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『由加里 61』

 少女の耳には、イヤフォンが詰め込まれている。そこから聞こえてくる音楽は、深海を泳ぐ紳士淑女のようなものである。彼らは、しかし、いくら金銀のような美しい色で飾られようとも、その真価を理解するものは、ひとりしかいない。
 イヤフォンは聴く人のみに、音楽を観る視力を与える。
 深海においても視力を有する者。
 それは、海神、ネプチューンである。
 ただし、音楽を嗜む海の神というのは、絵にならないか。何故ならば、水中を音が伝わることはないからだ。もっとも、神話に科学を持ち込むのは、無粋かもしれない。
  非常灯が、妖しく緑に光る。
  夜のとばりが降りた病院は、深海に似ている。『出口』と表示された文字は、闇の中に、何か投げかけている。その冷たい光は、蜃気楼のように、うつろで、実体がないように見える。 
 
 あるいは、アンコウの罠に似ているかもしれない。彼女らは、本体である身体から、妖しく光るハンカチを振って、小魚たちを誘う。そして、まんまとかかったところを丸飲みにするのである。
すると、病院における罠とは何だろう。
 一体、どんな獲物を待ちかまえているというのだろう、夜の病院は。

 病室では、彼女は、ひとり、孤独をかこっている。その様子は、何処か、キリコの描く少女に似ている。少女は、あいにくと、手足が不自由になっている。そのために、車輪を転がすことはできなかった。
 ただ、イヤフォンを通じて、音楽を聴いていた。 

 地平線まで 予の手足が 伸びていた
 もう少し 
 そう もう少し 手を伸ばせば 摑めそう
 そう もう少し 足を伸ばせば 踏みつぶせそう
 その時に 若いそなたが 剣(つるぎ)を置こうというのか
 未だ 夢は成らぬと言うのに
 果実は いまこそ 赤く色づこうというのに
 その時に 若いそなたが 剣(つるぎ)を置こうというのか
 そなたは影 予の赴くところ 控えてもらわなれば・・・・・・
 陽のある限り・・・・・・・・・・
 地平が絶える処まで・・・・・
 未だ 果実は落ちず

 
 彼女の姉が所属し、リーダーを務めているバンド、Assemble nightのナンバーである。ここで、読者は驚かれるかもしれない。たとえ、未遂とはいえ、自分を陵辱しようとした男のヴォーカルを聴こうというのか ――――と。
 しかし、慌てなくてもいい。彼女が聴いているのは、冴子のピアノ演奏によるインスツルメンタルだ。 だから、とうぜんのことながら、歌声に怯えることなく、曲を愉しむことができる。
少女は、既に詩を暗唱してしまっている。だから、メロディとともに、歌詞を記憶のなかで聴くことが出来る。
 そこまでして、どうして、その曲を聴こうというのだろうか。
 あの事件以来、少女は、Assemble nightの曲を聴けないでいた。それはとても、辛いことだった。
音楽を聴いているうちに、自然に、それと一体化してしまっていたのである。一言で言えば、ファンになっていた。
 しかし、姉妹ということもあるかもしれないが、そのことを、冴子には、直言できずにいた。

 今、それを聴くことは、由加里にとって、一種の癒しを意味しているのかもしれない。

 少女の傷ついた躰に、冴子のピアノが浸みていく。それは、いわば、MP3が冴子であり、少女自身が楽器のようだった。まさに、彼女の胎内で、ピアノが共鳴しているのである。
 こうしていると、事故による怪我も、可南子によってもたされた虐待も、すべてが癒やされていくような気がする。そして、学校で行われたいじめも、みんなウソだったかのようにすら、思える。

――――あれは、みんなウソなのではないか。このまま、学校に行けば、笑顔で迎えてくれるのではないだろうか。今までのことは、ぜんぶ、悪夢なのではないかしら。きっと、事故のせいで、頭がおかしくなったのだわ。
 それは、楽観的というよりは、落下的な視線だった。墜落していく飛行機のなかで、ただひとり、笑っている。何故ならば、頭がいかれているからだ、そのために、今、自分が落下していることにすら気づかない。あるいは、それが自分にもたらす災厄そのものを理解することができない。

 しかし、あえて、そのように、思わせるほどに、冴子の曲は、力と祈りに満ちている。少しでも力を抜けば、あの声が聞こえてくる。そう、少女を陵辱しようとした高崎淳一の、尖った鼻が見えてくるのだ。 まるで、それは、研ぎ澄まされたナイフだった。今にも、彼女を切り刻もうとしていた。
しかも、冴子は最初、それを認めてくれなかった。由加里がレイプの被害者であることを意識的なのか、無意識なのか、あえて見逃そうとしていたのだ。

――――!?
 聞き慣れたメロディは、しかし、淳一のヴォーカルとともにある。その曲を聴くことは、同時に、彼の声と暴力を思い出させてしまうのだ。由加里は思わず、イヤホンを外してしまった。
 由加里は、下腹部を押さえて、にわかに苦しみはじめた。
―――アゥアウ・・・・うう!
 由加里は、思わず、呻いた。可南子にさんざん弄ばれた性器が、疼いたとてもいうのだろうか。股間を布団の上から押さえる。
――――ァア・・・・・・いや、あの人の声なんて、聴きたくない!?
 それは、さきほどまで聴いていた音楽とは、まったく、性格が違う。まるで蚊の鳴く音のように、小さいが、やけに耳に付く。由加里は、思わず両耳を押さえたが、その音は止まない。それもそのはず、 少女の内奥に組み込まれた振動は、耳を覆ったとはいえ、消せるはずはなかった。
「あ・・・・」
 その時、扉が開く音は、少女に何を与えるのか。絶望か、それとも・・・・・・・。
「ママ」
 少女は、絶望ともあきらめともつかぬ顔を浮かべた。それは絶対的な安心と、つながっているという安心感が、もたらすものだったかもしれない。命の危険とまで、言わないが、何かに忙しいときは、痒みを感じないものだ。
 しかし、ひとたび、自宅に足を踏み入れたとき、とたんに、治りかけの傷が、疼きはじめるのである。 彼女にとっての自宅とは、母親を意味する。彼女がいるところ、少女にとってみれば、それと同意になるのだ。良い意味においても、悪い意味においても、母親は、一番、親しい存在だった。

――――あれ、面会時間ってまだあったっけ?
 そんなことを思いながら、由加里は、期待と不安を胸に同居させていた。

 そこから、数キロと離れていないカラオケ店では、照美が同じ曲を冷唱していた。当然、ここでは熱唱という言葉を使いたいが、彼女ほどに、この言葉が似合わない歌い手はいない。
しかし、まちがっても、歌が下手だとか、熱心ではないと受け取られては困る。彼女の音程は完璧だったし、表現力も素人とはとうてい思えなかった。

 では、熱唱と表現できない何が、彼女の歌唱にあるのだろう。それは、徹底的に抑制された感情とエネルギーにある。両者はたしかにあるのだが、押さえこまれているのである。
 だから、けっして、ゼロというわけではない。この世にないものを封じ込めることはできない。しかし、そこに余波が生まれる。その余波こそが、彼女の歌唱の魅力である。
 よく日本画においては、余白の重要性が謳われる。もしかしたら、それに近いかもしれない。
 ただし、その魅力に気づいているのは、この時点においては、ほんの小数である。なんと言っても  本人が、それを認めていないのである。歌手になろうなどと、間違っても考えていない。いや、音楽関係に進もうなどと夢にもおもわないだろう。
 それでも、その道に通じているのは、幼少時から、母親に半ば強制された教育と、自らの器用な性分から来ていると思っている。

――――それは、こいつも似ているか、いや、これに関してだけはそうじゃない。同じにされて、たまるか。
 照美は、歌いながら、はるかを見た、そして、その向こうで、感心した顔で、歌に聴き入っているゆららを見いだした。しかし、その顔が、すぐに崩壊するのが見えた。これは予言ではない。予定である、既成事実である。未来に起こることでありながら、過去形で語ることができるほどの事実なのだ。照美だけがその事実を知っていた。

―――――でも、どうして、破顔っていう言葉が、今、使えないのかな?
 照美は歌いながら、その歌詞とは、まったく関係がないことを考えていた。そう、彼女が歌っているのは、王様が、優秀な臣下が若くして、亡くなったのを惜しむ歌である。とてもシリアスな、たとえば、色で表現するならば、黒曜石が発するシックな雰囲気の内容である。とても、笑いを殺しながら歌う歌ではない。ただ、次ぎの歌詞は、そのような空気のなかで、異彩を放っていた。

 ああ、そなたは、深謀遠慮に優れ ――――
 ああ、何人の仇を、葬ったかわからない ―――――
 ただし、欺かれた者たちは、誰も自分が被害者だとは思っていなかった ――――
 
 この歌詞が甘いメロディとともに、クライマックスを迎えるのである。

―――このバンドの曲は、珍しいよな、歌詞と曲調が、完全にマッチしてないことがある。ま、これがおもしろいんだが ―――。
これははるかの述懐である。これから、大いなる公害を為すなどとは、夢にも思っていない。呑気な者ではある。

―――さて、照美の次ぎは、自分が励ましてやろう ―――などと、まるで極上のワインにうっとりするように、歌に聴き入っているゆららを垣間見ているのだ。


 その時、病室では、殺気だった空気が充満していた。ちょうど、敗戦寸前の軍首脳部のように、二人は、にらみあっている。この場合、あくまで二人だけの作戦会議だったが・・・・。
 人間の歴史というのも長いが、ほぼ、100%敗戦が濃厚という時に、作戦本部では、どのような空気が支配していたのだろうか。勝者の数だけ、敗者がいるわけだから、ほぼ、戦争が行われた数だけ、惨めったらしい会議があったはずである。もっとも、引き分けということも考えねばならないが、少なくとも、この場面では関係ない。西宮家はほぼ100%敗者なのである。間違っても、引き分けにはらない。
 春子は、娘がいじめられていることは、ある程度、見抜いていた。しかし、それが彼女の人格の基礎、そのものを危うくするほど、陰険で深刻な内容だとは思っていなかったのである。ひどくて、物を隠されるくらい、軽く無視されるくらいだと思っていた。それには理由がある。
 今まで、娘が恵まれていることは、わかっていた。だから、少しくらいの風にも悲鳴をあげると思っていたのである。

―――――この子は、やはり、温室育ちだから・・・・・。
 春子は、常にそう感じていた。それは、姉の久子の場合と異なる。彼女とは、人にはとうてい話せないようなバトルを乗り越えて、絆を育んできた。この点が、由加里と久子が違う点である。両者の境遇は、似ているでいて、似ていないのだ。外見的にみれば、由加里は、久子に比べて恵まれているかもしれない。しかし、それは、根本的に誤った見方である。

―――――ここで、甘やかすわけにはいかないわ。このていどの風でしおれるくらいなら、とうてい、世の中で生きていけない。
「退院したら、学校行くのよ!」
気が付くと、春子は、娘に残酷な言葉を言い放っていた。
 いま、この時間、少女の恥部に、何が起こっているか知らずに ――――。もっとも、このことは、彼女がいじめられていることを、無関係に見える。しかし、由加里が、底なし沼に嵌った子馬のように、抜き差しならない状況に陥っている。ただ、そのことにおいて、たいした差異はないのである。
そのことに気づいてやれないという一点において、たいした違いはない。

 ただし、そのことは、血の分けた娘だからこそ、盲目になってしまうということもありえず。その点においては、永年の ―――というよりは生来の乖離は、飛び越えたはずだった。つながらない血は、 確かに、その限界を超えて、結束を誇っていたのである。
にもかかわらず、この病室においては、二重にも三重にも、複雑に絡み合った血と境遇の因縁によって、空気が切り刻まれて、めちゃくちゃに混ざり合っていた。

――――ちょうど、めちゃくちゃに嵌められたジクソーパズルのように。

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『マザーエルザの物語・終章 13』
「ハア・・・ハア・・・・・・ハア・・ア・ア・ァァ・・・・ハア」
 あおいは、よつんばいになって、有希江の責めを受けている。幼い肢体を見えない手枷足枷に、拘束されて、恥部を蹂躙されている。その姿は、見方を変えれば、自分から、それをねだっているかのようにすら見える。
「有希江姉さんの言うこと聞くなら、たまには、こうしてあげるわ、これは、あんたへの愛情の記なのよ」
「ウウ・ウ・・ウ・・ウ・ウ・ウ・ウウ!?」
 
 間違っても、いやとは言えない。少女は、頬が焦げてしまいそうな、恥ずかしさに身体が縛れるのを感じた。少しでも、姉の意思に反することをしたら、見捨てられてしまうかもしれない。それは、少女にとって、この家での死を意味する。それは身の60%をもがれてしまうことを意味する。残る40%とは、学校での友人関係を意味する。そのことは、ある意味において、少女の成長を意味するのだろう。

「そんなに、私に嫌われたくないの?」
「ウウ・・ウ・・ウ・・ウ・ウ!?」
 トランスレーションすれば、当たり前のことを聞くなということだ。有希江にとって、それは自明のことだったが、あえて、それを聞いた。それは、彼女の意地悪さを表すものであったが、同時に、何か、底知れない恨みを表明するものでもあった。ただし、後者にあっては、それは無自覚である。ただ、漠然と、いくら妹を愛しても、いつか、裏切られてしまうかのような、焦燥感を抱いている。それは、大同小異ながら、他の家族もそうだった。

「いいじゃない、あんたには、大事なお友達がたくさんいるじゃない。啓子ちゃんとなんて、私たちよりも仲がよかったじゃない」
 有希江は、赤木啓子を思い浮かべた。肩で風を切るような美少女だ。
「・・・・・・・・?!」
 即答できないことが、余計に、あおいを苦しめる。有希江は、それを見越して、言葉を畳み掛けているのだ。肉体的には、おろか、精神的にまで、妹を責めさいなもうというのだ。
 そのあまりにも未発達なさなぎだけでなく、その心まで手に入れようとしているのだろうか。
 いや、さなぎというよりは、糸を巻きはじめた幼虫というべきであろう。
「ウアン・・・・ウア・・・うう!?」
 幼虫は、糸を吐き始めたばかりだ。

 有希江の指は、まだやわらかい糸を、刺激してゆく。まだ乾いてないのか、ねちゃねちゃと、いやらしい音を立てる。
「ぅあぅうう!」
 それは、たまたま、指が、陰核に触れたときだった。今まで、行った刺激のなかで、それが最大だったわけじゃない。
 オルガズムを迎えるために、破るべきダムのようなものがあるとする。その壁は、ガラスのように、ポイントがあるのかもしれない。必ずしも、強く刺激すれば破壊出来るというわけではない。
 いま、ひとつの責めが、あおいを押した。
 その刺激によって、少女は、決壊のときを迎えた。そのダムは、まだ着工からそう経っていないために、キャパシティが大変、少なかった。
「あら、いちゃったわね」 

 にこりともせずに、有希江は言い放った。それには、いかばかりが、蔑視のスパイスが含まれていた。だから、その発言には、少なからず、唾が入っていたにちがいない。
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・ウウウ・・・・・ううう!!?」 
 あおいは、わけもわからずに、泣きじゃくりはじめた。よつんばいのままで、顔を床に突き出すという、屈辱的で淫靡な姿勢を強いられているが、何故か、不思議な安心感に全身を包まれるのを感じた。
「ほら、泣かないの、そうだ、お風呂にでも行こうか、涙を拭いて、可愛いあおいちゃんに戻ろうよ」
「ウ・ウ・ウ・ウ・ウウウウ・・・ウ・ウ・ウ・・・・・うう!」

 蔑まれているのか、可愛がられているのか、あおいは、わからなくなった。おそらく、両者が同居しているのだろう。
 すると、なおも流れ続ける涙は、前者のせいなのか、後者のせいなのか。いままで、体験したことのない感情に、少女は打ちのめされた。
 全身が震えて、身動きできないが、有希江に促されて、浴室へと向かう。涙が、床にしみをつくる。少女の柔らかな頬や、顎を伝って、垂れる水滴は、どうしてこんなに奇麗なのだろう。そして、冷たいのだろう。どうして、冷たいことがこんなに美しいのだろう。月と雪は、そう見ていた。

「ゆ、有希江姉さん・・・・ウウ・・・・ウ・ウ・ウ?」
「急ごうよ、風邪、ひいちゃうよ」
 なおも、服を着ることは許されなかったが、有希江は抱擁しながら、連れて行ってくれた。あおいにとってみれば、まさにあめ玉と鞭だった。寒風と温風を交互に、受けているようなものである。
 肩胛骨の下あたりに、何か、柔らかいものを感じた。それは言うまでもなく、姉の乳房である。ふたつの果実は、母親とは違うぬくもりと、弾力をあおい与える。それは、デジャブーを含んでいながら、新しい刺激に満ちている。

「ウウ・・・」
「どう熱くないでしょう?」
 有希江は、温度を確認してから、シャワーをかけてくれた。その気遣いが、かつて、自分が置かれていた境遇を思い出させた。涙は、とうぶん、止まりそうにない。体を伝う湯と合流する。温度が違う水同士が出会うと、互いに、激流を作るというが、この場合は、どんな影響を白い肉体に与えるというのだろう。
 ぶくぶくと、透明な泡を作っては、壊される。それらはおいの肉体の上で、死の舞踏を踊っては、藻くずとなる。少女は、その様子を眺めながらも、感想らしきものは、何も生まれなかった。頭の中がマヒしてしまって、何も考えられない。
「きれいにしようね」
「・・・・」
 有希江の声は、優しい。しかし、それは愛玩動物に向けられるものに近い。あおいは、確かに違和感を抱いていたが、それを言語化するだけの語彙力を持ち合わせていなかった。
 
 だから、何ら抗議らしい言葉を発することはなかった。ただ、居心地の悪さを感じているだけだった。それは、生乾きのコンクリートの上で、ダンスを踊らされるようなものである。靴は、地面に食い込み、脱げそうになって、前につんのめる。そして、コンクリートの青臭い臭いに、思わず吐きそうになる。
「あおいちゃんの肌は、すべすべできれいだよね、はちきれそうよ」
「ああ ――」
 あおいは、有希江に、腹を撫でられて、おもわず呻き声を上げた。
「だめじゃない。せっかく、洗ってるんだから、声をあげたら ――――」
 和歌の結句に何が置かれるのか、あおいは分かっていた。恥ずかしさのために、顔を赤らめる。
「あおいちゃんは、どうして、この下が気持ちいいのか知ってるの?」
「ぁ・・・・・・・・・」

 姉の手は、下腹部を探検しはじめる。産毛の台地をいく。その一本、一本が性感帯につながっているかのように、その手の動きに、いちいち、反応する。
「どうなの?」
「そ、そんな・・・・き、気持いいなんて・・・・・」

――――カマトトぶるんじゃないわよ!
 思わず、怒鳴りつけたくなったが、何とか、自分を制御した。巨大なペニスで、幼児の性器を征服して、何がおもしろいというのだろう。ここは、真綿で締めるようにして、被害者を窒息まで持って行くべきだ。
 しかし、その過程が、サディズムの根幹に係わるなどということは、夢にも思わなかった。自分がやっていることを達観できるほどに、スレていなければ、大人にもなっていない。ただ、ひたすらに、わき起こってくる生の感情に従順なだけである。

―――これでは、人間に品性というものを求めるのは、無理だな。え?生の感情?何処かで聞いた台詞だな。

 有希江は、血のつながった妹を弄びながら、ある感情に、操られていることにすら気づいていない。ただ、意味不明の気持ち悪さを味わっているだけだ。それは、もちろん、極上の悦び、すなわち、サディズムの悦びに混じり込んでいるわけだが、それが如何に微量であっても、無視できない影響を与え続けるのだ。ちょうど、青酸カリが、耳かきイッパイ程度で、ヒトを殺すように。

――――今日は、このていどで許してやるか。
 有希江は、陵辱はここまでにすることにした。石鹸をスポンジに含ませると、手ずから、
洗ってやる。
「いいこと、これからは、自分で洗っちゃだめよ、有希江姉さんがキレイにしてあげる。あおいちゃんは、赤ちゃんなんだから」
 優しげな手つきで、洗ってもらうことは、想像以上の快感を引き寄せる。小さいころは、無自覚に、そのような栄誉に預かっていたと思うと、何だか、もったいないような気がした。少女は、一流のマッサージ師に、身を預けるような気分で、姉に総てを委ねていた。
 そうしていると、ほんとうに、赤ちゃんに戻っていくような気がする。もはや、何も気にする必要はない、摂食や排泄で気に病む必要もない。何もない白紙の状態に、戻っていく。そこは、ミルクのように、やや黄色がかった温かい白に、澱んでいる。

―――え?何か見える?白紙なのに、何もないはず。あおいは、何もできない赤ちゃんなのに。
 少女は、もはや、無色透明のはずだった。キャンバスには、何も描かれていない。しかし、何かを感じる、何か、目指すものがある。それは、明かにベクトルだった。その具体的な道筋は見て取れないが、確かに、矢印ははっきりと見える。ただし、回転しているために、道しるべの役割を果たすことはできない。
―――私が、ここで死んだら、アギリが?! 死ぬわけには ――――私の子が何万と苦しんでいるのに!!
―――え?アギリって? 外国かしら?何処かで聞いたことがある。私は、どうしてこんなことを思っているのかしら?

 あおいは、変な思惟に驚いた。それは、自分の意識の底で見つけた、とてつもなく変なヤツだ。彼に、何を言ったらいいのかわからない。いや、どういう風に表情を造ったらいいのかさえ不明だ。
どうして、自分がこんなことを考えているのか、とうてい理解できない。

―――死ぬだなんて、まだ10年しか生きていないのよ!?私!!
 困惑。幼い少女の脳裏に、そんな感情しか生まれてこない。ビールすら、まともに口にしたことがない大学生が、老酒をがぶ飲みするようなものだ。年齢に合わない思考は、その主を、底を知らない混乱に落とし込める。

―――助けたい、助けたい! 何を犠牲にしても、この人たちを・・・・・。
 少女のイメージに現れたのは、ひび割れた大地と、やけに黒い肌の人たち。彼らは、肋骨の一つ一つが、はっきりと分かるほどに痩せていた。しかも、血の痰を吐き続けている。それなのに、白い肌をした人間に、鞭で打たれている。

―――フランス人。
 少女は、その言葉を、不快な感情とともに、思いだしていた。それは、自分でもいやになるほどに否定的な言葉で満たされていた。

―――え?白い?私も同族?!
 次の瞬間、少女は自らの手を見ていた。それは、フランス人と同じ色をしていた。彼女がどれほど、否定しても、否定できないほどに憎んで、軽蔑した色だった。

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『マザーエルザの物語・終章 12』
 有希江は、小雪の降りしきる夜に、秘密を明かしはじめた。それは、ごく小さく、針の穴を通すような細さだった。しかし、周囲が暗ければ、暗いほど、その光は、まぶしく感じるものだ。ちなみに、二人が棲まう部屋は、夜の妖怪が好むくらいに薄暗い。近代文明の恩恵を拒否するように、蝋燭の明かりほどの、光度しか保っていなかった。

「伯母さんの、こと、どう思う? とうぜん、真美伯母さんのことよ」
「えー? ぜんぜん、会ってくれないんでしょう?」
がちがちと震えながら、言葉を紡ぐ。
「寒いの? 温めてあげる」
「ウ・・ウ・・」

 意識しなくても、自然に涙が流れてくる。有希江の服が直に触れる。ちくちくするが、その下に存在する有希江の温度は、確かに、あおいの心を温めて、蘇らせる。
有希江は、再び、口を開く。
「先生が言ってたんだって、伯母さんが、再入院したのは、あおいのせいだって ―――」
「そ、そんな!?」
 それはまさに青天の霹靂だった。

―――そんな、バカな!? ウソよ!?
 真美伯母の優しい顔が浮かぶ。どの記憶を見ても、みんなあおいに、融けるように優しい笑顔を向けている。まるで生クリームで、贅沢に彩ったケーキのようだ。
 言葉を呑みこむものは、当然、ストレスを背負い込む。それは、発散されてこそ、精神の健康を保てるのだ。それは身体にも関係することだ。
「ほら、暴れない!」
「ぁああぅ!?」

 余計に動いたために、余計に、少女の性器に食い込む。それは、まだ蕾にもなっていない。有希江の指は、未成熟な陰核や小陰脚を探検する。ホタテ貝の手足のような、性器は、まだ硬く、自分のそれとは、勝手が違う。しかし、幼いときを思いだして、探検を続ける。
「そんなぁ?!そんなぁ?!」
 絶叫しながらも、しかし、家族がどうして、自分を急に冷遇しはじめたのか。合点がいくことに、悲しいほど納得できた。解答は、単純であればあるほど、相手に説得力がある。かつて、ワンフレーズポリティックスと銘打って、人気を博した宰相がいたが、それこそ、まさにその好例と言えよう。
 あおいは、一国の宰相とは、まったく違う椅子に座っているが、その点に関していえば、彼となんらかわりはない。

 自分は、愛する真美伯母にとって、有害である。
 そのごく単純な図式が、頭にこびりついて離れなくなった。
 けっして、それについて、疑いを抱くというようなことは、思いも寄らない。少女が置かれた状況が、彼女に考える余裕を与えなかった。姉たちの血を引いているだけあって、彼女も高い知性を持ち、それは初々しく芽吹きはじめていた。

 家族は、みんな、それを喜んで、祝福してくれたのだ。少女は確かに、大人への階段を心身共に、歩み始めていた。たしかに、徳子のように、まっすぐな階段を直進するというのではなかった。まるで峻厳な山に、穿たれた階(きざはし)のように、歪んでいたが、むしろ、それゆえに、愛されているのである。それは、無意識ながら、あおいも気づいていた。

 今 、少女の頭に、その図式が固定してしまった。その音は、たしかに、有希江に聞こえた。これで、妹を完全に支配できる。
有希江は、耳小骨の一部で、それを確信した。愛情と、支配欲と嗜虐心はいずれも、表裏一体の関係にある。
「げ、ゲームのせいじゃなかったの・・・・・・・?! ウグググ・・・・・・ヌグぅ!?」
「単なる偶然だとおもったわけだ?」

 有希江は、くぐもった妹の喘ぎ声のむこうに、確としたものを見つけた。それをさらに突かない手はない。前立腺は、刺激を当たるほどに、柔らかくなり、少年に、彼が感じてはならない快感を与え続けた ――――――。有希江は、今読んでいるBL小説の一節を思いだした。
あいにくと、というか、当然のことだが、妹には、前立腺はない。しかし、陰核は、たしかに存在する。 あまりに未成熟で、青い果実だが、それゆえに、大人が感じることができない官能をかき鳴らすことができる。おそらく、大人たちが持たぬ羞恥心という酒精が、それを彩るのだろう。

「みんなで、話し合ったのよ、自然な形でやってあげようって」
「ウウ・ウ・・ウ・ウ、じゃ、じゃあ、ウウ・・ウ・ウ・ウ、あたしを、き、嫌いに・・・・ウ・・ウウ!!」
 あおいは、喉元に渦巻く感情のために、うまく言葉を操ることが出来ない。しかし、姉がそれを代弁した。
「なったのよ。こういう形になったのは、せめてもの愛情かしらね」
あっさりと言い放った。ちなみに、温情という表現をしなかったのは、あおいには通じないと思ったからだ。
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・ウ・ウウ!?」
 股間をえぐる、有希江の指は、言葉と裏腹に、少女を責め続ける。その動きは、あおいの神経を確実に探しあて、刺激を加えていく。少女の貝肉は、びらびらとその穴を開き、彼女には早すぎる淫液を、分泌し続ける。

「ママア・ァ・・・・ウウ・ウ・・ウ・・ウうう!?」
「もう、あんたにはいないのよ!」
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・ウ、でも、ハア、どうして、ハアハア、あたしのせい・・・ハア・・・・ハアア・・なの!?」
「さあ、ねえ、こんなにいやらしいからかな?」
「そ、そんあのって?ハア・・ヒイィ!?」
 激しく抗議しようとするが、込み上げてくる官能のために、ほとんど笑劇にしか見えない。
「それを一緒に考えてみようよ、協力するからさ ―――」
「・・・・・・・・ウウ・・ウ・ウ!?」

 あおいは、その幼い身体に、不似合いな反応を示している。ぴくぴくと、小刻みに震えながら、地底から込み上げてくる感覚に耐えている。少女は、たしかに、自らの不器用な指で、その性器を弄びはした。しかし、それは、軽く触れてみた程度のことだ。何を血迷ったのか、シャワーを恥部に当ててみたのだが、その刺激の大きさに、ビクついたくらいだ。シャワーを投げつけ、自分は、椅子から転がって、したたかに、タイルに腰を打ち付けてしまった。
 あたかも、悪魔を招聘した者が、自分が引き起こしたことの重大さに、額を割る哀しさに、むせび泣くように・・・・・。
「グアウ!ゥウウウウアウウ」

 今、悪魔を呼び出す秘密の呪文を、唱えていた。味わったことのない官能に、いや、その感覚が、官能と名付けられていることすら、知らない。女性が行う自慰は、時として、性行為以上の悦びを感じることがある。女性の特権だ。それは、神が女性に与えた福音かもしれない。
 男は、時として、無自覚なまま、妻や恋人といった女性に暴力を奮うことがある。それは男性が、女性に対して、本能的に持っている敵意なのである。
どうして、女性は、男性が持たない快感を愉しんでいるのか。しかも、その快楽に、自分たちは必要ないのだ。それが、嫉妬を呼び起こし、絶えざるドメスティックヴァイオレンスを呼ぶのだ。
 
 閑話休題。話しを元に戻そう。

 あおいは、その感覚に、逃げることに、本能的な嫌悪と悦楽を感じていた。その二律背反な気持は、少女の小さな躯をまっぷたつに、切り裂き、哀しみの涙を流させる。
 彼女が皇帝のように座っている、いや、縛り付けられている椅子は、肉体だった、何と、自分の姉なのである。あおいは、姉の膝に乗せられ、まるで幼女の時のように、あらゆる権利を奪われ、欲しいままにされている。

「グア・・・・は・・アァ! あ、あたしの、何がグ・・・・いけなかったの?」
「お姉さんの言うこと、何でも聞く?」
 有希江は、畳み掛けるように、奴隷になることを迫る。あおいの答えは決まっている。
「わ、わかったから、ハア・・・・ああ、聞くから、あ、あおいを、み・・・はあァ・・、見捨てないで・・・アアア」
 哀しい歌。これほどまでに、哀しい歌が、この世にあろうか。いささか、鼻声がかかったヴォーカルは、少しばかりハスキーだった。それが有希江の耳を、やけに刺激する。
「見捨てたりしないわよ、あおいが可愛い限りはね」

 可愛いという形容詞が、あおいに重くのしかかる。それは、姉に握られた鎖であり、その鎖は、あおいの首に連結しているのだ。しかし、あくまで、首輪を外す権利は、奪わないという。好きなときに、何処にでも行って良いというのである。それは、「死ね」と言われるよりも、はるかに残酷だ。
「そうなら、あなたは犬よね、お姉さんが言う限り」
「ウッゥゥァ、は、はい」
 有希江が言っていることを理解もせずに、肯いた。しかし、それが、彼女が予期もしない仕打ちを蒙ることになる。
「なら、どうして、こんなところにいるの?!犬コロッが?!」
「ああう!?」
 あおいは、とつぜん、素っ裸のまま、空の旅を迎えることになった。
「ぐあぃう!い、痛い!ィィィイィィ!!」
 少女は、自分の体を抱きながら転がった。その行為は、あたかも、水中で、片栗粉の塊を探すようなものだ。触れども、触れども、いや、触れるほどに、それは失われていく。
「クウアア・・・う?!」
 ほんとうに、畜生に成り下がってしまったのか、あおいは、子犬さながらの声を上げて、跪いた。
「ほら、お座り!」
「・・・・・?!」

 不憫な身には、あいにくと、有希江が言っていることが理解できなかった。
「自分で、首輪の鎖を外すのね、それでもいいわよ、何処にでも行っちゃいなさい。もう二度と、お姉さんの視界から消えてちょうだい!」
「ゥあゥッツ!?クアウエあ!? それだけはゆ、許して!」
「だったら、言うこと聞きなさい!?」
「はい、はい!?」

 あおいは、命じられたままの恰好をするために、大腿筋に、グリコーゲンを注入しはじめた。その動作は、緩慢で、ぶざまだった。そのために、有希江の笑いを大いに、誘った。
 少女は、記憶に残っている「お座り」を真似ている。その過程は、想像を絶するほどに、屈辱的で、息苦しいものだったが、何故か、何も感じない。強烈な苦痛は、人に、それを感じなくさせるという。脳内麻薬のせいだ。これは、瀕死の人間が、苦痛を感じていない証左だろう。
 しかし、今、あおい自身は、瀕死の状態ではない。そうなのは、彼女のプライドと自我だった。
「ふふ・・・・」
勝ち誇ったように、有希江は、妹を見下ろす。正座をして、上体を前方に突き出すその恰好は、けっして、犬ができるものではなかったが、確かに、絶対的屈従を意味している。そのことは確かだった。



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『由加里 60』
 さて、ここで、時間を少し、巻き戻してみようと思う。何、そんなに前のことではない。由加里が耐え難い陵辱を受けている最中のことである。
 その時、三人の少女が連れ立っていた。鋳崎はるか、海崎照美、そして、鈴木ゆらら。以上の三人が、アルミニウムの靴音を立てていた。そう、友人を見舞ったすぐ後のことである。
 ここは、由加里が入院している病院の表玄関、いわば、ロビーのような空間である。さて、三人が行った見舞いとは、どのようなものだったのだろう。
 ちなみに、それは、同時に、行われたわけではないが、たいへんに、友情という点において、比類ないくらいに豊かだった。
 しかし、それにしては、三人三様、複雑な色を顔に乗せている。

 時間は午後3時半を回ったころである。三人は、病院を出ると、まず、はるかが口を開いた。
「まだ、こんな時間か」
「西沢さんとの約束は?」
 照美が口をきいた。意外そうな顔を隠さずに、はるかは続ける。
「6時半に、西朝幸駅だ ――――」
「じゃあ、だいぶあいちゃったわけだ、どうして、時間つぶそうか。そうだ、誰かさんと、殴り合いでもして、過ごすかな、どうせ、ここ、病院だし ・・・・・・」
なんと、照美は、場外乱闘を始めたのである。
「!?」
 ゆららは、つぶらな瞳に、おびえの色を乗せた。その目は、たしかに、いじめられていたときのそれと同じだった。
「ゆららちゃん・・・・・・・」
「いえ ―――――」

 ゆららは、アルマジロのように畏まっている。その態度はとても、同級生に対するものではない。照美は後悔した。彼女は、まだ、自分が無意識に出しているオーラに気づいていなかった。
 一方、ゆららの方では、完全に怯えきっていた。
 おそらく、彼女の由加里に対する遇し方を、知っているからこそにちがいない。どれだけ説明しても、わかってもらえないらしい、しょうがない。それならば、実体験として学習させるしかない。

 虐待された小動物を、なつかせるように、少しづつキャラメルを塗り込んでいく。そう、生まれたときから、いじめつづけられた動物たちは、なかなか、人間になつこうとしない。だから、バウムクーヘンを重ねるように、情愛を教えていくのだ。
 照美は、自分では、優しい笑顔を注ぎ込んでいると思っている。しかし、それが必ずしも、うまくいってないことがわかった。ゆららは、笑っているが、それが心からのものでないことは、明白だった。
そこで、趣向を加えてみることにした。
「遊びに行こうか ―――」
「え!?」
 それは、ゆららにとって、青天の霹靂だった。友だちから、誘ってもらえることである。ただ、それだけのことが、彼女にとっては千金の値があった。しかし、何処か、現実感が薄い。まるで雲の上を歩いているかのようだ。
 そんな少女を大地におろしたのは、はるかの低い声だった。

「カラオケでも行くか」
 はるかである。
「?!」
 よもや、金銭が必要な場所へ、友だちどうしで、行くなど、一般人にとってみれば、ハワイに行く体験に匹敵する。とても心躍る提案だった。
 しかも、はるかが提案したのは、彼女はるかの低い声だった。はるかの低い声だった。これはゆららが唯一得意なことなのである。きっと、音楽のテストの時のことを、憶えていたにちがいない。驚いたことに、ほんとうに、自分の気を遣ってくれている。自分なんかの好みを知っていてくれる。

 もしかしたら、この人たちは、本当に友だちになってくれるのかもしれない。半信半疑ながらも、淡い希望のために、心臓が口から飛び出そうになった。
 長きに渡って、いじめられ続けた人間のかなしさである。しかも、本人は、いじめられていることを認めていなかった。彼女自身に内包されている何かが、それを押しとどめていた。自尊心? 淋しさとかなしさ? 家族への思い? それらが幾重にも、組み込まれて、複雑な迷宮を構成している。

 一体、何が何なのかわからない。自他の区別すら、ままならない。
 人格の中心が損なわれて、自我が危うくなっている。そのような人間が、明日を信じられるのか。今度目覚めたとき、朝日が昇っていると、思えるのか。
 そこまで、追いつめられたとしても、人間は、プラスの方向に、思考を進めることができる。このときのゆららは、その好例だったと言えよう。
「はい・・・行きたいです」
「うん、だよ! ゆららちゃん」
「は・・・うん」
 ゆららは、はにかみながらも、そう返事をした。その微笑んだ顔を、照美は本当に美しいと思った。しかし、彼女は、複雑な気持ちを心の棚に押し込んでいた。

――――私、妹だと思った。
 それは、彼女を好ましいと思っていながら、その反面、見下していることだった。由加里に対する態度だけを見ていれば、とても信じられないが、これが彼女の性格の別の面である。クラスでこれを知っているのは、おそらく、はるかぐらいだろう。

 一見、この美少女は、周囲に、冷徹な印象を見る人に与える。しかし、その彫像のような仮面の下で、温かい血液を、繊細なまでに、細い血管に流していたのである。
「ゆららちゃんは、どんな歌が得意?」
「ぴんきーとか、いいな」
ぴんきーとは、最近、売出し中のアイドル歌手である。
 照美は、ゆららが、はじめて彼女自らため口を遣ったことを、素直に喜んだ。
「あ、そうだ、500円で大丈夫・・・・かな?」
「大丈夫だよ」
 照美は軽く答えたが、ゆららの顔を見ると、真顔になった。

 少女がポケットのなかで、握っている500円硬貨は、いわくつきだったのである。
 その小さな掌で、硬貨のギザギザを舐めながら、少女は、何かと会話をしていた。しかし、はるかと照美には、その声は聞こえなかった。
「な、なんでもないよ」
 それは、なんでもないという顔ではなかったが、二人は、それ以上、追求することはできなかった。
 ゆららは、こう考えていたのである。

―――今日は、夕飯抜きね。
 その500円玉は、その日のエンゲル係数そのものだった。なんと安上がりなのことか。一番喜んでいるのは、彼女の母親だろうか。

―――ママ、ごめんね・・・・・・・。せっかく・・・・。
 少女は心の中で、母にそっとわびた。彼女が、辛い仕事で稼いだ血と涙が、この小さな硬貨に集約されているのだ。
「それにしても、ゆららちゃん、歌うまいよね。この前のテストの時、驚いちゃった ――」
「そんなことないよ」
 少しばかり、声が落ち着いてきたので、照美はほっとした。
「カラオケ、そうとう行ってるんでしょう」
 照美は、あいにくと、彼女の家の経済状況を知らなかった。しかし、すぐに表情を凍らせたことから、何かを感じ取っていた。
「実は、すごい秘密があるんだ ―――」
「え? 何?何?」

  はるかと照美は、まるで小学生のように、ワラワラと集まってくる。二人の視線は、ゆららの額あたりに集まっている。そこに帯電するように、熱が集まってくる。少女は、このとき、自分が意識を離れて、自身を達観していることに気づかなかった。あたかも、幽体離脱をするように、意識が、肉体から、離れて自己を観察しているのである。
 ゆららは、二人の友だちと和やかに談笑している。

――――これは、はたして、真実だろうか。
「わ、わたしね、合唱団に参加しているんだ。でも、みんなには内緒だよ ――」

――――高田さんたちに、見付かったらどんな目に合わされるかわからない。彼女たちには知られたくない。
 ゆららは、楽しい時間を過ごしながらも、錯綜する思考に振り回され続ける。
それでも、笑顔を絶やさないようにしなければならない。そうしないと、ふたりをつなぎ止めておけないと考えたのだ。どうして、素直に、笑顔でいられないのだろう。
 
 少女は、普通の人間がしなくていい苦悩に、頭を悩ませていた。
 
 友だちに囲まれて、しぜんに笑えないというのは、どう考えてもおかしい。まるで、常に銃を突きつけられているように、ぎこちない。あまりに、情けない気持ちに陥るのだった。
「でも、だから上手いんだね、ゆららちゃん」
 これは、けっして、照美のお世辞ではない。母親の薫陶を得て、音楽を嗜んできたゆえの、言葉である。
「そ、そんなこと・・・・・」

――――海崎さんはすごい。
 そう言いかけて、それ叶わないことがわかった。実は、音楽の実技テストを休んだために、彼女の歌声を聞くという恩恵に浴することができなかった。そして、その台詞を言うことができなかった。だから、聴いてもいない歌声を誉めることはできなかった。しかし、普段から、ピアノを受業で弾いていたので、その技術の確かさは、熟知していた。

「ほら、ついたよ」
 店頭にでかでかと貼られた「1時間、470円」という謳い文句が、ゆららを安心させた。
ヨーロッパ辺りの宮殿を、モチーフしたと、大声で言うのも憚られる。そんな陳腐な外見は、二人に何の感慨も与えなかった。
しかし、ゆららは、感動しまくっていた。
「どうしたの? 早く中に入ろう」
 固まってしまったゆららの背中をポンと押す。すると、まるでおもちゃのボタンを押されたかのように、きらきらと笑い出す。それが、例え、不自然だったとしても、照美は、それを単純に、受け入れることにした。
 受付への対応は、はるかが引き受けていた。彼女は、今年大学に入ったばかりだったが、どのように、三人を見ただろうか。たしかに、受付などという職種は、多くの客を相手にする。しかし、記憶の何処かに、滞らせる何かを、三人に発見していた。

 それは、彼女の主観からすれば、高校生と小学生という奇妙な取り合わせである。姉妹ということもあろうが、どう見ても、三人三様で全く、似通っていない。そのことが、彼女の記憶に残らせた理由であろう。
 もちろん、三人とも中学2年生の女の子である。しかし、端からみれば、決して、そのように見えなかった。

―――もしかしたら、後で刑事に事情を訊かれるかもしれないわ。
 当然のことながら、女子大生は、もはや、夢見る夢子という年齢ではなかったが、かつてに物語を捏造(つく)っていた。おそらく、この後、何らかの事件に巻き込まれて、目撃者として、警察に遇されることを想像しているのだろう。そのために、次ぎの客を多少なりとも、待たせることになった。
「ちょっと、何をしているんだ!?」
「あ、申し訳ございません ――――」
「おい、そこまで言うことないだろう?」 
 髪を赤く染め、逆立たせた少年を、嗜めたのは、長身の女性である。黒色のシックなスーツに、細身を包んだその姿は、他の三人とあきらかに一線を画していた。言うまでもなく、他の三人は、少年に大同小異の恰好をしていた。
――――今日は、ほんとうに、変な客が多いわねえ。女教師に、不良少年少女? 何ていう取り合わせよ。
 女子大生は、客に対応しながら、思ったものだ。
 実は、四人は、同年齢である。

「ねえ、リーダー、オレたち、こんなことしてていいのかな?」
「うまくいかないときは、何をしてもだめなものだ。こんな時はカラオケにかぎる」
「それにしても、地元に戻って、カラオケとはね ――」
「でも、僕は地元やないで、冴さん」
 その言い方から、あきらかに少年が、関西人であることがわかる。
「当たり前だ。日本人はそんな言い方はしないさ」
「何? 大阪は日本やないっていうか?」
 しかしながら、いかなるときも、口調は柔らかいのが、関西人の特長である。
 
 西宮冴子は、少年を見下ろした。彼は、冴子の肩ほどしか、背丈がない。少年にとってみれば、冴子は生まれながらの犯罪者なのである。159センチほどしかない彼には、冴子は、実に忌むべき存在だったが、その反面、別の世界においては、常に側にいたい、いや、仕えていたいほどに、尊敬している相手であった。
 犯罪者と言ったが、それは、彼らの側に発生したのである。表だって、警察が動くとか、マスコミに書き立てられるということには、ならなかったが、道徳的な面においては、それは許されざる犯罪だった。
 しかも、それは一番、四人が信頼している人物だったのだ。しかも、冴子にとってみれば・・・・・。

――――しかし、あいつがあんなことに・・・・・・・・。
 少年は、おもわず、その言葉が呑みこんだ。それは、四人の間では、タブーだったからだ。
 
――――冴えさんがヴォーカルやればいいんだよ! 
 それは、赤い髪の少年の述懐だったが、彼とて、それを音声化する勇気はなかった。
「さあ、歌うぞ!」
 冴子は、回廊を歩く足を早めた。壁から、天井、それに床まで、下世話な色にペインティングされている。それは四人が置かれている状況を暗示していた。しかし、冴子をはじめてとしてそれを言葉にする、いや、意識に立ちのぼらせることすら、控えていた。
「何?」 
 その時、冴子の絶対音感をかすかに、刺激した。それは限られた生き物しか、受け取れない超音波のように、空間を、遠慮がちに飛んでいた。あたかも、冬の小虫のように、見えるか見えないかの、境界を彷徨っていた。それを受け取ったのである。しかし、この時は、それを重大なことと思っていなかった。彼女の頭のなかでは、すでに好きな曲のイントロが始まっていた。歌う意欲に充ち満ちていたのである ――――――この女教師は。








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『由加里 59』
 由加里は、可南子に、命じられるままに、そのおぞましい料理を噛み続ける。
「ふふ、よく噛んでから、呑みこむのよ。そうじゃないと消化に悪いからね」
「フグウ・・ウ・・ウ・・ウ」
さらに畳み掛けてくる可南子の言葉に、戦慄すら憶える。由加里は、自分の口が自分のものではないような気がする。今、動いているのは、何ていう器官だろう。何のために上下しているのだろう。
 咀嚼しながら、五里霧中の思考を続ける。

「あははは、タルタルソースはどうかしら?」
 可愛らしい口の端から、はみ出た精液を見て、おもわず口元が緩む。可南子は、高笑いを響かせる。当然、声を抑えているために、それほど大きな声で笑うわけにはいかない。
 しかし、由加里にとってみれば、ロックコンサートのスピーカーに縛り付けられるようなものだ。四方八方から、可南子の笑い声が、響く。それは、由加里の骨にまで染みこんでいく。
「これから、あなたが大好きになるものよ、食事しながら、ココをこんなにしちゃうなんて、さすがに、将来のAV女優ね、あははは」
「アゥウウ・・・・ひぐひぐ!」

 由加里に、息つく暇も与えぬとばかりに、可南子の指が、少女の未成熟な性器に触れる。そして、しかる後に、貝を呑みこむ海星のように、その妖しげに長い指を、少女の苺に這わせていく。
「ググググ!、やあ・・・・・」
「ほら、ヤメテほしかったら、ちゃんと完食なさい、ほら、テレビを見てゴラン、あんな細い体で、あれほどの量を食べるのよ。それとも、本心はもっと弄ってほしかったりして! あはははは」
ちょうど、備え付けのテレビの中では、異様な競技が行われていた。可南子の言うとおりに、とても大食とは縁がなさそうに痩身の女性たちが、それぞれ、多量の食物をほおばっているのだ。

 テレビの中で行われているのは、いわゆる、大食い大会である。
 由加里の目をひいたのは、数居る競技者の中でも、ひときわ、華奢でひ弱そうに見える子だった。まだ、20歳をいくつも越えてないのではないか。見方によっては、少女といってもおかしくない。
 たまたま、画面に顔が大写しになったので、由加里もはっきりと見る機会を得た。その卵形の小さな顔には、これでもかと化粧が塗りたくられている。まるで白粉のようだ。
 しかし、べつだん、不快な印象をうけないのはどうしてか。ただ、何かから隠れようとする自我の哀しさだけが、異様に、際だつ。
 それが、何か、彼女を別の惑星の人間のように見せていた。
 由加里は、そこに自分との共通点を見て取った。
 
 しかし、今は、他人の競技の心配よりも、自分もことをこそ気に掛けるべきである。まだ。少女が完食するべき、料理は、お皿の上で風変わりなダンスを踊っているのだ。しかも、吐き気を催すソースがたっぷりと、かけられている。
「はぐうぅ・・・・ぁああううゥゥ・・・・・ぁ」
「ははは、なんていう声を出すの? 何処までいやらしく出来ているのかしら?」
 可南子の情け容赦ない指は、由加里の大事な苺を揉んで、ぐちゃぐちゃにしている。すると、中から、いやらしい液が、流れ出してくる。
 果汁だ。
 苺は、ひしゃげて、あふれる果汁によって、濡れそぼっている。
 それを、さらに、ねりつけて、音がするほど、揉みこんでいく。
「あぶぅ・・・・・・・・!!」
 おもわす、口の中のものがあふれそうになった。

 しかし、そのような汚物で、身体が汚れることは、彼女の清潔感から見て、ありえないことだった。  だから、ひっしに、口の中のモノを押しとどめた。皮肉なことに、口の中ならば、耐えられるという命題が生じるが、それは深く考えないことにした。そう、大便をじかに触れるなどということは、ありえないが、じっさいに、人間はそれに触れているのだ。大腸という器官は、どんなに否定しようが、あなた自身ではないか。どうして、手で触れることは耐えられないのに、大腸ならば、我慢できるのだろうか。人間といういきものは、ほんとうに不思議な動物ではある。

 いま、由加里は口腔をとおして、精液に触れているわけだ。
 由加里は、しかし、それを考えないことにした。見えないものは存在しない。それが少女の考え出した苦肉の策である。
 何の策か?自分をだますこと、要するに欺瞞である。そうしないと、どうかなってしまいそうだったからだ。鼻を突く刺激臭。それは、耐えられないことだが、少女自身の口腔から、催しているのである。 可南子が言うところの、タルタルソースは、じっとりと、唾液と絡み、少女自身の口腔にへばりつく。

 可南子に、性器を陵辱されていることと、相まって、まさに強姦されているような気がする。まだ、フィクションでしか知らぬ行為を先取りしているような気がする。
 マンガで見た、ある場面を彷彿とさせる。
 ある少女が、男子に輪姦されるという、その手の劇画においては、よくある内容だ。
 彼女は、犯されている上に、膨張したペニスを頬張らされている。それだけでなくて、艶ややかな髪の毛や、制服にまで、精液をぶちまけられている。
 今の由加里は、その少女に酷似していた。
 少女の口の中には、精液まみれになった食物が、詰め込まれている。それがペニスと何が違うというのだろう。女の子の大事な部分は、可南子によって蹂躙されている。これも、ペニスに攻め込まれるのと、何が違うというのだろう。
 男性的な精神の発露という意味においては、何も変わることはないだろう。

「うぐぐぐィ!!」
 さらに、下半身から迫ってくる肉感は、呑みこむことを邪魔する。
 しかし、可南子はどう見ても、異性にはみえない。
 想像のなかだけの、異性たち。
 相手が見えないだけに、想像力をいやでも刺激した。
 香取信吾、27歳とは、どのような男性だろうか。

―――そうだわ、子どもが欲しいんだったら、きっと、やさしい人にちがいない。
 由加里は、すこしでも、言い方向に物事を考えようとした。しかし ――――。
 どすぐろい白濁の臭いは、いやがおうでも、少女を陵辱するアクマのような男性像を彷彿とさせた。

――――ああ、からだが奪われる!
 何かわけのわからない力に、身体を絡み捕られる。濁流に、揉まれて、子鹿は、為す術を持たない。茶色に汚れた水が、ありとあらゆる穴に侵入してくる。目や口はおろか、鼻の穴や性器や肛門まで、到るところすべて。逃れる方法はない。
 しかし、濁流とても、流木や土石によってせき止められることもある。
 そのとき、ドアが開いて、花束がまず由加里の視界に入ってきた。

「あ・・・・ミチルちゃん ―――!?」
 由加里は、思わず、口の中をはきだしてしまった。まさに汚物としかいいようのないものが、吐き出される。いままでの努力は水の泡になったわけだ。可南子はほくそ笑んだ。
「・・・・・・・・」
 由加里にとって、幸運だったのは、可南子が陵辱を止めたことだ。
 二人の前で、それをされるのは、とても耐えられない。

 ミチルは、黙って花を持ってき花瓶に活ける。
 水を入れて、花をさすという一連の行為が、まるで予定されているように見えた。運動部の決まり切った練習のように、自動的で機械じみている。しかも、目の前で、由加里が食物を吐くという普通ではありえないことを披露されても、一顧だにしない。一連の行動を支障なく実行することだけに、重きを置いているようだ。

「み、ミチルちゃん、貴子ちゃん・・・・・・・・・・」
 ほんとうに由加里の声が聞こえないのか。それとも、彼女の構音機能が、異常をきたしているのか。すると、いま、聞こえる自分の声は何なのだろう。単なる錯覚が、もしかして、気が狂ってしまったのか。いや、ミチルと貴子の姿すら、幻像かもしれない。
しかし、二人が幻像だとすると、可南子の反応はどうなのだろう。二人は、彼女とは会釈を交わし合っているではないか。

――――ミチルちゃん、貴子ちゃん、由加里はここにいるのよ! どうして無視するの!?
 どんなに無言で、訴えようとも、目によって必死の懇願をさしむけようとも、二人は、可南子の姿しか、目に入らないようだ。
 由加里のことは、完全に無視している。あたかも、ここにいないかのようだ。そして、決定的な言葉を吐いたのだ。ミチルである。
「看護婦さん、西宮先輩に、よろしくおねがいします ―――。今、検査でもしているんですか、あえなくて残念です ――」
「ミチルちゃん!!」
ついに、由加里は声を張り上げたが、ついに、全く反応を示さなかった。
「今、検査に行ってるのよ、よく言っておくわ」
 可南子も示し合わせに、参加して、演技をしているかのように、ごく自然に、言葉を紡ぐ。

 二人とも、単に予め決められた動きを、こなす。それだけのために、来たとでもいうのか。
 その様子は、江戸時代に作られた人形のようだった。それは精巧なからくりで製作されているのだ。その人形はお盆を掲げているのだが、それに茶を乗せると、主人のところまでそれを運んでいく。 そして、主人が茶を持ち上げると、元来たところまで帰っていく。
 ミチルと貴子は、まさに、その茶坊主人形そのものに見えた。鑞を縫ったように、凍り付いた表情など、その身体の中に仕掛けがあるのではないかと、疑問を抱かせるほどだ。

 はたして、そこに心がこもっているのだろうか。
 由加里は、しかし、そこに二人の大きすぎる心を感じた。
破裂しそうな風船のように、そこにある、たしかに。しかし、触れることはできない。すこしでも触れたら、病院ごと消し飛んでしまいそうだ。
「ウウ・・ウ・・ウ・ウ・ウウ!」
 由加里は、思わず、可南子が側にいることを知りながら。声を上げて泣いた。幼児のように、食べ物をまき散らしながら、そして、それを恥ずかしいという感情も、マヒしていた。おそらく、心をえぐるような悲しみは、麻薬の役割を果たしているのだろう。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
 しかし、ふたりは何も言わずに、病室を後にしていった。フルーツでも入っていそうなバスケットを置いて。
「み、ミチルちゃん、貴子ちゃん!」
「・・・」
 しかし、ふたりは振り向くことはなかった。病室に入ってから、出て行くまで、この間、数分、徹頭徹尾、一貫していた。その機械的な動きは、一見、精神や心というものを感じさせないように思える。だが、その度合いが徹底的すぎるからこそに、裏返しの意味で、精神性が見て取れるのだ。

 ふたりの言いたいことは、もうわかっていた。いやすぎるほどに、知っている。しかし、すでにそれを言葉にする気にならない。だから、ふたりは黙っていたのだろう。由加里は、赤ん坊のように顔を拭かれながら、さらに泣いた。その惨めな境遇も、悲しみに拍車を掛ける。

――――しかし、どうして来てくれたのだろう? もしかして別れの挨拶のつもり?! でも、こんなひどいやり方ってないよ!
 由加里は、慟哭した。
「ほら、赤チャン、泣かないの!め!」
 一体、この人は、どこまで自分を侮辱すれば、気が済むのだろう。
 可南子は、さんざん彼女に侮辱のことばを吐きながら、後始末をし終わると去っていった。ちなみに最後の言葉は、「これで、非番もおわりだわ、楽しい休みをありがとうね、赤チャン!」だった。

「ウウ・ウ・・ウ・ウ・ウウ!!」
 由加里は泣き声を、心臓の奥へと押し込みながら、苦界をさまよっていた。視界が、涙に滲む。白い世界が崩れると灰色になるらしい。白と黒では、いくら混ざっても色を形成することはない。まるで、いまの由加里の境遇そのものだ。

――――?あんなもの!?
 ふと、バスケットが目に入った。ミチルと貴子が置いていったものだ。
ふいに、ものすごい怒りが込み上げてくるのを感じた。
 腹立ちまぎれに、投げつけようと思って、手を伸ばす。ただ、ひとつ無事な右手だけだと、うまく摑めない。しかし、不自由な体をよじって、何とか手に入れることができた。すぐに、引き寄せる。意外と重 量があることに、驚く。それでも、なんとか目の前にバスケットを押さえることができた。
 バスケットを開けてみると、四角い箱が見付かった。
――――弁当箱?
 本能的にそう思った。空腹がそう錯覚させるのだろうか。
――うん?
―――――――バスケットの底に何かある?
 それは一枚のノート片だった。
――――何よ、嫌みでも書いてあるの?!それともお別れの言葉!?
 それを開いた由加里は、前言を撤回せざるを得なくなった。
―――――――――――――!?
 とたんに、白い光が病室中に展開した。

――先輩へ、病院食ってまずいでしょう?食べてください。貴子とふたりで、精一杯つくりました。ミチルより。

 この世で、こんなに温かい言葉があるものかと、思った。
 はたして、由加里の目の前に展示されたものは、手作りの弁当だった。キャベツの千切りなど、大きさが千差万別で、いかにも、普段、母親の手伝いをしていないことが、明白だが、そのぶん、あふれてくる情愛は、今の由加里には痛いほど感じられた。
 メインディッシュは、豚肉のショウガ焼きだった。焼き加減はいいようだが、香辛料が強すぎると言う点において、いくらでもダメだしができそうだったが、かえって、頬笑ましい。
あの不器用なミチルが料理をしている姿を想像すると、温かい笑みがこぼれてくる。いま、自分が置かれている状況など、あさっての世界にうっちゃってしまうのだ。それに比べて、卵焼きの奇麗な色と艶はどうだろう。これはきっと、貴子の技にちがいない。

「ウウ・ウ・ウ・うう、おいしい ―――ウウ!」
 由加里は、弁当を頬張りながら、二人がケンカしている様子を見ていた。
「ミチル! 何、考えているのよ!汚いなあ!?ほら、お肉がはみ出てるじゃない!ここは、卵焼きの場所よ!」
「うるさいわね! あんた神経質すぎるのよ!」
 まるで、舌にまで、視神経が通っているかのように思えた。たしかに、見えたのである。
「ウウ・ウ・・・ウウウ!ご、ごめんね! ミチルちゃん、貴子ちゃん・・・・・・・・」

 由加里は、慟哭しながら思った。米の一粒、一粒まで、深く噛みしめようと、心に決めた。二人の思いを無にしてはならないと、そのために自分は何をしなくては行けないのか、未だに、わからないが、それを探求することは、けっして、止めないと、決意を新たにした。
涙で、滲んで弁当は見えなくなっていた。両者の距離が、現在の二人との間柄をそのまま示しているように思った。
 愛おしい二人は、手を伸ばせば触れられるところにいる。
 しかし、直接触ることはできない。
 両者ともに、思いは接近しているはずなのに、細かな思いが邪魔して、両者を切断している。
由加里はやるせない思いを新たにするのだった。

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