段どんな目にあわされているのか、如月美佐枝にもおぼろげながら摑めてきた。だが、こんな機会はもうないのだから言ってしまいたい。
「宮間さん、よくも学校に来れるわよね、そうとう図太いね、神経が」
「・・・き、如月さん・・・・」
今まであこがれていた。だが、彼女の傍にさえよることができなかった。だが、今ではぼろ雑巾のように彼女の目の前にいる。
美佐枝は無理に笑いを作った。クラスメートたちのように、みじめな未華を見ても心から笑うことができない。
だが、勇気を持って言わねば、ついこの前までこんな人に尊敬の念を抱いていた、かつての自分に対して申し訳が立たない。
「自業自得よ・・・」本心ではなかった。だが、畳み掛ける。「人を見下すとこういうことになるのよ!」
「・・・・・」
未華は黙っていた。だが、美佐枝の本心を見抜いたのか、目を伏せようとしない。そればかりか、美佐枝の肩を摑んだのだ。
「あ、あれは違うの!お願いだから信じて!」
制服のパットが破れるどころか、肩そのものが脱臼するほど勢いが強い。なんだろう、この圧力は?
すがるような目つき。
写真で見たアフリカの子供たちがこんな目をしていたっけ。だけど、自分の知っている宮間未華はこんな目をしていなかった。あんたなんて、あの人じゃない!相手が間違っているならば、たとえ教師にでも繰ってかかる負けん気の強かった彼女は何処に言ったというのだ?
肩をいからせると、簡単に手を引いた。
「ぁ、あ、如月さん、ごめんなさい・・だけど、聞いてほしいの・・・・」
まるで幼女の瞳を彷彿とさせる。黒目勝ちな瞳。まったく邪気が感じられない。それが怖くてなって思わず、「気持ち悪いから傍に寄らないで!」と突っぱねてしまった。
「・・・・うう」
「ちょっと、何処に行くのよ!?」
階段を下りようとした未華に美佐枝は訊いた。
「石岡さんが言っていた方に行くから・・・」
水銀のような涙が数滴、パイプのような欄干に落ちるのが見えた。
討ち入り前の赤穂浪士のような悲壮な覚悟を決めた顔だった。
「庇ってくれてありがとう・・・・」
「ちょっと、待ちなさいよ」
「・・・・!?」
ふりむいた未華の顔は同一人物とは思えないほどに変容している。
吊り上った眼からは涙がこぼれているが、さきほど見られた気弱さはまったくといっていいほど消えてなくなっている。その代りに持ち前の負けん気の強さが凌いでいる。
それを見せられた美佐枝は思わず呟いた。
「わかったわ。信じる、嘘なのね・・まだどういことなのか、わからないけど」
「・・・・・」
未華はクラスメートに背中を向けたまま俯くと、レモン汁を絞り出すように涙を一滴、二滴とこぼし続ける。
だが、再びキリンの蹄の音が聞こえた。
「はやく、こっちへ、音楽準備室から外に出られるよ」
「え?2階なのに?」
「歌唱部だけが知ってる秘密の通り道よ、体育準備室の屋根に出られるの」
未華の肩を摑むと、音楽室へと誘い込む。
「ヒィ・・・・?!」
彼女の顔が怯えている。石岡聡子の声が風に乗ってきたのだ。華奢というよりは、中学生にしては大人びた、スリムな身体がぶるぶると震えている。まるで真冬の外に全裸で放り出されたような塩梅だ。
そんなに聡子が怖いのか。いったい、どんな目にあわされているのだろう。ちなみに、あの五人のうちのひとりは如月美佐枝の幼馴染である。しかし、その日は病欠だった。もしも、彼女がいればイの一番に自分に質問してきたにちがいない。そうしたら、嘘を突き通せたのか自信がない。
彼女、栗下蘭によれば、性的な行為を強制したりするらしい。ならば、生理の彼女は
どんな目に合わされるのだろう。身体を密着させると、ほのかに鉄っぽいにおいが漂ってくる。少女には、それが未華の悲しみのように思えた。
思春期にはじまる生理は、将来、赤ちゃんが生まれる序章のようなものである。そんな大事な儀式をいじめのネタに使われるなどと、たとえ、彼女の声が真実だったとしても、とうてい許されることだとはおもえない。
準備室に入ると、嗅ぎなれたにおいが鼻孔になじむ。
「こっちよ・・・そんなに高くないでしょ?」
「イヤ・・・怖い!!」
「宮間さん、もしかして、高いところが苦手なの?」
窓辺に立ってぶるぶると震えている。先ほどよりもはるかに怯えている。どう見ても病的にしか見えない。高所恐怖症であることは火を見るより明らかである。
背後をうかがえばキリンの足音が迫りつつある。
「もうそこまで来てるよ、宮間さん」
「・・・・・」
何かを心に決めたのか、未華は窓際から離れて机の上に両手を滑らせた。そこにはカッターナイフが置かれていた。おもむろにそれを摑むと美佐枝に突きつけた。
「しっ、私の言う通りにして!」
もう、何がなんだかわからない。もはや、怯えていた姿は微塵もない。
数秒後、石岡聡子をはじめとする四人が入ってきた。
キリンのくせに肉食獣めいた凶暴さをむき出しにして、二人に迫ってくる。そのうちのひとりがまず牙をむいた。美少女は、美貌を歪めて、そんなものに負けじと真正面から向かっていく。
「宮間?あんた、何してるの!?」
いじめっ子たちのひとりは美佐枝をすぐに被害者だと認定したようだ。
「美佐枝さん!!」
「近づかないで!!」
未華は、スリムな体型からは信じられないほど強い力で、美佐枝の右腕をひねると聡子たちに向けた。刃物は、少女の首筋に光っている。
「何を考えているの?!美佐枝さんを離しなさいよ!!」
四人のうちのひとりが叫んだ。
しかし、聡子はあくまでも冷静だった。
「そんなことして、どうなると思っているの」
「もう、あんなことイヤよ!先生を呼べばいいじゃない。警察でもなんでもいいわ!」
泣き叫びながら引き下がる未華。しかし、あまりにも感情的になっているためにそこが窓際であることに気づかない。
それを知らせたのは、二階から見える園芸用の如雨露に光が反射したせいかもしれない。
「ぁ・・・!?」
本質的な恐怖が少女を襲った。とたんにナイフが落ちる。すとんと床に突き刺さった刃物を、引き抜くと聡子はそれを未華に突きつける。
「さきほどの威勢のよさは何処に言ったのかしら?・・・ま・ふふ、自分で言っておきながら、あまりにもお笑いな台詞ね。三流映画みたい」
美佐枝の知っている聡子はけっしてこんな饒舌ではなかった。
「ちょうどいいわ。今日のショーはここでやりましょ。蘭ちゃんがいないことだし、今日は美佐枝さんに加わってもらいましょう。被害者だし・・・」
理知的な視線を向けてくるいじめっ子のリーダー。
事、ここに至って、美少女の意図に気づいた。彼女は、自分を庇うためにこんな芝居めいたことをやってみせたのだ。思えば、彼女は子役プロダクションに関係していると聞いたことがある、これほどまでの美少女ならば、それもうなづける話だが。
「美佐枝さん、今日の予定は?」
聡子の優しげな微笑の向こうに、未華が首を振っているのが見えた。リーダーに刃向ってはいけないと言っているのだ。
仕方なく、少女はコクンと頭を下げた。
「この子、今日は生理なのよ。驚きでしょ?こんな性格破綻者が子供を産もうっていうのよ」
「ウウ・・ウ・ウ?!」
未華の小さな顎を乱暴に摑むと、自分の方向へと無理やりに引き寄せる。
「性格破綻者の上に、性的な異常者でもあるのよね、宮間は?」
主人が奴隷にその身分を確認させるように怒鳴りつける。
「宮間?!」
「ヒ・・・?は、はい」
尽かさず。平手打ちを未華の美貌に炸裂させる。高貴な美術品がゴミ袋のようにしわくちゃになった。
「い、淫乱です・み、宮間、みか、未華は・・・・やらしいことが、だい、大好きな、淫乱な女の子です・・・・・うう」
悪魔の手からやっと頭部を解放された少女は、顔を覆って号泣しはじめた。その瞬間に、ちらっと、美佐枝に視線をうつした。
そのとき、聞きなれた足音が彼女の耳に届いた。視覚障害者などが足音だけで誰のものかよくわかる、ということがよくあることだが、同じく音楽を長年やってきた者にも同様のことが見られるという。
美佐枝はその好例だろう。声楽家を母にもつ彼女は小さいころから歌唱に慣れ親しんできた。
彼女が聞き取ったところによると、掃除を終えた部員がやってきたのだ。
「そうか、ここは歌唱部の活動の場だったわね。将来、歌手になる美佐枝さんは練習しないといけないわね」
石岡聡子の言葉が終わると同時に部員たちが入ってきた。
「ぁ、聡子さん、それに、宮間?」
その名前を聞いたとたんに、一変して汚らわしいものを見る目に変わった部員。
一方、聡子は打って変わってしおらしくなった。美佐枝には見慣れた彼女の姿である。
「宮間さんが寂しいからお友達がほしいって・・・」
「無理やりに言い寄られたの?まるでストーカーじゃない。ちょっと、いくら誰からも嫌われたからって、おとなしい石岡さんに近付くってどういうこと?」
「ぁ・・ああう?!」
その部員、佐竹登美子は、歌を歌うというよりは柔道の方が部活としては似つかわしいほど強靭な身体を持つ少女である。未華のほっそりとした身体など軽々と片手で持ち上げてしまう。
哀れにも両足は床から引き離されてしまった。だが、ばたばたさせるほどの気力も残っていないようだ。ぐたっと海藻のようなさまを晒している。
あまりにも無体な扱いである。だが、そこにいる誰も被害者に同情する視線を送ってこない。
思わず、美佐子は援助の言葉をかけたくなったが、未華の思いを考えるとそう簡単に嘴を突っ込めずにいた。
「ぁ・・・・あ・・ぁ!?」
山村と名乗った刑事から、転じて自分に意識を戻した奈留は思わず三段階の声を出した。最初は、単なる序章、そして、次は、自分が裸だと錯覚した「あ」である。そして、最終段階としては、自分が寝間着とはいえ恥部を露出していないことへの安堵だった。
そして、もうひとつ。
山村の外見があきらかに体育会系の権化と称すべきほどにごついとしても、その眼をよくみれば優しさが宿っていたからだ。
彼ともうひとり、山村に比較すれば親子ほども離れた若い刑事とともに、少女は老医師によって別室に連れて行かれた。
ちゃんと歩けるはずだと主張したかったが、半ば強制的に看護婦によって車椅子に跨った。そんなことをされてまったく抵抗できないことを思うにつけて、いっきに何十年も年を取って老婆にでもなってしまったようだ。
看護婦の言い方は表面的にはやさしかったが、かなり事務的で温度に欠けているように思われた。
その上、中学生を扱うにはかなり大げさで子供扱いをしているようだ。もしかしたら、看護学校でそのように教育されたのかもしれない。
出口を通るまで、なぜか、少女は見たくてたまらない方向から目を背けつづけた。あたかも、自分が法廷に引き出された殺人犯で、傍聴席から被害者の家族に指弾されているような気がしたのである。どうして、自分の家族からこんな扱いを受けなくてはならないのだろう?奈留は悲しくなったが、一方で、これが当たり前という意識が自分を追い立てる、このことが、わけがわからずに首をひねるのだった。
扉が閉められたとき、奈留は思わず涙を一筋、そのかたちのいい頬に滑らせていた。こんなときはどうでもいい思いが人を救ってくれるものだ。同行している老医師が誰かに似ていることに気づいたのだ。少し考えて、ある少女マンガのキャラクターとそっくりだった。小野寺という、キャラ的には主人公と相反する立場にあるその男は、別に優しい性格付けがなされているわけでもないのだが、どう見ても酷似している。
そういえば、作品の中でかなり悪そうに書かれているこのキャラも孫を前にすれば、きっと、やさしい顔になると親友に語ったことを思い出した。きっと、そのときのことがよみがえったのだろう。
本当にどうでもいいことだ。
奈留は、しかし、誰かに救われたような気がした。これから彼女が赴く先は、極刑が誰の目にもあきらかな殺人犯が法廷に行くよりも、さらに辛い場所かもしれない。
たとえ、そうであったとしても、たとえ、一瞬でも救いになったのだ。それが誰なのかわからないが、その人物に感謝したい気持ちでいっぱいなのだ。なんとなれば、この世界に自分の味方はひとりもいないのだから・・・・。
奈留は、歯噛みした。
自分の考えに反論できなかったからである。
その小部屋は、こぎれいだったが、蛍光灯に青白く照らし出されてどうにも、警察の取り調べ室を彷彿とさせた。ドラマの一場面が脳裏をよぎる。その少女は両親や学校をはじめとする、大人のだれもから不良だと恐れられる子だったが、いざ、取り調べ室に引きずり込まれると、まるで幼児のように泣き出した。
今の奈留はそんな気持ちだった。妹の奈々をあんな目に合わせたのは自分のせいだという意識が何処かにある。罪悪感で身体を裂かれそうだ。
部屋に招じ入れられた奈留は、しかし、ドラマとはちがって丁重に扱われた。
「折原さん、あなたはひどい目にあった被害者なのに、取り調べるようで心苦しいのだが、これも仕事でしてね」
「・・・・」
一瞬の間があって、山村は事件について切り出した。
「われわれは当惑している。事件の首謀者である、あの外国人の女性だが・・」
「ドミニクと名乗りました・・・・うう」
また涙が一筋、こぼれた。刑事たちは少女を慮って優しい声をかけてくれる。しかし、あのブロンド女が醸し出していた恐怖は、とても人間が発するものとは思えなかったのである。
「そのドミニクだが、自分が何をやったのかまったく覚えていないのだよ」
「覚えていないですって?」
山村よりもすこしばかり高い声が別角度から耳に到着した。
「携帯していたパスポートによると、彼女は、ローザ・ルクセンブルクというベルリン人なのだが、太陽国に観光のためにやってきたというのだ。今、ベルリン語の通訳を通して取り調べを行っているが、難航している」
「え?あの人、太陽国語を流暢に喋っていましたよ」
「妹さんもそう言っているから、嘘だとも思ったのだが・・」
「彼女は、明らかに嘘をついていない」
「どうして、わかるんですか?」
少し、向きになった。
その態度に、山村は、彼女を年齢しては一本、筋の通った子だと感じていた。あくまでも、第一印象にすぎないが、折原奈留の供述は信用できるという、確信が芽生えていた。それは、刑事として長年やってきた経験がそう囁いている。
自分のすべてを見抜くような、山村の視線に奈留は、両親や担任に感じるような大人ではない、別の意味の大人を感じて身体中に粟粒を作った。だが、突然にあることを思い出した。刑事は、奈々について言及していた。
「あの、妹は、奈々も調べているんですか!?」
「相当、精神的なショックを受けているようで、両親と一緒にいる。われわれと話ができる状態じゃなくてね・・・・」
ならば、自分はふつうに訊けるような状態なのだろうか。自分が軽く見られているのか、重く見られているのか、わからなくなってきた。いろんな思いが交錯してあとからあとから涙がこぼれてくる。
刑事さんたちは、いったい、何があったのか、それを写実的に語られたら信じる気になるだろうか?
いや、そんなことは絶対にムリだ。あの体験はとても言葉にできることではない。だが、彼らがどの程度、果実を得ているのか、それには興味がある。
「山倉さん」
「山村だよ、折原さん」
「ごめんなさい。逮捕されたのは何人なんですか?」
「ローザ・ルクセンブルクを筆頭に、カール・リープクネヒト、みなベルリン人、みな、一様に何をやっていたのか、まったく覚えていないと繰り返すばかりだ。水戸空港に到着して飛行機から降りたとたんに意識を失ったと、一様に供述している」
「そのカール、リープクネヒトという人はサングラスをしていませんでしたか?」
「よく、一度で覚えられたね」
自分の名前は間違えたのに・・・・という言葉を言外に言いながら、「その男は君たちに何をしたんだい?」
「あの大きな建物は誰の持ち物なんですか?」
「いいところに目を付けたね。不思議なことに外国人たちとは何も関係ない人の所有物なんだよ」
「じゃあ、鍵は?」
「ちょっと気の利いた泥棒なら、あの程度の鍵はふつうにこじあけるからねえ・・・」
山村の神妙な顔つきは、名探偵ナントカを彷彿とさせた。どう考えても、事、ここに至っても今、奈留に起こっていること、そして、起こったことのすべてから現実感が失せていくのがわかる。
これは嘘なんだ。きっと、夢だ。
山村たちとやりとりをしながら、これは映画の撮影であの大きな建物をはじめとするすべてものが張りぼてにすぎないと思うようになった。
だから、刑事たちとも冷静に話せるのだ。そうでなければ、あのようなおぞましい体験、妹に性器を舐められて感じてしまったなどと、回想できるはずがない。
あれは嘘で、虚構にすぎないのだ。
だが、何ど言い聞かせても、なぜか納得してくれない部分がある。
どんなに疑っても、疑うものの存在そのものは否定できない。有名なデカルトのわれ思う故に我あり、のように、奈留に対して自己の存在を強調してくるのだ。
それをさらに補強するように、ドアが開くと、母親の姿があった。本来ならば、心から安心して涙を流すべき状況だ。しかし、彼女の冷たい瞳はおおよそ娘を見る目ではなかった。
「奈留・・・・早く来なさい」
そういうと彼女の手首を乱暴に摑んだ。
「山村さん、娘がお世話になりました」
まるで虞犯少年の親だなあ、と、山村は思った。彼は少年課にいたことはないが、いわゆる、不良少年とカテゴライズされる一定の存在と交友を持ったことはある。この奈留という、頭がいいだけでなく気立てもいい、確かに、一癖も二癖もありそうな少女だが、とても、そのような範疇に収められる子だとは思えなかった。
この母親は、娘が被害者であることを忘れていないか?
引きずられるように、廊下をいく奈留の小さくなっていく背中を見つめながら思った。そして、元いた部屋に振りかえようとした、その瞬間に思い出したように奈留の方向へと戻ると、「ああ、そうだ。折原さん、またご連絡いたしますから・・・あっと」
すでに母娘は建物の外へと消えていた。
「マ、ママ、腕が痛い・・」
「・・・・!」
闇に包まれて今更ながら夜のとばりが降りていたことに気づいた。
奈留は、鬼のような形相の母親を見て戸惑った。
「どう、どうして、そんな目で見るの?!」
眼球と頬の肉が溶けるほどに涙がこぼれてくる。たしかに、その液体は刺激性があって、塩酸で肉を溶かしたような臭いがしてきそうだ。
「・・・・」
「ママ!?ぁ・・・あ!?」
咄嗟のことで何が起こったのかわからなかった。とにかく、母親の掌が超スピードで動いたかと思うと、右頬に強烈な痛みを感じたのである。
ものすごい轟音が辺りに轟いた。だが、夜の町を行きかう人たちは何事もなかったかのように、散策を楽しんだり、帰宅を急いでいるのは、奈留には理解できなかった。
だが、敬愛する母親の口かが迸った言葉はそれよりも意味不明だった。
「あなたに、母親呼ばわりされる筋合いはないわ」
「どうして・・・!?」
懇願と非難を含まれた瞳を母親に向ける。口の端にのぼせるのもためらわれるほどにひどい目にあったのに、どうしてこんな仕打ちを受けねばならないのか。しかも、彼女は娘に反論と感慨の余裕すら、一秒も与えずにさらにひどい言葉を捲し立てた。
「法律上、私はあなたの母親だから、しゃくだけど家に連れて行かないといけないの、早く車に乗りなさい」
「・・・・!?」
な、何を言っているの?法律上?しゃく?それってどういうことなの?
完全に言葉を失った奈留は、再び手首を乱暴に摑まれると駐車場に連れて行かれた。もう、何も感じない。真冬の外に裸で放り出されたとしても、さすがに最初は寒い、冷たい、と感じるだろうが、じきにそれも感じないくらいに感覚が麻痺してしまうだろう。
だが、それはまったく苦痛がないのと違う。逆だ。苦痛そのものになってしまっているために、苦痛とそうではない感覚がくべつできなくなっているにすぎない。
だが、見慣れた父親の愛車、ちなみに、黒塗りのベンツだが、それが待っていたのはさらに冷たい仕打ちだった。
まるでいらなくなった荷物のように車内の放り込まれようとした奈留を阻んだのは、妹である奈々の悲鳴だった。
「ママ?なんでそんなものを入れる?捨てちゃえばいいでしょう!絶対にいや!!」
奈々は、口が張り裂けそうな勢いで泣きわめく。
だが、その反応に驚愕したのは奈留だけだった。母親は、いつものことだとごく冷静に、入りかけた奈留の襟首を摑んだ。
あまりにも急激だったので、首が閉まった。
だが、呼吸困難よりも絶望の方が勝っている。
まさか、本当に捨てるつもりなの!?
そういう思いが、真冬の外に裸で放り出される恐怖とともに襲ってきた。
奈留を引きずりだした母親のやったことは、ある意味、それよりもひどいことだった。本当に荷物扱いしたのだ。
無造作にベンツのボンネットに手をかける。
「ママぁ・・まさか・・・嘘だよね!?うう・・いやぁ!」
奈留は信じられないという顔で、母親の顔を見た。暗がりだが、すでに鬼の形相でないことがわかる。だが、襟首に食い込んだ冷たい手を放そうとしない。
「奈留?あなたは折原家の荷物なのよ、そうよね、奈々の言うとおり、荷物が人間のいるべきところに入るのは間違っているわ」
あれほど優しかった、いや、優しいはずの母親の口から出る言葉とはとうてい思えない。
「イヤ?イヤ?!イヤ!?わたし、荷物なんかじゃない、ママの娘よ、どうして、そんなひどいこと言うの!?」
「喋るんじゃないの!!」
「うう・・?!」
純生物学的にいえば、両者の間にそれほど力の差はないはずである。奈留は、健康的な中学一年生の女の子で、運動の得意な方だ。
だが、親と子の間には目に見えぬ服従―被服従の関係がいくつになっても息づいている。老齢の親をあいてに恐怖を感じることもあるのが、人の子として生まれた境遇の哀れさ、であろう。
それどころか、母親はまだ40前の女盛りなのだ。
度重なる精神的な攻撃によって、さんざん打ちのめされた奈留など簡単にボンネットの中に放り込まれる。
え?棺桶?!
しだいに狭まってくる星々の空。もしも、閉じてしまったら、もう二度と開かなくなるのだ。
「いやああああ!!」
だが、両手を犠牲にしようとは思わなかった。少女には、先天的に両手、両足の先が潰されるという恐怖心を人よりも抱いている。
逆にいえば、そのことが、彼女のけがを未遂に終わらせたのかもしれない。
だが、その代わりに彼女を覆ったのは桎梏の闇だった。
「ママ!パパ!奈々ぁ!!こんなのいや!!!!助けえ!助けて!!」
耳をつんざくエンジン音とともに、少女は、触れられるあらゆるものをたたきはじめた。
そうしないと、あまりにもみじめだったからだ。何かしないと、見えない恐怖に押しつぶされそうだったからだ。
だが、少女の喚き声は夜の町には届かない。
「そう、そうやってキタナイお姉さんのココを舐めてお上げなさい」
「うぐぐぐ・・・・?」
ブロンド女は自らの命令に素直に服する奈々を見て、満足そうに微笑んだ。
奈留、奈々、折原姉妹は道ならぬ行為を強制されている。薄暗く、がらんとした広い部屋でレズ行為を強制されているのだ。より具体的に描写すると、ふたりは全裸にされた上に、一様にエナメル色に妖しく光るベルトで上半身を拘束されている。それらは腕、腰、臀部に食い込んでいる。物理の法則によって、押し出された皮膚が余計に飛び出ているところが痛々しい。だが、体型がそれぞれスリムなために、同年齢の少女が同じ格好を強制されたならば、さらにみっともなく皮下脂肪がそのかわいくない頭を出すところだろう。
妹の奈々は、姉である奈留の性器に舌を伸ばしている。クリトリス、小陰脚、その他、性器を構成する秘肉をしたたかに舐められている。その内部から迸る液体は、けっして、奈々の唾液だけがその正体ではないだろう。
両者の格好に違いを見出すとすれば、姉ある奈留の口には、その小作りで上品な唇には似つかわしくないほどに暴力的で巨大なさるぐつわ、現代的に言い換えればポールギャグが食い込んでいる、ということだ。ついでに言わせてもらえば、その小さくてかたちのいい顎には、彼女の柔らかで健康的な輝きを発する肌と対照的に、軍事的で暴力的な金属がはまり込んでいる。それらはピタゴラスが発見した数学の定理に従って、支点を要求し、少女に不自由を強制している。
ポールギャグの穴から流れてくる唾液が糸をつくる。口との間から出てこないのは、よほど強く中に入り込んでいるからであろう。不自然に歪んだ口の周囲が痛々しい。
もうひとつ、重大なことがある。それは、二人が平均をはるかに超える美少女姉妹だ、ということだ。
ふたりは、ドミニクと名乗ったブロンドの外国人によって、このおぞましい行為を強制されている。彼女は、大腿を限界まで開かされてドミニクに赤ちゃんのように抱えられているわけだが、その姿勢のままで妹に性器を舐められている。
ピストルによって彼女が潜在的に持っている権力を証明されたために、最初は可愛らしく反抗していた奈々も、いまや完全に彼女の奴隷と化している。
ブロンド女が顎で合図すると、奈留を誘拐したサングラス男がやってきて、入れ替わりに彼女を抱えた。
(ぃいやあ!お、男の人??!)
女性の柔らかな手の感触とまったく違う、大人の男の手のそれに奈留は身の毛がよだつ思いを味あわされた。おそらく、その身体に触れた異性は父親だけだろう。それも、幼児のころのはなしだろう。いまや、年頃、いや、その年齢にはいまいち到達していないが、そのくらいの少女の身体を成人に達した男が抱いているのだ。
「ふふ、奈留ちゃん、彼が初めての男なの?ふふ」
「うぎぎぎぃい」
まさか、うぶな少女とはいえ、こんなことで妊娠するなどと本気で信じているわけではない。だが、処女を失うという意味は、じっさいに処女膜をペニスによって破壊されるという、以上の意味を内包しているのだ。
ブロンド女はそれを理解した上で、少女の柔らかだか一本芯の入った髪の毛を掻き揚げる。それは彼女の性格を暗示しているようで興味深いが、ドミニクの興味は他にある。
それをよりわかりやすく自分の前に展示させるために、奈々の頬に顔を近づけるとキスをした。
「ぅむ?!ぐぐぐうぅぐぶぶ?!」
「ほら、やめない!」
情け容赦なく、少女の耳を引っ張る。おびただしい涙とともに、少女は視界を奪われた口の中に鉄のバールを突っ込まれ、喉を経由して身体の奥までかきまぜられるような恐怖が、少女を襲う。
仕方なく、再び、命じられた行為にいそしむ。
「かわいそうに、こんなに汚くてクサイものを舐めさせられるなんて、奈々ちゃんは我慢できないでしょう?」
穏やかな物言いがおそろしい。さらに言えば、自分が命じているにもかかわらず、ドミニクは他人事のように描写するのだ。奈々はそのことが特におぞましいと感じた。
一方、女の子として大切な部分を悪しざまに言われて、精神的なショックを受けていた。いや、ドミニクにそういわれたことよりも、それを否定しない奈々から受けるダメージの方がはるかに大きかった。
なおも、妹は自分の性器を舐めづつける。
まったく抵抗を止めてしまった奈々に、ドミニクは物足らなさを感じたのか、口だけでなく行動によって彼女をいたぶり始めた。
「私は訊いているのよ?これは、奈々ちゃんが質問に答えないことに対する罰よ」
「ムぎぃいぃ!?」
奈々の三つ編みをぐいと摑むと、無理やりに自分の方向に引き戻し、しかる後に、奈留の性器に強引に押し付けた。姉の粘液が顔中にへばりつく。このときは、ドミニクに対する根源的な恐怖よりも、生理的な嫌悪が勝った。
「き、汚いぃいいい!!」
「ふふ、アナタのここ、汚いって、奈留ちゃん」
「むぐぐぐむぐぐ・・・!?」
ポールギャグによって完全に口の自由を奪われた奈留は、哀れなことに一言も抗議することができない。
一方、妹である奈々は姉の性器によって言葉を奪われたのである。ドミニクは言った。
「そろそろ、退散するわね」
「・・・・・・」
「・・・・」
二人は完全に無反応だった。まるで死体のように折り重なって身動きひとつしない。ブロンド女は長い髪を掻き揚げながら、サングラスの男に何やら命じていたが、二人の耳に届かない。その代りに入ってきたのはパトカーのサイレンだった。
やっと、助かった。
奈留にとって、普段はうるさくてたまらない雑音がこれほどまでにありがたく思えたことはない。だが、気になるのは奈々の態度だった。薄れる意識の中で、そればかり考えていた。しかし、意識が途絶する瞬間に割って入ってきたのは、ブロンド女の吐息と言葉だった。
「奈留ちゃん、また会いましょうね。会いたくなくても、あなたの方から来てくれるわよ、だって、この世界はあなたが知っている世界とはまったく違うのだもの・・・ふふ」
金色の玉ねぎが割られたような笑声がやけに耳に焼き付いていた。自分が知っている世界とまったく違うとはどういうことだろうか?それは、奈々が自分を嫌っているという事実からも合致することのように思えた。
逆に言えば、妹が自分を憎むはずがない、という彼女なりの原理が崩れることはなかった。なぜならば、ドミニクによればここは異世界だからである。
意識の途絶は急に起こった。
もしかしたら、これは死かと、そう思う以前に世界が桎梏の黒に閉ざされた。
次に意識を取り戻したとき、視界に入ってきたのは温和な老人の顔だった。
「大丈夫かね?たしか、奈留さんだったか・・・」
彼が白衣を着ていることから、医師に間違いないと思ったが、意識は別のところに言っていた。両親と奈々の泣き声が同時に聞こえたからだ。
自分もあそこに行かなければならない。そして、大切な家族を安心させてあげなければならない。そう思って、上体を起こそうとした。だが、うまくいかない。全身がだるい。まるで鉛が全身の細胞に仕込まれているかのようだ。
そんな少女にかけられた声は、老医師の声に比較するとあまりに冷たかった。耳が凍りつくくらいだった。
「そう、助かったのね」
「え?」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。妹である奈々を助けられなかったことを、姉として恥ずかしいと責めているのだろうか?日ごろから、いや、小さいころから姉であることを
強く自覚するように育てられてきたから、奈留はそう誤解したのである。
しかし、どうもおかしい。だが、自分を納得させるためにもこちらから言葉を発すべきだと筋肉を動員させようとする。だが、うまくいかない。
奈留は、愛する母親の声がした方に、状態をむかせようとする。しかし、帰ってきたはさらに冷たい言葉だった。
老医師や看護婦が部屋から消えたことを確かめながら、「あなたの顔なんて、見たくないわ」と言ったのである。
そして、驚くことに次に彼女の耳をつんざいたのは、奈々の怒声だった。
「あの人、自分が助かりたいばかりに、奈々なんてどうなってもいいって言ったのよ!!」
あの人という単語のつながりが少女の耳に針を刺す。どうして、そんな風に言うの?もはや、反論する気すら消え失せようとしている。
「お前は本当にどうしようもない子だ」
父親の低い声がしたが、そちらを振り向く気にもならない。だが、家族の冷たい仕打ちよりもさらにおそろしいことが彼女の心の中で起こっていた。
自分はみんなに嫌われているんだ。いっそのこと、殺してくれたらよかったのに・・・そう思う自分がたしかに無意識の何処かで鼻歌を歌っている。
そんなばかな。自分ですらが自分を弁護しなくなってどうなると言うのだろう?
ここは、あのドミニクが言ったとおりに、自分がかつて知っているような世界とはまるで違う、いわば異界なのだろうか?
本気で怖くなった。生命の危機すら覚えた。
だが、少女は思考を逡巡させる自由すら与えられなかった。老医師が、あきらかに堅気ではない男性を数名ほど連れてきたからである。角ばった頭髪が視界に入ってきた瞬間に、奈留は、あのサングラス男を思い出した。しかし、よく見ると身長がかなり低いようだ。
先頭を切って入ってきたその男性が、自分を刑事だと名乗って、ドラマでよくあるように警察手帳を示した。
山村と名乗ったその男は、奈留を見つけるなり、両親や奈々ではなく、ロケーション的にはあきらかに妹の方が近かったにもかかわらず、彼女の方向に近づいてきた。いや、駆けだしてきたと描写した方が適当かもしれない。
両親に儀礼的な挨拶もせずに奈留に直進してきた。そして、開口一番、「いったい、君たちに何が起こったんだい?」と声をかけてきた。その声があまりにも温和だったために、外見からかけ離れていたことも加味できるかもしれないが、思わず、声を上げて泣き出してしまった。
久しぶりに人間的な扱いを受けたような気がした。老医師も優しかったが、微睡の中にいたためによく覚えていない。家族に冷や水をかけられた後だっただけに、この刑事が炬燵のように思えたのだ。
「奈々!奈々!」
奈留は、必死に妹の名前を呼ぶ。しかしながら、本当に妹のことを思ってそうしているのか、はなはだ疑問だった。
泣き叫びながら、実は妹に抗議していたのである。どうして、自分にたいして疑念を含んだ視線を向けるのか?今まで、そんなことが皆無だったたけに、少女が受けたショックは計り知れなかった。
そして、ついには、奈々は姉からそっぽを向いて、あさっての方向を睨み付けるに至っている。まるで、これまでの人生をすべて否定されたほどに思えた。
どれほど記憶を検索しようとも、このような顔は引っ掛かってこない。
涙ぐんでいるその眼からは哀しみでも辛さからでもなく、自分に対するただ怒りと憎しみだけが感じられる。
ふいに視界が真っ暗になった。
「ぐぎぎ・・・・!?」
「ちょっど、うるさいから黙っていてね、奈留ちゃん、妹さんの言い分を上げなさいな。じきに警察が来るから」
なんということだろう、この凶悪な女は自分の行為を、あたかも小説の中で作者が語るように睥睨して言っているのだ、まったく罪の意識もみせずに・・。言い換えれば、即席俳優が素人芝居を楽しんでいるようにすら見える。
奈留は、ふたたび、さるぐつわによって発語の機会を奪われた。
それと入れ替わりに、奈々は口の戒めを解かれた。外されたポールギャグは、奈留のものとまったく同じ大きさだった。ねっとりとした唾液が糸を引く。金髪の美女は、それを奈留の顔に振りかけながら、芝居見物を決め込んだようだ。
言語の自由を回復した妹は、ここぞとばかりに姉に食って掛かる。いままでため込んでいた怒りを放出するように、牙をむいた。
「あんたなんか、大嫌い!間違っても、お姉さんなんて思ってない!」
ちょうど、満水のダムが堰を切られたように奈留を罵りはじめた。彼女の口角泡がまともに飛んでくる。
「そうなの?そんなに憎いの?」
「憎いなんてものじゃないわ、殺してやりたい!」
どうしたら、あんなに優しい妹の顔がここまで恐ろしくなるのだろうか。まるで、ネコ科の肉食獣のように怒りと憎しみで表情が歪んでいる。それにしても、彼女は自分が置かれた状況がわかっているのだろうか?彼女も、自分と同じように誘拐されて、ここに連れてこられたのだろうか。その答えはドミニクの口から発せられた。
「奈留ちゃんが、言うのよ、どうしても妹を招待したいって」
「・・・・・!?」
自分はそんなことはしていないと主張したいのだが、口の中に無理やりに詰め込まれたポールギャグは、いかに、口腔内の筋肉を動かそうとも微動だにしない。
金髪の美女は奈留の意思を読み取ったかのように言った。
「どうやら、奈々ちゃんが怒っているのは、べつのことのようよ」
「・・・!?」
ドミニクの言葉は奈留の耳に入らない。妹にされたことがあまりにもショックなので、自室茫然としているのだ。脳内にあるニューロンに流れる電流が限界を超えたために、ショートしてしまったのだろう。
「こんなに嫌いな、お姉さんだけど、ぜひともあなたにしてほしいことあるのよ」
「・・・!?」
今度は奈々が驚愕する番だった。ドミニクが言ったことは、とうてい、彼女が受け入れられることではなかったからだ。
ドミニクは、少女の膣に食い込んだベルトを外すと、嫌がる奈留を抱きしめながら言う。
「お姉さんの、ココをキレイにしてあげてほしいの、この子ったら、赤ちゃんみたいにおしっこを漏らしちゃったからね・・・・ふふ」
「むぐぐ・・・」
ドミニクの指が、奈留の性器にめり込んだ。最初は、一番長い中指から、そして、薬指、人差し指、小指、という順番に少女の膣を蹂躙する。
「どう?お姉さんのココ」
「キ、気持ち悪い・・・」
「ムゲェェェ?!」
無機質な喘ぎ声をあげる奈留。
「よほど、かわいい妹さんに恥ずかしいところを見られるのが答えるのね、けど、本当はうれしいんでしょ?」
ちょうど、Mの字に大腿を広げられた奈留は、妹の前に、女性のすべてを展示している。奈留は、拘束具によって自由を奪われているのだが、さるぐつわを噛まされていることによって精神の自由さえ亡き者にされているのだ。ドミニクや奈々の誹謗に対して抗弁できない、そのことはイコール、魂の牢獄に入れられたも同じなのである。
「さあ、ココをお舐めなさい」
「いや、こんな汚いものを舐めるなんて、いやあ!絶対にいや、死んでもいやよ」
「死んでもいやだって、ふふ、奈留ちゃんも嫌われたものね、でも・・・」
奈留の耳にキスすると、妹の方を向いた。
「これがどういう意味を持つのか、わかるわよね、奈々ちゃん?そうね、あなたは死んでおいやだって言ったわね。だったら、死んでみる?」
「・・・・!?」
いったい、何処に隠していたのだろう、ドミニクが妹に向けたものはピストルだった。それがあまりも少女にとってなじみのない物のために、おもちゃにしか見えない。だが、美女の顔は真剣だった。こんな顔を見たことがなかった。殺意、というのだろうか。映画やドラマのなかでしか出くわせない、恐ろしい顔を目の当たりにしている。
それがあまりに美しいだけに、そして、彼女の言葉が穏やかなだけに、余計に、ふたりの少女を戦慄させたのだった。
だが、奈留は違った。かわいい妹を傷つけるものは許せない。ドミニクが自分から離れて、両足が自由になったことをいいことに、彼女に向って飛びついた。自らの頭を武器にして、妹に向いているピストルを飛ばそうと考えたのである。
だが、目方にして、長身であるドミニクの三分の二ほどしかない奈留に、それも下半身以外の自由を奪われてしまった彼女にそのような芸当が可能なわけがない。
「・・・?!」
奈留の咄嗟の行動を、奈々は否定することによって精神の均衡を保っているようだ。少女は、大活劇が目の前で起こったにもかかわらず、何食わぬ顔であさっての方向を見つめている。すくなくとも、表面上は冷静さを顔の表面に塗装することが可能だったようだ。
「むぐぐぐぐぐぐ!?」
奈留は、そっけない妹を背にして、動かない口をひっしに動かして構音しようとしている。その仕草は、水中からいきなり引っ張り出されて呼吸を奪われた魚を彷彿とさせる。だが、いかに外見が滑稽であろうとも、本人は本気なのだ。
ドミニクは、すでに奈留を相手にしようとは思っていないようで、戦く奈々の方向へと歩みを進める。一方、姉は、妹を必死に守ろうとドミニクの足首に噛みつこうとした。だが、さるぐつわを噛まされて開けることも叶わない口が、どうして、そんなことが可能だろうか、あえなく、彼女の妄想だけのなかでそれは達成された。
すぐに、それは妄想だと思い知ったときには、少女の頭はハイヒールによって踏みつけられていた。
そのあまりにひどい光景に奈々が動かされないはずがなかった。
「お、お姉・・・・く!?」
「奈々・・・・?」
姉は、その言葉だけで十分だった。だが、言葉を飲み込んだ妹は、ふたたび、あさっての方向に目を背ける。そこには、凝視しようと決め込んたシャガールの、おそらく複製画であろうが素人にすぎない彼女には判断がつかない、その絵の中で花嫁を抱きしめて飛ぶ青年に視線を固定しようとした。
「ふふ、奈々ちゃん、それは本物よ。有名な作品とは別規格で彼が描いた作品で、それほど知られていないの」
少女は、ぎょっとした顔を見せた。心を読まれた?と数秒ほどは、しかし、可愛らしい顔を出目金にしたものの、すぐに偶然だと高をくくった。
「そんなことはどうでもいいわ、さあ、するの?しないの?それとも、これが偽物だと思っているわけね、じゃあ試してあげる」
ドミニクは、シャガールの下に置かれた石膏像に向けて弾丸を発射させた。すると、耳をつんざく轟音が少女たちを襲った。残念ながら、両手は背中に固定されているために耳を覆うことができない。
「ぁ・・ああああ・・・ぁ」
もはや、開けた口を再び閉めることができなくなってしまった。
「どうなの?」
「ひ・・・・」
円らな瞳を不自然なかたちに歪めて、奈々は姉の方向へと向かった。
「アレ?奈々ちゃんは、死んでもよかったんじゃないの?それほどまでに、お姉さんがキライじゃなかったの?」
もはや、反論する気力もなくなったようだ。少女は、姉の股間へと顔を近づけていく。
「ほら、逃げないの、奈留ちゃん・・・せっかく、妹さんがキレイにしてくれるのよ、あなたの汚くてクサイココをね」
「あぎぃぃぃ!?」
ドミニクは、なんとか、恥辱から逃れようとする少女を捕まえると、彼女に大腿を開かせて妹の口元に性器を展示させた。そして、舐めやすいように小陰脚を開く。
「むげぃぃぃぃ!!?」
くちゅくちゅと、粘液がかき回される音が薄闇に奏でられる。
「ふぐ・・ふぐ・・ふぐ・・・ぐ!?」
少女がかまされているポールギャグの穴からは、彼女が身体をぴくんとさせるのと同時に、唾液が迸る。少女はそれにさえ気づかないようだ。身体を襲う官能に驚いているのだ。性器を舐められるという、これまでに味わったことのない感覚に、どのような態度をしめしたらいいのか、精神的に、そして、身体的に、奈留は戸惑っているのだ。
「このちょびんと飛び出たところがあるでしょう?ここをしっかり舐めてあげなさい」
「むいいい!?」
ある程度の性知識のある奈留は、それが陰核であることを知っている。そして、それが弄られると、とんでもない、わけのわからない感覚を連れてくることも、だ。
(何?!)
少女は、ふたたび、既視感が自分を襲っていることに気づいた。学校、そうだ、大好きなはずの場所で、このような体験を強制的にさせられている・・・そのような映像だった。
だが、経験したことのない官能に襲われている今となっては、それに対して反論する気力があろうはずがない。
それを引き起こしているのが、かわいい妹だという事実が相まって、官能はさらに二乗、三乗となって、少女を八つ裂きにしようとしている。
奈留は、必死に妹の名前を呼ぶ。しかしながら、本当に妹のことを思ってそうしているのか、はなはだ疑問だった。
泣き叫びながら、実は妹に抗議していたのである。どうして、自分にたいして疑念を含んだ視線を向けるのか?今まで、そんなことが皆無だったたけに、少女が受けたショックは計り知れなかった。
そして、ついには、奈々は姉からそっぽを向いて、あさっての方向を睨み付けるに至っている。まるで、これまでの人生をすべて否定されたほどに思えた。
どれほど記憶を検索しようとも、このような顔は引っ掛かってこない。
涙ぐんでいるその眼からは哀しみでも辛さからでもなく、自分に対するただ怒りと憎しみだけが感じられる。
ふいに視界が真っ暗になった。
「ぐぎぎ・・・・!?」
「ちょっど、うるさいから黙っていてね、奈留ちゃん、妹さんの言い分を上げなさいな。じきに警察が来るから」
なんということだろう、この凶悪な女は自分の行為を、あたかも小説の中で作者が語るように睥睨して言っているのだ、まったく罪の意識もみせずに・・。言い換えれば、即席俳優が素人芝居を楽しんでいるようにすら見える。
奈留は、ふたたび、さるぐつわによって発語の機会を奪われた。
それと入れ替わりに、奈々は口の戒めを解かれた。外されたポールギャグは、奈留のものとまったく同じ大きさだった。ねっとりとした唾液が糸を引く。金髪の美女は、それを奈留の顔に振りかけながら、芝居見物を決め込んだようだ。
言語の自由を回復した妹は、ここぞとばかりに姉に食って掛かる。いままでため込んでいた怒りを放出するように、牙をむいた。
「あんたなんか、大嫌い!間違っても、お姉さんなんて思ってない!」
ちょうど、満水のダムが堰を切られたように奈留を罵りはじめた。彼女の口角泡がまともに飛んでくる。
「そうなの?そんなに憎いの?」
「憎いなんてものじゃないわ、殺してやりたい!」
どうしたら、あんなに優しい妹の顔がここまで恐ろしくなるのだろうか。まるで、ネコ科の肉食獣のように怒りと憎しみで表情が歪んでいる。それにしても、彼女は自分が置かれた状況がわかっているのだろうか?彼女も、自分と同じように誘拐されて、ここに連れてこられたのだろうか。その答えはドミニクの口から発せられた。
「奈留ちゃんが、言うのよ、どうしても妹を招待したいって」
「・・・・・!?」
自分はそんなことはしていないと主張したいのだが、口の中に無理やりに詰め込まれたポールギャグは、いかに、口腔内の筋肉を動かそうとも微動だにしない。
金髪の美女は奈留の意思を読み取ったかのように言った。
「どうやら、奈々ちゃんが怒っているのは、べつのことのようよ」
「・・・!?」
ドミニクの言葉は奈留の耳に入らない。妹にされたことがあまりにもショックなので、自室茫然としているのだ。脳内にあるニューロンに流れる電流が限界を超えたために、ショートしてしまったのだろう。
「こんなに嫌いな、お姉さんだけど、ぜひともあなたにしてほしいことあるのよ」
「・・・!?」
今度は奈々が驚愕する番だった。ドミニクが言ったことは、とうてい、彼女が受け入れられることではなかったからだ。
ドミニクは、少女の膣に食い込んだベルトを外すと、嫌がる奈留を抱きしめながら言う。
「お姉さんの、ココをキレイにしてあげてほしいの、この子ったら、赤ちゃんみたいにおしっこを漏らしちゃったからね・・・・ふふ」
「むぐぐ・・・」
ドミニクの指が、奈留の性器にめり込んだ。最初は、一番長い中指から、そして、薬指、人差し指、小指、という順番に少女の膣を蹂躙する。
「どう?お姉さんのココ」
「キ、気持ち悪い・・・」
「ムゲェェェ?!」
無機質な喘ぎ声をあげる奈留。
「よほど、かわいい妹さんに恥ずかしいところを見られるのが答えるのね、けど、本当はうれしいんでしょ?」
ちょうど、Mの字に大腿を広げられた奈留は、妹の前に、女性のすべてを展示している。奈留は、拘束具によって自由を奪われているのだが、さるぐつわを噛まされていることによって精神の自由さえ亡き者にされているのだ。ドミニクや奈々の誹謗に対して抗弁できない、そのことはイコール、魂の牢獄に入れられたも同じなのである。
「さあ、ココをお舐めなさい」
「いや、こんな汚いものを舐めるなんて、いやあ!絶対にいや、死んでもいやよ」
「死んでもいやだって、ふふ、奈留ちゃんも嫌われたものね、でも・・・」
奈留の耳にキスすると、妹の方を向いた。
「これがどういう意味を持つのか、わかるわよね、奈々ちゃん?そうね、あなたは死んでおいやだって言ったわね。だったら、死んでみる?」
「・・・・!?」
いったい、何処に隠していたのだろう、ドミニクが妹に向けたものはピストルだった。それがあまりも少女にとってなじみのない物のために、おもちゃにしか見えない。だが、美女の顔は真剣だった。こんな顔を見たことがなかった。殺意、というのだろうか。映画やドラマのなかでしか出くわせない、恐ろしい顔を目の当たりにしている。
それがあまりに美しいだけに、そして、彼女の言葉が穏やかなだけに、余計に、ふたりの少女を戦慄させたのだった。
だが、奈留は違った。かわいい妹を傷つけるものは許せない。ドミニクが自分から離れて、両足が自由になったことをいいことに、彼女に向って飛びついた。自らの頭を武器にして、妹に向いているピストルを飛ばそうと考えたのである。
だが、目方にして、長身であるドミニクの三分の二ほどしかない奈留に、それも下半身以外の自由を奪われてしまった彼女にそのような芸当が可能なわけがない。
「・・・?!」
奈留の咄嗟の行動を、奈々は否定することによって精神の均衡を保っているようだ。少女は、大活劇が目の前で起こったにもかかわらず、何食わぬ顔であさっての方向を見つめている。すくなくとも、表面上は冷静さを顔の表面に塗装することが可能だったようだ。
「むぐぐぐぐぐぐ!?」
奈留は、そっけない妹を背にして、動かない口をひっしに動かして構音しようとしている。その仕草は、水中からいきなり引っ張り出されて呼吸を奪われた魚を彷彿とさせる。だが、いかに外見が滑稽であろうとも、本人は本気なのだ。
ドミニクは、すでに奈留を相手にしようとは思っていないようで、戦く奈々の方向へと歩みを進める。一方、姉は、妹を必死に守ろうとドミニクの足首に噛みつこうとした。だが、さるぐつわを噛まされて開けることも叶わない口が、どうして、そんなことが可能だろうか、あえなく、彼女の妄想だけのなかでそれは達成された。
すぐに、それは妄想だと思い知ったときには、少女の頭はハイヒールによって踏みつけられていた。
そのあまりにひどい光景に奈々が動かされないはずがなかった。
「お、お姉・・・・く!?」
「奈々・・・・?」
姉は、その言葉だけで十分だった。だが、言葉を飲み込んだ妹は、ふたたび、あさっての方向に目を背ける。そこには、凝視しようと決め込んたシャガールの、おそらく複製画であろうが素人にすぎない彼女には判断がつかない、その絵の中で花嫁を抱きしめて飛ぶ青年に視線を固定しようとした。
「ふふ、奈々ちゃん、それは本物よ。有名な作品とは別規格で彼が描いた作品で、それほど知られていないの」
少女は、ぎょっとした顔を見せた。心を読まれた?と数秒ほどは、しかし、可愛らしい顔を出目金にしたものの、すぐに偶然だと高をくくった。
「そんなことはどうでもいいわ、さあ、するの?しないの?それとも、これが偽物だと思っているわけね、じゃあ試してあげる」
ドミニクは、シャガールの下に置かれた石膏像に向けて弾丸を発射させた。すると、耳をつんざく轟音が少女たちを襲った。残念ながら、両手は背中に固定されているために耳を覆うことができない。
「ぁ・・ああああ・・・ぁ」
もはや、開けた口を再び閉めることができなくなってしまった。
「どうなの?」
「ひ・・・・」
円らな瞳を不自然なかたちに歪めて、奈々は姉の方向へと向かった。
「アレ?奈々ちゃんは、死んでもよかったんじゃないの?それほどまでに、お姉さんがキライじゃなかったの?」
もはや、反論する気力もなくなったようだ。少女は、姉の股間へと顔を近づけていく。
「ほら、逃げないの、奈留ちゃん・・・せっかく、妹さんがキレイにしてくれるのよ、あなたの汚くてクサイココをね」
「あぎぃぃぃ!?」
ドミニクは、なんとか、恥辱から逃れようとする少女を捕まえると、彼女に大腿を開かせて妹の口元に性器を展示させた。そして、舐めやすいように小陰脚を開く。
「むげぃぃぃぃ!!?」
くちゅくちゅと、粘液がかき回される音が薄闇に奏でられる。
「ふぐ・・ふぐ・・ふぐ・・・ぐ!?」
少女がかまされているポールギャグの穴からは、彼女が身体をぴくんとさせるのと同時に、唾液が迸る。少女はそれにさえ気づかないようだ。身体を襲う官能に驚いているのだ。性器を舐められるという、これまでに味わったことのない感覚に、どのような態度をしめしたらいいのか、精神的に、そして、身体的に、奈留は戸惑っているのだ。
「このちょびんと飛び出たところがあるでしょう?ここをしっかり舐めてあげなさい」
「むいいい!?」
ある程度の性知識のある奈留は、それが陰核であることを知っている。そして、それが弄られると、とんでもない、わけのわからない感覚を連れてくることも、だ。
(何?!)
少女は、ふたたび、既視感が自分を襲っていることに気づいた。学校、そうだ、大好きなはずの場所で、このような体験を強制的にさせられている・・・そのような映像だった。
だが、経験したことのない官能に襲われている今となっては、それに対して反論する気力があろうはずがない。
それを引き起こしているのが、かわいい妹だという事実が相まって、官能はさらに二乗、三乗となって、少女を八つ裂きにしようとしている。
自らの排泄物によって下半身を濡らしてしまった奈留は、羞恥心と汚物に対する汚辱感で頭の中が真っ白になっている。さらに、温度を失った尿は、氷の冷たさを親に対して感じさせ、それがいっそう少女に羞恥心を強く感じさせる。
口惜しいことだが、その耐えがたい状況から自分を解放させてくれるのは、このプラチナブロンドの外人しかいないようだった。
奈留は、彼女に訴えようとするが、あいにくとその呼び名を知らないのだ。
「あー」
「何かしら?奈留ちゃん?」
「・・・・・・」
「そうだったわ、私の呼び名を教えていなかったわね」
しばらくの間、意識を何処かに飛ばしているのか、俯いて美貌を陰に隠れさせた後に、再び口を開いた。
「そうねえ、ドミニクというのはどうかしら?」
「・・?ド、ドミニク?」
「さまをつけるのよ、お嬢ちゃん、あなた奴隷でしょう?忘れたの?」
「ぐぃぃぃ!?」
まったく、躊躇くことなく少女の背中を踏みつけた。ハイヒールのかかとが白い肌に食い込む。白人のそれと性質の違う真珠の白に、ドミニクは微笑を浮かべる。
「ほら、正しくお呼びなさい」
「ド、ドミニクさま・・・・」
おびただしく流れる涙で視界が崩れ去る。だが、どうしたことだろう。このように扱われることが自分にとって不自然ではないような気がするのだ。しかし、よく考えてみればそれはおかしいことだ。少女にこのような仕打ちをする人間は世界の何処にも生息していないはずなのだ。
両親に手を挙げられたことはほとんどない。なかんずくあったとしても、他人を侮辱するか、あるいは、自分というものを粗末に扱ったときだ。中でも後者の場合、その怒り方は尋常ではない。あの優しげな両親が変貌を遂げる瞬間である。だが、それは愛情の裏返しだとわかるかたちで怒るから、間違ってもDVをされたなどという記憶の残り方はしない。
それに学校でも奈留は友人というものに苦労したことがない。とびきりの人気者というほどではないものの、常に自分の味方といえる人間に事欠くがなかった。たしかに、彼女を好く人、嫌う人の差は激しかったが、後者から受けるダメージよりも、前者から受ける恩恵の方がよほど多かったのである。
そんな少女がどうして、今のような状況を耐えられるだろうか。
改めて、ドミニク、と躊躇いがちに名乗った女性の顔を仰ぎ見る。そのあまりにも非現実的な美しさが、奈留に、もしかしたら、今、彼女が置かれている状況がすべて夢ではないだろうかと、思わせることを加速させている。
「だけどね、奈留ちゃん、もしかしたら、あなたのそんな記憶こそが夢かもしれないでしょう?あくまでもこちらが現実でね」
「え?!・・・・そ、そんなっ?!」
「そんな目で人を見るものではなくてよ?」
この人は本当に人間なのか?第三階梯の人間という、SFの世界を乗り越えて、少女はドミニクを人ならぬ存在へと格上げしてしまっている。そう考えた方が、自己に起こった状況を自分に納得させることが可能だからかもしれない。
あなたは誰?という問いは、必然的に、自分は誰という?命題を引き出す。
記憶の中で自分に笑いかけている友人たちは、夢にすぎないということか?
「そんなに友達、友達っていうなら、名前を挙げてごらんなさい。できないでしょう?」
「・・・・!?」
ドミニクが顔を近づけると、プラチナブロンドの髪が固有の意思を持った生き物のように、奈留にまとわりつく。彼女の吐息がかかるほどに接近している。どういうことだろう?心臓がドキドキするが、それは恐怖故ではない。この高まりは、あきらかに・・・・そんなばかな!と少女は負けん気の強さでドミニクを睨み付けた。
だが、すぐに目力が緩んでいくのがわかる。どうしたことだろう?奈留は、自分の中に理解しがたい感情が芽吹くのを感じた。彼女に抱きしめてほしい。誰にも愛されない自分を慰めてほしい。
だ、誰にも愛されない?そんなことない!自分を大切に思ってくれる家族も友人も、自分を心配しているに決まっている。いまごろ、警察が動いているだろうから、救われるのは時間の問題にちがいない。
「警察が動いていることは事実よ」
「なら、逃げなくていいの?」
すでに、奈留の心がドミニクに読まれていることに、何の不自然さを感じなくなった。口のまわりが異様にだるい、喋るために口を動かすことすらめんどうくさい。だから、言葉を発さなくても意図を読んでくれることは、少女にとってありがたいのだ。
「心配してくれるんだ?」
「・・・・・!?」
そんなはずがないでしょう?と言いたかった。心が読めるのにそんなこともわからないのか、という気持ちが強い。しかし、一方で自分がひと肌を異常に求めていることがわかる。あまりにも寂しい。
きっと、それはこの異常な状況が、赤ちゃん返りのようなことをさせているにちがいない。
きっと、家族や友人たちが・・・。
「だったら、友達の名前をあげてごらんなさいって」
「ひ?!」
ふいに身体を抱き寄せられて、奈留は悲鳴を上げた。
「や、やめて、やめてくだ・・ううう・・・」
突如として唇を奪われた。なんということだろう、ファーストキスを、こんなに美しい人とはいえ、同性に奪われるなどと、自分にそんな趣味があるわけがない。もしも、あったらとしたら天にも昇る心持だろうか?
いや、ちがうだろう?こんなふうに動物のように縛られて、自由意思もなく好き放題にされた挙句に強制的に接吻させられるなどと・・・・、奈留は、こんなことを考えながら、何か、高級な酒に酔うような気持ちになっていた。
そんな時に流れる涙は、まったく理解不能な味がする。
「ぁあ・・ぁあ・・あああ・・・」
いつしか、ドミニクの舌は唇から移動して少女の喉元に吸い付いていた。真珠の肌が、彼女の唾液によってさらに妖しい輝きを増していく。さらに、鎖骨、胸骨、エナメルに輝くベルトによっていびつなかたちに歪められた胸に近づく。
「ぁあっぐう・・・!?」
乳首に、ドミニクの唇が吸い付くと、少女はすっとんきょうな声をあげた。自分の身体に起きたことが信じられないのである。何か、真っ赤な両生類のような小さい動物が、身体の中で暴れているような気がする。
「やーあぁぁあ」
ドミニクの舌は、さらに下降していく。臍、下腹部、そして、つにいに、少女のもっとも恥ずかしい場所へと向かっていった。
「ぃああいや、そこは、いやあああぁあぁあ!?」
小陰脚、クリトリス・・・・ありとあらゆる、性器の構造物を支配していく。
「ふふ、そんなに気持ちいの?」
「そ、そんなことない!や、やめて!いやいや!」
「オナニーとか、もう経験しているんでしょ?毎晩、これしないと眠れないくらいに淫乱なのは、わかっているのよ、見てみればわかるわ。こんなに男のモノを要求してるんだもの」
「そ、そんなことない!!」
ドミニクの言っていることが理解できる年齢になっているだけに、少女は顔を赤らめた。
「人に見られるのも、うれしいでしょう?奈留ちゃんは、私は知っているのよ?」
「・・・!?」
顔をしかめると、ドミニクの双眸がきつくなった。
「普段のあなたを知っているから、そういうのよ、私は」
いったい、普段の自分の何を見てそんなことをいうのだろう?奈留は不思議でたまらなかったが、性器をさらにまさぐられておもちゃにされる中で、何か、それも嘘ではないような気がして、さらに羞恥心が刺激されるのだった。
すべてが終わった後に、奈留はよだれを垂らして、頂点に達していた。
「ぁはあ・・はっぁ・・・ぁああ・・・」
「ほら、赤ちゃんじゃないんだから、よだれを拭いてあげる。こんなにいやらしいのに・・・ふふ」
「ぃいやあ・・ぃやああ・・・」
不快な既視感が襲ってきて、少女を打ちのめす。自分はこんなことをされたことなんて、一度もない。性器を人に見られたことなんて、おそらく、経験にないことだ。おそらくと、カッコウつきなのは、自分が赤ん坊の時におむつを替えたことあるような人間は、きっと、視たことがあるにちがいない。しかし、題名も思い出したくない、奈留が間違って読んだ小説のように、その中では大学生が女の赤ちゃんを誘拐してきて、彼女の性器を舐めるシーンがあったのだ、よほどのヘンタイでなければ、単なる裂け目を性器だと認識することもないし、視られている方はまったく記憶にないのだ。
「奈留ちゃんは、露出狂の変態みたいだけど、そんな姿をいちばん見せたい人を連れてきたわ」
「・・・え?!」
咄嗟に言われると、ふいに指が鳴らされる音がした。
「な、奈々!!?」
なんと、奈留の視界に入ってきたのは、この世でもっとも可愛らしい妹だった。まだ、小学生の彼女は、奈留のように全裸にされた挙句に、全身をエナメルに光るベルトで拘束されている。その上に、小さな口は限界まで開けられている。見るところ、姉よりもずっと大きなさるぐつわを嵌められているようだ。
「あなたと違って、ほんとうにおとなしい子なのね、外見も、性質上も、だけど、あなたに対する感情だけは違うようよ」
「私に・・・・!?」
全幅の信頼を自分に預けているはずだ・・・いや、そんなことよりも・・奈々!
「お、お願いだから、奈々を助けて!なんでもします!奴隷でもなんでもいいです!私は返さなくてもいいから、妹だけは!!」
自由にならない身体を芋虫のように歪めて、少女はドミニクにすがる。しかし、まったく意に介さないと言う風に、彼女は立ち上がると、少女の小さな顎を無理やりに奈々の方向に向ける。
姉と違って、本当におとなしげな表情をしている。だが、姉に気づくと大きな瞳を疑念に歪めた。
奈々、どうして、そんな顔をするの?きっと、ひどい目にあわされたのね?かわいそうに!
「ちがうわよ、奈々ちゃんは、あなたが虫唾が走るくらいに大嫌いなのよ」
「そ、そんなことない!!」
「ふふ、そうかしら?あなたを見る、妹さんの目を見てごらんなさい」
美女が顎をかすかに動かすと、奈々を連れてきた男、なんと、奈留を捕縛したあのサングラスの大男だ、彼は軽々と妹を持ち上げた。
しかし、その可愛らしい顔は恐怖に歪むどころか、姉をひたすらに疑念と憎しみを含んだ視線を送ってくる。
かつて、妹にそんな目で見られたことはいちどもなかった。それなのに、どうして・・・奈留ができることは絶句することだけだ。






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