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『新釈 氷点 2009 2』
 啓三は、ただ黙って机の上にあるものを見つめていた。それは彼の家族のポートレイトだった。自分と妻である夏枝、そして、二人の前に長女である薫子が立っている。そして、その前にはお客用の豪奢な椅子が置かれ ――――。
 その上には ―――――。
 次期城主の視線は写真の中の聖域に注がれていた。それは、現在の彼がけっして見てはならないものだった。何故ならば、彼じしんの精神の健康を非常に害する危険を内包していたからである。  しかし、何十キロも走ったランナーが水を求めるように、愛娘の顔を探しあてていた。

「ルリ子!!」

 根の国からわき起こってくるような嗚咽とともに、彼は愛娘の名前を呼んだ。写真に映っている元気な姿は、もうこの世の何処にも存在しない。変わり果てた姿になって骨壺に入っている。
 啓三は、嗚咽を抑えられなかった。
ソテツの群生が作る影に、まるで生ごみのように捨てられた我が娘。その姿を啓三は死んでも忘れられないだろう。
 それはあのパーティの日だった。
 犯人は簡単に逮捕された。
 
  佐石土雄

 啓三は、この世が終わろうともその名前を忘れないだろう。
 よもやあるまいと思うが、死刑以外は認められなかった。もしも国が殺してくれないなら、我が手で同じ目に合わせてやろう! そのためには裁判所に赴こう! そう誓ったはずだった。
 しかし、その憎き犯人は、まもなく留置場で首を吊って自死に至った。この手で殺すはずだったのに!!
 行き場を失った怒りは、今の今まで啓三の中で蜷局を巻いている。やがて、その毒牙を食い込ませる敵手を求めて、いつか鎌首を擡げるだろう。それを佐石のために温存していたのに。
いや、その目標は手短にいた。なんと、彼がこの世でもっとも愛しているはずの ―――女性だった。

――――あの時、夏枝はいったい、何をしていたのだ!!

「もしや、ルリ子が殺されたとき、あいつら、抱き合っていたんじゃ!!」
「・・・・・啓三?」
 春実が見た親友の顔は、かつて温厚で誰に愛される青年医師のそれではなかった。復讐の悪鬼と化した。
「ありえるかもね ――――」
 ルリ子の死亡時刻を考えてみれば、合ってはならないピースが嵌ってしまう。
 春実は、愛らしいルリ子がむさ苦しい浮浪者に陵辱され絞め殺される場面を思い浮かべた。そのとき、あの二人は不倫の愛に溺れていたのだ。
 常に冷静沈着な性格がウリの春実でさえ、その顔を直視することはできなかった。リノリウムの床をみつめながら、自分が火を扱ってはいけない場所でマッチを擦ったのだと危惧した。
 しかし、もう後戻りはできない。もう、行けるところまで突き進むまでだ。

「啓三、理解してくれたのね」
「ああ、善は急げだ! 安斎くん!」
 啓三は、秘書が入ってくる前に叫んでいた。
「これからのオペはキャンセルだ。他の先生を当たってくれ ―――」
「啓三!!」
 メラメラと燃え上がる炎を目の前に、春実は、何も出来ずに立ち尽くしていた。改めて、もう引き返せないのだと実感した。さきほど思い浮かべた地獄の映像を、思い出すことにした。そうしなければ、とても立っていられないと思ったからだ。

「辻口先生!!」
 秘書も、自分が何も言い出せないことを理解していた。温厚な上司の変容をただ絶望的な視線で見つめていた。そして、悲しみと怒りのない交ぜになった視線をその犯人に向けることでしか、自分を納得させられなかった。
 しかし、春実のほうではそんなことを忖度している余裕はない。
「私の車で ―――」
「ああ」
 白衣も脱がずに廊下へと駆け出す。
「先生!」
 甲高い男の声は谷崎のものだった。用を足していたのである。
「谷崎くん、車を回して、愛児院に向かうわよ」
 彼も、啓三のただならぬようすに肝を冷やしたようだ。口の中に異物を突っ込まれたような顔をすると、上司と青年医師を車に先導する羽目になった。
 谷崎は背後を見るのを恐れた。まともに医師の顔を見る勇気が自分にあるとは思えなかった。上司の顔を伺ってみたかったら、そうしたならば、悪鬼の顔も視界に入ってしまう。気弱な青年としてはそれは避けたかったのである。
 リノリウムの床は、どんな気分で靴音を3人に返してやったのだろう。どんな気分で見送ったのだろう。病院を象徴するような清潔の白は、ただ、沈黙を守っていた。

 さて、車に滑り込んだとき、啓三はまだ白衣を着ていた。
「啓三、白衣・・・・・」
「ああ ――」
 そんなことはどうでもいいとばかりに、白衣を車の背後に押し込む。任務を与えられなかったスピーカーは、文句を言いいたげにうなった。男の体臭が染み込んだ白衣など押しつけられたら迷惑だ。そう言わんばかりに見えた。
 エンジンは、そんな友人の不平など何処吹く風とばかりに、凶暴なうなり声をあげる。啓三は、それが犯人である佐石のいまわの際の声に思えた。
 実は、彼が死亡したとき、警察から連絡を受けていた。

「実は、遺書を残しているのですが、それが辻口さん宛でして ―――」
「結構です!!」
 ただ、その一言を以て、啓三は受話器を乱暴な手つきで投げづけた。
 何て、世間とは無神経なのだろうと思った。被害者の遺族がそんなものを知りたいなどと、誰が思うものか。ひたすら、思考はマイナスの方向に下った挙げ句、どうして、自分の娘は死んでしまったのに、他人の子供たちは呑気に笑っているのだろうなどと思うようになっていた。
 病院に産婦人科から聞こえてくる声や音。新生児の産声や、親たちの歓声。それらを聞く度に耳を塞ぎたくなった。妊婦を路上に放り出して、産婦人科を閉めたいとまで思った。たまに、流産や奇形児の出産を聞くと胸がすく思いだった。しかし、とうぜんのことながら、次の瞬間には全身を切り裂かれるような罪悪感に苛まれるのだが・・。
 今、それらをすべて解消してくれそうな気がした。

 愛児院に収容されているという佐石の娘。その子は二重の意味で啓三を救ってくれそうな気がした。
 自分を裏切った夏枝に対する復讐。
 そして、失ったルリ子の変わりとして。
 しかし、後者には問題があった。自分がその子を目の当たりにして、手を出さないという自信がなかった。少女が足にまとわりついてきたとたんに、その首を絞めてしまわないか。その衝動を自分で抑えきる自信がなかった。
 そんなことを考えながらも、車は山の中に入っていく。その愛児院の名前は啓三の耳に親しんでいるとはいえ、じっさいにその場所に行ったことはなかった。その辺の雑務は産婦人科以下、専門に行うセクターがあるし、啓三はそれに口を出したこともなかった。彼の父親である現院長などは、知人を会して容姿縁組みの世話をしたことがあるが、よもや、自分がそれにかかわるとは思わなかった。
 彼と夏枝には長女がいる上に、次女である、いや、だったルリ子も生まれて間もなかったからだ。

 それが ――――。

 啓三は、考えまいと思った。いま、車は急勾配な坂にぶつかったところだ。急に重力が身体にかかって、空が見えた。雲が太陽を隠そうと企んでいるところである。その木漏れ日が地上に差し込むと、それが天なる神から光が自分たちに分け与えられているようにも思えた。
 それは、何か意味があることなのだろうか。もしかして、預言ということはこういうことだろうか、あの光の帯を言語に変換する方法がこの世にはあるとでも言うのか。
 苦悩する啓三は、愛児院が視野に入るまで一言も言葉を発しなかった。

「そうだ、あの愛児院にはうちの産婦人科医が常駐しているはずだ」
「あんた、自分の病院のことなのに、そんなことも知らないの?」
 友人が落ち着いたのを確認するように言葉を紡ぐ。
「産婦人科のことは親父に任せているからな ――」
 ドアを開けながら山の気を吸い込む。とても呑気な場所だ。啓三は思った。ここ数日の苦悶が嘘のようである。もしかして、すべて嘘なのではないか。性格の悪い悪魔が魔法でもかけて、自分をたばかったのではないか。
 青年医師の中に多少なりとも残っていた希望の光か、あるいは妄執とでも表現すべきか、何れにしても、そのような部分が彼に一瞬の白昼夢を提供したことは事実である。
 さて、その建物は啓三を待ちかまえるように建っていた。

「キリスト教関係だったのか」
「そんなことも知らなかったの?」
 教会とキリスト教を象徴する記号を指さしながら言う啓三。今度は、あからさまな蔑視を向けながら、言葉の塊をボール代わりにして、啓三に投げつける。
「そんなことはどうでもいい。もう連絡はしてあるのか、春実」
「そうよ、その辺、抜かりはないわ。もう手配してあるから、父親のつてを利用してね」
「この院長とかかわりがあるのか」
「そうらしいわ」
 ハイヒールの音も軽やかに小石を飛ばす。先導する春実に駆け寄る啓三。運転主、件、秘書である谷崎は神妙な面持ちで背後に控えている。
 3人が通されたのは教会の説教部屋だった。キリスト教に関係ない者にとっては、単に教室を変形させたようにしか思えないだろう。あえて、両者の違いを指摘するならば、机がないということだろうか。

「ああ、お嬢さんかぁ、赤ちゃんのことははがきで知ったよ。その後どうかな? お父上は引退されたと聞いたが ―――」
「ええ、健在ですわ。それに父は、第二の人生に邁進中ですわ。白眉さん」
 春実は、隣に座っている院長を気遣いながら言う。ちなみに、啓三は春実の横に座っている。
「院長先生は、神父様と兼職なさっておられるのですか」
「そうじゃよ。イヤ、今はもう医療のほうには携わってはいないが、医師免許は健在じゃな。別に破いてすてる必要はないから、そのままにしておる」
「はぁ ―――」
 別にキリスト教徒ではないが、宗教的な権威には総じて弱い啓三は、このような人物と出会うと思わず恐縮してしまう。

「ああ、坊や、君も座りなさい」
「はぁ」
 豆鉄砲を喰らった鳩のような顔で、坊や呼ばわりされた谷崎は啓三の横に座る。これで四人が並んだわけだ。
 教会の窓を装飾するステンドグラスの主題は、『ドラゴンを退治する大天使ミカエル』である。この手の内装にはありがちな内容だが、愛児院という舞台には相応しくないような気がして、春実は笑いたくなった。啓三は、ただ畏れ入るだけでそんなことに思考が赴くはずはない。
 春実が口を開いた。

「白眉さん、赤ちゃんの件ですか」
「聞いているよ、そちらの旦那さんかい。引き取りたいと言われるのは。」
「はい、院長先生」
 畏まって啓三は答える。自分の名前からすべてを察しているだろう。それは覚悟の上である。
「どうしても引き取りたいと、彼女から伝え聞いておるが、このことを奥さんは知っておられるのだろうね」
 念を押すように言う。頭を見れば頭髪はほとんど残されていない。毛根はすでにその役割を完全に忘れ、数本の白髪が、枯れ木を思わせる。
 しかし、口調はしっかりしている。この話題に入ってから、まるで脂の乗り切った30代に戻ったようだ。その肌は湿度を増し、目の色も黒曜石のように光り出している。
「では、改めて問うがが、どうして彼女を引き取りたいと思われたのか」
 だが、啓三にしては寝耳に水だった。春実は、もう、ここまで話を進めていたというのか。自分が言い出したなどと。しかし、老翁の勢いは、啓三をして釈明せしめる意図を途絶させた。
「・・・・・・・・・・相手の、罪を許すのがキリスト教だと聞きます。私はクリスティアンではありませんが、  その教えには首肯せざるをえません。しかし、犯人が死亡したいま、私には許す対象がいないのです」
 啓三は、驚いていた。こんなに見事にいい訳が言の葉になるとは思ってもみなかった。まるで何者かが、自分の口を借りて捲し立てているかのように思えた。
「それで、その変わりにあの子をと?」
「え?」
 老翁が指さした先には。
 ドアが開く音とともに、出現した、それは。
 春実は声も出ないようだった。

 まるで何者かが予め書いた舞台のように、事態が進んでいく。啓三と春実は、それに巻き込まれていくことに驚きとともに畏怖を感じていた。
 そこには白衣の男性がいた。彼は、ひとりの乳幼児を抱いていた。まるで、赤ん坊のイエスを抱くマリアが出現したのかと、ここにいる全員に思わせた。
 何よりも、そのタイミングの良さが皆を圧倒させた。真っ白な光がこの乳幼児から放たれていた。啓三の頭の中は、もはや、その光にすべての感情が帳消しにされてしまった。怒りも、恨みも、悲しみも、そして、愛すら。それらすべてが光に溶かされ、いや、光と同化してしまった。
 啓三は、震える手を光の中心に据えた。


 それから、12年が経った。
 海の見える高台にその家は建っている。瀟洒な3階建ての建物は、よく教会と間違えられる。しかし、じっと見れば十字架がないことを知って、はじめて、それが普通の住宅だと認識する。もっとも、どう見ても普通のサラリーマンが一生かかっても建てられる家には見えない。
 それが当然だと誰の口にも言わせる事情がある。
 辻口啓三、言わずと知れた辻口医院の若き院長。長崎城主である。
 今、その豪華な玄関に口が開いた。

「言ってきまあす!お母さま! お父さま!」
 結婚式の花嫁が両親に告げるような声が朝の海に響く。しかし、その後に通じたのは、お通夜の挨拶だった。
「言ってきます」
「薫子、何ですか?朝からそんなに元気がないことで、どうします!?」
「陽子と一緒にしないでくれるかな?」
 走り寄ってきた女性は、目の前で我が子がトラックにはねられた母親のような顔をしている。薫子と呼ばれた少女は整った顔をくすませて言う。
「お母さま、大丈夫ですよ、薫子は元気です」
「お姉さまは朝がお悪いですからね ――」
 その笑顔はまるで太陽だ。薫子はクラクラする頭を掻いた。
「ねえ、聞くけど ―――」
「何ですか?」
 さらに光を増す太陽と、相当に大きいはずの自宅が人の頭ほどになっている ―――にもかかわらず、母親の、夏枝の送迎の声が響いている。
 それらのせいで、射殺処分を覚悟の上で、戦闘忌避を軍隊に申し込みたいところだったが、あえて、武器を手にすることにした。

「陽子、今って開明時代だったかしら?」
「何を言っておられるンですか? お姉さま、今の年号は大礼ですわ」
 きょとんとした顔で、妹は答える。姉が言った年号は、自分たちが産まれる前の、前の、年号だったはずだ。
「もういい、先を急ごう」
「お姉さま、どうなさったのですか?」
 姉に抱きつかんばかりの勢いで追いすがってくる妹から逃げられるはずはなかったのだ。
 気が付くと、彼女の右手は太陽によって喰われていた。

 一方、父親である啓三は娘たちの姿を微笑みながら眺めていた。きょうび、手を繋ぎながら登校する姉妹などお目に掛かれるものではない。
――開明時代か?
 啓三は車のキーを弄びながら海を吸った。 

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テーマ:小説 - ジャンル:アダルト

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