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『新釈氷点2009 5』

 辻口建造が自宅に足を踏み入れたとき、なぜか名状しがたい不安を覚えた。俗に虫の知らせというが、建造は意外とそのようなものを信じるほうだった。
 いわゆる経済高度成長時代の青年、しかも、医師などという職業に就いていた人間にはありうべからざる態度であろうが、時代を先取りしていたのか、その反対だったのか、周囲にいる者たちは判断しかねた。

―――何かあったのか?
 その不安は、妻の顔を見ると完全に現実化した。
「夏枝、何かあったのか?」
「あなた・・・・・・・」
 普段、温和な夫が怪訝な顔で迫ってくる。何か言うべき言葉を求めて、脳内を検索するが、何も見付からない。
「何故、目をそらす? 娘たちに何かあったのか? 薫子か陽子か?」
「・・・・・・・・・・・?!」
 建造は、的確に事実を言い当てている。そのことに、夏枝は驚きの声すら出てこない。健気にもそんな母親を救ったのは娘だった。
「パパ、帰ってきたの?」
「薫子、陽子に何かあったのか?」
 居間から飛び出してきた長女は心なしか顔色に曇ったものを感じる。母親と違って感情の起伏をあまり外に出さない彼女が、みごと、その目論みに失敗している。
「あなた ――――」
 ここまできても、夫にかける言葉を見つけられないでいる。

 外は夜のとばりが降りて、閑静な住宅街は安眠を貪ろうとしている。しかし、辻口家ではその通例に従えないような事態に見舞われていたのである。
 その事実は、家族の成員すべての心をかき乱すのに十分な災厄に満ちていた。だが、一名とその他ではその意味合いはかなり違った色合いを示していた。そして、後者のうちでも1名と2名ではまた異なる世界を彷徨っていた。
 その2名は、けっして公にできない罪をそれぞれ背負っていた。しかし、その意味合いもまた両者の間には、金星と火星ぐらいの距離があった。

 さて、この場にてもっとも理性的だったのは、薫子だということができるだろう。この件に関して、彼女は共犯ではない。ただ、気が付いたら妹が側にいただけである。おぼろげな記憶の中では、ある日、可愛らしい赤ん坊が母の腕に抱かれていた。妊娠などという前触れもなく、とつぜんにである。
 両親と違って手枷足枷から自由な薫子は、事態をそれなりに達観することができた。
「パパ、早く、こっちに来て―――すべてが知られたわ」
「何!? すべてを!!」
「薫子!?」
 二人は、しゅんかん、時間が凍りついたと錯覚した。
 薫子は、「すべて」という単語をいとも簡単に使った。何も知らないのだから当然だろうが、そのことは、両親の心に対して、すぐには回復不可能な傷を負わせたのである。
 もっとも、その傷口は自分たちで穿った結果であり、薫子は瘡蓋を剥ぎ取ったにすぎないのだが。

 その上に、大事なことがある。彼女がどうしてそのことを知っているのか―――という疑問を抱かせる余裕すら与えなかったのだ。

 その傷口を抉るような行為を自らするのが、居間に入るという行為だった。中には目に入れても痛くない愛娘がそこにいる。おそらく、長い遠征から帰還した王を迎え入れるように、彼女は歓待してくれるだろうが、それはこれまでのようにはいかないだろう。きっと、瞳は今も美しいだろうがそれは涙で潤んでいるせいだろう。もぎ取ってまもない桃のような頬に痛々しい傷が走っているなどということはあるまいが、真珠を液体にしたような涙が糸を引いているにちがいない。
 はたして、男は娘を視界に収めた。
「陽子・・・・・・」
「お父様・・・」
 そこには、変わらぬ美しさを湛えた娘がいる。ソファに細めの躰を差し込んでいる。しかし、父親を仰ぐそのすがたはいつになく凛とした空気を醸し出している。
 年齢相応にふっくらとした頬には、そこはかとなく影が入っているが、双眸には確かな意思を秘めた黒曜石が光っている。それは、とても12歳のこどものそれとは思えない。わずか一日ほど見ないうちに大人になってしまったようだ。建造は考えたくないことだが、ウェディングドレスを纏った娘をすら垣間見たのである。

「陽子、あなた ――――」
「・・・・・・・」
 背後から走り寄った姉と母は、父娘が無言ですべてを悟ったことを知った。しかし、必ずしも共有する根っこが違うことをそのとき、悟っていなかった。それは、これからの物語において、より色彩を濃くしていくことになるのである。
 だが、この時点においては、鮮やかすぎる花もまだ蕾もつけていなかった。あどけない顔から想像するに、彼女はまだ自分が持ち合わせている高貴で知性的な美貌をどのように利用していいのかまだ知らないだろう。きっと、自分が将来薔薇の花に似た武器を備えようなどと、気が付きもしないのだ。

―――お前は、母親の血を引いて・・・・!?
 ここまで考えて、建造は自らに絶句せざるをえなかった。なんと言うことだろう、この美少女は、夏枝の血を一滴も受け継いでいないのだ。
 すると、この典雅な属性は何処からきているのだろうか。あの殺人犯に一滴でもそのような血が流れていたとはとうてい思えない。いや、思いたくない。すると、彼の妻だろうか。それほどまでに美しい女性だったのだろうか。すると、彼は彼女を力づくで手に入れたのだろう。そんな女性が佐石のような男を好きになるとは考えにくい。
 しかし、それでは疑問が残る。
 どうして、彼女は陽子を生んだのだろう。そして、今も何処かで生きているのだろうか。陽子に似た女性が・・・・・。
 いや、こんな無意味な想像は止めにしよう。今、彼がすべきは目の前の陽子を愛することだ。夏枝もきっと同じ思いにちがいない。彼女はあの悪魔の秘密を知らないのであるし ―――――、こんなにまで二人が酷似している理由も、きっとそこにあるにちがいない。
 建造は、天を仰いだ、正確には、豪華なシャンデリアが下がっている天井を ――であるが。
 そして、夏枝や陽子とは違った意味で整った顔に両手をあてがう。しかしながら、いかに、両目を塞ごうとも彼に安息を意味する暗闇はやってこない。彼が犯した罪はそう簡単に消えることはないのだ。
 再び、手を離したとき、シャンデリアが視界に戻ってきた。そのとき彼がよく見知った女性の声が耳に響いた。

――――これって、建造の趣味でしょ、本当に悪趣味ね。
 
 財前春実の端正な顔が浮かぶ。氷の彫刻が見せる鋭利な面たちのように、その声は黒い、そして、白銀の響きを見せる。
 それらは交互に出現し、男を、あるいは検事を籠絡する。

――――あいつはこの件にどのように関係しているのだろう?

 建造は、美しい共犯の骨格に忍び込もうと努力した。想像した美しい彫像に自分の心を潜ませる。そうすることによって、怖ろしく頭が切れる友人と記憶と思考回路を共有できると思ったのだ。
 しかし、それは徒労に終わった。彼女が何を考えているのかどれほど考えても手がかりすら摑めない。
 
 もはや、陽子にかける言葉はなかった。ようやく事態が収束を迎えたとき、時計をみると九時を回るところだった。その時、自分を含めた家族がまだ夕食を取っていないことを知った。
 この家にとっては、その夜は記念すべき日になった。
 辻口家が出前を取ったのである。もちろん、他の家庭のようにスムーズにいかなかった。もちろん、小説などを通してそのような世界があることは知っていた。しかし、実際に行動に結びつくわけではない。出前と言ってもどのような店に連絡したらいいのか検討すらつかない。彼らはそのような階級に生まれ育ってきたのである。
 困り果てた末、夏枝がかつて実家でお手伝いさんをやっていた女性に電話をかけて、問題の解決を計った。
 その結果、近所にあるラーメン屋の存在を知ることになったのである。こうして、家族四人で麺をすするというこの家にしては珍妙な行為に身をやつすることにったわけだ。
 建造は、陽子を密かに盗み見した。フランス料理のフルコースを食べるような仕草でラーメンに挑んでいる。その姿から何かしら娘の真意を測れると考えたのである。
 しかし、乳白色の額にひっそりと浮かんだ真珠のような汗に心が惹かれるだけだった。
 
 結局、今度の休みにルリ子の墓参りをすること、そして、何よりも彼女の仏壇を我が家に設置することで話は決まった。
 終始、陽子は不気味なまでに冷静で、これ以上父母を責めるようなことはしなかった。その裏に何かがあるのではないかと、スネに傷がある分、建造は気が気でなかった。だから、正直、妻の顔を直視することが出来ない。

――――お前が浮気したせいじゃないか。

 密かに小児病的な毒づきをすることでしか、自分を慰めることしかできなかった。
 この時、辻口家の歯車が何者かによって手を入れられたことに誰も気づかなかった。昨日のような明日が来ると誰しも疑っていなかったである。いや、気付きもしないし疑うこともしない。そう思いたかったのかもしれない。少なくとも2名は悪い予感ていどの悪寒を憶えていた。
 建造と薫子である。
 前者は言うまでもないだろうが、問題は後者である。
ルリ子が殺されたとき、まだ、彼女は幼児にすぎなかった。しかし、類い希な知性を持つこの少女はその存在が隠匿されたことに、長い間、疑義を抱いていた。陽子の存在があるとはいえ、どのような理由によってそこまで秘密にする必要があるのか。
 だが、薫子がいかに優れた少女であっても、そのタブーに手を触れることはできなかった。母親のようすからこれ以上、足を踏み入れてはいけない場所があることを無意識のうちに察知していた。
 それゆえに、夏枝が言い聞かせる前に、彼女の口から『ルリ子』という単語には封が為された。ある日、パンドラという女性が箱を持ってきた。両親はそれにその単語を入れて、永遠に閉ざしたのである。
 その時、パンドラが帰るとき、薫子に冷たい笑顔を見せたが、それがどうしても忘れられない。高校生になった今でもそれが夢に出てくるのである。
 しかし、そのことは家族の誰にも話すわけにはいかなかった。

 今度、墓参りに行くという。そのことを含めて、両親に質す必要性を感じた。その夜、妹が寝静まったのを確認すると、二人の寝室を訪ねた。
 とつぜん、現れた薫子に両親は別に驚きもしなかった。このことを予感しているようだった。しかし、すべてを打ち明けると建造は思わず声に感情の高ぶりを潜ませた。
 今さらに言う。
「―――お前、知っていたのか!?」
 父親は、この長女のことを娘ではなく息子のように思っている。だから、そのような呼び方になるのだ。
「知らないとでも思っていたの? たった一ヶ月預けられただけで、あの子が誕生したんだよ、幼児でもおかしく思うでしょう?」
 それほど感情を表に出さない薫子が珍しく言葉に抑揚を持たせた。あたかもこれまで表現できなかった思いをいちどに噴出しているかのように見えた。
 少女は、まるで妹の到来を警戒するように扉に寄りかかっている。
「ルリ子の墓参りにも行ってたし ――――」
「何だって? じゃあ、毎年おかれる花束はお前のものだったのか? それにしてもどうやって知ったんだ?」
「春実のおばさんに聞いたの ―――」
「え、お春ちゃんに?」
 その呼び方から、夏枝が動揺していることが見て取れる。今の今まで口を開かなかったのは、すこしもでそうしたらならば、大声で叫んでしまいそうに思えたからだ。
「10歳のときだったわ。そう言えば、花束って言ってたわね。私は、命日の次の日に行くのが習慣になっていたから、それは違うわよ、それに ―――」
「それに?」
 夏枝は頼るような目つきで娘を見つめた。いま、彼女が一番頼れるのは、夫たる建造ではなくて、目の前に屹立する彼女のような気がする。
「あんな高いお花は小学生の私には買えないわよ。その人はきっと命日の前に来てたのよね。それとも早朝だったかも ――――」
「そんなことはどうでもいいのよ! 問題は ―――」
「ママ、声が高い ――――」
 敵国に潜入した諜報部員のような仕草で母親を制した薫子はさらに畳み掛ける。
「ねえ、ママ、血がつながってないってそんなに大変なことなの? 私は気にしないわ。もしもパパとママが気にするなら、あの子を連れて家を出てもいいのよ ―――」
「薫子!」
 夏枝の声とともに、頬を打つ音が響いた。それは、九州の渇いた大地ぜんたいに轟いたのではないかと思わせるくらいの迫力と威力を有していた。
 ガウンを羽織った彼女が座っていたベッドから立ち上がって、頬を打つまでその動作は普段の夏枝から想像もできないくらいに、敏捷で猫科の動物じみていた。それに建造も当の薫子もまったく対応できなかった。
「ママがどんな思いで!」
「わかっているわよ、だから、こうして欲しかったの ―――」
 夏枝の言葉を封じるように、薫子は打たれた頬を見せつけた。
「・・・・・・・・・・・・・」
 加害者はすでに何も言えなくなっていた。ただ、うつむいて液体になった水晶を垂らすだけだった。
もはや、3人のうちに言葉は必要なかった。だた、数日後に控えた墓参りに控えることしかすることがない。
 それに心を砕くことだけだった。






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