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主人公はu15の少女たち。 主な内容はいじめ文学。このサイトはアダルトコンテンツを含みます。18歳以下はただちに退去してください。
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『姉妹8』


 PCの電源をオンにしながらも、奈留は、PCのメーカーや品番が微妙に違うことになぞ一向に気づかなかった。
 ただ、ひたすら、日時に注目した。
「え?5月12日?」
 それは、少女がまさに帰宅しようとして拉致されたその日だった。あれから三日が経過している。いったい、その間に何があったのだろうか?
 恐ろしいことだが、彼女の好奇心はネットに向っていた。自分たちの事件はどのように報道されているのだろうか?小説やテレビドラマから学んだことだが、人間が誘拐されたとき、人命が尊重されるために報道協定という名の規制を行うという。万が一、犯人を刺激したら、人命が脅かされかねない。そのための配慮であろう。
 しかし、あの事件から三日が経過し、見事、自分たちは助かっているのだから、マスコミが動いていてもおかしくない。犯人が確保され、被害者がほぼ無傷で解放となれば、彼らはよだれを垂らして迫ってくるはずだ。しかし、病院の周囲にはそのようなものの気配などまったくなかった。
 試しにネット検索にかけてみる。
 姉妹、誘拐、外国人、というワードを打ち込む。
 しかし、自分たちに関連する事件はいっさい起こっていないようだ。もしかして、PC電源を入れた瞬間にもといた世界に帰還したのだろうか?いや、すこし、考えればそれはおかしいことがわかる。なんとなれば、病院の周囲にマスコミはいなかったからだ。それとも、自分たちが知らないだけで、山村刑事や病院がうまく処理したのだろうか?
「そうだ、山村さん・・・?え?!」
 腰をひねった瞬間に、何か紙切れのようなものがふらりと床に落ちた。それを拾ってみると、はたして、山村莞爾、携帯909・・・・・・・。という文字列が並んでいる。そうか、この世界では、909で携帯の番号は始まるらしい。
 携帯を開いた瞬間に、はたして、その番号を押していいものか、奈留は悩み始めた。おそらく、別れるときに気づかないように入れたものだろう。恐ろしく完璧な手際だ。刑事というよりもすり師と言った方が適当かもしれない。
 もっとも、あの時はかなり感情的に乱れていたから、気づく暇もなかったのかもしれない。だが、いま、彼女が実質的に頼れる存在は彼のみ、だということだ。
 それよりも・・・さらに不可解なことがある。ようやく、元の回転速度を取り戻した少女の脳は、矢継早に記憶をよみがえらせる。
 この世界の両親は、奈留を疎んじているにもかかわらず、この携帯やPCを与えているのだ。前者に限ってみれば、以前の世界から持ち込んだとも考えられるが、PCに関していえば、それはちがう。しかも、メーカー名が微妙にちがう。携帯もそうだ。この世界に持ち込んだ品ではないようだ。
 目を皿のようにして点滅するモニターを睨み付ける。
 使い方も違うのかと思ったら、それは杞憂だったみたいだ。
 だが、・・・少女は、携帯を握りしめて、どんな顔が浮かぶのか確かめていた。しかし、誰も浮かばない。友人はいた。たくさん、自他ともに認めるほどの人気者だったはずだ。しかし、いざ、このような困った状況に置かれて、頼るべき人間が浮かばない。
 もしかして、本当は自分に友人なぞ一人もいなかったのではないか。実に空恐ろしい考えが少女を襲ったのである。
 何処かで犬が吠えている。帰宅当時に出会ったと同じだろうか。あいにくと、彼女にはそれと同定する材料がなった。
 そのような、どうでもいいことに意識が逃げるほどに、少女は打ちのめされていた。あえて、心に浮かぶのはあの少女のことだ。
 今井真美。
 いままで、それほど仲がよくなかった子だ。だが、クラスのだれしもが自分を好いていない、そのような状況が耐えられずに、友人たちの制止を踏み切って話しかけた。彼女は、いつも、ぽつんとひとりで文庫本を広げているような子である。同じく、読書が好きな奈留は話が合うと踏んだのだ。しかし、奈留はそのような情報を友人たちには知らせていない、彼女たちとの間では、いつも流行の最先端を追いかけているような自分を演じていたのである。そうした方が、誰にも好かれる奈留を楽に演じられた。
 それはともかく、真美はこともあろうに、奈留の申し出を断ったのである。
 それも、気が弱そうでどんな嫌がらせを受けても眉間に皺ひとつ作らない彼女が、それいやそうな顔で言った。
「近づかないで」
 真美の、そんな態度に、教室中は奈留の味方になったが、それを背に交際を迫るほどに奈留はプライドが低くなったので、クラスメートを制した。だが、さきほど以上にものすごい形相でこちらを睨み付けていた。
 大げさな表現ではなく、比喩でもなく、少女は後ずさって床にへたり込みそうになってしまった。寸でのところで、それを防いだのは、このクラスのリーダーだという自尊心のなせるわざだったのだろう。
 断っておくが、過去を見ても彼女と深いかかわり合いがあったとは思わない。実は、小学校の1,2年のときに同じクラスになっているが、奈留の表層記憶には残っていない。
 いったい、この状況をどう判断するべきか。
 机に手を乗せて、辛うじて体重を支えることに成功した。その手は震えているのに
気づいたのは、その机についている少女だけだった。あろうことか、本人すら気づいていなかったのである。
 そんな苦い記憶がよみがえる。
 だが、彼女の携帯番号は知らないだから、かけようもない。否、かけることもできない。しかしながら、安心したのも束の間、携帯が聴いたこともないメロディともに震えだしたのである。
 いったい、誰の待ち受けだと思って、携帯を見ると・・・・・。
 今井真美・・・。
 絶句という言葉がこれほど適切な状況もないだろう。
 どうして、彼女が自分の携帯番号を知っているのだろう。しかし、いっしゅんでそれは氷解した。ここはかつて奈留が知っている世界ではないのだ。自分は迷った旅人であって、予想もしなかった出来事に出会っても何もおかしくないのだ。
 恐る恐る携帯を耳に当てる。
 すると、自分の口が自然に動いた。
「ご、ご主人様、こんばんは・・・犬以下の奴隷に何用でございますか・・・?」
 信じられない言葉が堰を切ったように口から零れる。これはどういうことか?考えるまでもなく、自分は学校でいじめられているらしい。その主犯は、あくまでも、いじめが刑事罰に値する罪であると仮定したうえでの話だが、あの今井真美だということになっているのだ。
 すこしばかりの沈黙があって、同年代のものと思われる少女の声が聞こえてきた。
「折原、かなり奴隷が板についてきたわね。いや、ほんとうの折原になったということかしら?」
 「ハイ・・・おり、折原、奈留は今井様をはじめとして、クラスのみなさまの、奴隷でございます・・・こんなおぞましいゴミ屑が・・・」
 声は、奈留を制した。
「今晩はそれでいいわ。私も眠いの。要件だけは伝えるわ。メールで送るから、その通りの格好で学校で来るのよ、みんなで、奴隷にふさわしいのを考えてあげたのよ。感謝しなさいね」
「ありがとうございます・・・ご主人様・・・」
 みなまで言わずに携帯は切れた。まるで自動機械のように口が動いた。きっと、普段からなんども言わせられているのだろう。それにしても、なんとひどいいじめなのだろう。奈留は戦慄を覚えた。しかし、もっとも恐ろしいことは、自分があくまでもこの世界にとってみれば客人にすぎない、ということを忘れてしまうことだ。
 どう考えても、さきほどの声が真美のそれとは思えないが、よく記憶を反芻してみると、そう聞こえないでもない。
 いままでおどおどしていた彼女の表情しか印象にないから、すぐにさきほどの声には結びつかないが、自分を睨みつけたときのものすごい形相からならば・・・ちがう・・・それでも、想像だけでは奈留の中で合致しない。
「あ、メールだ」
奥原知枝。
 その氏名が点滅した瞬間に、奈留の頬はほころんだが、ここは異世界なのだ。知枝という少女は奈留の信奉者なのだ。それはここでは通用しないだろうと、覚悟を決めて携帯を見る。
「折原にお似合いのエサを用意しておくからね。ご主人さまより」
 そのメッセージが目に入った瞬間に、奈留の指は勝手に動いていた。
「このみっともなく、とても臭い折原奈留のエサを用意していただいて、大変に恐縮です
ありがとうございます。奥原さまの忠実な奴隷より」
「・・・・・」
 
 いったい、エサとは何事だろう。どんなことをさせられるのだろうか?それを想像すると、思わず嘔吐したくなった。身体は知っているのだ、毎日、自分がどんな目にあわされているのか。
 そんなことをしているうちに、今井真美からメールが来た。
「こんなに遅くで悪いけど、ミミズを用意してちょうだい。家の周囲にいくらでもいるでしょ?それを数匹、アソコに入れて、学校に来ること・・・・わかった?」
「ミミズ?アソコ?」
 とたんに、性器がうずいた。身体が自然と動く。奈留に告げている。何処にミミズが多く住んでいるのか、それ以外に何が必要なのか、そう、アルコール。よく洗って消毒しないと・・・。
 「9時30分・・・・」
 奈留は、懐中電灯を押入れから取りだすと、お目当てのものを得るために外に向った。できるだけ音は出さないようにする。これからすることを家族にけっして知られてはならない。
 こんな時間だから、両親は起きているから注意しないといけない。別に自分のことを心配するからではない。こんな目にあっているのはすべて自分が悪いのだ。だれのせいでもない。
 そんな思いが身体からじかに伝わってくる。
 奈留の心は完全に無艇庫のまま、身体の奴隷と化している。
 家を出る。裏はちょっとした森になっている。鬱蒼としたというほどでもないが、昼間はともかく夜ともなれば、少しでも足を踏み入れたら二度と戻ってこれないような気がして恐ろしい。
 2、3歩ほど足を踏み入れると、少しでも掘ればミミズが手に入る。いつものことなので、バケツと小さなシャベルが置いてある。
 いつものことなんだ・・・・。
 奈留は哀しくなった。想像するに、とても、人が人にするようなことではない、とてもひどいことをされているのに、それでもなお学校に通っているのだ。この世界の奈留はとても強いのか、頭がおかしいのか。
 少女は、幼い子供がよくする膝を抱えた格好で、シャベルを地面に突き立てた。大粒の涙が意識とべつの働きをする何かによって流される。身体が泣いているのだ。それにたいして、少女はかける言葉を知らない。慰めるすべはいったいどこに隠されているのだろうか、すくなくとも、この地下には見いだせないだろう。
 懐中電灯が見つけたものは、ぶくぶく肥ったミミズだった。はちきれそうな、その代物は血色がいいのか、ピンクよりも赤により近い色をしている。こんなものを性器にはめ込んで、登校しろと言うのだろうか。
 奈留は絶望的な気持ちになった。
「本当なの・・・!?本当に、こんなことしなくっちゃいけないの!?ひどい・・・・」
 
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『姉妹7』


 どうしてだろう、どうしてこんなに寒いのだろう?初夏の季節柄、ボンネットの中に閉じ込められていては、蒸し暑くて叶わないはずだ。しかし、この冷え状態はどうしたことか。当たり前のことだが、冷房がこんなところまで届くはずがない。そもそも、ここは人間が入れられる場所ではないからだ。
 筆舌に尽くしがたい恐怖のために、温度感覚が麻痺しているのかもしれない。
 車がカーブを曲がるたびに、少女の華奢な身体は大きく揺られて、飛び回る。それだけでなく、何かの荷物が奈留の身体の何処かに当る。とても痛い。もはや、上下左右の間隔も曖昧になりつつある。
 だが、彼女の胸中を支配しているのは、そんなことではない。
 いま、置かれているあまりにも不自然な状況が、この世界においては自然であることだ。それがあまりにも恐ろしい。
 ここで生まれ育った奈留は、いったい、どんな少女なのだろうか?こんな目にあわされて、どれほど歪んでしまったのか、想像だにできない。いや、今の自分、元の世界においてみんなに愛されていた折原奈留がけっして歪んでなかったとは断言できない。
 そうは言っても、これほど非人道的な状況下でまともに人が育つはずがない。
 だが、そのように小説の世界で人を語るような言い方に、何処か違和感を覚える。折原奈留は、折原奈留であって他のだれでもないのだ。
 ここはパラレルワールドと呼ばれる世界なのだろうか?奈留は、SFにはそれほど明るくないが、読書家であることを自認しているだけに、概念くらいは頭の隅に辛うじておさまっている。正確には理解していないかもしれないが、平行世界、すなわち、自分が住んでいる場所と並行して、似ているのだが、けっして同一ではない世界が無数、存在する。その程度のことは知っている。
 もしも、ここがそのパラレルワールドならば、ここに元いた折原奈留はいったいどこに行ってしまったのか?あるいは、入れ替わりに、かつて、自分がいた世界に吸い込まれたのかもしれない。ならば、急に優しくされて戸惑うことだろう。ちょうど、今の奈留の逆の状態だ。
 だが、今、彼女にとって喫緊の問題はそんなことではない。
 ガラ、ガラとすさまじい音を立てて、ボンネットの中を泳ぎまわる。少女の自己意識においては、冷静にものを考えているようだが、実際は、両親を呼びながら激しく泣き叫び続けていた。
 はたして、どのくらいの時間が経ったのだろう。永遠とも思われる時間が過ぎてようやく車が止まった。いままで何度か、福音ともとれる安息の時間があったにはあったが、それは、信号機に止められたためだろう。
しかし、今回はそうでないことがわかった。車の呼吸音や、人の歩く音が聞こえないからかもしれないが、何か、そこが郊外であって街中でないことが、五感以外の感覚によってなんとなくわかるのだ。折原奈留という少女は、昔からそういうことには人一倍敏感だった。
明らかに、ここは我が家だ。
ほんのわずかだが、少女の心に本当の安息の灯がともった。
だが、娘、それも誘拐されて解放されたばかりの少女をボンネットに放り込む両親だ。けっして、それが長く続くことはありえないことは想像に難くない。 
 それを警告するように、光の定規が急に出現した。ボンネットが開いたのだ。線だと思ったのは、街灯の灯りだった。
「はやく、出ろ!」
 「ィイヤァ・・・」
 大声を出そうとしたが、何者かがそれを妨害した。少女は、知っていた、両親や妹に何を言ってもわかってもらえないことを、いま、自分が置かれている状況は自分にふさわしい待遇だということを、そうだ、折原奈留という人間は誰にも愛される資格のない、いわば、粗大ごみでしかないのだ。
 それをまさにアプリオリに理解している。
 よって、余計に悲しみを誘うことになる。
突如として、伸びてきた凶暴な手によって頭を引っ摑まれ、車外、ボンネットからでもその用語を使うのはまことに皮肉だ、からつまみだされるのは、まさに荷物以下の扱いでしかない。たとえば、購入したばかりの商品ならば、そう乱暴に扱うこともないだろう。壊れてしまうかもしれないからだ。
荷物以下ということは粗大ごみということか?
 そうなると、彼らは自分たちの娘がどうなっていいとても思っているのだろうか?いや、母親が奈留に言った言葉はそれ以上だった。
「あなたなんて、生きて、帰ってこなければよかったのよ」
 そう言っただけで、一回の振り返りもせずに両親と奈々は家に入っていった。一瞬だけ玄関の電気が点灯したが、すぐに消えた。それは「この家にあなたの居場所はないの」と無言で告げているように思われた。
 「・・・・!?」
 少女はただ崩れ落ちた。もはや、呼吸する気力すら残っていない。このまま死んでしまう、否、死ぬことができるような気がした。
 しかし、咄嗟に聞こえてきた女の声が、少女を現実に引き戻した。
「奈留ちゃん、そう簡単に人間って死ねないのよ・・ふふ」
「な?!」
 それは金髪の美女、自称ドミニクの声だった。彼女は拘置所にいるはずだ。どうしてこんなところにいるのだろう。おもむろに立ち上がって周囲を見回す。誰もいない。奈留もよく知っている近所の野良犬が排尿しているだけだった。
 「ふふ、私は何処にでもいることができるのよ、それを忘れちゃだめよ・・・」
 少女をあざ笑うような声がした。われに返って、はじめて、自分が汗だくになっていることに気づいた。そうだ、今は初夏なのだ。底冷えする冬のはずがない。だから、こんなに暑いんだ。
 だが、ボンネットの中の異常な寒さは何だったのだろう?
 車庫からかすかに見える黒い姿は、少女にとってデビルそのものだった。此の世のものとはとうてい思えない。
 遠くから、かすかに両親が話す声が聞こえた。
 やがて、父親の声が声を荒げていることがわかる。少女にとって、それは驚天動地だった。14年間ほど付き合ってきたが、めったに感情的にならない人なのだ。
 それがやんだと思うと、ドアが乱暴に開けられて、しかる後に同様に閉められる音が響いた。
「奈留!何をやっているんだ!!近所にみっともないだろう!!」
「ヒ!?」
 先ほどと同様に髪ごと頭をひん摑まれた。そして、先ほどよりははるかに乱暴に家へ向かって引きずられる。父親の態度が不思議だった。どこかおどおどとしている。きっと、世間的を気にしているのだ。奈留も奈々同様に遇していると、みんなに思ってほしいのだ、じっさいは、その逆なのに。
「痛い!おね、お願いだから、パパ、手を離して!」
「・・・・」
 今度は無言だ。こんなに門扉から母屋まで距離があったのかと思われるほどに、解放されるまでが長く広く感じられた。
 家に入っていけない。そうしたら、近所の目がなくなるぶん、暴力はエスカレートするだろう。本気で殺されることを意識した。さきほどまでは、死ぬことを覚悟したというのに、なんという体たらくだろう。
 いつの間にか、奈留は、異世界の奈留と同一化していることに気づいて呆れた。いったい、自分は何者なのだろう?
 あの楽しかった日々は何処に行ってしまったのか。まるで夢のような気がした。これが現実、少女は、まさに物扱いで玄関に引き上げられた。
そして、父親は、自分の娘に一片の親らしい感情をみせずに、廊下の奥へと、ちょうとボーリングの要領で投げ飛ばしたのである。
するすると廊下の上を滑っていく。
 ものすごくスベスベしている。そのはず、かつて、母親に命じられて夜中じゅう廊下を磨かされたのだ。
 どうしたことだろう?やったこともない記憶がよみがえってくる。まるで過去を書きかえられるような、この異常な感覚は、もう、何が真実なのか本当にわからなくなる。
 それにしても・・・、どうやら、この世界の奈留が体験したことらしい。
なんという皮肉だろう。自分がしたことのせいで、余計に苦痛を感じることになった。
腰の辺りがもろに何か堅い物に衝突した。身体を半分に折られるような苦痛が、奈留の全身に走った。
「・・・ぁ」
それは、少女から言葉を奪うほどに激しい。ようやく言えた言葉は、「ママ!助けて!」だった。しかし、それがいかに無意味か、この世界の奈留は痛いほど理解している。にもかかわらず思わず言ってしまったのは、この世界の奈留にも、かつて母親に愛された時間があるということか、あるいは、まだ、この世界に慣れ親しんていないせいか、判断ができない。
 そんなことを考えているうちに、父親の攻撃はその度合いを増していく。
 少女は顔を踏みつけられた。男の大人の靴下の臭いが鼻をつく。暗闇の中で父親の顔が歪んだ。いかにも、汚いものを踏んでしまったというような顔だ。何もかもを拒絶する、悪鬼の表情。
 それは、いま、自分が叫んだことがまったく無意味だという返事だった。なんとなれば、薄闇は無言で何も答えてくれない。母親が駆けつけるような雰囲気すら漂ってこない。ただ、少女を取り巻く空気は硬質で、少女に対して何もかもを拒絶するような態度を取っていた。

 いつの間にか、頭部に激しく与え続けられた圧力は消えていた。父親がいなくなる、その瞬間、意識が何処かに旅立っていたのか、足音は猫のようにまったく聞こえなかった。
 もう、何も考えられなかったが、身体にまとわりついた汚泥のようなものを取り払いたくて、自室に戻ると着替えを用意して浴室に向っていた。
 頭からシャワーを被って、身体を洗う、そして、自室に戻る。その間、わずか10分くらいだろうが、じっさいに、時計を確認するとそのていどだった、何時間もかかったように思われる。
 身体が異常に重い。生理の時のようだ。いま、子供を産むなどということはとうてい考えられないのに、身体はその用意をしている。そんな理不尽さと何処か酷似している。
 この苦痛は何か意味があるのだろうか?
濡れた髪をタオルで拭いながら考えた。
 そのときにある違和感を覚えた。これには太陽の香りが染み込んでいる。ということは、母親は、奈留の分もちゃんと干しているということだ。なんという矛盾だろう。この家のひとたちは自分を排除したいのか、それとも、そうではないのか、まったくよくわからない。
 三人の態度から推察するに、まさにお荷物ということだろうか。
 捨てるに捨てられない。実に厄介な存在だということかもしれない。すると、この世界の奈留はとんでもないことを何かしでかした、そんな可能性もある。これは探ってみる必要性がある。
少女は、明日の宿題を平らげるために机に向おうとして、今日が何日なのか確認するのを忘れた。しかし、頭は正確に働いているようで、それに対する処方箋を自ら書くことができた。
  PC電源をオンにすればいいのである。 
 

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