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『由加里 61』

 少女の耳には、イヤフォンが詰め込まれている。そこから聞こえてくる音楽は、深海を泳ぐ紳士淑女のようなものである。彼らは、しかし、いくら金銀のような美しい色で飾られようとも、その真価を理解するものは、ひとりしかいない。
 イヤフォンは聴く人のみに、音楽を観る視力を与える。
 深海においても視力を有する者。
 それは、海神、ネプチューンである。
 ただし、音楽を嗜む海の神というのは、絵にならないか。何故ならば、水中を音が伝わることはないからだ。もっとも、神話に科学を持ち込むのは、無粋かもしれない。
  非常灯が、妖しく緑に光る。
  夜のとばりが降りた病院は、深海に似ている。『出口』と表示された文字は、闇の中に、何か投げかけている。その冷たい光は、蜃気楼のように、うつろで、実体がないように見える。 
 
 あるいは、アンコウの罠に似ているかもしれない。彼女らは、本体である身体から、妖しく光るハンカチを振って、小魚たちを誘う。そして、まんまとかかったところを丸飲みにするのである。
すると、病院における罠とは何だろう。
 一体、どんな獲物を待ちかまえているというのだろう、夜の病院は。

 病室では、彼女は、ひとり、孤独をかこっている。その様子は、何処か、キリコの描く少女に似ている。少女は、あいにくと、手足が不自由になっている。そのために、車輪を転がすことはできなかった。
 ただ、イヤフォンを通じて、音楽を聴いていた。 

 地平線まで 予の手足が 伸びていた
 もう少し 
 そう もう少し 手を伸ばせば 摑めそう
 そう もう少し 足を伸ばせば 踏みつぶせそう
 その時に 若いそなたが 剣(つるぎ)を置こうというのか
 未だ 夢は成らぬと言うのに
 果実は いまこそ 赤く色づこうというのに
 その時に 若いそなたが 剣(つるぎ)を置こうというのか
 そなたは影 予の赴くところ 控えてもらわなれば・・・・・・
 陽のある限り・・・・・・・・・・
 地平が絶える処まで・・・・・
 未だ 果実は落ちず

 
 彼女の姉が所属し、リーダーを務めているバンド、Assemble nightのナンバーである。ここで、読者は驚かれるかもしれない。たとえ、未遂とはいえ、自分を陵辱しようとした男のヴォーカルを聴こうというのか ――――と。
 しかし、慌てなくてもいい。彼女が聴いているのは、冴子のピアノ演奏によるインスツルメンタルだ。 だから、とうぜんのことながら、歌声に怯えることなく、曲を愉しむことができる。
少女は、既に詩を暗唱してしまっている。だから、メロディとともに、歌詞を記憶のなかで聴くことが出来る。
 そこまでして、どうして、その曲を聴こうというのだろうか。
 あの事件以来、少女は、Assemble nightの曲を聴けないでいた。それはとても、辛いことだった。
音楽を聴いているうちに、自然に、それと一体化してしまっていたのである。一言で言えば、ファンになっていた。
 しかし、姉妹ということもあるかもしれないが、そのことを、冴子には、直言できずにいた。

 今、それを聴くことは、由加里にとって、一種の癒しを意味しているのかもしれない。

 少女の傷ついた躰に、冴子のピアノが浸みていく。それは、いわば、MP3が冴子であり、少女自身が楽器のようだった。まさに、彼女の胎内で、ピアノが共鳴しているのである。
 こうしていると、事故による怪我も、可南子によってもたされた虐待も、すべてが癒やされていくような気がする。そして、学校で行われたいじめも、みんなウソだったかのようにすら、思える。

――――あれは、みんなウソなのではないか。このまま、学校に行けば、笑顔で迎えてくれるのではないだろうか。今までのことは、ぜんぶ、悪夢なのではないかしら。きっと、事故のせいで、頭がおかしくなったのだわ。
 それは、楽観的というよりは、落下的な視線だった。墜落していく飛行機のなかで、ただひとり、笑っている。何故ならば、頭がいかれているからだ、そのために、今、自分が落下していることにすら気づかない。あるいは、それが自分にもたらす災厄そのものを理解することができない。

 しかし、あえて、そのように、思わせるほどに、冴子の曲は、力と祈りに満ちている。少しでも力を抜けば、あの声が聞こえてくる。そう、少女を陵辱しようとした高崎淳一の、尖った鼻が見えてくるのだ。 まるで、それは、研ぎ澄まされたナイフだった。今にも、彼女を切り刻もうとしていた。
しかも、冴子は最初、それを認めてくれなかった。由加里がレイプの被害者であることを意識的なのか、無意識なのか、あえて見逃そうとしていたのだ。

――――!?
 聞き慣れたメロディは、しかし、淳一のヴォーカルとともにある。その曲を聴くことは、同時に、彼の声と暴力を思い出させてしまうのだ。由加里は思わず、イヤホンを外してしまった。
 由加里は、下腹部を押さえて、にわかに苦しみはじめた。
―――アゥアウ・・・・うう!
 由加里は、思わず、呻いた。可南子にさんざん弄ばれた性器が、疼いたとてもいうのだろうか。股間を布団の上から押さえる。
――――ァア・・・・・・いや、あの人の声なんて、聴きたくない!?
 それは、さきほどまで聴いていた音楽とは、まったく、性格が違う。まるで蚊の鳴く音のように、小さいが、やけに耳に付く。由加里は、思わず両耳を押さえたが、その音は止まない。それもそのはず、 少女の内奥に組み込まれた振動は、耳を覆ったとはいえ、消せるはずはなかった。
「あ・・・・」
 その時、扉が開く音は、少女に何を与えるのか。絶望か、それとも・・・・・・・。
「ママ」
 少女は、絶望ともあきらめともつかぬ顔を浮かべた。それは絶対的な安心と、つながっているという安心感が、もたらすものだったかもしれない。命の危険とまで、言わないが、何かに忙しいときは、痒みを感じないものだ。
 しかし、ひとたび、自宅に足を踏み入れたとき、とたんに、治りかけの傷が、疼きはじめるのである。 彼女にとっての自宅とは、母親を意味する。彼女がいるところ、少女にとってみれば、それと同意になるのだ。良い意味においても、悪い意味においても、母親は、一番、親しい存在だった。

――――あれ、面会時間ってまだあったっけ?
 そんなことを思いながら、由加里は、期待と不安を胸に同居させていた。

 そこから、数キロと離れていないカラオケ店では、照美が同じ曲を冷唱していた。当然、ここでは熱唱という言葉を使いたいが、彼女ほどに、この言葉が似合わない歌い手はいない。
しかし、まちがっても、歌が下手だとか、熱心ではないと受け取られては困る。彼女の音程は完璧だったし、表現力も素人とはとうてい思えなかった。

 では、熱唱と表現できない何が、彼女の歌唱にあるのだろう。それは、徹底的に抑制された感情とエネルギーにある。両者はたしかにあるのだが、押さえこまれているのである。
 だから、けっして、ゼロというわけではない。この世にないものを封じ込めることはできない。しかし、そこに余波が生まれる。その余波こそが、彼女の歌唱の魅力である。
 よく日本画においては、余白の重要性が謳われる。もしかしたら、それに近いかもしれない。
 ただし、その魅力に気づいているのは、この時点においては、ほんの小数である。なんと言っても  本人が、それを認めていないのである。歌手になろうなどと、間違っても考えていない。いや、音楽関係に進もうなどと夢にもおもわないだろう。
 それでも、その道に通じているのは、幼少時から、母親に半ば強制された教育と、自らの器用な性分から来ていると思っている。

――――それは、こいつも似ているか、いや、これに関してだけはそうじゃない。同じにされて、たまるか。
 照美は、歌いながら、はるかを見た、そして、その向こうで、感心した顔で、歌に聴き入っているゆららを見いだした。しかし、その顔が、すぐに崩壊するのが見えた。これは予言ではない。予定である、既成事実である。未来に起こることでありながら、過去形で語ることができるほどの事実なのだ。照美だけがその事実を知っていた。

―――――でも、どうして、破顔っていう言葉が、今、使えないのかな?
 照美は歌いながら、その歌詞とは、まったく関係がないことを考えていた。そう、彼女が歌っているのは、王様が、優秀な臣下が若くして、亡くなったのを惜しむ歌である。とてもシリアスな、たとえば、色で表現するならば、黒曜石が発するシックな雰囲気の内容である。とても、笑いを殺しながら歌う歌ではない。ただ、次ぎの歌詞は、そのような空気のなかで、異彩を放っていた。

 ああ、そなたは、深謀遠慮に優れ ――――
 ああ、何人の仇を、葬ったかわからない ―――――
 ただし、欺かれた者たちは、誰も自分が被害者だとは思っていなかった ――――
 
 この歌詞が甘いメロディとともに、クライマックスを迎えるのである。

―――このバンドの曲は、珍しいよな、歌詞と曲調が、完全にマッチしてないことがある。ま、これがおもしろいんだが ―――。
これははるかの述懐である。これから、大いなる公害を為すなどとは、夢にも思っていない。呑気な者ではある。

―――さて、照美の次ぎは、自分が励ましてやろう ―――などと、まるで極上のワインにうっとりするように、歌に聴き入っているゆららを垣間見ているのだ。


 その時、病室では、殺気だった空気が充満していた。ちょうど、敗戦寸前の軍首脳部のように、二人は、にらみあっている。この場合、あくまで二人だけの作戦会議だったが・・・・。
 人間の歴史というのも長いが、ほぼ、100%敗戦が濃厚という時に、作戦本部では、どのような空気が支配していたのだろうか。勝者の数だけ、敗者がいるわけだから、ほぼ、戦争が行われた数だけ、惨めったらしい会議があったはずである。もっとも、引き分けということも考えねばならないが、少なくとも、この場面では関係ない。西宮家はほぼ100%敗者なのである。間違っても、引き分けにはらない。
 春子は、娘がいじめられていることは、ある程度、見抜いていた。しかし、それが彼女の人格の基礎、そのものを危うくするほど、陰険で深刻な内容だとは思っていなかったのである。ひどくて、物を隠されるくらい、軽く無視されるくらいだと思っていた。それには理由がある。
 今まで、娘が恵まれていることは、わかっていた。だから、少しくらいの風にも悲鳴をあげると思っていたのである。

―――――この子は、やはり、温室育ちだから・・・・・。
 春子は、常にそう感じていた。それは、姉の久子の場合と異なる。彼女とは、人にはとうてい話せないようなバトルを乗り越えて、絆を育んできた。この点が、由加里と久子が違う点である。両者の境遇は、似ているでいて、似ていないのだ。外見的にみれば、由加里は、久子に比べて恵まれているかもしれない。しかし、それは、根本的に誤った見方である。

―――――ここで、甘やかすわけにはいかないわ。このていどの風でしおれるくらいなら、とうてい、世の中で生きていけない。
「退院したら、学校行くのよ!」
気が付くと、春子は、娘に残酷な言葉を言い放っていた。
 いま、この時間、少女の恥部に、何が起こっているか知らずに ――――。もっとも、このことは、彼女がいじめられていることを、無関係に見える。しかし、由加里が、底なし沼に嵌った子馬のように、抜き差しならない状況に陥っている。ただ、そのことにおいて、たいした差異はないのである。
そのことに気づいてやれないという一点において、たいした違いはない。

 ただし、そのことは、血の分けた娘だからこそ、盲目になってしまうということもありえず。その点においては、永年の ―――というよりは生来の乖離は、飛び越えたはずだった。つながらない血は、 確かに、その限界を超えて、結束を誇っていたのである。
にもかかわらず、この病室においては、二重にも三重にも、複雑に絡み合った血と境遇の因縁によって、空気が切り刻まれて、めちゃくちゃに混ざり合っていた。

――――ちょうど、めちゃくちゃに嵌められたジクソーパズルのように。

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