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『マザーエルザの物語・終章 32』


「ねえ、ねえ、なんでさ ――」
 帰宅中の列車の中で、あおいは啓子に話しかけていた。いつもの彼女を取り戻したように見える。密かに安堵した啓子であったが、それを簡単に表に出さないのは啓子が啓子である所以だろう。
 
 あえて、憮然とした顔を作り出して言う。
「なによ ――」
「なんで、学校の美術クラブに入らないの?」
 帰宅の途につく前に、あおいは姉である有希江と時間を共有した。数十分経ってもとの彼女が戻ってきた。あたかも入浴後のように顔をさっぱりと変化させていた。
「ちょっと気に入らないだけ」
――――みんなに知られたくないだけ。
 啓子は、本心を伏せて言った。
 脇に抱えるスケッチブックは身体に痛いほど食い込んでくる。余計な力を入れているのは彼女のせいなのに、それは目に見えない何者かによって故意に行われているような気がする。
それは、しかし、被害妄想という一言によって単純に表現しきれないのではないか。
空元気としか思えない親友を見ていると、どうしてもそのような想いに囚われる。

 ただ、そのようにはっきりと言語化が可能だったわけではない。ただ、ぼんやりとした思考の向こうに、それがひっそりと隠れていたことは確かである。
 いまの彼女は、そう想うしかなかった。
 あおいは、そんなことを全く意に介さない言った様子で、自分の言葉に風を吹かせる。
「そちらの方がいいんだ。何処にあるんだっけ ――」
「この駅の一つ先」
 たまたま出くわしたプラットホームに出会い頭のパンチでも加えてやりたくなった。何時も通過するだけの駅だが、当然のことながら、そこにも乗車下車という人の流れが存在し、人の分だけ喜怒哀楽が存在するのだろう。
 啓子は、当たり前のことを思った。
 あおいは、そんな啓子の複雑な思考を想像だにしないで、無邪気な笑顔をみせる―――あくまで啓子の主観では。
「じゃあ、明日までお別れだね ―――」
「・・・・・・?」
 さらっと言い抜けたことに、啓子は不満を憶えた。
―――何かを隠している。
 先ほどからピンとくる直感をかたちにすることにした。
「あおいちゃんも来ない?」
「だって? お金払ってないよ」
 苺のショートケーキのような顔を見ていると思わず殴りつけたくなる。それは、嘘だということが見え見えなのに。
「先生にモデルのことを話したら、連れてきなさいって ――」
「まさか、あの絵を見せたの?」
 生クリームに青みがかかるのがわかった。まるで、わざびを塗り込めたように色が変容している。本当にわかりやすい性格だと啓子はつくづく思う。
―――――こういうところは変わらない。ここは意地悪してやろう。
「センセったら、アノ絵を見てノボせてたよ」
「ちょっと、啓子ちゃん、ひどい!」
 
 あおいは、すっとんきょうな声を上げた。
 自分の思うとおりに事態が動いているのを確認すると密かにほくそ笑む。
実は、アノ絵とはあおいのヌードデッサンのことだ。最初は嫌がったものの、すったららもんだの結果、やっと納得させたのである。第三者の目に絶対に触れさせないという約束で、啓子は了承を得ることに成功した ―――はずである。
「あははは、その絵じゃないよ」
「ひどいなあ、もう!」
 河豚のように頬を膨らませて、あおいは怒りを表明する。
 はるかは、そんな彼女を心底可愛らしいと思った。できることならば、このまま時間を氷らせてデッサンできたらいいと本気で考えた。たしか、この前読んだジュブナイルにそのような話があったはずだ。
 気が付くと相当に変な顔をしていたらしい。
 あおいは、アヒルのように口を尖らせていた。
 
 異様な微笑を口に含んだ啓子を不思議さ60%、苛立ち40%の割合で睨みつける。
「なんで、そんな顔してるのよ ――」
「可愛い顔が台無しだよ」
想像だにできない言葉に対して、あおいは口をへの字に曲げざるを得ない。
「な、何よ、男の子に言われるならともかく ――」
「あおいちゃんたら、そうされたい男の子でもいるのかな?」
 クラスメートはこのような彼女の顔を思い付くこともないだろう。自分だけにそれを向けられるあおいは、心の何処かで、それを特権のように考えていた。しかし、それがさいきん、多少なりとも変容を遂げていることに、不満を憶えてもいた。
 しかし、その正体を自分ながら摑めていないことが、彼女のイライラに拍車をかけるかたちになっている。年頃の少女が第二次性徴に心がついて行けないことに似ているかもしれない。
 心の一部は確かに大人への一歩を確かに踏み入れているのだが、別の部分がそれを容認できない。子宮への回帰を模索すら意図する勢力すら残存しているのである。
 いま、開け放たれた車窓から風が入って、少女の髪があおいの顔に触れた。磨ききっていない真珠が髪によって護られているような気がする。圧倒的な脈動感が肌の上と下を通っているのがわかる。東洋医学の考えで、人体には気と名付けられるものが血液やリンパ液のように行き交っているらしい。ただし、それは目で見ることはできないし、物質のように、他の物質との化学変化によってその存在を確認することも、また不可である。
 年齢不相応の読書を敢行する啓子は、それを知っていた。祖父の書斎で埃を被っていたのを貰い受けたのである。 そのさいには、母親の不快そうな顔を引き受ける目にあったことは言うまでもない。

「・・・・・・・・・?!」
 このときあることに気づいた。いや、気づかされたと表現すべきか。
 時間を凍結することができたならば、どれほど幸福かということである。この美しいモティーフをたとえ、五分でもそれができたならば、それを描ききることができるような気がした。
しかし、それは誤りだった。
 彼女は、動いてこそ美しさを発揮するのである。顔の表面を覆う艶は、流れる気によって構成されている。それは、彼女の内面からあふれ出てくるものだ。
無尽の泉のように、それは、ある種の光を伴って流れてくる。気のように触れもしなければ、見えもしない真性の光である。
 カラカラと笑いながら空間を食いつくすこの怪物は、確かに啓子の魂をそのものにもかぶりつき、その腹にしまいこんで消化してしまいそうだ。
 そうなってもいいとプライドの高い啓子に思わせる何かをあおいにはあった。それが何なのか正体は不明だ。
 いずれにしても、それは常に動いていなければならない。身体を自在に動く気は、動いてこそ、その美しさを発揮する。凍結させてしまっては、無尽の泉も旅人の喉を潤す甘い水をほとばしることは無理だろう。
 もしかしたら、自分は喉を潤わせてもらう旅人ではなかろうかと、考えるに至っていた。突飛な考えだが、自分はあおいという太陽を回る惑星のようなものかもしれないと思った。すると彼女に振り回されている自分の気持ちが不思議なくらい説明が付く。
 啓子は太陽に対して目を細めた。
 あの日のことが現在のことのように蘇ってくる。それは先週の金曜日のことだった。放課後、誰もいない踊り場へと連れ出した。屋上へつながる空間は、半地下ならぬ半屋上とでも言うべき世界である。別の言い方を捜せば、空中庭園という言葉が適当かもしれない。大袈裟な語義とは裏腹に頼りない宮殿、まさに、啓子とあおいが置かれている状況と境遇に相応しい。
 遠くから響いてくる同級生や下級生たちの歓声は、別の世界のものように思えた。壁から窓から伝わってくるひんやりとした空気は、その思いを強くさせる。

 リノリウムの床に放り出されたあおいは、まるで貞淑を破った妻が夫の暴力を怖れるように震えていた。華奢な肩に乗った可愛らしい顔は、かつて親しんだそれとはまったく違う色をしている。
とても不思議な感覚だった。こうして、彼女を見下ろしていると怒りとも支配欲ともしれぬ気持が這い上がってくる。
 それに抗しがたい気持は、裏切られたという感覚だった。
 いずれにせよ、説明できない感情は少女の心を突き抜けて身体をも支配していた。よもや、感情が高まってあおいを殴りつけようとした自分を押さえつけたのは次のような言葉だった。
「早く、脱いで ―――」
 薄闇の中で、顔の筋肉を引きつらせて怯えるあおいの顔。
 そして ――――。
 陽光に照らし出されてあふれんばかりの笑顔を振りまくあおいの顔。
 それらが二重写しになって啓子の目の前に出現している。だから、彼女の声が思考回路に張り込む隙がなかった。

「ねえ、啓子ちゃんったら!」
 それをこじ開けるためには、同じ言葉を数回ほど繰り返さなければならかった。おそらく口角泡の一粒、二粒ぐらいが啓子の身体に降り懸かったにちがいない。
「ああ ――」
「ああ、じゃないわよ」
 憮然とした顔をして、あおいは啓子の目に語りかけた。
「どうしたの? ぼっとしちゃって」
「とにかく、これから来てよ」
「さっきの話? 塾みたいなところ?」
「塾ってより、予備校。美大受験のための。子供向きのところはおもしろくなかったから、そこを紹介してもらったの。代ゼミとかと違って個人的なところだから特別なお願いが通じたのね」
「・・・・・・・?」
 啓子の言っていることの半分もわからない。あまりに同年代の少女たちと感覚が違いすぎるのだ。あおい以外のクラスメートたちに対しては、意識して合わせている。すなわち、他人を、いや、自分をも偽っているわけだが、こと、親友を目の前にすると思わずそのタガが外れてしまう。
小説などで読み知ったことを我がことにしてしまう想像力があるだけに、代ゼミなどと言う言葉が平然と出てくるわけだ。
「あ、そうか。美大受験のための予備校に小学生が通うのはおかしいでしょう?」
  「でも前の絵の塾はどうして気に入らなかったの?」
 良いところに疑問を持ったと、まるで教師のような顔をして、啓子は説明を再開した。
「自由に描かせるだけで、人間を人間として描く方法を全然教えてくれないだもん」
「??」
 またも、あおいは首を捻らざるを得ない。
 啓子は、彼女の首から肩に掛けて造られる傾斜の美しさに気を取られながらも、同時に、説明を続けるという芸当を披露した。
「写真みたいに描きたいの」
 それは、実際の希望とかなり隔絶しているが、あおいにはそう説明するしかない。
――――いつだって、お前はそうだった。自分が美しいことに無頓着だったし、他人がそれに対してどのくらい憧れてきたか、想像だにしない・・・・え? 私は何を?
 それは突然、外部から脳に送り込まれた言葉のように思えた。啓子じしんが考えたことではない。いわば芸術に対するインスピレーションに近い。
 またもや何処か別の世界に旅立ってしまった啓子に、あおいは戸惑いを隠せない。
「どうしたの?」
「な、何でもない ―――」

 急に機嫌を害した啓子に、あおいはどうやって接したらいいのわからずに立ち尽くすばかりだ。
 ここ数ヶ月で、少女は失ってはならないものをタチ続けに失っている。ここで、啓子まで手放すわけにはいかない。だから、ぎりぎりのところで、彼女の全裸要請にも首を縦に震ったのである。
「わかったわよ、でも変なことされないんでしょうね ―――」
「大丈夫だよ。変な絵は見せてないし ――」
 変な絵が、あおい自身のヌードデッサンであることは、国語の問題を解く要領で導き出せた。
 
 曰く、波線部を文中の別の言葉で置き換えている言葉がある。それに該当する言葉をすべて書き出せ。

 楽しいはずの啓子と過ごしている時間が、さいきんでは唯一の命綱になっていることから、それが必ずしも安息になっていないような気がする。それが試験問題を解いている時間を思い浮かべる羽目にもなる。
 少女が迷い込んだ隘路は、想像したよりもはるかに複雑で、脱出するのに普通では考えられほどの努力を要求する。 
 そのことを痛いほど思い知らされた午後だった。

  親友の目の前で全裸を晒したとき、二人で風呂に入ったときよりもはるかに羞恥心を憶えた。自分だけが恥部を晒すというのは、想像以上に恥ずかしいことだったのである。互いに見せ合ったあの日とはまったく違う感情を少女の心に植え付けていた。
 しかも、啓子は窓を背にしていたために、逆光となり、彼女の顔や詳しい表情を確認できなかったことは、さらなる不安を煽り立てた。怒っているのか笑っているのか、まったくわからなかったからである。
かつて、母親が見ているドラマ中に裁判のシーンがあったが、あの被告の立ち位置を彷彿とさせた。
被告は、まだうら若い女性だったが、裁判官、検察官、弁護士、そして、裁判員や傍聴人たちに取り囲まれた様子は、まるで、世界中のすべてから責め立てられているように見えた。
 そのとき、あおいはそれを如実に感じたのである。

 いま、列車は啓子の指し示す駅のプラットホームに呑みこまれていくところだった。それが、巨大なマジックハンドに摑まれていくように思えた。





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