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『新釈氷点2009 7』

 
 少女は一体何処にいたのだろう。
 気がつくと、寺の庭崎に設えられた座席に未発達の尻を乗せて、遠くに息づく長崎の町並みを眺めていた。

―――あそこにお父様の病院があるのかしら?

 紺のブレザーは心なしか露を散らしていた。水晶の珠をあしらっているのだ。建造は、娘の胸を見ていた。年齢に相応しくこんもりと盛り上がりつつある。その頂点の部分には他の部分よりも余計に宝石が乗っているような気がした。

――――もう、年頃なのだな。一昔前ならば、嫁入りもそう遠いことではない。

 墓参りは無事に済んだ。一時はどうなることかと思ったが、建造の不安は杞憂に終わってくれるようである。少なくとも、そう思わないと帰りに事故を起こしてしまいそうである。若い院長は、自分の不安をごまかすために、娘に話しかけることにした。
「陽子、どうだい?」

――気は済んだのかい?と言おうとして、咄嗟に言葉を差し替えた。娘の心を気遣ってのことである。
 
「お父様・・・・・」
「ルリ子もきっと喜んでいるよ、とても優しい子だったからね」
 ありがちな台詞を口の端に載せたのは、建造自身の精神安定のためである。こうすれば、娘は安心してくれるだろうという ―――。
 いや、もうひとつの可能性を述べてみれば、そうすれば、父親の役割を果たしたという自己満足の心がないとはいえないだろう。
 自縄自縛に陥った建造は、かたわらにいるはずの夏枝に助けを求めようとした。
「夏枝もそう思うだろう? え?」
はたして、長崎城主婦人はそこにはいなかった。

「夏枝は何処に言ったんだ?」
「ママは、茶屋に行ったよ」
 「薫子か ――」
 まるで待ち受けていたかのように、辻口家の長女は答えた。茶屋とは大きな霊園にあるような喫茶店のようなものである。しかし、なにぶん、小さな寺なので規模は極小規模であり、住職が趣味で参拝者をもてなしている。
 それは、住職とその家族の住居の近くにある。匿名庵と名付けられた風雅なたてものは、千利休の待庵にいささか似ていた。
 お嬢さんとして育った夏枝は、その方面にかなり明るい。だから、住職との会話もはずんでいた。

「まあ、ご住職は千利休の専門家に知見がおありなのですね」
「ええ、従兄弟が大学教授でして ――」
 住職に振る舞われた宇治茶をすすりながら、院長夫人は娘が見ている風景とはまったく逆のそれを見ていた。長崎の街ではなくて、峻厳なる自然を眺めていた。素人ではとても登れそうにない絶壁やどんな残酷な環境でも力強く生きる松を、彼女は見ていた。

――――はたして、自分や娘はあのようになれるだろうか。
 絶壁に根を張る松の木は、今にも落ちそうな姿勢でなおも絶壁にへばり付いている。くねくねした根っこは、まるで大蛇のようだ。
 これから母娘を襲う障壁を考えると、闇々(あんあん)たる気持になるのだった。しかしながら、遠くない未来に、いや、すぐ手の届く次の瞬間に、それを180度逆転させる情報に、彼女が境遇するなどと夢にも思わなかった。
 それはとつぜんに起こった。

「おや、おや、会話がはずんで折られるようですな、ご住職」
「おや、神父さん、一年ぶりですね」
おや、と思って、ふり返るとそこには十字架が立っていた。おそらく、ここが寺などと言う伝統的な空間だったために、あり得からざるべきオブジェに目が行ってしまったのだろう。
 よく見ると、老人は、おそらく70も半ばを過ぎていると思われる。小さいころから祖父と祖母によくされた夏枝は、老人には親切に接する習慣ができているし、それに従って娘たちにも躾を行ってきた。
 だから、十字架に奇妙なものを見る視線を送ってしまったことに気づいて、それを人知れず恥じた。しかし、人生の妙を極めたと思われる老人は、そんなことなどお見通しといった風に、言葉をかけた。

「お寺に、十字架など無粋ですかな? いえ、すいません、ここにはややいわくつきの人が眠っておられるのでね、一年の一度だけ、今日だけ改宗してでも、祈りを捧げているのですよ」
「今年は、一日だけ遅いようですね」
「いえ、今年は昨日までヨーロッパに行っておりまして ――」
 老人は杖を頼りに着席する。
 住職が茶と菓子を用意するために奥に消えると、夏枝はこの老人に不思議な興味を感じた。
「神父さまは、どうしてここに来られるのですか? あ、すいません、ぶしつけなことを」
「いえ、かまいませんよ」
 まるで孫を見るような目で神父は記憶の糸を辿るように言葉を紡ぎ始めた。
「それも今年で最後です。このとおり、この老体にはあの坂道はこたえるのでね。それにあの子たちもきっと幸せになったことだろうし」

「あの子たち?」
 老人が微笑んでいるのをいいことに、やんわりと追求を始めた夏枝。これから悪夢が待ち受けているとも知らずに、老人を見つめた。断っておくが、それは好奇心に基づくものではない。何やら分からないものに引かれて、いつのまにか、老人に吸い込まれていったのである。
 「ええ、今一人は、天国に、いえ、極楽でしたかな。そして、もうひとりはきっと幸せな家族に囲まれて笑っていることでしょう」
「・・・・・・・・・・」
 夏枝は怪訝な顔を隠そうとしなかった。それは何処かで聞いた話だったからだ。旅行先で思わぬデジャブーを感じたと思ったら、小さいとき両親に連れて行ってもらったことがあった ――というドラマにはありがちな設定を思い浮かべた。
「神父さんはその子と面識がおありなのですか?」

 注意深く言葉を選ぶ。その狼狽したようすから、神父の意図を探ろうというホンネが見え見えだが、これでも細心の注意を払ったつもりなのだ。
神父はそれを見定めたか、そうしないふりをしているのか、何でもないという顔で口を動かす。
「ええ、せいかくには彼女の父親に、ですがね」
「神父さん・・・・・、もしかして、その女の子は、その、害されたのではないですか?」
 殺されたと表現しなかったところに、母親としての意識が見て取れる。神父はそれだけでなく、彼女が女の子と言ったことに目をつけた。彼は、そうは言っていない。あくまで子供と言ったにすぎない。
 互いが見えない糸と針で互いを釣り上げようとしている。ふたりの対峙は端から見ているとまさに息を呑む展開だった。
 だから、茶と菓子を持ってきた住職は危うくそれらを零してしまう憂き目を見るところだった。
しかし、彼の苦労を見ているものはひとりもここにはいない。互いが互いに注目しすぎて、周囲に注意が向かわないのである。

「あなたは、もしかして、いや、まさか、辻口さんとおっしゃるのでは? やっぱり」
「私の  ―――された娘はルリ子といいます・・・・」
 例え婉曲された表現であっても、もういっかいその言葉を使うことは、夏枝には堪える相談だった。そして、その語尾は叩いたばかりのギターのように震えている。
「や、やっぱり ――――」
「それではあの愛児院の院長先生ですねの」
「それは過去の話ですよ、院長夫人!陽子ちゃんはお元気ですか」
 もはや互いに言葉は必要ない。ふたりはすべてを悟ったのである。
 二人は、20年ぶりに出会った親子のような顔をした。仄かに心の芯が温もりを帯びていくような気がした。しかし、老神父の次の言葉がそんな気持を一瞬で崩壊させることに気づくことはなかった。

「あなたはすばらしい! 本当にありえないほどに!!あんなこと普通の人間ならとうでいできないことですよ。陽子ちゃんはお元気ですかな?」
「それはどういうことですの」
 夏枝は苦茶を粉のまま噛んだ。
 思えば老人の言葉はおかしい。ルリ子が殺されたことと、陽子を養女として迎え入れたことにどのようなつながりがあるというのだろう。
 このとき、ふたりの間に微妙ではすまされない、ボタンの掛け違いがあった。
 老神父は院長夫人の態度に、奥歯に何か引っかかったような感覚を味わいながらも、言葉を続ける。
「そうでしょうね、なかなかできることではありませんよ」
 「・・・・そうですわね」
 夏枝もだてに歳をかさねていない。良いところのお嬢様出身とはいえ、院長夫人としてそれなりの経験を重ねている。それにはこの事件の発端となった不倫も含めていいだろう。
 実は、話をはぐらかしてみせたのである。どうやら、その秘密とやらを夏枝が知っていると神父は践んでいるようだ。
 もしも、「知らない」と答えてしまえば、その秘密は永遠に隠匿されてしまうかもしれない。孔の隙間に挟まっていた鍵を取ろうとして、失敗した挙げ句、永遠に入手できない羽目に陥るということはよくある話だろう。

 寄る年波には勝てないということか、神父は見事食い付いてきた。それとも、孫のような夏枝を甘く見たということかもしれない。
「ご自分の娘さんがあんなことになって、憎むべき相手の御子に許しを与えて、育てるなどと、まさにイエス様の教えに叶っております」
「・・・・・・・・!?」
 九州そのものが音を立てて割れたような気がした。あるいは、ソ連の核弾頭が降ってきたのかも知れない。夏枝が立つ大地は音もなく崩れていった。
「どうかされましたか?」
 自分が大量破壊兵器になってしまったことなどまったく気づかずに、老神父は酸素を吸う。
 夏枝は体裁を取り繕うのに持てる全エネルギーを使った。
もしも、自分が本来もつ性質に従って、ここで感情を爆発させてしまえば、そのことは、建造にも伝わるだろう。それは断じて避けねばならない。

 何故ならば ――――。
 この時は、その理由には思い付くことがなかった。ただ、女性らしい直感がそう告げていただけである。
 間違っても復讐の2文字が頭に浮かぶことはなかった。
「だ、大丈夫です、神父さま」
その時、地獄から天使の声が聞こえてきた。
「あら、お母さま、どうされたのですか? 具合が悪そう」
「・・・・・・・・・・?!」
 院長夫人は、予想だにしなかった声に、脳が溶け出すような気がした。網膜には確かに自分の脳が腐乱して視神経を犯すシーンが映り出されていた。
「な、何でもないわ!」
「お、お母さま?!」
 陽子のヴェネティアンガラスの指は、悲しくもはねのけられた。
「ああ ――」
 どうして、こうまでして自分の悲しくも口惜しい思いを韜晦せねばならないのか。夏枝の中でいろんな感情が互いに波を作って、激しく叩いた音叉を水中に入れたようになってしまった。

――――憎い! この綺麗な顔をキリで傷だらけにしてやりたい!!ダケド・・・・!?
 
 しかし、神父に対して行った行為とはまた違う感情が、陽子に対してわき起こっていた。
この時、大切なものが壊れてしまったことに、陽子は気づいていなかった。しかし、母親のようすが普段と違うことは容易に知れる。
だから、意識の何処かでそれに気づいていたのかもしれない。

 神のいたずらか、あるいは、配下の天使のひとりが出来心を働かせてしまったのか、いま、二人は邂逅してしまった。知ってはいけない事実を把握してしまった夏枝は、もはや、以前の彼女ではないだろう。
一方、陽子はまだおむつが取れたばかりの、ほんの、乙女にすぎなかった。
 この二人の境遇と心情のちがいは、どのような物語を紡ぐことになるのか。それは、この時、誰もまだ想像だにできないだろう。


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テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

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