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主人公はu15の少女たち。 主な内容はいじめ文学。このサイトはアダルトコンテンツを含みます。18歳以下はただちに退去してください。
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『由加里 69』
「ねえ、お姉ちゃん、どうしたの?」
 知らない子供がうなだれた由加里に風車をプレゼントしようと差し出した。しかし、少女はそれに気が付こうとせずに、もくもくと自分の世界にはまりこんでいる。この病院では彼女しか知らないはずの過去の世界に、手足だけでなしに、頭まで完全に浸かってしまっている。
「ヘンなの!?」
「ほら、和之くん!」
 これまた知らない看護婦の声が病室の一部を黄色に変えると、子供は風車をベッドの上に投げ入れた。そして、奇妙なものを見る目で少女を見上げると廊下へと掛けだした。

 由加里の回想は延々と続く。いやでも文章を書く者に、自分と直視することからの解放は永遠に訪れない。たとえ、キーボードやペンを叩き割ったとしても、それは訪れないであろう。
 いや、逃げ道を失うだけにかえって反発力を増して、本人に帰ってくることは必定である。人はそれを発狂と呼ぶ。
 由加里は自分が書かされたラブレターのために、南斗太一郎と塚本誠二によって個人的なレッスンを受けるようになった。それをいじめと呼ぶには、少女の自尊心が高すぎた。

 その日も二人のレッスンを受けるべく由加里は、放送室を後にした。

 放送室。

 その単語に特別な印象を受ける人は多いだろう。
 そう、照美やはるかたち四人に、性的ないじめを受ける舞台であり恥辱の地獄である。ちょうど少女の所有権は彼女たちにあったために、時間をずらすことを余儀なくされたのである。
 太一郎と塚本は、由加里にそう伝えられたときに訝しそうな顔をしたが、条件付きで呑みこまざるをえなかった。何故ならば、彼らじしん気づかない性的な衝動に突き動かされていたからである。
 どんな条件を出されても、目の前に差し出された美味しそうな料理を拒否するわけにはいかなかったのである。
 塚本は喉から手が出てくるのをすんでの所で、我慢して、代わりに舌を動かすことに成功した。いささか、軽薄な欲望のために震えてはいたが。

「もしも逃げたらあの手紙、いいね?」
「ハイ・・・・・」
 由加里は消え入りそうな声でそう答えた。
――――女の子に触れられる!!
二人の男子は、その希望をかなえられると思うと、どんなに時間を待つことも厭わない気分だった。
「しかし、神崎センパイだいじょうぶカナ?」
「なに、病欠はだしているじゃないか」
 塚本は自信満々にそう答えた。しかし、内面の恐怖を隠しきれないようだったが・・・・・。
 
 ちなみに、彼らは柔道部に属している。
 向丘第二中学は伝統的に柔道が盛んなことで県中に知られている。公立でありながら越境入学を望む者がいるほどである。
 その柔道部を牛耳っているのは部長である神崎祐介である。身長184センチ、体重89キログラム、堂々たる体躯はとても中学生とは思えない。強面を右左にばらまいて周囲を威圧している姿が日常的に目撃されたものである。
 その彼が、もしも、制服を着ていなければ、生徒として認識されることはないだろう。
 ここで、教師に見えると書かなかったのには理由がある。あまりに柄が悪いからだ。そのまま私服で校内を歩かれたら、学校にまぎれこんだヤクザにしか見えないだろう。校内は蜂の巣を散らしたような騒ぎとなり、すぐさま、警察に通報されるにちがいない。

 県大会優勝の過去を持つこの荒男は、いわゆる体育会系を一筋に突き進んでいた。その道こそが我が道と信じ込んで、たた猪突猛進の最中である。
 おそらく脳のICを撮影したら筋肉しか映らないだろう。
 それはともかく、二人はこれから叶う夢にむかって、ドキマギしていた。この時、二人の痴呆男たちは、背後から怖ろしい虎と狼が忍び寄っているとは夢にも思わなかった。

 神崎祐介、そして、照美とはるか。  

 いずれが虎か狼か。
 
 さて海崎照美と鋳崎はるかは、呼称されるにあたって、どちらを望んだことだろう。
 しかし、いじめの被害者である由加里や、痴呆男たちにとってみればどうでもいいことにちがいない。
 由加里は肩を落として、まるで病傷兵のように廊下に黒い影を写す。心なしか影が薄い。もう自分は死ぬのだろうか。由加里は両手で小さな顔を覆って落ちる涙を防ごうとした。しかし、一滴だけはそれができずに床に落ちてしまった。それは一瞬だけきらめいて、消滅してしまった。真珠のように美しかったが、少女にはなんの意味もない、ただ、悲しみに拍車を掛けるだけである。
「もう、イヤ!」
 放送室で起こったことが少女を再び襲う。いやでも回想のフィルムが見たくないスクリーンに投射される。

「さて、ようこそ西宮さん」
「ハイ・・・・・・・」
 いつものように由加里が正座をすると、照美が笑みを浮かべて言った。少女は自分の所有者に応じる奴隷のように応じた。その声は人間のそれとは思えないほどに、機械じみていた。
 人間は単純に、左脳が優先ならば論理、右脳が優先ならば感情と簡単に決めがちだが、事実はそうでないことがある。あまりに感情が優先されたために、それが凝固してしまったのかもしれない。
「じゃあ、いつものように挨拶してもらおうね」
 優しげな笑みを美貌に乗せる照美、そのかたわらに仁王のように立ち尽くすはるか。そして、その背後に原崎有紀と似鳥ぴあのが控えている。二人の囁くような笑い声は、少女を精神的に痛め付けるのに一躍買っている。
 由加里は恥辱に口を噛みしめながらも、二人に視線を走らせると口を動かした。

「わ、私、にしのみや、ゆ、由加里は、海崎さま、鋳崎さま、そして、原崎さま、似鳥さまの奴隷でおもちゃです。じ、人権のないゴミです。なのに、学校に行かせていただているご恩・・のために、ご、ご主人さ、さま方の、おっしゃることなら、なんでも聞かせていただきます・・・ウウ・・ウ!」
 由加里は有紀から送られたメールを読み上げた、
 照美は意味ありげにほくそ笑んだ。
 人権などという言葉使いが、あまりに笑止だったのである。実は公民という授業において、そのような言葉を習ったばかりだった。まるで中学に入ったばかりの子供が英語を使いたがる軽薄さが、照美の冷笑癖を刺激した。
 しかし、由加里はそのような心の行き違いがいじめっこたちの間になされているなどと洞察する余裕があるわけがない。
 泉のようにあふれてくる感情の対処に忙殺されるだけである。
 自然に涙がこぼれてきた。言葉というものは、本質的に意味を持ち合わせる。決して、単なる記号の羅列に留まるものではない。それは言葉を発する人間の奴隷でいられるわけがない。
由加里が流した涙はそれを意味していた。自分の意志とは違うこと言うために、舌を動かすことを余儀なくされる。その葛藤が流した涙だった。たとえ、記号にすぎないと割り切っても、それは無理だった。
 蛇足だが、このとき、少女は言葉の持つ本質的な意味を知ったのである。

 由加里は、さしずめ鍵盤楽器のようなものである。いじめっ子たちはそれぞれの思いを以て、鍵盤を叩く。少女はそれに従って要求された音を出すだけだ。鋳崎はるかは、少女が想像もしなかったキーを叩いたのだが、楽器はどのような音を出すつもりだろうか。演奏者は、楽器の音色にほくそ笑む。
「じゃあ、とりあえず裸になってもらおうか」
「!?」
 はるかの豪毅な声に動揺する由加里。
 ちなみに、少女は制服を着用することを許されている。もう少しすると命令されなくても全裸になるように『教育』されることになる。
 その日の出来事が、その記念すべき初日になるのだ。

「・・・・!?」
 由加里はキーボードを激しく叩いた。ピアノならば少女の苦悩に答えてくれたかも知れない。しかし、パソコンはごく無機的な操作音しか出すことができない。それは少女の苦悩を笑うだけだ。
 病室はすでに夕食の用意でてんてこ舞いだ。
 しかし、そんな物音は、由加里の耳には響いてこない。彼女だけ別の世界にいて、事態を針が通るほどの孔から、眺めているようだ。完全に現実感がない。いじめの回想のほうがよほど真実味に満ちているだろう。

 照美やはるかたちに、由加里は無毛の股間をさんざん嘲笑された。まるでその吐息が針のようになって股間に突き刺さるように思えた。痛い。ほんとうに疼くような痛みが股間を襲う。
しかし、その日起こったことはそれほど単純ではない。同時に、まったく相矛盾する出来事が少女の精神を引き裂くのである。
 少女の回想は続く。いやでも映画館から立ち去ることも目を瞑ることも許されないのである。
風車を動かすことは少女にはできない相談なのだろうか。彼女の頭の中には、暴風雨が闊歩している。しかし、外界に影響を及ぼすことはないようだった。
 少年が謹呈した風車は、微動だに、しない。

 さて、由加里が見たくもないフィルムに涙を添えているとき、西沢あゆみが運手する車は、テニスコートに到着していた。照美とゆららは不思議そうに目を丸くしている。
二人の目の前には高級そうなホテルが横たわっているだけだった。
「おい、はるか、こんなところにコートがあるのか」
「ああ?」
 めんどくさそうに親友の質問に答えようとする。しかし、あまりにばからしくて答える意味を見いだせないのだ。しかし ―――。
「この中にあるの?」
 ゆららが可愛らしい口を開くと、魔王は機嫌を一変させた。その親友の変わりように相当あきれたのか、照美は美貌を磨り減らせて酸っぱい息を吐いた。
 はるかは、まるで我が家のように、今入ろうとしている建物を紹介する。

「そうさ、会員制でね」
「でも ―――」
「大丈夫さ、特別会員の唇ひとつでどうともなる、ね、あゆみさん」
 はるかは、師匠の顔を見ながら言った。
――――「西沢さん」と「あゆみさん」。どういう風に使い分けているのかな?
 照美ははるかの発言を聞いていて思った。別にどうでもいいことかもしれないが、親友は明かにそれを使い分けているのだ。もしかしたら、気分だけでそうしているのかもしれないが、照美の目には、 両者で呼ぶときの顔つきが微妙に違うような気がするのだ。
 その差異に意味があるのだろうか。照美は両者の会話を聞きながら思った。
「唇ってやらしいわね」
「そういう年頃なんですよ」
「何、ナマ言っているのよ、このガキが」

――――この二人のほうがよほど姉妹みたいじゃない。
 髪を引っ張られて、おもわずつんのめりそうになるはるか。とたんに起こる二人の笑声。それらを端で見物している由加里は思った。
 一方、ゆららは、この人たちと係われば係わるほどに、思ってしまうのだった。

―――私はこの人達とは世界がちがうのだわ。
 家庭の問題からこの年令になるまでまともに旅行すらしたことがない。記憶にあるのは、小学校の 修学旅行で日光に行ったことだけだった。幼いながらに家庭の経済状況を鑑みて、家族には辞退したゆららだったが、母親のせっとくによってやっとのことで旅行に行くことになった。
 賢治の詩ではないが、まさに「ぢっと手を見る」状態だったのである。たまたま真夜中に起きると台所から明かりが漏れている。母親が起きているのだ。盗み見ると、何枚かの干からびた紙幣とコインを目の前にして頭を抱えている。一日中働きどうしの母親は、全身にガタがきているはずだ。その手はまさに賢治の詩そのものの状態である。

―――はたらけど
  はたらけど 猶わが生活楽にならざり
  ぢっと手を見る。

  ちょうど授業でならったフレーズが頭を過ぎると涙が落ちたものだ。

 とたんに、甘い匂いともに優しげな力が右肩にかかった。辛い回想から救ってくれたのは、照美の手だった。
「どうしたの? 暗い顔しちゃって?」
「・・・・」
 とっさのことで返事に窮した。
「きっと、オナカ空いたんでしょう ―――」
 言ってから照美は後悔していた。はるかが睨んでいる。何かを察したのか、このときは目で合図を送ると反論しようとしなかった。ゆららにバレないように話題を換えようとする。
「大丈夫よ、私がオゴってあげるから」
 あゆみの台詞は、はたしてゆららの心を癒やすことができたのか。それは永遠の謎だというべきだ。
 とりあえずゆららは微笑で答えた。
 あゆみは少女の境遇は知らないし、はるかと照美もそれと察しているだけだった。







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『マザーエルザの物語・終章 19』
 何処かの梢の上で泣いている雀。遠くの空に棚引いている雲。
 車窓から見える風景は変わらないのに、そして、車自身が立てる呼吸音も変わらないのに、少女を取り巻く境遇は180度変わってしまった。
 その証拠に彼女の特定席だった助手席ではなくて、バックに座っている。肩を怒らせてちょこんと座る姿は、何処かはかなげで所在なげに見える。

 ――――どうしてなの? ママ?どうしてそんな顔をするの?

 あおいは運転席に座る人物に問うてみたくなった。彼女は少女の遺伝上の母親である。さいきん、精神上のそれを降りると宣言した。その理由は彼女の妹、すなわち、あおいの伯母の突然の入院が原因らしいと姉の有希江が言っているが、定かなことはわからない。母親である久子は黙して語らないからだ。
 あおいは、元母親の顔を盗み見る。サングラスで顔を隠しているとはいえ、相変わらず美しい。金貨の輝きを黒い布では隠しきれないというのと似ている。少女の位置から見ると、サングラスの隙間から、美貌が垣間見えるのである。
「何見ているの? 盗み見なんて、本当にハシタナイ子ねえ」
「・・・・・・・」
 あおいは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 低いうなりを上げるエンジン音は、少女の悲しみと涙を覆い隠してくれない。ごまかしてくれないのだ。少女は高級車に乗っていることを恨んだ。自分のそのような境遇にはじめて疑問を感じた。だから、小さな手で両耳を覆うことで、現実から逃亡しようとする。しかし、意地悪な久子はそれを許すほど寛大ではなかった。

「そんなにママの声が聞きたくないのね、やっぱりあなたは私の子じゃないのね?」
 これほどあおいを動揺させる言葉はないだろう。一体、何を考えているのだろうか。
 あおいは、小さな顔を上げると久子を覗き込んだ。今、たしかに彼女は言った、ママと。
 その残酷なまでに懐かしい響きに、あおいは頭を掃除機に吸い取れるような心持ちになった。
 あたかも飴のように頭を伸ばされて吸い込まれる。ふいに青以外の色彩が消える。視力も声も失い掛けたそのとき、あおいはやっと声を発した。

「ママ?」
 まるで100万人の群衆から母親を見つけた思いがした。
 かつて戦争体験のある有名人が語っていたことだが、彼は10年ぶりに父と出会ったらしい。戦後まもなくのこと、まさに大陸に残された人々が引き上げに躍起になっていたときの話だ。食糧を奪おうとある男を襲った瞬間、声をあげた、肉親を出会ったときに上げるアノ声だ。なんと父親だったのである。テレビでその話しを聞いたとき、あおいは「まさかそんなドラマみたいなことが ―――」と笑ったものである。
 しかし、自分がそのような境遇に陥ると ――――言わんや、二人は性別はおろか、ほんのお泊まり会を別にすれば、一日として夜を過ごす家を別にしたことがないのである。
 それなのに、一方的に肉親としての別れを宣言させた。何の断りもなしに、理由らしい理由も直接告げられずに、生別を突きつけられたのである。それも同居の上に ―――である。
 夫婦ならば同居離婚というのがあるが、この場合はどのように表現すればいいのだろう。とても、啓子に話すことなどできない。説明する言葉を発見できないのだ。

 ――――啓子ちゃん?

 困りに困ったときには、必ずと言っていいぐらいに彼女の顔が浮かぶ。しかし、次の瞬間には、説明できない感情が鎌首を擡げてくる。それはあおいを自在に操ろうとする。自分の記憶でもないものに言いようにされるとはそういうことだ。自分が犯してもいない罪に対して、罪の意識を感じるようなことである。それは、久子に対する感情にも似ているところがあった。

 罪悪感。

 それが少女を絡め、自在に操っていた。それに意思や感情があるならば、あおいはその奴隷に堕ちていたのである。
 本来、それは少女にとっていわれのない罪、いわば、冤罪のはずだった。
 しかし、何処かに説得力がある。
 あおいは、経験したことのない感情に溺れそうになった。次から次からと、大波が迫ってくる。水死しないように凌ぐだけで精一杯だったのである。今も巨大な波が迫ってくる。
「ママ?」
「・・・・・・」

 あおいは幼い顔を向けることでしか、自分の意思を表現できない。しかし、久子はイエスかノーかで答えさせることを望んでいた。
 あおいの幼気な表情からはそれを窺い知ることは不可能だった。だから語気を強めた。
「ママ?!」
「お、オクサマ・・・・・・」
 可哀想な少女はそう答えるしかない。
 それは言葉というよりは単なる記号にすぎなかった。オ、ク、サ、マ、という単なる音にすぎない。右脳を伴わない電算機の声は、せめてものあおいの抵抗だったかもしれない。
 しかし、それは意識して行われたわけではない。むしろ、飛んできたボールに対して手を出すといったごく本能的なあるいは反射的な行動に過ぎなかった。

「ふん、それでいいわ。だけど、今日は特別に許してあげるわ、言ってゴラン。前にみたいにね」
 なんと人を食った言い方だろう。心を弄ぶにもほどがある。そのようにあおいが意識の辺境で思ったことは事実だろう。しかし、ランドセルを背負った小学生に、意識してそれを求めるのは無理なはなしだった。
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・・ママ?」
 あおいにとって、それがどれほど残酷なことか。
 久子は意識してそれを行ったのである。血のつながった相手にたいして、自らの腹を十月十日も貸した相手にたいして、唾を吐いてその顔を汚物を踏んだ足で踏みにじったこととほぼ同じだろう。
「ほら、泣かないの。あそこのレストランで昼食にしようか。あおいの好きなハンバーグ食べたいでしょう?!」
「ウウ・ウ・・ウ・・ウ・ウウ!?」
 久子はさらに鞭打つ。もはや立つことも叶わない駄馬に米俵を担げと命じているようなものである。
 あおいは、その小さなカラダで四方八方から迫ってくる鞭に対応している。
 その清らかな白い肌は若いだけに防御反応も強い。だから、オトナよりもはるかに発赤が強い。まるで若葉に傷を付けたときのように芳しい匂いが充満している。初々しい傷口は新鮮な若々しさに満ちていて、その香りは、さらに塩を塗りたくなる欲求を刺激する。

 奔流のように蘇ってくる過去の記憶との格闘で神経がどうかなってしまうかのように思えた。
「ほら、楽しいでしょう? だったら笑いなさい」
 残酷にもさらに言い放つ。
「ウウ・ウ・ウウウ」
「ほら、あおい!ウグ?!」
 急激に締まるシートベルト。それは飛び蛇のように唸りを上げながら、ボンデージスーツのように、少女の柔らかな身体に食い込んだ。
 そう、ブレーキを掛けたのだ。別に事故を起こしたわけではない。目的地に到着したからこそブレーキをかけただけだ。
 この体験は少女の近未来を暗示していた。しかし、この時の彼女にそれを知る余地はない。
 あおいは、苦痛に形の良い眉を歪めながらも大きな瞳に光を湛えた、

 『ステーキハウス、オデット姫』
 少女の視界に可愛らしい文字が飛び込んでくる。
―――ええ?また、あおいの好物?
―――この前も来たジャン! ママったら?!
 とたんに蘇ってきたのは、二人の姉の奇声だった。徳子はまだ中学生で、有希江も小学校高学年にすぎなかった。そんな昔の記憶がいまにも目の前に存在するように聞こえる。ふたりの声帯があたかも目の前に存在するようだ。
 そんな甘い記憶は今となっては、恐竜時代の伝説にすぎない。もはや家の中に自分を温かく迎えてくれる家族はひとりもいないのだ。
「早く降りなさいよ、ハンバーグは待ってくれないわよ!」
かつての久子のそれのように快活な声が、少女の耳に生えている産毛を直撃する。あおいは辛うじて泣くのを堪えた
――――こんなことではいけない。これから啓子ちゃんに出会うんだから! 
 少女は短すぎる足。車をバックにするには、あまりにも足りない足を地面に落としながら思った。
 煌びやかな店のネオンサインが目を打つ。
 いかに苦しくても笑顔を保つことにあおいは馴れなくてはいけなかった。けっして、啓子に影のありかを発見されるわけにはいかない。
 この考え方に根拠があるわけではない。ただ、親友に負担を掛けたくないと言ったあるいみ大人びた理由ではないし、もしくは、単純明快な思考でもない。
 少女の感情が許さなかったのは、もっと不可解な理由だった。まるで多量に水を浸みこませた体育用のマットのように、彼女自身の心は、反応らしい反応を返してくれなかった。
「いらっしゃいませ ―――ぁ 榊さんに、お嬢さん」
 機械仕掛けのフランス人形が人語で迎える。

 榊家の面々はこの高級な店にとって馴染みの客だった。ロココやらバロックやらアールデコやらが、縦横無尽に配された装飾は、見る人に不快な感覚しか与えない。もっとも、見る人にまともな審美能力があればのはなしである。
 パヴァリアの狂王、ルードヴィッヒ2世などが来客したならば感嘆の声を上げたかも知れない。店内に湛えられた湖を泳ぐ白鳥の模型のごときは、彼の幼い審美感を満足させたにちがいない。
 しかし、ここは彼の吐く息が汚したドイツでもなく19世紀でもない。
 すでに21世紀を20年ほども過ぎている。
 しかし、いま榊家で行われている家庭騒動の類は、けっして新しい話しではない。19世紀はおろか、古代ギリシアの悲劇などでも題材とされたモティーフである。
「さて、注文しましょうか。あおいはいつものでいいの?」
 席に案内されると、久子はいつものように応対しようとする。マニキュアの塗り方から
 ネックレスが胸骨に嵌る位置まで、かつての母親のそれとそっくりなのだ。いま、彼女が目の当たりにしているのは、あおいが大好きだった母親そのものだ。あきらかに高い知性を纏った瞳の開き方や、上品なつくりの唇がコケティッシュに歪む様子など、どれもあおいが好きでたまらない、あるいは、慕ってたまらない母親そのものだった、

「うん・・・・・そうする」
 力無く答えたあおい。それは彼女の意思によってではなく、まるで自動機械のように反応した・・・・・・だけのことである。


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『由加里 68』
 南斗太一郎くんへ

 いつも、あなたのこと見ています。授業中も休みもずっとです。体育や家庭科でも、いつも太一郎くんの顔を思い浮かべています。
由加里は、あなたのことが大好きです。
太一郎君のことなら、なんでもできちゃいます。裸になれって言われたら、何時でも、何処でも、なっちゃいます!
好きです!
 お願いです。由加里を恋人にしてください。
             
            あなたの永遠の恋人 西宮由加里より


 なんという下手な文章だろうか。もしも、このような境遇でなかったならば、一笑に付したにちがいない。しかし、これを目の前に提示されたとき、少女はけっしてそのような心境に浸っていられようはずはなかった。
 由加里は、それこそ、血の滲む思いでこの手紙を書き写した。塚本誠二が考えた文面をそのまま紙の上に再現する作業は、恥辱と苦痛に満ちていた。
 二人の少年の背後に、高田と金江の恫喝と嘲笑に満ちた視線が控えている。二人、いや、全クラスメートが吐き出した唾の雨が降ってくる。その屈辱的な冷たさは、由加里を絶望の海に叩き込むだけでなしに、怒りの葡萄を潰し、その中身をまき散らすにちがいない。
 もしも、心に血管があるならばそれは拡張して炎症をつくり、やがて膿に満ちた噴煙をあげるだろう。
 これからは男子にまでいじめられるようになるのだろうか。
 由加里は暗澹たる思いに、自分の心が色づいていくのを感じた。青ざめるとはこういうことか。血の気が引いていくのが手に取るようにわかる。
 これまでは、男子というのはいわば添え物にすぎなかった。由加里を辱め、引き裂くためのおかずではなく副食にすぎない。暴力を震ったり、言葉でいじめたりするのはほぼ100%少女たちの役割であり。男子は側で控えているだけだった。言い換えれば観客にすぎない。
 しかし、劇が劇として成り立つためには、客がやはり必要なのである。その存在は舞台とプリンシパルにとって必要不可欠な存在なのである。由加里は、同性に侮辱され殴られて、床に引きずりおろされるときに、男子の視線を感じる。もしも、それがなかったならば、単なる暴行と位置づけられてしまうかもしれない。彼ら、観客がいることで、由加里いじめはひとつのショーとしての色彩を得ることになったのである。
 その男子が積極的のいじめに参加するというのは、どういうことだろうか。暴力の程度は、女子の比ではない。あまりの怖ろしさに身の毛がよだつ。命の危険すら感じると言っても過言ではない。
 それに性の疼きが少女を襲っているのである。
 由加里は、そのような辱めを受けることで、身体にある変化を憶えるようになった。それは、照
美やはるかたち四人によって性的ないじめを受けるようになったことと、軌道を同一にする。ただし、照美たちに加えられた性的な虐待が由加里のそれを刺激した、あるいは思い起こさせたのか ――――は、はっきりとしない。

 そもそもそのような属性が由加里に内在していたのか、否か、その答えは誰にもわからないのである。
 由加里は、下半身に淡い、あるいは幼い、芽吹きを感じていた。
――― ああ、私ったらこんなときに!?
由加里は、二人にばれないように股間を押さえたものだ。
 照美やはるかたちに性的ないじめを受けている時のことを思いだした。
いやで、いやでもたまらないのに、性器が湿り気を帯びる。もちろん、この時は秘密の花園を剥かれ、嘲笑されることはなかった。少女にとって本当の地獄がはじまるのは、少し後のことである。

 あろうことか少女は性的に敏感になっていたのである。照美とはるかに性的ないじめを受けるようになって、自分の身体が変えられていくことを如実に感じ取っていた。自分の意思とは全くちがうところで、身体が反応してしまう。

―――ああ、私ったらどうなっちゃうの!?
 少女は黒板にむかって問いをぶつけた。彼女が大好きだった彼は何も答えてくれない。もともと聡明な彼女に、彼はいつでも恩恵を与えてくれた。常に教師は誉めてくれたし、生徒からは羨望と尊敬の入り交じった視線を貰い受けた。
 それは大変晴れがましく、そして誇らしい匂いにみちていた。少女にとって心地よいことこの上なかった。それがこの黒板に象徴される時間だ。旧くは小学校一年生から、中学入学、そして、ごく最近まで・・・・・・・。
 現在では、成績優秀というステータスは憎悪の対象でしかない。いじめをさらにエスカレートさせる事由でしかない。
 少女をこの陰鬱な状態から解放したのはチャイムだった。

 解放? 解放だと?
 
 この地獄から別の地獄へと檻舎を移動されるだけだ。例えば、血の池地獄から針の山地獄というぐあいに・・・・・。
 由加里は急いで手紙を隠し、少年二人は舌打ちしてそれぞれの席へと消えた。しかし、四つの目がどれほど陰険な視線を追っていたか。
 由加里は本の中で呼んだクトゥールーの化け物を思い浮かべた。添付されていたイラストには、幾つも目が生えた化け物に、クトゥールーがイラストレイテッドされていたはずだ。

 由加里は病室の一部。
 少女の中で芽生えた、いや、芽生えさせられた作家の才能はいやでも、消したい記憶を呼び覚ます。

―――ああ、鋳崎さん、あなたは悪魔よ!
 由加里は褐色色の悪魔を思い浮かべて、ただおいおいと泣くだけだった。


 ちょうどそのころ、少女に怖れられた褐色の悪魔は、まったくそれらしくない笑顔を満面に満たしてただ、恐縮していた。
 今、四人は地上を時速50キロのスピードで移動している。この車の性能からすれば遅すぎるスピードだが、日本の公道なればしょうがない。

 あゆみの左側、すなわち助手席という監獄で、哀れな囚人を演じている。
「に、西沢さん、リハビリの方はどうなんでしょうか? 大丈夫なのかなあと思って・・・・ヒ!?」
「万全に戻らなかったら、コートに立つはずはないでしょう?!」
「ハイ・・・・・では・・・・」
「そうね、今日は頼むわよ、将来のエースさん」
 はるかは知らないはずはなかった、怪我開けのちのテニスプレイヤーの状態というものを。もしも、怪我をしていなければ、あゆみがこんなところにいるわけはない。プロテニスプレイヤーというものは、常に四大大会その他に参加しているものだ。人にもよるが、オフというのは無いに等しい。
 
 ウィンブルドンで怪我をしたあゆみは、ここ一年ほど満足にコートに立つことはなかったのである。
「ねえ、はるか」
「ナ、ナンでしょうか?」と敬語の意地混じった奇妙な受け答えは、少女の内面の動揺を暗示している。
「あなた、一ヶ月でもコートに立たなかったことってある?」
「それは三歳のコロならはい・・・・え?・・・あ、スイマセン・・・・最近ではないです・・・・」
 下手な一人芝居は、見物だったが、ゆららは笑う気にならなかった。完全にこの大人に肝を潰されていたのである。一方、照美はクスクスと笑っていた。はるかは、それを横目で見やりながら ――後で見てろ!と内心で牙を磨いていた。
「お相手よろしくね」
「ハハ・・・お、お手柔らかに・・・・でも名山さんとかどうなんです?」
 名山幸太郎は、さきほど引退した男子プレイヤーである。この国にあゆみと対等にやれるプレイヤーなど存在しないのだ。
「名山君は忙しいのよ、キャスターやってるし、引退したばっかりで違う世界に生きるためには真剣なのよ」
「そ、ソウデスネ・・・・・でも・・・・」
「なあに、私とやりたくないの!?」
「イエ・・・・と、どんでもない! こ、光栄でアリマス・・・ハイ」
 端から見れば喜劇でしかないが、本人からすれば命がけだ。プロテニスプレイヤーのサーヴィズなどと言ったら、ほとんど凶器である、命がかかっている。
ほとんど硫黄島の虎口から逃れた日本兵士という感じで、はるかは刃の方向を変えようとした。
「その前に、この照美なんてどうです?これでも一応やるんで・・・」
「・・・・・?!」
 はるかは、動揺する精神状態の下でも、あゆみの表情が微妙に変化したことを見逃さなかった。
「西沢さん?!」
「そう、照美さん、テニスやるの?」
「はい、すこし、こいつに無理矢理ですけど」
「・・・・・・・・」
 まるで、以前から照美を知っているかのような口調。

「だけど、お手柔らかにお願いしますよ、私はテニスプレイヤーになるつもりはないんですから」
「お、お前!」
 照美が、簡単に口を聞く。そのことをはるかは、信じられないのである。
「そうね、照美さんはお嬢さんだし、年頃の女の子に傷付けたら親御さんにどういわれるかわからないわね」
「そ、それって、私ならいいんですか?」
 不平という言葉を呑みこみながら、ほうぼうのていで、彼女の言葉は外見的な礼儀を失わなかった。
「あはは、お嬢さんって言って欲しいんだ、はるかがね ―――」
「西沢さん・・・・」
―――やはり、おかしい。普段の西沢さんじゃない・・・・。
 はるかは、いつもとちがうあゆみの様子に、何か鎌を掛けてみたくなった。しかし、なかなかその瞬間と機会を得ることができなかった。
「ねえ、照美さん、テニスってどう思う?」
「さあ、学校の部活なんかでは、サッカーとならんで格好がいいスポーツっていうイメージがありますけど?」
「そうだろ? そうだろ?」
 はるかは、我が意を得たりと手を叩く。
「何言ってるのよ、あんたが格好が良いなんて一言も言ってないじゃない?」
 相手がはるかとなると照美は血相をかえる。それがゆららにはおかしかった。普段の冷静な仮面がいとも簡単に脱げ落ちてしまうのである。
「ふふ、ふたりともいいお友達のようね。」
「仲の良い姉妹にも見えますよ ―――」
 うららの何気なく言った台詞が、車内にどよめきを起こした。

――――西沢さん?
 完全に黙りこくってしまった師匠に視線は自然と向かう。しかし、それを意図的に壊したのは照美だった。
「ヤダネ、こんな図体のでかい妹なんて、まるでウドの大木じゃない」
 そう言われてははるかは、黙っていられない。
「ちょっと、待て! ウドってどういうことだ。それよりもどうしてお前が姉で私が妹なんだ!?」
「世間の目って奴かな?見る人は見ているものよ」
 根拠のないことを言う照美の顔をミラー越しに見つめていたのは、あゆみだった。
「それにしても安心だわ、あなたみたいな姉妹がいて」
「・・・・・・・・?!」
「・・・・・?」
 一瞬、あゆみの言葉はどちらをさしているのか、わからなかった。しかし、少し考えればわかることである。

「そうですね、こんな妹で大変ではありますけど」
「そうね ――」
 短く答えたあゆみだったが、どうして夜にもかかわらずサングラスを掛けたのか、そのとき、はるかは理解できなかった。
―――まさか・・・・・・・。
 はるかはその瞬間、我が目を疑った。サングラスが彼女の目を覆う瞬間、まるでスポイトで蒸留水を垂らしたかのように、濡れた彼女の瞳がかいま見えた ―――と思ったからである。まさかそんなことはあるまいと、はるかは、目の錯覚ということにした。それは、どうしても西沢あゆみのイメージから乖離しているからである。
 それはあくまでのはるかの独断であったが、同時にメディアを通して一般が知りうるあゆみのイメージでもあった。しかし、海崎照美は、それから自由だった。
はるかと違ってもろにメディアの洗礼を受けているはずの照美が、彼女とは違ったイメージをあゆみから得ていた。
 はるかはあまりにあゆみの身近にいるために、近視眼的な視線に陥っているのだろうか。

―――な、何?この感覚は?
 照美は、あゆみと接するごとに、一言新たに交わすごとに、心臓の鼓動が増すのを感じた。何か特別なホルモンが、彼女を触媒にして増色しているように思えた。ある意味に置いて由加里とはじめて出会ったときと、何かが似ている。
 しかし、あの時は意味不明の憎悪と焦燥感だけが、美しい少女の仮面の下に芽吹くだけだった。
あえて言うならば焦燥感が、デジャブーを呼び起こしたのかもしれぬ。
 相手が呼び起こす予想外の効果に、照美は汗の一筋も顔に浮かせないわけにはいかなかった。ただ、古代ギリシアの名工の手による彫像に垂れた月の涙の一滴のように、周囲の水分を氷らせないわけにはいかなかった。液体窒素のように、融点が異常に低いために液体でありながら、周囲を氷らせずにはいられない。
 周囲に冷気をまき散らしながら、本人は泰然自若としている、あくまで外見だけのことだが・・・・・。
 はるかは、しかし、この時神経をほとんどあゆみに対して使っていたために、親友の心境の変化を見抜くことができなかった。
 本来ならば、姉妹のように通じ合っている二人のこと、けんかをしていても、否、そうしていれば、いるほどにかえって見防備になった相手の機微が見えてしまうのである。

 四人が乗る車は、テニスコートに向けて夜の街を疾走していた。




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『マザーエルザの物語・終章 18』
「そうだ、宿題やらなきゃ、きっと、あおいは全然やってないのだわ―――」
 親友に出会った頭から降り懸かってくる台詞を、赤木啓子は簡単に予測できた。

――――最初は、何も言わないにちがいない。良くっておざなりな挨拶が渡されるていどのことだろう。
 きっと『粗品』って書いてあるにちがいない。だいぶ前、母親と行った会話に出てきた言葉を、心のなかで使ってみた。中学に入ったばかりの生徒が友人をからかうのにも英語を使いたがるのに似ている。2年後、BE動詞も理解されておらず、高校に入れないと泣いているかもしれないのに・・・・・・。
それはともかく、啓子は『粗品』などダッシュボードに突っ込むつもりだ。

――――ところで、啓子ちゃん
 親友はおずおずとした口調で、言葉を発するのちがいない。しかし、啓子は思った。
「騙されるものか」
 しかし、親友の顔がちらつくといっしゅんでそれが崩れていくのが見える。

――――しゅくだい、全然、やってないんだ。
 親友の顔が目の前にあるようだ。罪のない笑顔がそこにある。

―――わかったよ、見せてやるよ。まったくしょうがないなあ。
 しかし、相手の発言はおろか、自分のそれまでが聞こえてくるのだ。全くやりきれない。
 彼女と出会ってからそのペースに乗せられっぱなしだ。それは、はじめて出会ったときからそうだった常に助けなくてはならない。そう考えさせる何かが、あおいの中にあるのだ。
 陽気な笑顔を絶やさないあおいだが、その一方、見ていて危なかっかしいこと、このうえない。
 親友の浮き足だった脹ら脛などを見ていると、無理矢理にでも着地させてやらねばと思う。

 しかし、同時に強いマイナスの感情が浮かぶのを感じる。それは信頼していた相手に裏切られるような、人生で最も重要な選択をするべきときに、あっさりと逃げられるというような不思議な感覚だった。なぜならば、二人はまだ10年とちょっとしか生きていないからだ。そのそも人生がなどいう主語が、文章の頭に来ることじたい、異様なことなのだ。

―――あおい。
 親友の頬に太陽が当たる。あふれんばかりの笑顔は、彼女が黙っていればかなりの美少女であることを忘れさせる。整った顔の作りを無惨にもだいなしにしてしまうのだ。むろん、その代償として、新しい金貨を転がしたような陽気さを得ることが出来たし、それは周囲の絶対的な指示をも得ることにもなった。
 いちばんさいしょ、この少女に出会ったとき理由もわからずに、顔面にパンチを食らわせてやりたい衝動に駆られた。
 あたかも、誰とでも友人になることができる ――――そんな自信満々な顔。自分の名前を出すことで世界中の人間が、友人になるとでも言い足そうな顔。なんて無神経なのだろう。いやその極みは、自分の傲慢さにまったく気づいていないことにあるのだろう。
「啓子ちゃんでいいよね、あたしはあおいだよ!」
太陽のような顔が目の前で輝いていた。とてもまぶしかった。しかし、次ぎの瞬間、水をさすような声が聞こえた。

「止めなよ、あおいちゃん、あの子は一人がすきだから」
―――なんだ。
 そう思った。いつものことだ。自分はひとりでいるべきなのだ。目の前の太陽もそれを自覚するだろう。自ら光る恒星としては、自分の我が子の顔は覚えているだろうが、その子供たちの隠し児にまで興味を示すことはないだろう。言うまでもなく月やフォボスのことだ。
 自分は十分に成績優秀で美人だ。誰しも興味を持たずにはいられない。しかし、そのような状況であえて、一人でいる。おそらく、端から見ればそれは重大な決意に見えることだろう。
 それでも、あおいは付きまとってくる。
 啓子はそこで少女に提案をした。
―――私を選ぶか、みんなを選ぶかどっちかにしな。私を選ぶなら、もうみんなとは一生口を聞かないんだよ。
 あおいは困ったような顔をした。
 それみたことばかりと思った。しかし ――――。
「うん、わかった」
 どうしても、自分を友人にしたいようだ。きっと、これを機会に仲間に引き入れられると思ったらしい。

――――そうはいくものか、あなたのコレクションに加わるつもりはない。
 啓子はそう思った。
 しかし、軽く考えていたのは彼女のほうだった。あおいはそれを見事に実行したのである。そのことは予想以上に啓子を追いつめることになった。産まれてはじめて憶える感情に、大脳新皮質の裏側が、きりきりと痛んだ。
 だが、事態はそれどころではなくなっていく。
 人気者だったあおいがクラスにおいて、抜き差しならない状況に追い込まれることになたのである。 今まで太陽のように輝いていたあおいは、白色矮星のように黙りこくってしまったのである。しかも、これ見よがしに啓子とは仲良く語り合っている。こんなに気に入らないことはない。
あおいはいじめられるようになった。
 
 しかし、いくらそれが非道くなっても約束を違えることはなかった。
ついに啓子は折れた。クラスメートの面々で涙を流したのである。すべてを打ち明けて、あおいとクラスメートに、許しを乞うたのだ。カタルシスとは言うが、涙とどうじに、永年鬱積していたものがすべて流れ去っていくように思えた。
 その後、紆余曲折はあったが、友人というものをはじめて得ることになった。しかし、驚いたのは、あおいのことである。ぜったいに自分を許さないと思われていたあおいが、あっさりと許してくれたのである。もっとも、そんな無邪気な太陽から、ビンタが飛んでくるとは思わなかったが・・・・・。

 このことを機会に、啓子は生活が変わったわけだが、それは必ずしも不快ではなかった。たしかに生まれつきの習性というものを変えることは無理だったが、友人というものをはじめて知った。そのこと動かしがたい事実である。
「もう、こんな時間か、寝よ」
 啓子は、ネグリジェをケースから取り出した。その音は、机上の蛍光灯がやはり蛍光灯であることを示すだけだった。やがて、すぐに用無しになる。そして、少女は夜の闇にその肢体(みさお)を捧げることになった。


 そのころ、あおいは携帯ひとつを握りしめて夢の世界に旅だっていた。少女にとって、それはたったひとつの財物(たからもの)なのである。
 少女が家族によって惨めな境遇に叩き落とされていらい、この家に確かな意味において、彼女の所有物などという物は存在しないようになった。
 有希江はさすがにしないが、茉莉が彼女の部屋に勝手に入って、物色するようになったのである。もちろん、あおいはそれに対して抵抗することはできない。まるで、父親の目の前でその娘を強姦しているようなものである。少女はただ泣くことしかできなかった。
 だが、携帯だけは身から離すことはしなかった。やがて、茉莉が暴力を厭わなくなると、特別の隠し場所を決めて、そこに安置するようになった。
 携帯は、何よりも大切な品だったのである。これがあれば常に啓子をはじめとする友人たちを連絡が取れる。自分を対等の人間として扱ってくれる相手とつながっていられる。それは、自分が奴隷でもペットでもなく、新正の人間であることを証明してくれることも付随している。

 だが、不思議なことがある。事ここにきて、どうして久子は携帯の使用料金を払い続けているのだろう。
 あおいは、そのような疑問を持たなかった。
 このような境遇に置かれてもこづかいはなおも与えられている。小遣い帳を書くことからは解放されたが、それはかえって悲しみを呼び起こした。「あなたはもう娘じゃない」と言外に言っているようなものだからだ。そのような発言を直接されるよりも、態度でされるほうがよほど辛い。身に応えるものだ。
「ぁ」
 少女は低く悶えた。携帯がベッドから落ちたのだ。眠るときは隠し場所から取り出して、壊れんばかりに握りしめる。合成プラスティックのメタリックなぬくもりが伝わってくる。あたかも、それは啓子の肌であるかのように思える。

 ――――啓子ちゃん・・・・・・。
 あおいは吐息で親友の手を、胸を、探り当てようとする。手は確かに、指は確かに、そして、掌は確かにそれを摑んでいるはずだった。哀しみの刻印を押しているはずだったのである。しかし、完全に摑んでいるという感じがしない。たしかにプラスティックの留め金はきりきりと音を立てているというのに・・・・・・・・・。
 だが、この時少女は何処かで自らの意思でそれを拒否していたのである。それは自分の制御の向かわないある記憶に基づいていた。しかし、それは大海が描く水平線の向こうに埋葬されていた。死者は常に生者を縛る。後者の窺い知れぬところで、見えない鎖と枷を操っているものだ。
 好きな食べ物にアレルギーを起こすように、あおいは訳の分からない衝動に自分の公道を制御されている。摑みたくとも摑めない。そのもどかしい思いは、夢の中においても少女を苛む。しかし、彼女をその悪夢から揺り起こしたのはさらなる悪夢だった。人はそれを別名、現実と呼ぶ。
 
 あおいは何か得体の知れない力に、身体の自由を奪われた。
 
 いや、それだけでなくて意図しない動きを強要された。例えば、サメに襲われる海水浴客のごときと、そのような体験を共有するのかもしれぬ。
「ママ・・・・・!?」
 ベッドの下に突き落とされたあおいは、遺伝上の母親をそう呼んでしまった。既に禁じられているにも係わらずである。
 あおいの行為を夢の世界のうわごとだと黙認することはなかった。
「何ですって?!」
「ヒ!?、お、オクサマ、ご、ごめん、いや、申し訳ありマセン!!」
 少女は、全身をスリッパで打たれながら泣きわめいた。命じられた礼儀作法を、筆舌に尽くしがたい苦痛の下で、思い出す。そして、ひっしに絞り出すが、『遺伝上の母親』はそれを許そうとしてくれない。
「まだ、お嬢サンのつもりなの?!あなたは!?」
「ウウ・・・ウ・ウ・ウ・?!痛い!お、お願いです
・・・・ウウ・・!! お、お許しクダサぃ!!・・・」
 
 泣き叫びつづけるあおいは、髪の毛を乱暴に摑まれ、床を縦横に移動させられる。それは、見方によれば、さしずめ犬の散歩のように見える。
 彼女の行為は相当に荒っぽいにも係わらず、どことなく上品な空気に包まれている。それはどういうわけだろう。その表情にも所作に粗野な色合いはいっさい感じられず、高貴な紫のいろだけがやけに目立つ。
 悪魔にだけ、高貴な暴力という形容が許されるという。
 そうならば、いまの久子はまさに悪魔としか言いようがない。その悪魔はこうのたまった。
「ほら、さっさと用意しなさい。出かけるわよ」
「・・・・・何処へ?」
 あおいは決して、とぼけたわけじゃない。畳み掛けられる暴力によって、意識が混濁させられていただけだ。
「そうなの?お前にはトモダチもいらないの? そうならいいのよ!」
「ヒ!?」
 地獄の黄泉に煽られているあおいの脳裏に、親友の横顔が、ちらつく。
 しかしながら、久子の声がそれを呼び覚まさせたわけではない。携帯のメタリックなキラメキがそれを呼び起こしたのである。プラスティックの安っぽい石油の手触りが、それを呼び覚ましたのである。
 久子の締まった尻はあおいに、拒否のダンスを踊っている。少女はそれに向かって呼びかけた。
「お、オネがいです・・・・」
「ふん・・・・・・」
 『遺伝上の母親』は、冷たい足音を立てて部屋を後にした。










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『由加里 67』
 『鬼』は自らの車に寄りかかって文庫本を手にしていた。その様子は異様さを極めている。
 
 街を歩く人たちは、ほとんどある距離にいちどは立ち止まって様子をうかがう。そして、しばらくすると去っていくのである。明かに一定の距離以上に近づくことができない。それは、プライベートエリアというわけではない。明かにそれよりも遠いからである。むしろ、彼女のオーラに惹かれ、あるいはそのオーラに妨げられている。そういう感じなのだ。
 それに加えておかしいのは、当該人物の自意識である。自分が人を惹き付ける存在であるという自覚が、明かに欠如している。
 鋳崎はるかもその例に漏れなかった。いや、普通の人たちよりもその人物の見えぬ力に圧倒されていると言って良いだろう。

「ああ、あの人が西沢あゆみね」
「照美! おまえなにを!?」
 照美が、当該人物の氏名を呼んだ。はるかは、相当の衝撃を以て受け止めた。
「ええ?あの西沢さんなの?!」
ゆららの声は、ほぼ多次元の世界から聞こえてくるようだ。信じられないというニュアンスが織り込まれて、他の味がしないぐらいである。
「ねえ、はるか、はやく紹介してよ」
 照美はまるで一ファンのような口調で、はるかの背中を押した。
「ヒ?何するのよ」
「何を緊張しているのよ、あんたの師匠でしょう?」
 照美は、ほくそ笑んだ。こんな風に凍りついてしまった親友を見ることはとても珍しいことだ。おそらく彼女がそうする相手とは実母と照美の母親くらいだろう。他所に、そのような存在がいるとは、照美にとって非常に興味深かった。だから、好奇心の触手を巡らせて情報を得ようとした。

「じ、時間が・・・・・」
「約束に間に合わなかったのね、でもそれは仕方ないでしょう?」
 さすがに可哀想になったのか、照美は優しい声をかけた。
「お前らのせいだろう? だから急げって」
はるかはまるでこの世に自分しかいないかのような言い方をした。それがおかしくて照美は、親友の 背中を押すことに決めた。
「ほら、はやくなさい!!」
「ヒ!?」
 あゆみへの距離は10メートル以下だった。しかし、その距離でも届かないくらいに寡少な声だったのである。
 そして、次ぎの瞬間、彼女は弟子のあられもない姿を発見することになる。
「ほう? どこぞのお嬢さんですかな?」
 文庫本を車の中に投げ入れると、無表情のまま言い放った。はるかは何も言えずに、作り笑いを浮かべるだけだ。

――――こいつが、人の歓心を買うためにこんな顔をするとは・・・・・。
 それは照美にとってはじめて見るはるかの顔だった。
「あいにくと時間を守れないような人間に知り合いがいないものでね、何処かで会ったかな?」
「はあ ―――――」
「いいから! お前の気持ち悪い顔を見続けるくらいなら、皮肉を言わないほうがましだ。全く、友だちが来るなら予め、電話くらい ――――!?」
「あゆみさん?」
 あゆみは、この間まさしく三変化と言って良いくらい、顔の変貌を遂げていた。
 
 はるかは恐縮するあまりそれに気づかなかった。だから、この時自分を達観する余裕を失っていた。端から見たらどれほど素っ頓狂な、たとえるならばひょっとこのような、顔をしているなどと思うこともなかった。
 自分を常に第三者的な視線に置き、達観する。
 本来の彼女ならば、それぐらいのことは日常的に行っているものだ。
 しかし、この時はるかにそのような余裕はなかった。だから師匠の心の機微を読み取ることができなかった。

「ああ、あなたがはるかの親友って言う照美さんかな?」
「はい・・・・そうですけど」
 まるで文章上の説明のようなあゆみの言葉を受けて、照美は答えた。
「しかし、君もご奇特な子だねえ、こいつの友人をやってられるなんて」
 元々、このようなことを言われて黙っていられるような照美ではない。言い換えれば、親友の悪口を言われてその武器を温存しているようなことはない ――――ということだ。
 
 照美のその美貌は、周囲の空気が一瞬で凍りつくような冷気を発し、その知性は相手の人格を産まれる前から否定するような言葉を、持ち主に吐かせる。同性ならなおさらだろうが、照美の美貌は、もはや嫉妬する気すら失せさせる。
 そして、ほとんどの人間の知性が照美についていけるはずがないのだ。彼女はそれを惜しみなくさらけ出す、もっとも由加里ならば彼女を凌ぐ知性を持っているはずである。しかし、心身ともに打撃を受けているいま、それを攻撃の性格を持って、発揮されることはまずない。もっとも、少女の性格から言って、そのように自分の知性を使うことはほとんどないのだが・・・・。
 その照美を威圧する何かに、この女性は満ちていた。さもあらん、目の前の女性は照美よりも10年ほど年長であり、世界ランキング三位のプロテニスプレイヤなのだ。だが、人間の肩書きによって一ミリグラムほども、心を動かされるような照美ではない。あゆみが持つ本質が、何事か感化させたのだ。

――いえ、こちらこそ、このようなプロレスラーの友人は苦労が尽きぬものです。
 本来、こう答えておきかった。しかし ―――。
「いえ、はるかさんのような人格者の友人のひとりに、加えさせていただいて光栄です」
――――ひとりだと?
 この時本来のはるかならば、一撃の下に親友を叩きのめしていたであろう。しかし、このとき、少女は通常の状態に置かれていなかった。カンプリア紀の大気のような薄い酸素濃度の中で、ニューロン同士の会話がマトモに行われていたのか、はなはだ疑問ではある。
それを救ったのはあゆみの次の言葉だった。
「さて、そこのお嬢さんは?」
「わ、わた、私のなま、な、名前は、す、鈴木、ゆ、ゆららと言います・・・・・・・」
 それは妖怪たちの宴において、ひとつの清風とでも言うべき事件だった。あゆみはふたつの大木の元に、可愛らしい花が咲いているのを見つけたのである。それは、木漏れ日に照らされてひときわ美しく輝いていた。
「とにかく、みんな車に乗ってよ、時間も時間だし」
 あゆみの号令によって、3人とも赤い芸術品の一部になろうとしていた。


 その時、由加里は病室の一部だった。
 
 不自由な体でノートパソコンに向かっている。右手だけでキーボードを操るのは骨が折れる。しかし、照美を凌ぐほどの知性の持ち主は、あるていどの苦労の末、人並み以上に扱えるようになっていた。もっとも、そのことが少女を幸せにすることはないだろう。
 しかし、それは、同時に“逆もまた真なり”を意味するのである。
 少女のか細い右手は、キーボードの上を器用に渡り歩く。ノートなので、音が緩やかなのはせめてもの救いだった。はるかと照美の命令によって、自宅で課された“宿題”をこなしているときなど、カタカタという音が自分の胎内に侵食していくような気がした。あるいは、それは声にも聞こえた。
「お前は、淫乱なのだ」
 それは見知らぬ女性の声だったが、「由加里、なんて恥ずかしい子かしら?あなたなんてもう、娘とは思わない! 汚らわしいィ!!」
「由加里お姉さんなんて、大嫌い! 死んじゃえ!!」
 家族の声が交代で由加里を責めさいなむ。扉の外で何か物音などがしたりすれば、それこそ、この世が終わるかのようなおもいをしたものだ。
ヒヤヒヤで、予め開いていたネット画面に転換したものである。これは少年がパソコンを扱っているときに使う手である。

「お前さ、Hサイトを見ているときに、親が入ってきてさ、とんでもない目にあったよ」
「へ、お前バカ?オレなんて大丈夫さ、いい手があるんだよ」
「どんな?」
「予め、別のサイトを開いておくんだよ、健全な、たとえば“おはよう日本”のサイトとかね」
 由加里はそれを側で聞いていたのだ。
 ちなみに、このとき少女は情報の代償というものを支払わねばならなかったことを特記しておきたい。少年たちは次ぎのような会話を続けたのである。
「あら? ユカリちゃん、何を盗み聴きしているのかな?」
「こんなところで、何をしているかと思ったラ?」
 加えてちなみに、ちょうど昼休みだった。クラスメートたちはあるものは、図書室に、あるものは校庭に陽光を浴びに向かった。しかし、どの生徒たちも友人たちと連れだって青春の喜びを詩にものしあっていた。ひとりぼっちなのは由加里ぐらいである。そして、女子で残っているのは少女だけだった。
「ユカリちゃん、おトモダチはどうしたのヨ、ホラ、校庭をミテごらん、みんな楽しく遊んでいるじゃん。あ、あれは、海崎たちじゃん」
 自分をいじめる主犯の名前を聞かされて、由加里は股間に釘を打たれるような衝撃を受けた。
 もう一人の男子がそんな由加里を笑う。

「よせよ、こいつにそんなのがいるわけねえじゃん」
 少女は脳天を割られたような気がした。男子にまで嘲笑される。こんなミジメなことがあるだろうか。
「・・・・・・・・」
 由加里は、何とか威儀を保とうと立ち上がった。この年頃の少女の涙ぐましい習性である。異性に対する特別な態度は、思春期の本能とでもいうべき属性だろう。由加里もそれから自由ではなかった。
「ドコ行っちゃうの? お兄チャンたちが遊んであげよって言うのに」
「そうだよ、鬼の言うマニってネ」
 由加里がいじめられっ子に堕ちるまで、彼女は尊敬の対象だった。成績はバツグンで、容姿もそこそこの美人、男子はおろか女子にも相当の人気があった。ただし、積極的な態度に出るということはなかったので、教室内のステータスやヘゲモニーに関係することはなかった。
 だから、原崎有紀たちの由加里に示した悪意は、男子たちのそれと似ている。一言で表現するならば、それは劣等感の裏返しということになる。
 この二人、塚本誠二と南斗太一郎は、まさにそのカテゴリーに当てはまる男子である。ちなみに、太一郎は小学校のころから由加里と同級だったことが多く。密かに歪んだ恋心を焦がしてきた。
由加里としてもそんな二人と間違っても友人になろうとも思わない。よもや、自分を見下して、「友人になってやろう」という態度に出られたら、それに答えるほどに落ちぶれていいないのである。颯爽と教室を後にすることにした。たとえ、その態度とうらはらに心を乱れていようともこの二人などに見せる心はない。しかし ―――。
「ドコにいくの? 高田に言われているんだろう?」
「ヒ?!」
 もしもあるならば由加里の尻尾を引っこ抜くほどの衝撃を、太一郎の言葉は持っていた。少年は、摑んだ尻尾を引き抜く寸でのところで止めた。そして、少女の整った鼻梁を撫でた。揶揄に満ちた視線を向ける太一郎に、少女は心底ぞっとさせられた。

 高田あみる。彼女は由加里いじめの二大勢力の一方の雄である。もう片方は、言うまでもなく海崎照美とはるかだが、あみると金江は、由加里にとってみれば別の意味で恐怖の対象だった。平気で暴力に及ぶのである。身体に残る傷跡や痣のほとんどは彼女たちの仕業である。しかし、照美とはるかならば、そのようなミスを犯すことはない。由加里にあみたちのそれを凌ぐインパクトを与えておきながら、なんら足跡を残ることはないのだ。その辺が知性レベルにおいて、はるかに叶わないという証左であろう。

 閑話休題。

 太一郎は確信を持って、言葉を弄んだ。
「トイレに行くのも、高田の許可が必要なんだろう? 知っているんだからな」
「命令されているんだろう? 休み時間に教室を動くなってさ」
 塚本誠二が続く。
「・・・・ウウ」
 由加里は不覚にも落涙してしまった。何と言うことか、これだけはいやだった。男子の前で、しかも塚本や対一郎ごときの目の前で頬を塩辛くしてしまうなんて・・・・。
「かわいそうに・・・・」
――あなたなんかに!そんなこと言われたくない!!
 少女は自尊心の一端を2匹の動物に見せた。思わず、ひるむ二人、なかでも太一郎は背後の机にぶつからんばかりに驚いた。しかし、彼が次ぎに取った態度はまさに逆襲という表現に相応しい。
「ヒ!?何を?」
 由加里は絶句した。さすがに誠二も驚きを隠さない。

 なんと、太一郎は少女の両手を摑んだのである。あたかも白粉をまぶした餅のような感触が、少年の手の中に広がる。逃げようとするのを無理矢理に摑むと、苦痛の汗が滲む。少年に性の目覚めを実感させた瞬間である。
 その汗の温度は、少年に官能の悦びを教えたのだ。
 しかしながら、少女にとってみれば、太一郎ごときに、同じ感覚を覚えさせるのは無理な話である。ただ、何万匹ものミミズに全身を這い上がられるような不快感だけが猪突するだけだ。
「ぃぃいやあ!ぃいやあ!」
 もはや、抵抗する力なぞ雲散霧消してしまったかのごとく、いやいやをするしかない。制服や床に大粒の涙が音もなく落ちる。
 ところで、由加里はこのころには、四人による性的ないじめを受け始めている。照美とはるか、それに原崎有紀と似鳥みるくによるいじめは、しかし、レッスンワンを履修したばかりだ。まだ下着を触れられるていどにしかすぎない。まだその中身を自分の意図を越える状態にさせられる―――などという恥辱からは無縁なのである。まだ、はるかが持ってきた性的に過激な下着を着けさせられ、スカートを短くさせられて校内や街を歩かされる ―――ぐらいのいじめである。
 
 そのぐらいとはいっても、この時の由加里にとっては、全身をなますにされるような苦痛と悲哀を伴っていた。そして、際限なしにエスカレートするいじめにただ怯えるだけだった。
今、それを男子にされようとしているのだ。
 少年たちの背後に見えないいじめっ子たちが見える。言うまでもなく、高田や金江の類である。周囲の女子たちも、由加里を嘲笑しながら腹を抱えている。
 由加里は小説を書く、いや書かされるようになって、自由自在に記憶を得られるようになった。いや、その感覚を自由と言うのであろうか。あたかも巫女が神の言葉を伝えるように、何か得体の知れない超常的存在から、知識や体験を預かっているようにも思える。
 考えれば、作家という仕事とはそれを文字に置き換えるだけではないか。この時、由加里はそれを直截的に感じ取っていた。
 照美やはるかの命令は、由加里にもう顔も見たくない記憶との再対面を強要する。あの二人はどれほど悪魔なのか、どれほどまでに自分を恨んでいるのか?
 底なし沼のような恨みの深さに、由加里は戦慄した。
 少女の体面は、まだ、まだ続く・・・・・・・・。










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いじめ文学サイト、フランス語翻訳、通訳担当 川島忠之助
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『由加里』
『マザーエルザの物語・終章』 著者

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いじめ文学専用サイト総合美術監督オーギュスト・ルノワール画
『マザーエルザの物語・終章 17』
 やっとのことで屈辱的な食事を終えると、突如として、有希江が言い渡した。
「わかったわね、家では私がみんな世話してあげるから、自分で何もしちゃだめよ。そうしたら、ちゃんと可愛がってあげるわ」
「・・・・・・・・・」
 放心状態のあおいには、有希江の言葉が届かない。まるで恐竜のように神経が緩慢になった状態では、心身両面において理解することは、まず無理というものだ。
「わかったの?!」
「ハ・・・ハイ!」
 ほとんど、パフロフの犬のようにあおいは反応した。有希江が語気を強めたために、反射的に答えただけで本当に理解した上のことではない。その証拠に、小学生らしくふっくらとした頬は、わずかに上気し紅に染められている。そして、心なしか肩で息をしているのがわかる。
 華奢な肩がわずかに上下しているのだ。筆舌に尽くしがたい恥辱が与えたショックは、あまりに強烈だった。そのために、少女はまだ意識を回復していない。
「だったら、もうおネンネなさい」
「ハイ・・・・」

 こともあろうに、あおいは全裸のままで、それも四つんばい姿勢で部屋を後にしようとした。寒さを感じることすら、ショックは、少女から奪ってしまったというのか。さすがに有希江も声を掛けた。
「ちょっと、あおい、その恰好じゃ風邪引くって!」
 同時に手足が動いて、手短にあった毛布で妹の肢体をくるんでいた。
「ウウ・ウ・ウ・・ウ・ウウ!!」
 突然、あおいは激しく号泣をはじめた。生半可な優しさは余計に哀しみを誘うものかもしれない。ささくれだったあおいの神経は、氷柱のような手で逆撫でられたのである。少女の中で起こった化学反応は、通常の数倍のスピードと勢いで全身を覆っていく。すべての毛穴は縮み、皮膚は弾力を失った。
 一瞬だけ同情を催した有希江だったが、次の瞬間、冷たく言い放った。

「あなたはお手伝いさんでしょう? 明日は仕事があるでしょう? さっさと寝る事ね」
 そういうと、尻に書かれた顔を蹴り飛ばした。
「ぅぐうう!?ヒア!?」
 まるでコミックのように転がって部屋から放逐される瞬間、あおいは有希江の言葉を思いだしていた。
――――ちゃんと可愛がってあげるわ。
 それは、犬か猫にたいする言い方だった。決して、かつての有希江の態度ではなかった。
 しかし、そんな愛情でもあおいは欲しかった。とてもこのような状態で、家にいることは耐えられそうにない。もちろん出て行くという選択肢は、今のあおいにはない。いやあるはずがない。生活能力のない少女にとって家から追放されることはイコール死を意味する。
 もちろん、国家には児童を保護する義務があり、それは成人と条件が異なるのだが、小学生の幼い判断能力と知力ではそれを洞察することはできなかった。

「ウウ・ウ・・ウウ! ゆ、有希江姉さ ――――」
 哀れなあおいの呻き声を、有希江はドアを閉めることで制した。一方、少女にとってみれば、幸せへの門がすべて目の前で閉じられてしまったかのように思えた。たった10センチ足らずにすぎない木製の扉が、数メートルはある鋼鉄の扉のように見える。もう、自分に扉を開ける家族は、この家にはいないのだと、いやでも納得させられた。
―――――そうだ、伯母さん・・・・・・・。
 この時、あおいが思い浮かべたのは真美伯母である。生来の精神病を拗らせて入院している。少女にとってみれば幼いころから自分が一番愛されたと思っている、このことが徳子や有希江が無意識ながら妹に反感を抱いてきた理由なのだが、とにかく、どんなときでも自分を庇ってくれた最高の保護者だったのだ。
 どのような符合かわからないが、真美伯母の入院と少女が家族としての身分を失ったことは、軌道を同一にしている。それに入院したのは、あおいが原因だと有希江が言っていた。少女はそれに反論する能力も意思も用意できない。

「ウウ・ウウ」
 少女は、ようやく立ち上がると自室へと急ぐ。こんな時に茉莉にでも見付かったりすれば、どのような仕打ちを受けるかわからない。本来ならば可愛いはずの妹の影に憶えている。少女はそのような事実に涙しながらも、そして、足をひきずりながらも走り始めた。
 彼女じしん気づいていないのだが相手を可愛いと思うことは、必ずしもその対象への情愛だけを意味しない。対象を自由に扱えるということも孕んでいるのだ。自分の好きなように思うがままに扱えるという自負が、『可愛いはず』という言葉の中に、産卵されている。産んだあおい自身はとうぜんながら、それに気づいていない。

  しかし、何もかも見通せることが幸せとは限らない。
 この地上には、DNAを持たない多細胞生物が存在する。その生物は食物連鎖に組み込まれていないから、滅んでもかまわない、いや、絶滅すべきである。
 全人類の精神的健康のために、消えてなくなるべきだ。そうなっても害虫駆除会社以外、誰も困らない。 
 恐怖の生き物。
 そう怖れられる。ことに、主婦連中には、親の敵のように忌み嫌われる。
 それは、真夏の台所に密かに棲んでいる。しかし、何のきまぐれか、陽のあたる場所に姿を見せることがある。すると、台所の主は、この世の声とは思えない叫び声を上げるのである。
 例えば、その主婦連中が、台所の隅々まで見透おすことができたら、幸福と言えるだろうか。
 その結果は考えなくても明白というものだ。
 行き先はよくて精神病院で、おおかたは泉の下だろう。彼女らは、美しいソファに横たわりながら表面だけの美を享受して偽りの愛を唄っていたいのだ。たとえ、その背後で汚らしく蠢く毒虫が笑っていようとも・・・・・。

 閑話休題。

 あおいは、自室の扉を開いた。真っ暗で冷たい部屋。何故か、部屋を奪われることはなかったが、新しい風が入ることは完全に遮断されてしまった。たった数日のことにすぎないのに、廃屋のようになってしまっている。いや、何百年も人の手が入っていない廃墟という趣すらある。
「ウウ・・・・ウウ・ウ・ウ!」
 あおいは、かびくさいベッドに身を投げ出した。端から見れば呼吸ができなくなるのではないかと思われるくらいに、顔をシーツに埋めて泣き声を押し込める。かつてはいつも太陽の匂いに満ちていた。今は、カビとダニの巣と化している。
 どうしてこんなことになったのだろう。永遠に続くと思われる煩悶は、何処までも少女の頭のなかで燻り続けた。

 その時、有希江は母親である久子と話し込んでいた。
「自分の娘と携帯で呼ぶってやめてくれないかな?」
 有希江は、苺を摘みながら文句を言った。
「話しは真美のことよ」
「――伯母さんのこと? それがあおいのこととどう関連するのかわからないな」
 鷹の目を母親に向ける。
「そもそもあれってママが考えたの? そこまでする必要性ってわからないんだけど」
「とにかくするのよ!」
「・・・・・・・・・・」
 有希江は母親の剣幕にやや驚いていた。まるで人が変わったかのように、青筋を立てて自説を押し通そうとする。
「それならいいけど、これをやるころであおいの何がわかるっていうの」
「これは躾なのよ、これまで甘やかしすぎたわ」
 まるで噛み合わない会話がえんえんと続く。
「それで、伯母さんの様子は?」
「状態は変わらないわ」
「じゃあ、私が会いに行っていい?」
「あなたが行ってどうするの?」
 まさに、暖簾に腕押しというより他にない。会話のための会話が繰り広げられる。
「とにかく送ったメールどおりにお願いね。ママは寝るわ」
「ちょっと、お願いって! 茉莉には?」
 有希江の言葉が終わるまえに、久子は姿を消していた。
「全く、どういうつもりよ!」
 一人毒づくと携帯を開いた。

 その時、携帯の待ち受けが鳴るのを、頭骨が削られる思いで、あおいは聞いていた。
「け、啓子ちゃ? そっかあのことか」
 そのメロディを聞いただけで、全身の血が浄化されるような気がする。新しい血が流れると頬の色も好転する。かつての陽気なあおいが戻ったのだろうか。
 しかし、啓子の声に答えるまでに相当の時間を要した。携帯に出るたったそれだけのことが、あおいには地獄の門を開けることに匹敵するのである。
「・・・・・」
「ちょっと、あおい? 一体どうしたのよ!?また寝てたんでしょう? この脳天気!! 聞いているの!? あおい?」
 最初の『あおい』と最後のそれは、自ずから声の質量とともに格段の差があった。
「ウウ・ウ・・」
「あおい? 何かあったのか?」
 少女は嗚咽を漏らしたくはなかった。しかし、一番の親友を電話の向こうに回して、気が緩んだ。
「ご、ごめんね、具合が悪いんだ」
「えー、じゃあ、あした来れない?」
「そ、そんなことないよ!?」
「何よ?」

 啓子の声からは、疑念があふれてくる。あきらかに仮病を疑っているのである。親友の背後に何かあるのか。いくら彼女の洞察力が優れていようとも、それを見抜くことはできない。もしも、それが可能だとしたら、それは彼女が人間でないという一番の証明になるだろう。
「もしかして、宿題をみんなやれって言うんじゃないよね?」
「ち、ちがうよ、でも、図星かな?」
 この時、啓子はおかしいと思った。簡単に自分の非を認めたことが、あまりに不自然なのだ。いつもはさんざんにごねるあおいが、一体どうしたというのだろう。啓子は訝ったがそれを直截的に表現することを躊躇った。声の調子が普段とちがいすぎることに、意識の周辺が文句を言ってきたのだ。陽気を絵にしたような女の子が、何があったらこんなに元気がなくなるのだろう。
「とにかく、約束だからね、あ、し、た!」
 啓子は返事を待たずに一方的に切った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・?!」
 携帯を閉じて目の前を見たとき、啓子は絶句せざるを得なかった。扉が開かれて母親が入室していたからだ。何て事か、話しに夢中でドアの開く音も聞こえなかったというのか。
「どうしたのよ?ママ、勝手に入ってきて?!」
 その返事には、半ば抗議、半ば疑問がミックスされていた。
「大きな声が聞こえたから驚いただけよ。何かあったかと思ってね」
 当たり障りのないことを言って事態をくぐり抜けるようなことを言う。しかし、その裏には真意が隠されていた。この複雑な性格を有する娘が、このごろやっと、うち解けてきたように見えるのだ。それが一人の友人が好原因となっていることは明々白々だった。一人の親としても、事態を静観しているわけにはいかないのだ、そうすべきだとはわかっておいても・・・・。

「どうしたの?何か用?ママ」

――――そう突っ慳貪にならなくても。
 危うくそう言いそうになって、改めて平静を保とうとした。
「ママ、迎えに行こうと思って」
「え? あおいちゃんの方から来るんじゃないの」
 それは、あおいの母親が送りに来るということだが、久子はこのとき、鎌を掛けたのである。彼女との友人関係がうまくいっているのか心配だったのである。
「実は、久子さん用があるんだって」
 咄嗟に嘘が出てきた。どうせ、後で話しをつなげておけばいい。大人の都合でそう考えていた。
「わかったわ、もう寝るから」
 不機嫌そうに言うと、けんもほろろに、母親追い出した。
ドアに鍵を掛けるように、自分の身体を押しつけて座り込む。背中の肌を通して、母親がいなくなったのを感じ取るとすっと息を吸う。

「一体、なんなのよ!?」
 携帯をベッドの上に投げようとしたが、啓子は、間違えて脇にあるゴミ箱に入れてしまった。その失敗を心の中に巣くうもやもやのせいにする ――――そのような高等技術をまだ会得していなかった。
 あるいは、器用な人間であれば保育園や幼稚園の段階で、それを使いこなすことができるのかもしれない。しかし、啓子はそのような星の下に産まれることができなかった。
 『星の王女さま』のように、とつぜん、啓子の元に降ってきた少女。
 それが榊あおいだった。
 彼女に出会って以来、腹の中を変えられるような感覚を味わってきた。しかも、それが必ずしも不快ではない。いや、むしろ楽しくすらある。それは、『人生で一番大切なことは砂場で学んだ』以来、変わることがなかった人生哲学を変更する事態を招いていた。
 当時、彼女の記憶の中においても、母親や教師たちの脳裏にも、たったひとりで砂の小山を作っている影像しか残存していない。孤独。それが彼女の乏しい経験から産まれた哲学だった。どんなに目を掛けてもどうせ人は裏切る ―――という思いが、生後4年にして魂の根源にまとわりついていたのだ。
 それが、あおいに出会って何かが変わった。彼女の陽気な視線は、何事か、化学反応を啓子の中に起こした。
 しかし、それは単純な感情ではなかった。必ずしも不快ではないと言ったが、その逆もまた真なりだったのである。
 愛憎という言葉で表現するのが適当とは思えないが、この場合、それよりも適当な言葉を啓子は見つけることはできなかった。
 ゴミ箱の中に視線を走らせると、携帯が悲しげに光っているのが見えた。

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『由加里 66』
「はーい、笑って、笑って!」
 年甲斐もない笑い声を上げて、可南子は由加里に携帯を向ける。彼女の指が動くと同時に、由加里はムリに笑顔を作った。それは片栗粉で固められている。
「ふーん、そういう態度に出るんだ? アレ?」 
 粉臭い味に舌までやられた可南子は不満の表情を造った。由加里に戦慄が走る。今や、可南子の表情のすべてに、敏感に反応する奴隷になってしまった。それが楽しいのかやや機嫌を取り戻す。
「なあに? 笑えないの?ママと遊んであげたのに楽しくないの?」
「ヒ?・・・・?!」
 ただでさえ引きつった笑顔が、精鋭化した恐怖によって、さらに硬化する。目尻から崩れた皮膚がポロポロと落ちる。夜に散らばった水晶の美しさを彷彿とさせた。それは肌の流す涙かもしれない。
「うふふふ」
 可南子は悪魔特有の笑いを浮かべる。

 大人が持つ迫力に由加里は、胃を直接握られるかのような感触を味わっていた。もはや、身動きはおろか呼吸すらままならない。恐怖のあまり胃液はおろか、血液まで逆流してしまいそうだ。全身が震えるために鼻の頭に咲いた汗の花までが揺れる。
「どうして、そんなの怯えているの? かわい子ちゃん。別に痛いことするわけじゃないのよ、いいこと教えてあげようか、わたしねえ、看護大学を出てはじめての職場が小児科だったのよ」
 可南子は、自分のことばに噴き出してしまった。何を埒のあかないことを言っているのだろう。まるで三流シネマの台詞じゃないか。
しかしながら、もっと自嘲すべきことがある。
 自分とは30歳近くも年下の少女相手に、変態SMゲームを繰り広げているのである。
 娘と同じような歳とは良く言ったものだが、じっさい、彼女の次女であるぴあのは、彼女のクラスメートなのだ。
  レズに目覚めたのは高校時代だが年下を相手にしたことは長いレズ生活の中でも、今年までなかった。目の前の華奢な小娘に出会うまでは・・・・・。

 少女はおむつを変えられた幼女よろしく大腿を広げて、恥ずかしい恰好を堪え忍びながら、加害者を睨みつけている。その目つきの健気な様子にほくそ笑んだ可南子だったが、自分の命令通りに、由加里が表情を作らないことに不満の吐息を漏らした。
「せっかく、キレイにしてあげたのよ、笑ってくれてもいいじゃない」
 可南子は恩着せがましい笑顔を作った。いかにもこうして見せろとばかりに、少女に迫る。
「言ってご覧なさい、いままで、ヘンタイの由加里チャンはどんな風だったのかしら?」
 その表情はあまりにも怖ろしかったために、由加里は動かすべき舌も声帯も正常に働かすことができなくなってしまった。
「ウウ・ウ・ウ・ウ・・」
「言えないの!? だったら、今晩も楽しんでもらうことになるわよ!」
「ひっ!!?い、言います、いえ、言わせてくださぁアい!!」
 とたんに、由加里の表情が青くなった。可南子の言葉が何を意味するのか、その決意の鋼鉄のような強さが、痛いほどわかったからである。いつの間にか、懇願に変わっていることが涙と同情を誘う。
 可南子は残酷に言い放つ。一見、提案しているように聞こえるが、その実、脅迫以外のなにものでもない。
 看護婦の残酷な瞳が膨らむと、由加里はそのかたちが何かを思い出させる。そう、彼女を一晩中責めさいなんだ拷問具に見えた。
「いい訳するまえに、実行したら?」
「は・・・・・はぃ・・・・・ウウ」

――――生理、血まみれ・・臭い。
 可南子にさんざん投げつけられた暴言が蘇る。由加里は、可南子の横にひとりのクラスメートが佇立しているのを見たのである。
 鋳崎はるか。その人である。
「ヒ?!」
 8ミリカメラの再生音とともに、由加里の脳裏に苦痛に満ちた記憶が蘇る。由加里が見ている影像の中で、由加里ははるかと照美に小説やマンガを描くことを強制されていた。それも単なる小説やマンガではない。少女の年令ならば手に触れるのも憚られるような内容を描かされるのである。
 最初は、はるかが持ってきた猥褻本をコピーするだけだったが、最近ではオリディナルティを要求されるようになったのである。これは、苦痛と恥辱に満ちていている行為だった。少女は全身の皮膚を剥かれるような思いに涙したものである。
 いま、由加里はそれと同じことを可南子によって、命じられていた。もっとも、はるかの命令が持つ叙情性とは完全に無縁だった。この女には文学的センスというものが完全に抜け落ちているのである。
「・・・・へ、ヘンタイのゆ、由加里は・・・ウウウ・・・き、汚らしい、せ、生理の血にまみれていました。そして、と、とても臭かったです・・・ウウ・ウ・ウ・ウ」
「そう、とても臭かったのね、鼻が曲がるくらい、見てご覧なさいよ、あの花。あなたの臭いであんなに萎れちゃったじゃない?! アハハハ」
 床がぬけるような可南子の笑いは、由加里を恥辱の地獄へと放り込む。
「それにしても、よくも、滑らかに言えたものね。はずかしい子だわ、本当に!!そしてものすごい臭いし」
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・うう!? ウウウ・・・・・うう?!」
「そんなに泣かないの!」
「ぁあぅ・・・・・」
 可南子は、由加里の股間にそっと手を置いた。少女の生理用のショーツがぐっと熱を含んでいる。可南子はそれを感じるとたまらなくなってしまう。自分の身の内に燃え上がりつつある嗜虐心に歯止めが効かなくなるのだ。
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・ウ・・・・うう・・・ウウ・・うう!?」
 激しく泣き続ける由加里。その勢いで全身の細胞がばらばらになってしまいそうだ。
可南子はいったい、自分をどのように観ているのか。それは想像すれば簡単に映像化できる。由加里の脳裏に、情けない恰好の自分が映る。

 身も世もない自分の姿に、少女は心底嫌気がさしていた。できることならば自分を消してしまいたい。その思いが涙の唄になって哀しみの音符を作っていく。
 しかし、それはまるで夏の雪のように、虚しく消えていくのだった。病室の壁にぶつかって、音もなく消えていく。
 願わくば、空をもとめん。籠の中の小鳥が大空へと自由を希うように、締め切った窓から自由になって星々の大海への遊泳を、由加里は夢見た。しかし、夢は夢におわり、虚しくその翼は堕ち果てた・・・・・・。
「ふふ、これがそんなにいやなの? 昨晩はあんなにおもらしして、楽しんでたじゃない?」
「ヒ!?」
 可南子は優しい葉っぱの上に言葉を載せたが、由加里の耳には悪魔の囁きしか聞こえないらしい。
「ふふ、約束通り、今晩は許してあげるって」
「・・・・!?」
『今晩は』という主語が濁点を以て強調されていたことに、由加里は気づいた、いや気づかされた。痛め付けられると、痛め付けられるほどに人間というのは警戒心を増してしまうらしい。今の由加里は、超合金の鎖帷子で全身を覆ってしまっている。
 もっとも、幼少時代にそれで遊んだ記憶がある人間ならば、あんがいその造りがもろいことを、知っていることだろう。ロボットの腕が何かの拍子に壊れてしまった苦い経験があるひともいるだろう。
 
 少女の精神は一見ごつい鎧で固めているように見えるが、実際は弱々しいブリキの城で身を守っているだけなのだ。
 可南子は、それに気づくともう責めることをやめた。
「おやすみ、子供は夢見る時間が必要よ」
いつか読んだ本から借用した台詞を言いながら、おやすみのキスを由加里の額にくっつけた。
「ヒイ!?」
 それは、しかし、キリでぎりぎりと穴を開けられるように、由加里は思えた。決して、甘い愛の囁きには聞こえなかった。少女はふと、昔のことをおもいだした。小学生の少女は、寝る前にある儀式を母親にしてもらうのが、日常だった。
「おやすみ、由加里」
「うん、ママ」
 別に春子は西洋のようにおやすみのキスをするわけではない。ただ、布団を掛けてやるだけである。しかし、その行為は少女に、西宮家の娘であること、そしてこの優しい母親の娘であることを、保証してくれること、すなわち、その身分を保障してくれることでもあったのである。春子の優しい手が、布団を由加里の胸にかける。その温もりは少女に限りない安らぎを与え、想像できる限りすばらしい未来を保証してくれた。
 ドアが閉まる音と春子のスリッパが立てる慎ましいそれを聴きながら、由加里は夢の世界へと遊んでいったものだ。
 しかし、今、由加里に与えられるのは氷のキスにすぎない。
哀しみに哀しみは重ねられ、不毛の山を作っていく。どれほど高く摘まれようとも、星々の大海へと達するわけがない。

 しかし、少女のクラスメートたち3人は、彼女が見果てぬ夢をいとも簡単に実現していた。


 デコボココンビならぬ、デコボコトリオは、東衣沢駅のホームに降り立った。時計は6時30分を回ろうとしている。
 それにしても、海崎照美、鋳崎はるか、鈴木ゆららの3人を行き交う人たちは、どう見るだろうか。前者二人は、どう見ても女子高生。そして、後者は小学生としか受け取らないだろう。
 3人は、何故か慌てている。一番、慌てているのは一番背の高いはるかである。小麦色に日焼けした肌にじっとりと汗を滲ませているのは、季節のせいだけではあるまい。梅雨の蒸し暑さは、空を破りたくなるくらいの鬱陶しさで、辺りを包んでいる。冷房の効いた車内から出た直前のために、脊椎を遡ってくるような不快感は、なおさらはるかの神経を逆撫でする。

「二人とも、もっとはやく走って遅れちゃう」
「別に怒られるのは、はるかでしょう?」
 自分は関係ないという顔を、親友に向ける。まだ冷戦中であることは、意識から除外してしまっているようだ。それはゆららの功績なのだが、彼女にその自覚はない。いたずらっぽい顔ははるかにしか見せない顔だ。はるかはムッとして、言い返そうとしたとき、あることに気づいた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
 喘息患者のように苦しみながらも、二人の後に付いていこうとしている。未だ、彼女の視界に二人の背中が入っているということで、表彰状をもらってもいいだろう。そのくらい、前者と後者では運動能力に差があるのだ。それを考慮できないはるかではない。
 しかし、それを不可能するくらいに、はるかは焦っているのだ。それほど、これから遭う人間は、親友の弱みを握っているにちがいない。照美は、思った。蚊が一回の羽ばたきによって押し返す空気ぶんくらい、美少女は嫉妬した。彼女のすぐ先には、はるかの褐色の頬がある。あきらかに、普段見たことがない表情だ。
「はるか、ゆららちゃんが着いて来れないじゃない!」
 二つ目の階段を上がりかけたところで、照美がその言葉をついに吐いた。
一方、このときゆららの視界から、はじめて二人が消えた。だから、ひしゃげた心臓をさらに働かせて、視界に彼女らを復活させようとする。
「・・・・・ぁ」
 改札に通じるエスカレーターに到着したとき、ゆららは二人を発見することができた。
「・・」
「おう」
 一方、二人はゆららの瞳に魂を奪われていた。それは明かにかつていじめられていたときのそれに酷似していた。その事実に意識を向けなかったことに対する罪悪感が、二人の心にできた孔から、這い上がってきた。もちろん、二人は観て観ぬふりをしていたわけではない。巨像が一匹の蟻の運命を知ることがないように、意識から除外していたのだ。
「ごめんね、ゆららちゃん」
「・・・・だ、大丈夫ですよ」
「ですよ?」
 照美は孔を塞ぐように優しい声をかけた。
「ううん、大丈夫」
 言い直したゆららの顔は上気していた。それは今の今まで喘息で走っていたからだけではないようだ。いささか、自分が受け入れられているという喜びが紛れ込んでいた。
「それにしても、こいつ『おう』なんて親父みたいだよね」
笑いながら照美は言う。
「ふふ」
 照美のつられたのか、ゆららも笑った。それにはるかが不満を述べようとしたとき、彼女の顔が凍りついた。改札の向こうに赤い車と、同じ色の『鬼』を見つけたのである。

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『マザーエルザの物語・終章 16』
「そうよ、良い子ね。ちゃんと全部食べるのよ、残しちゃだめよ。ほら、こっちに付いているじゃない」
「ウグググ・・・むぐ・・・・ぐち」
 屈辱的な姿勢。
 よつんばいにさせられたあおいは、スプーンに舌を這わせている。自分の舌が、あたかも自分のものではないような錯覚に襲われる。それは、まるで少女から独立した物体のように、銀色の半球体を移動していく。芋虫か、得体の知れない軟体生物のように、ヒクヒクとその身体を変化させながら、淫靡な汁を流す。
 それは、あまりにも現実感のなさが起因しているのかもしれない。自分がやっていること、あるいはさせられていることが、とても真実とは思えない。そのような思いは、しかし、顎の筋肉の緊張や痛みによって、それが現実であることをイヤでも実感させられる。すると、屈辱や恥辱と直面することになる。
 少女は、綺麗になったはずのスプーンに舌を這わせる。それ自身は角度が変わらないので、彼女じしんが、頭部を回転させねばならない。スプーンはあくまでも動かない。それは、鉄のように非情な有希江じしんを暗示していた。あおいは、それに従ってひれ伏すしかない。
 有希江の方から見ると、本当に犬のように見える。可愛らしい子犬が、尾っぽを振りながらまとわりついてくる。そんな妹に、憐憫とも嗜虐とも知れぬ気持がわき起こってくるのだった。
 思わず、笑みが浮かぶ。

「ほら、まだついてるわよ!」
 よく見るとわかる。カツ煮の衣の部分が、こびり付いているのだ。
 有希江は、それもすべて舐め終えるように、命じている。もしも、鏡がここあったならば、どのように見えるだろうかと想像しながら、雌犬に堕ちた自分を思う。言うなれば、それは文字通り自慰ということになるのだろうか。もちろん、小学生のあおいにそのような知識はないから、そこまでの理解は不可能だった。しかしながら、意識の辺境でそれを認識していた。
 自嘲という行動は、人間にとって高等技術である。意識的にそれをするほどに精神が成長していないが、無意識のレベルで行っていることで、少女を美しく魅せていた。内面の灯火が見る人に感動を与えているのだ。
 しかし、当の少女自身は自分自身の内面などに、興味を持つ余裕があるわけはない。
彼女はただ、自分の舌に意識を集中させる。それが限界を越えると、舌自身の蠕動行為に委託する。
――――勝手に舌が動いている。
 そう思った方が精神的にも、肉体的にも楽なことはもう書いた通りだ。

 顎が痛い。この姿勢を維持するのは、首の筋肉に極度の緊張を強いるし、腕にも相当の負荷がかかる。気づかないうちに、両手が指がわなわなと震えている。
 有希江は、皇帝か国王のようにテーブルに座りながら、あおいにスプーンを差し向けている。しかし、しばらくすると飽きがきたようだ。
わざとらしく、スプーンをわざと離した。
「ほら、餌はこちらよ、あおいはぐずなんだから!」
「うぐ・・・・・痛ッ!?」
 スプーンで、あおいの頬や鼻を打ったりする。そして、可哀想な妹の顔が汚れるのを見て楽しむわけだ。
「あおい、何をしているのよ。あんたって子は、まともに食事もできないの。犬や猫の子だってできることよ。あなたはそれ以下ねえ!?アハハハ」
「ウウ・ウ・・ウ・ウウ」
 恥辱を表す涙がかたちのいい頬を伝う。

「ふふ、まだ残っているわよ」
 有希江が皿の底を覗いた。そのとき、有希江のひじが四角い箱に直撃した。
「あら」
 箱だと思った物は、一冊の本だった。書名は、『百川高等学校世界史』。物体が床に落ちるまで一秒とかからないだろう。それは、人間にとってみれば一瞬のことだが、高解像度カメラにとってみれば無数の世界と空間が目の前に展開する。ここで、カメラの視点を採用してみよう。
本が落ちたとき、それは、491頁を開いていた。
『20世紀前半のバルカン、アッバース・トルコ朝から独立する西スラブ諸民族』
 おそらく、小学生のあおいにとってみれば、ほとんど何のことか見当も付かないだろう。有希江は、遊び人でありながら、その成績は常に非凡な能力を持っていることを証明している。しかし、まだ授業でやっていない範囲だ。それに、世界史にそれほど興味があるわけではない。だから、彼女にしたところであおいの理解力をはるかに凌駕しているというわけではない。
 
 有希江の視力は、ニフェルティラピアという活字を捕らえていた。
 あおいは、自分の感情を飼い慣らすのに汲々として、姉の視線に感受性を発揮するところではない。事実、姉の目の色が変わっていたことにも気づかなかった。日本人なら当然だろうか、茶色の瞳は、薄い榛色になっている。その憂いを含んだ目つきは、本来の、少なくともあおいが知っている姉ではないはずだ。

 この時代のことを、教科書はたった数行で片づけてしまう。
 1913第一次世界大戦勃発。
 1914年、ニフェルティラピア、独立宣言。しかる後、アッバース朝トルコに宣戦布告。


 一般的な世界史の教科書において、ニフェルティラピアについて詳しく書かれることは少ない。その国名すら転載されない教科書も珍しくない。しかし、そこは行間を読んでいただこう。
 有希江は、たしかにそこにいた。
 ただし、意識的には外の世界になんら関われない身として・・・・・・・・。
 意識に、二重にも三重にも虹を掛けられて、彼女は夢の中にいたのである。
 彼の地は空気が乾燥していた。だから、風景は固まって見えた。たしかに、人間たちは自分たちの骨格が大地に屹立して生きていたのである。家屋を一歩出るならば、すぐに地平線が開けていた。  湿潤な大気を持たぬぶん、陽光は厳父のように降り注ぎ、色彩に力を与えていた。
 小さな体、全体でそれを受け取っていた。
 父の視線を太陽とし、母親のそれを月として朗らかに成長していたのである。
 
 その時、たしかに太陽と月が世界のすべてだった。しかし、突如として両者が争っている声が聞こえた。小さな彼女にしてみれば、世界の半分と半分が矛を交わしているのである。それは、世界そのものが終わるかのような恐怖だったにちがいない。
 やがて、それは終結し月が姿を消した。世界は太陽だけになった。しかし、彼女にとって明るい世界ではなかった。たしかに巨大な光に世界は照らされてはいるが、ただまぶしいだけの冷たい照明にすぎなかった。
 以上は、有希江が幼児から見続けた夢の一部である。高等部に入って、世界史を知るにあたってニフェルティラピアという国名に触れた。そのことが、夢に濃い色彩と立体感を与えることになった。しかし、それが真実どのような意味を持つのか、この時の有希江はまだ気づいていない。

 有希江は自分の感情を解明していない。ただ、泉のようにあふれるままに、喉の渇きを癒やしているだけだ。
「あら、こちらのお口も涎を垂らしてるわ。どちらが、本当のお口なのかしら?」
「へ? ぇえ!?いやあぁぁぁ!?」
 最初、あおいは姉が何を言っているのか理解できなかった。しかし、すぐに体で知ることになった。よつんばいということは、ハマグリの口を背後からあからさまにすることになる。
 有希江は、妹の性器に米を挿入したのだ。炊いてからかなり時間が経っているだめに、そうとう滑りが発生している。それだけに、少女の性器の細かなところにまで侵入し、刺激を与え続ける。
「ぅひい! ぃいやあ! ぃぃいやあああ!!」
「こちらのお口も満足させてあげなきゃ、不公平でしょう? それに ―――」
 あおいは、返ってくる言葉の鞭を予想して、身構えた。しかし、その毒の意地悪さは想像以上だった。
「どちらのお口が、本当なのかしらね? いやらしいあおいチャンのアタマはこちらかもね? うふふ」
 小学生のあおいにも、言葉の持つ辛辣さは明かである。上半身よりも下のほうが、重要だと言っているのだ。そう、肩に乗っかっている可愛らしい小顔など、何の意味もないと言い放っているのである。それは、ダイヤモンドで造った土台すら、簡単に腐らせてしまいかねない。少女のか弱い精神など一瞬で、腐食させてしまう。

「ぁあぐう!ァァアグウ・・・・・!! お、おねがい! ゆ、有希江姉 あね、姉さん! ゆ、許してェ・・・・・ぁあう!?ぅ!」
 しかし、局所を襲う暴虐は、一種の麻薬の役割を果たしていた。認めたくないことだが、心の何処かで、それを歓迎している。もちろん、意識ではそれを受け入れたくない。そのことは、自分が人間でないと宣言しているようなものだ。残存した人間の尊厳は、けっして少女にそれを許さなかった。
「はあぁぁぅう!? ぁぁはぅ!?」
「あははは、やっぱり、こちらの方がお口なんじゃない? 何だったらと目と鼻を書いてあげてもいいのよ」
 有希江は悪魔的な笑顔を浮かべると、デスクから黒の油性マジックを取り出した。そして、キュキュと淫靡な音を立てながら、目と鼻を一気に書き上げた。
「ふふ、下のお口は隠さなくちゃね、うふふふ」
「い?ひぐう?!」
 たまたま見つけた革ジャンをあおいのアタマにかぶせた。革ごしに、かわいい妹のうめきを振動として感じる。

―――有希江姉さん! 有希江姉さん! もう許して! 堪忍して!!
 空気の震えを伴わない音は、たしかにそう言っている。革が遮断する少女の哀しみに満ち汗と叫びは、温度となって伝わってくる。熱伝導の法則は、有希江の掌を温め、その血管を拡張させる。有希江はそれを不快な感覚として受け取った。それはどうしても認めたくない気持が関係しているのかもしれない。愛情と憎しみが白昼する相殺点にて、何が見えるのか。その地平に現出する風景が意味するものは?
 その問いに答えるためには、あきらかに記憶が欠けている。この世の生を受けて16年、あおいと出会って10年間、確かに玉の人生を歩んできた。彼女と同じ唄を唄ってきたわけだが、その中にいやな曲は一曲もなかった。
 ならば、どうして妹が憎いのだろう。あれほどに可愛がった妹は、よつんばいになって、女として大事なところを弄ばれている。相手が姉であって、異性でないことは、けっして慰めにならないだろう。  
 いやらしい中年男に性的な虐待を受けることに比べて、残酷でないなどということはできない。むしろ、同性でしかも姉であることが、あおいに与えるトラウマは、筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。
その証拠は、妹の泣き顔を見れば明らかだろう。まるで、出産直前の女性のような顔をしている。
 苦痛と恐怖に、目と鼻と口がばらばらになる。それぞれ固有の意思に目覚めたかのように、動き出した。
 革特有の臭い。醤油に味の素を混ぜたような臭気は、あおいの鼻を詰まらせ絶望の孤島へと彼女を追放する。
 革ジャンによって阻まれているとはいえ、ハウリングした声は、むしろ悲しげに響いている。有希江は、それを微笑さえ浮かべながら見下ろしている。それは、決して母親をはじめとする家族に迎合しているわけじゃない。母親からもらったメールが脳裏に蘇る。その文面から伝わってくる思考の波は、共感できる部分とできない部分がモザイクのように混在して、ひとつの絵を構成している。
 
 しかし、その絵を仰いでも何も生まれない。むしろ思考は停止して、頭の中は真っ白になってしまう。確かにそこに何かがあるはずなのに、それがわからない、触れられない。加害者は加害者で、苦悩の文字で便箋を埋めているのだ。もちろん、そんなことがあおいに伝わるはずはない。あんなに深かった姉妹の絆がこんな形で、崩壊し、今はむしろ、マイナスの方向に絡みあうなどと、つい数ヶ月前には思いもしなかったことだ。
 当時は、外界から刺激を受けると、性器が濡れるなどとことは知らなかった。たしかに、勢いよく下着を穿いたときなど、ぐうぜんにも局所が刺激を受けたときなど、意味不明の感覚を味わうことがあった。しかし、それが快感という言葉をイーコールで結ばれることはなかったのだ。
 
 今、両者は少女のどこかで連結しようとしている。それは、彼女にとって身を裂かれるほどの羞恥心を呼び寄せた。

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『由加里 65』
「あははは、なんて臭いかしら? これじゃ、奇形児しか生まれないわね。それにしてもなんて臭う月経なのかしら?臭い!臭い!!臭いわ!!」
 少女のハマグリが鉄臭い血液を吐き出す。それを見ると、すぐに可南子はクラクラと笑声を立てる。すると、女の鼻梁がヒクヒクと動く。そこから腐ったマヨネーズの臭いが漂ってくる。
「ウウ・・ウ・ウ・ウ・ウウ!!」
 由加里の目には、異常にきらきらしている可南子の鼻梁がやけに目立つ。脂を塗り付けたかのように、いやらしく光を反射する鼻梁は、女のいちばん、醜い部分を暗示しているように思えた。
 男ならば、一瞬で卒倒しそうな腐った臭いのなかで、二人は相対していた。はたして、どちらが臭いを発しているのか、傍目にはわからない。病室は、自分の胎内で行われている行為をどのように感じていたのだろう。腹が痒いとでも思っていたろうか。

「見てみなさい、ほら、見るのよ!」
 声量は小さいが、決めつけるような物言いは、可南子をじっさいよりも大きく見せた。鈍く光る眼光。大根を思わせる外観は、少女を戦慄させる。可南子は、少女の頭をむんずと摑むと、無理矢理に自己の股間を見させた。そこには真っ赤に濡れる性器があった。
「あら、あら、生理だけじゃじゃないみたいね? とうめいな液が出ているわよ、いやらしい液がね!  由加里ちゃん、それ程までに男が恋しいの!?本当に恥ずかしい子ねえ、アハハハ」
 可南子の手が、少女の股間を探す。そして、企業の科学者が、秘密への入り口で指紋IDを照会するように、そこに手を這わす。由加里の性器は、誰かに触れて欲しげに、ヒクヒクと言っている。少なくとも、可南子にはそう見えた。
 女は、嫌らしげにほくそ笑むと、ハマグリの口を確認する。
 慣れた手つきで、その位置を認めると口腔内へと指を挿入する。
「ウグ・・・・・ゥ!?いやあぁあぁぁぁ!?」
 激しく胸郭を上下させて、いやいやをする由加里。局所はふだんでも敏感な部位である。それが生理中となると、その感度は数倍となる。しかしながら、単純に快感が倍増するというわけではない。  性に対する不快感も右にならうからである。

 まるで自分からはみ出てしまうように思える。もはや、そこは自分ではない。そう思うことで、自我の同一性を保っているのかもしれない。それが思春期の独自の心理だろう。しかし、可南子の歪んだ眼光と鼻息は、少女の感傷など目に入った小虫ほどにも感じない。
「嗅いでみなさい、臭いでしょう? 自分が出したものがどれほど臭いのか、よく知ることね!?」
 可南子は、少女の孔から抜いた指を、彼女の眼球の前に差し出して見せた。少女の、柔らかな瞼は、有無を言わせぬ暴力によって、開かれている。少女は、そこに歪んだ鉄を感じた。この世のマイナスの磁力が、すべてそこに集積していた。
「ウウ・・ブ・・・・・ウウウウウ!?」
 片方の指で、整った鼻梁を歪ませて、その孔を開かせる。当然のことながら、少女じしんが排泄した愛液と生理血が、べったりと顔にへばりつく。普段は、気にしない臭いがやけにひどく思える。それは、可南子にさんざん罵られたせいか。

 その行為は、あたかもこの醜女の嫉妬心を満足させるかのように見えた。月の女神ヘスティアは、三日月の目で苦笑していた。自分の力が地上に及ばないことを悲しみもしたし、安心もした。
 さて、可南子と由加里は、自分の全く知らない次元のことなど、露知らぬといった感じで、人間の関係を続けている。
 人間の関係とは何か。それは喰う者喰われる者。言い換えればいじめというただひとつの単語に集約される。
 この世に、対等の人間関係なぞ何処にも存在しない。麗しい友人関係や家族関係などというのは、ファンタジーのなかにしか存在しない。一見、温和に見えるだけ陰険で醜悪な感情が、その底流に見ることが出来る。

 閑話休題(それはさておき)。

「あははは、キレイな顔が台無しね、だけど、生理がこんなに臭い女の子には、相応しいわ。ついでに言っておくと、この病院には私の伯母がいてねえ、美容外科医なのよ。マイケルジャクソンみたいになってみる?!」
 当然のことだが、可南子は海崎照美に知己がない。もしも、由加里が照美ほどの美少女だったら、本当に傷をつけないまでも、しばらく顔が元に戻らないほどには指に力を入れていたかも知れない。
 少女の脳裏には、さきほど急逝した外人歌手の顔が浮かんでいる。まるで骸骨のような頭部は、とうてい、スーパースターのそれのようには思えない。
 そうは言うが、可南子ですらリアルタイムで、彼を知っているわけではない。少女が詳しく知るはずもない。だいいち、少女は、2000年代のユルイ音楽文化に慣らされた世代である。マイケルの良さが理解できるはずもない。

―――――なんで、あんな死に神みたいな人が、騒がれているんだろう。
 少女は、テレビ受信機を通してマイケルを見ながら、思ったものだ。それは上の世代が、消化しそこねた食物のようなものだ。

―――――あの人たちが大事にしているものって一体なんだろう?
 スーパースターの追悼番組と称して、大人たちは、浮かれ騒いでいる。彼の身体にこびりついたコールタールなどは完全に無視している。
 由加里が見るところ、良くて出来損ないのマネキンにすぎない。
 ただ、児童虐待者という不名誉なイメージだけが、まとわりつく。それが、目の前に存在する可南子と像が収斂する。過剰に塗りたくられた乳液は、嫌らしげなテカリを作り出す。一見、彼女はマイケルとは似ても似つかない容姿である。わりとふっくらとしているにもかかわらず、痩けた頬は、何処か似ているような気がする。骸骨を容易に想像できる外見などは、なおさらに、彼を彷彿とさせる。週刊誌に載っていた彼の顔は、まるで子供が厚紙で作った顔のように崩れていた。
 恐怖に戦く少女の目からは、可南子はまさにそれと像が重なるのだった。
「ヒ・・・・ゆ、許してエエ!?」
 そんなことが、現実的に起こるとは思えない。それが常識的な見方である。しかし、今の由加里に通用するはずはない。今にも、顔にメスが入るのではないかと怯えた。
「ナあに? 顔がそんなに大事なの?」
「・・・・・・・・・・?!」
 可南子の責めは、酸鼻を極めた。少女の心にメスが入り込む。傷を抉り、赤い血を流させる。
「聞いているのよ!?私は!!」
「ヒヒグウ!ぅ?」
 少女の顔に、さらなる力が入る。可南子の指が、少女の頬、鼻の穴に侵入していく。若々しい顔に似合わぬ影を作り出す・・・・・・・・・・。
 夜は、哀れな少女の境遇を思って、戦慄いていた。それが病院を覆って、入院患者の余命を奪ってしまうように見えた。

 ここで、時間を遡ってヘスティアには、地中に戻ってもらうことにしよう。
 巨大なコンクリートの壁が、地平線まで続く。中をうかがうと、鉄塔がそそり立っている。バロック的な飾り気など入る隙間もない。
 そんな壁の前に、赤い車が止まっている。しかし、その車は、背景とはまったくちがう、あるいは、その巨大な建築物を、呑みこんでしまいそうな瀟洒さが、その車にはあった。
 
 ルィィィィン。

 ごく機械的な作動音ともに扉が開く。それには生命的な雰囲気すら醸し出されている。
中から出てきたのは一人の女性だった。すくっと、黒いタイツが見えると、すらりと伸びた長身が出現した。彼女はOLを思わせるスーツを着用しているが、隠しきれない筋肉が、その身分を暗示している。
「もう少しね ―――」
 女性は、メタリックな輝きを見せる車体に、身を寄せると携帯を取り出した。
 彼女の氏名は、西沢あゆみその人である。世界的に名を知られるテニスプレイヤーである。世界ランキング3位は、男女通じて、日本テニス史上最高位である。まさにスポーツ界の寵児という名を欲しいままにしている。
 そんな人物がどうして、こんなところにいるのだろうか。
 向こう側から、美しい女性が歩いてくる。彼女はそんな解答に答えを示してくれるのだろうか。
 あゆみは、恐るべき言葉を吐いたのである。
「母さん・・・・・」
「あゆみ!」
 しかし、女性は語気を強めて、あゆみを嗜めた。彼女の年令は、外見からはわからない。
20歳を越えているあゆみの母親ならば、少なくとも40代のはずである。しかし、どう見ても30代にしか見えない。
 決して、若くは見えないが、中高年でもない。
「早く乗ってよ、誰も見ているわけじゃあるまいし ・・・・・」
「あなたは有名人なのよ、それを自覚しなさい」
 車に乗り込みながら、女性は畳み掛けた。

「行くよ」
 女性が助手席に乗り込んだのを確認すると、エンジンを掛ける。軽快な音は、生物の覚醒を思わせる。冬眠から醒めた熊のそれを思い出せばいい。芸術品を思わせる内装とメータに代表される電子の顔は好対照を為している。
 良い車について、あるドイツの評論家の言葉がある。
「良い車とは、いつ動いたのか、わからないことを言う、もちろん、同乗者にとってだけどね」
 彼は、かの国の元有名エンジニアなのだが、言い得て妙ではある。

 あゆみが操る車はたしかに、それを同乗者に悟らせなかった。しかし、その功績は必ずしも車の性能とは関係ないかもしれない。
「で、どうだった、姉さんは」
「いつもと変わらないよ」
 母娘の間に、彼女らにしか共有できない空気が生じる。
「私のことなんか言ってた?」
「怪我のこと心配してたよ」
 あゆみは、母親の言葉に満足できない。それをアクセルにぶつけようとする。
「ねえ、あゆみ・・・・・・」
「もう、来ないで。わざわざ、迎えにくる必要もないだろう。母さんのところにもね」
 あゆみは、それには無言で答えの代わりにした。それは抗議の現れでもある。大きな造りの目や鼻は、整っているが美人というよりは、美男子と表現したほうが適当だろう。その点に関してみれば、鋳崎はるかと軌道を一にするだろう。

 しかし、次ぎの言葉があゆみに、口を開かせることにした。
「でも、あなたがお父さんに似てくれてよかったわ」
「な、何を言っているのよ!!」
 いきなり激昴するあゆみ。しかし、年の功というべきか、母親はまったく意に介さない。
「よく、それでシャラポラに勝てたわね」
「これは試合じゃない。人生は」
「だけど、インタビューで言ってたけじゃない、テニスは自分の人生だって」
「母さん!」
 器の差を如実に見せつけられたかのように、あゆみは押し黙ってしまった。
 母親も、もう何も語ろうとしない。二人の間に触れてはいけない空気が横たわっている。それは他 人には窺い知れない過去なのかもしれない。
車は音もなく駅前に止まった。そして、車外の人となった母親は、娘を一回もふり返らずに、改札の向こうへと消えていった。
 そして、あゆみの車も背後になんら未練もないように、暗くなり始めた喧噪へと滑り出す。しかし、背後を過去と同一視できない。振り切れない。そんな思いに囚われて、彼女はムリに自分を励まそうとする。
 いっそこのこと、歩行者を轢き殺してやろうかと思った。

―――ドケよ! 一般人ども!!
 あゆみは、高校生の自分に戻っていた。
自分は特別な人間だと思っていた。周囲の人間は、自分を女神のように扱う。しかし、知っている。  彼ら『一般人』が彼女がいないところで、どんなことを言っているのか・・・・。
「あの人、人間じゃないよね」
「完璧すぎてコワイよ、きっと泣いたことないだろうな」
「そうよ、人を見下してさ ―――」

――私ったら、旧いことを・・・・・・。
 あゆみはやっと、エンジンを吹かすことができた。車は、彼女の皮膚になってくれる。すべての脳に発するすべての神経が、すべてのパーツに連結される。それらがみんな彼女の意のままに動く。タイヤに巻き込まれて飛び跳ねた砂粒が、車体をかすめる。そんな些細な刺激すら、あゆみに伝えられる。ハンドル、エンジン、ギアが彼女の手足のように自由になる。
 しかし、カーステにCDを挿入することくらいは、手動でやらねばならない。
「マイケルジャクソン、デンジャラス? 奇遇な。あいつへのレクイエムのつもりで聞いてやってもいいわね」
 ラケットを扱うように、優雅な手つきでCDをセットする。
 しかるのちに、聞こえてきた音。
 それは、1980年代への葬送曲に聞こえた。
「90年代があまりにも印象が薄かったからね ――――――」
 あゆみは、背後へと飛び去っていくライト群を、過去に見立てた。
 エンジンはなおも軽快に、夜の街に響き渡る。

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