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『マザーエルザの物語・終章 33』


 あおいは、近い将来、それはごく数秒後のことなのだが、自分もそのプラットホームに呑みこまれていくことを信じられなかった。
「あおい、早く来てよ、ドアが閉まっちゃうわよ」
「うん・・・・・・」
 手首を返してわざと女の子らしい仕草を演出しながら、少女は立ち上がった。しかる後に、その腕を無理矢理に親友によって摑まれながら、かつて観察した客たちと同じ運命を辿ることになった。
 行き交う人々はどれもプラスティックで構成されている。どんなにおせじを使っても、とても生きているように見えない。
 とうぜんのことなのだが、みんな、彼女とは無関係のように思える。じっさい、そうなのだから仕方ないが、誰も 自分に意識を集中しないことには、例えようもない不自然さを感じる。
 自分が何事か偉いことを成し遂げたわけではないが、意識の何処かでそのような自分がティッシュペーパーを出会う人に配り歩いている。それらには、きっとこう書いてあるにちがいない。

 「私を見て、注目して!」

 そのような雑然とした思考の沼に心を浸していたのが、そうとう、異様に見えたのか、啓子はしゃっくりを上げるような声を出した。
「何をぐずぐずしているのよ」
「あ、ごめん ―――」
 そのとき、少女の小さな頭の中に設置してある映画館では、啓子が見ている作品とはまったく違うそれが上映されていた。
 あおいは一人、列車に取り残されている。プラットホームにいるある人物を視界に収めるのに必死だ。
 少女が聞いたこともない轟音が彼女から聴力を奪っている。口を必死に動かしているはずだが、自分の声すら聞こえない。プラットホームに立つ人々は一様に手を振っているが、しかし、どれもおかしな恰好をしている。女性は袋のようなものを頭に、そして、男性は変な帽子を被っている。
 その上、みんな、明かに日本人ではない。その服はどれも薄汚れていて、彼女が慣れ親しんでいる駅の風景とはあきらかにちがう。
 しかしながら、何か旧い映像を見せられているというかんじではない。たしかに、彼女はそこにいて、世界を体験しているという現実感が真に迫ってくる。けっして、彼女はこの世界にとって客などではなく、住人なのだ。当事者なのだ。
 何処にも不自然なことがあろうはずがない。
 列車がプラットホームを消滅させようとしたとき、目標の人物が見付かった。
 小髭の人物。

――――旅立つまでに、切っておいてって頼んでおいたのに。
 あきらかに似合っていない。ありもしない威厳をそなえるために生やしているのだ。そのままで十分ハンサムなのに。
 青年はプラットホームを喰い殺さんばかりに口を動かしているが、轟音のために何も聞こえない。旧いトーキー映画を見せられているようだ。

―――ええい、演者は一体どこにいったというのか。
 彼はきっと自分の名前を呼んでいるのだろう。
 そう思った、いや、確証したあおいも彼の名前を呼んだ。
 しかし、その時にはもうプラットホームごと彼は虚空に消え去っていた。
 深い黄昏が西の空に、まるでドラゴンの目のように意地悪く光っていた。何処かの国の何処かの文学者が書いた童話に、ドラゴンの目が発する光によって石になってしまう話があったはずだが、あおいも石化して誰もいない墓場に放り出されたような気がした。

―――それでも行かねばならない。
 少女は何者かにそう語っていた。
 少女は何者かにそう語っている。
 啓子はあおいがわけのわからないことを呟いていていることに気づいた。
「啓子ちゃん、私、あの列車に乗らないと ―――」
 「どうしたの?あおいちゃん!?」
 別の世界に行ってしまったかのように佇む啓子。その顔を見せつけられると思わず体の芯を奪われてしまったかのような虚脱感に襲われた。それはあきらかに既視感と呼ばれる感覚にちがいなかった。

―――奪われてしまう。
―――このままだと永遠に、あの列車に乗って
―――無知な土人のために。
――――だから、いっそのこと爆破してしまおう。
 
 気が付くと、啓子は親友を鷲の目で睨んでいたらしい。
「どうしたの? 啓子ちゃん、怖い」
怯えた顔を一目見れば、アウシュビッツに連行されるユダヤ人少女よろしく、完全に色を失っているのがわかる。
しかし、あえて優しい声をかけようとは思わなかった。
「悪かった、ごめん、時間がないから、先を急ごう」
 「け、啓子ちゃん」
 新鮮なレタスのような手を握りしめながら、改札に向かう啓子。あおいはそれに付いていく、いや、その手を切断しないかぎりは付いていかされるのだが、引きずられながら啓子が感じているそれとは、また別の、既視感の火に煽られていた。
啓子の手は限りなく冷たかった。まるで、ドライアイスのように、このまま押しつけられていたら凍傷するのではないかと怖れるくらいに、存在そのものが鉄の氷と化していた。それは、あおいに何かを訴えているように感じた。

―――自分を見捨てるな。
――置いていかないでくれ。
―――自分を裏切るのか。

 さまざまな怨嗟の声があらゆる時間から聞こえてくるような気がした。その中には、未来から響いてくるそれすらあった。

―――自分がいったい、何をしたというのだろう。
 
 改札を抜けるために手を離されたときには、心底ほっさせられた。
このまま摑み続けられていたら、本当に肩からもぎ取られてしまうのではないかと、思った。じっさいに痛みすら感じていた。刃物が触れる冷たさすら予感することができた。
町中を行き交う人々も、やはり蝋人形のように、どれも目がうつろだった。あおいの主観がそうさせるのかもしれないかと、幼い少女に洞察させるのは無理なはなしだろう。
 世界がぜんぶ、自分のためにあると思うのは、子供の特権である。大人がそう思ったら人間性からの逸脱以外の何物でもないが、子供ならば例外的にそれが許される。

 精一杯ではないが、あおいは、それを満喫していた。ドールハウスをそのまま大きくしたような街を駈け抜けていく。大人と大人の間をすり抜けていく。初夏の太陽はまだ健在で若々しい陽光を人々の頭に降り注いでいる。
そう大きな駅に隣接する街ではないので、目抜き通りはそう大がかりというわけではない。しかしながら、意図して造られたのか、ほぼ赤煉瓦に統一された瀟洒な雰囲気は、あおいの目を楽しませるのに十分だった。
馬車が走っていてもおかしくないと思われる通りを10分ほど歩いた先に、その建物はあった。

 正面に設えられた看板には『代ゼミ美術科』とある。
 まるで白黒写真のような鉛筆画が正面の窓に所せましと貼られている。人物や静物を描いたそれらの作品をデッサンと呼べるほど、少女は、美術に明るいわけではなかった。自動ドアが開くと、啓子は、いかにも当然という顔で入っていく。一方、あおいは、きょきょろきょろと落ち着かない仕草で奥に向かう。ここは当然、美大受験生が通う学校なので、当然のことながら、最低でも15歳には達している。普通の小学生にとって、彼らは考えるまでもなく大人に見えることだろう。
 受験生たちは、珍獣でも見るような顔であおいを見送る。啓子の方は相当慣れたようすで彼らの視線を全く意に介さない。
 高級ホテルじみたエントランスを抜けて、廊下の一番奥まったところに、その部屋はあった。ドアには所長室と書かれたプレートが貼られている。啓子は、大人びた仕草でノックすると、奥から男の声が聞こえた。
 それに返事をする啓子は、普段の彼女よりもさらに年齢を先に行っていて、あおいは、何だか取り残されているような寂しさを感じた。横顔を盗み見すると、その目つきに愕然とさせられた。とても小学生がするような表情ではなかったからだ。さらに居たたまれない気持に苛まれながらも、啓子が教師だと仰ぐ男性の挨拶に応じる。

――啓子ちゃんの絵だ!
 
 所長室に入ったとき、あおいの目を惹いたのは、所長でもこのような教室に不釣り合いに豪華な調度品たちでもなかった。この部屋にあるていどの品は自宅にいくらでも並んでいるから、彼女の注意を惹くはずがなかったのである。
 その絵は正面の右側の壁を覆っていた。正確にはかかっていたと表現すべきだろう。油絵で五号の大きさは35センチ、27センチだから、それほど大きいわけではない。しかし、その絵が醸し出す迫力は、まるで絵そのものが壁と入れ代わったのではないかと、錯覚させる。
 女性 ―――が描かれている。なんと言うことはない、よくある肖像画である。
「その絵に興味を惹かれるのかい、お嬢ちゃん ―」
 所長の声があおいを現実に引き戻した。
「きっと、この前、みんなで見に行ったから憶えているんだと思います、佐々木先生」
「ぁ・・・・・・、こんにちは、榊あおいです」
「へえ、きみが」
 いざ立ち上がった姿を見上げると、佐々木とかいう教師がわりと背が高いことがわかる。彼女の父親よりも頭一つ分くらい割高である。
「・・・・・・・!?」
 
 佐々木は、あおいを見つめる視力を弱めない。それは完全に意識せずに行われた。
 美術家というものは、気が付かないうちにそのようなことをしているものだが、それは、普段、彼がモティーフとしている対象に限ったことで、あおいのような、一般的な言い方で表現する小娘などに、貴重な意識を集中させるなどということが、よく、あることではない。重ねて、彼にその手の趣味があるわけでもない。
 だが、しばらく意識を損なっていたために、教え子の声を聴き取ることに失敗していた。
「先生!」
 啓子は、不満そうな色を表情に載せて抗議の言葉を吐く。
「ああ、ごめんよ、赤木さん、宿題は持ってきたかい?」
「はい、これ」
 スケッチブックを差し出す。
「―――――!」

 とつぜん、あおいは不吉な予感に襲われた。もしかして、自分のあられもない姿を描いた絵が眠っているのではないか。
「ちょ、ちょっと、待って。私に見せてよ!」
やおら、動いた少女は俊敏な動作で教師に渡される瞬間に、スケッチブックを奪い去った。
「何するのよ!! あおい!?」
「私の絵よ、まず、先に見る!」
 権利とか義務とか言った言葉が出てこないところが、あおいらしいところである。しかし、啓子の網膜にはその2文字が刻印されていた。
「全部、見せたでしょう!?」
「完成してなかったもん」
 思わずトラフグを口の中に抱いて見せた。
 それに、思わず微笑んでしまったのは教師である。
「ほらほら、喧嘩しないで、モデル殿は自分がちゃんと美人に描かれたのか心配のようだよ」
 ふくれっ面の美少女を優しげな笑いでやり過ごしながら、スケッチブックを受け取る。そして、彼女の視線に密やかな針を感じながらも開く。
「・・・・・!? やはり!!」
 ページを開いた、まさにその瞬間、しかし、あおいの、いや、啓子の存在すら、彼の脳裏から消えて去っていた。
 思考停止。
 彼の脳内はただ、その四文字だけが空回転していた。
 しかし、次の瞬間には別の3文字が彼の頭を席巻することになる。
 それは ――――。
 井上順。
 ある帰化人画家の名前である。
 そう、この部屋を支配している小さな絵の作者である。







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テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

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