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『マザーエルザの物語・終章 19』
 何処かの梢の上で泣いている雀。遠くの空に棚引いている雲。
 車窓から見える風景は変わらないのに、そして、車自身が立てる呼吸音も変わらないのに、少女を取り巻く境遇は180度変わってしまった。
 その証拠に彼女の特定席だった助手席ではなくて、バックに座っている。肩を怒らせてちょこんと座る姿は、何処かはかなげで所在なげに見える。

 ――――どうしてなの? ママ?どうしてそんな顔をするの?

 あおいは運転席に座る人物に問うてみたくなった。彼女は少女の遺伝上の母親である。さいきん、精神上のそれを降りると宣言した。その理由は彼女の妹、すなわち、あおいの伯母の突然の入院が原因らしいと姉の有希江が言っているが、定かなことはわからない。母親である久子は黙して語らないからだ。
 あおいは、元母親の顔を盗み見る。サングラスで顔を隠しているとはいえ、相変わらず美しい。金貨の輝きを黒い布では隠しきれないというのと似ている。少女の位置から見ると、サングラスの隙間から、美貌が垣間見えるのである。
「何見ているの? 盗み見なんて、本当にハシタナイ子ねえ」
「・・・・・・・」
 あおいは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 低いうなりを上げるエンジン音は、少女の悲しみと涙を覆い隠してくれない。ごまかしてくれないのだ。少女は高級車に乗っていることを恨んだ。自分のそのような境遇にはじめて疑問を感じた。だから、小さな手で両耳を覆うことで、現実から逃亡しようとする。しかし、意地悪な久子はそれを許すほど寛大ではなかった。

「そんなにママの声が聞きたくないのね、やっぱりあなたは私の子じゃないのね?」
 これほどあおいを動揺させる言葉はないだろう。一体、何を考えているのだろうか。
 あおいは、小さな顔を上げると久子を覗き込んだ。今、たしかに彼女は言った、ママと。
 その残酷なまでに懐かしい響きに、あおいは頭を掃除機に吸い取れるような心持ちになった。
 あたかも飴のように頭を伸ばされて吸い込まれる。ふいに青以外の色彩が消える。視力も声も失い掛けたそのとき、あおいはやっと声を発した。

「ママ?」
 まるで100万人の群衆から母親を見つけた思いがした。
 かつて戦争体験のある有名人が語っていたことだが、彼は10年ぶりに父と出会ったらしい。戦後まもなくのこと、まさに大陸に残された人々が引き上げに躍起になっていたときの話だ。食糧を奪おうとある男を襲った瞬間、声をあげた、肉親を出会ったときに上げるアノ声だ。なんと父親だったのである。テレビでその話しを聞いたとき、あおいは「まさかそんなドラマみたいなことが ―――」と笑ったものである。
 しかし、自分がそのような境遇に陥ると ――――言わんや、二人は性別はおろか、ほんのお泊まり会を別にすれば、一日として夜を過ごす家を別にしたことがないのである。
 それなのに、一方的に肉親としての別れを宣言させた。何の断りもなしに、理由らしい理由も直接告げられずに、生別を突きつけられたのである。それも同居の上に ―――である。
 夫婦ならば同居離婚というのがあるが、この場合はどのように表現すればいいのだろう。とても、啓子に話すことなどできない。説明する言葉を発見できないのだ。

 ――――啓子ちゃん?

 困りに困ったときには、必ずと言っていいぐらいに彼女の顔が浮かぶ。しかし、次の瞬間には、説明できない感情が鎌首を擡げてくる。それはあおいを自在に操ろうとする。自分の記憶でもないものに言いようにされるとはそういうことだ。自分が犯してもいない罪に対して、罪の意識を感じるようなことである。それは、久子に対する感情にも似ているところがあった。

 罪悪感。

 それが少女を絡め、自在に操っていた。それに意思や感情があるならば、あおいはその奴隷に堕ちていたのである。
 本来、それは少女にとっていわれのない罪、いわば、冤罪のはずだった。
 しかし、何処かに説得力がある。
 あおいは、経験したことのない感情に溺れそうになった。次から次からと、大波が迫ってくる。水死しないように凌ぐだけで精一杯だったのである。今も巨大な波が迫ってくる。
「ママ?」
「・・・・・・」

 あおいは幼い顔を向けることでしか、自分の意思を表現できない。しかし、久子はイエスかノーかで答えさせることを望んでいた。
 あおいの幼気な表情からはそれを窺い知ることは不可能だった。だから語気を強めた。
「ママ?!」
「お、オクサマ・・・・・・」
 可哀想な少女はそう答えるしかない。
 それは言葉というよりは単なる記号にすぎなかった。オ、ク、サ、マ、という単なる音にすぎない。右脳を伴わない電算機の声は、せめてものあおいの抵抗だったかもしれない。
 しかし、それは意識して行われたわけではない。むしろ、飛んできたボールに対して手を出すといったごく本能的なあるいは反射的な行動に過ぎなかった。

「ふん、それでいいわ。だけど、今日は特別に許してあげるわ、言ってゴラン。前にみたいにね」
 なんと人を食った言い方だろう。心を弄ぶにもほどがある。そのようにあおいが意識の辺境で思ったことは事実だろう。しかし、ランドセルを背負った小学生に、意識してそれを求めるのは無理なはなしだった。
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・・ママ?」
 あおいにとって、それがどれほど残酷なことか。
 久子は意識してそれを行ったのである。血のつながった相手にたいして、自らの腹を十月十日も貸した相手にたいして、唾を吐いてその顔を汚物を踏んだ足で踏みにじったこととほぼ同じだろう。
「ほら、泣かないの。あそこのレストランで昼食にしようか。あおいの好きなハンバーグ食べたいでしょう?!」
「ウウ・ウ・・ウ・・ウ・ウウ!?」
 久子はさらに鞭打つ。もはや立つことも叶わない駄馬に米俵を担げと命じているようなものである。
 あおいは、その小さなカラダで四方八方から迫ってくる鞭に対応している。
 その清らかな白い肌は若いだけに防御反応も強い。だから、オトナよりもはるかに発赤が強い。まるで若葉に傷を付けたときのように芳しい匂いが充満している。初々しい傷口は新鮮な若々しさに満ちていて、その香りは、さらに塩を塗りたくなる欲求を刺激する。

 奔流のように蘇ってくる過去の記憶との格闘で神経がどうかなってしまうかのように思えた。
「ほら、楽しいでしょう? だったら笑いなさい」
 残酷にもさらに言い放つ。
「ウウ・ウ・ウウウ」
「ほら、あおい!ウグ?!」
 急激に締まるシートベルト。それは飛び蛇のように唸りを上げながら、ボンデージスーツのように、少女の柔らかな身体に食い込んだ。
 そう、ブレーキを掛けたのだ。別に事故を起こしたわけではない。目的地に到着したからこそブレーキをかけただけだ。
 この体験は少女の近未来を暗示していた。しかし、この時の彼女にそれを知る余地はない。
 あおいは、苦痛に形の良い眉を歪めながらも大きな瞳に光を湛えた、

 『ステーキハウス、オデット姫』
 少女の視界に可愛らしい文字が飛び込んでくる。
―――ええ?また、あおいの好物?
―――この前も来たジャン! ママったら?!
 とたんに蘇ってきたのは、二人の姉の奇声だった。徳子はまだ中学生で、有希江も小学校高学年にすぎなかった。そんな昔の記憶がいまにも目の前に存在するように聞こえる。ふたりの声帯があたかも目の前に存在するようだ。
 そんな甘い記憶は今となっては、恐竜時代の伝説にすぎない。もはや家の中に自分を温かく迎えてくれる家族はひとりもいないのだ。
「早く降りなさいよ、ハンバーグは待ってくれないわよ!」
かつての久子のそれのように快活な声が、少女の耳に生えている産毛を直撃する。あおいは辛うじて泣くのを堪えた
――――こんなことではいけない。これから啓子ちゃんに出会うんだから! 
 少女は短すぎる足。車をバックにするには、あまりにも足りない足を地面に落としながら思った。
 煌びやかな店のネオンサインが目を打つ。
 いかに苦しくても笑顔を保つことにあおいは馴れなくてはいけなかった。けっして、啓子に影のありかを発見されるわけにはいかない。
 この考え方に根拠があるわけではない。ただ、親友に負担を掛けたくないと言ったあるいみ大人びた理由ではないし、もしくは、単純明快な思考でもない。
 少女の感情が許さなかったのは、もっと不可解な理由だった。まるで多量に水を浸みこませた体育用のマットのように、彼女自身の心は、反応らしい反応を返してくれなかった。
「いらっしゃいませ ―――ぁ 榊さんに、お嬢さん」
 機械仕掛けのフランス人形が人語で迎える。

 榊家の面々はこの高級な店にとって馴染みの客だった。ロココやらバロックやらアールデコやらが、縦横無尽に配された装飾は、見る人に不快な感覚しか与えない。もっとも、見る人にまともな審美能力があればのはなしである。
 パヴァリアの狂王、ルードヴィッヒ2世などが来客したならば感嘆の声を上げたかも知れない。店内に湛えられた湖を泳ぐ白鳥の模型のごときは、彼の幼い審美感を満足させたにちがいない。
 しかし、ここは彼の吐く息が汚したドイツでもなく19世紀でもない。
 すでに21世紀を20年ほども過ぎている。
 しかし、いま榊家で行われている家庭騒動の類は、けっして新しい話しではない。19世紀はおろか、古代ギリシアの悲劇などでも題材とされたモティーフである。
「さて、注文しましょうか。あおいはいつものでいいの?」
 席に案内されると、久子はいつものように応対しようとする。マニキュアの塗り方から
 ネックレスが胸骨に嵌る位置まで、かつての母親のそれとそっくりなのだ。いま、彼女が目の当たりにしているのは、あおいが大好きだった母親そのものだ。あきらかに高い知性を纏った瞳の開き方や、上品なつくりの唇がコケティッシュに歪む様子など、どれもあおいが好きでたまらない、あるいは、慕ってたまらない母親そのものだった、

「うん・・・・・そうする」
 力無く答えたあおい。それは彼女の意思によってではなく、まるで自動機械のように反応した・・・・・・だけのことである。


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