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『おしっこ少女 8』

「ううううぅぅっぅん?!」
「そのシートはメーカー製の特別あしらえなのよ。疲れた身体をたんと休めてね」
 運転者は傍らのシートに身を沈める奴隷に語りかける。
「この車が相当の高級車であることを感謝しなさい。あそこへの刺激もこの程度で済んでいるのよ」
 車に関するまひるの知識では、晴海のカービジネスの世界を理解することは難しい。よって、現在、彼女が乗せられている車種を教えられたところで、その価値を理解することは難しかった。
「ウウ・ウ・ウ・ウウ、ほんとうに、このままでテニスを?」
「してもらうわ」
 麻木晴海は接ぎ木の要領で言葉をつなげる。

 だが、最初の木とそれにつなげる枝との関係にそれほどの親和性は見いだせない。いや、むしろ、完全に相反する。生まれたときから憎しみあう兄弟のようで、とても握手しあうような仲とは言い難い。
 だが、後者の圧倒的な権力によって、無力な前者は支配されねじ伏せられる運命なのだ。
 そうは言うものの、学校でいじめられる時とは何かが違う。それを具体的に説明しろと言われても、あいにくと、まひるの語彙力ではうまく表現できなかった。
「ウウ・ウ・・・」
「これでも、学生時代はテニスをやっていたのよ」
 何がこれでもなのか、まひるにはわからない。
「そこにラケットがあるから見てみなさいよ」
「ウウ・ハイ・・・」
 晴海が指す先は背後の席だった。性器に生地が食い込むのを必死に我慢しながら、上半身を動かしてラケットに触れる。
「ウウ・・・・?!」
 ビニールに包まれたそのラケットはかなりの高級品である。
「眺めていないで、中を出してみなさいよ」
「・・・ハイ」

 まひるの上品な鼻梁がかすかに動いたことに、晴海は見逃さなかった。しかし、それをすぐに表に出すような真似はしない。運転しながら、少女の挙動を観察して楽しむ。
 少女はテニスラケットを握っている。
「振ってみなさいな」
「こ、ここでですか?」
「そうよ」
 晴海の声は小さいが至極断定的だ。被虐のヒロインに、背く気力すらない。
 何度も振るう。
 それを見ていたまひるはほくそ笑んだ。
「まひるちゃん、テニスの基礎があるのね」
「・・・・」
 とたんに、少女の顔色が青みを帯びるのを晴海は興味深く見ていた。
「言ったでしょう?これでもテニスの経験があるって、見れば分かるわよ、握り方をね。幼いころから相当、しごかれたわね」
「・・・・・・・・・」
 本来の表情をまひるは取り戻していた。しかし、本人はそれに気づいていない。まだ治りきっていない精神の傷に塩を塗られたのである。そんな時に見せる表情が本来の自分などと、誰が思うだろう。
 しかしながら、女性捜査官の慧眼は確かにそれを見透かしていた。知っていて、あえて、塩を塗る行為を強行してみせたのである。
「その通りです。でも、才能がなかったんです、でも、妹が同じテニスクラブのジュニアにいるんです」
「ふうん」
 語尾がふいに明るくなった。それにつなげるように晴海が言う。
「妹さん、ジュニアの選手権で準優勝を飾ったのよね」
「エ?ご存知なんですか?」
「公安の捜査能力を甘く見ないで欲しいわ」

 自分で言っておいて、思わず噴き出しそうになった。確か、そのような台詞があるコミックスにあったはずだ。彼女が小学生時代に読んだ旧い記憶である。
 まひるはそんなこととも知らずに、自分の車を運転する女性に恐怖を抱いた。この人は自分に関することをなんでも知っているのだろうか。
 自分がテニスに関することで傷を受けていることだけでなく、そのことで安藤ばななから脅迫を受けて、それが原因で彼女の奴隷になっていること等、それらのことをすべて知悉しているのではないか。
 しかし、それはまひるの買いかぶりと言えよう。
 それほど、この時の晴海が美少女に関心があったわけではない。もちろん、公安の捜査能力を行使すれば、それは不可能なことではない。しかし、それは事件に関する可能性がある場合に限られる。何故ならば、日本は民主国家であり名義上は少なくとも警察国家ではないからだ。
 まひるの妹の件も、たまたま見た地方紙の片隅に見たからだ。彼女の記憶力には定評がある。その点は、たしかに公安の捜査能力なのだろう。
 だが、この時、女性捜査官は被虐の美少女に関して新たな知識、そうまでいかなくても手がかりを直接的に得ることができた。

 テニス、そして、妹。
 この辺が佐竹まひるという少女を解くキーワードになりそうだった。
「今夜は泊まっていきなさい、連絡しておくから」
「・・・・」
 もはや、悪い意味での夢心地の状態に陥っている少女には、事態を正しく把握する能力はない。まひるは意識の外で、晴海が、彼女の義理の姉、すなわち、少女の実姉に電話をかけていることを知った。
 だが、それに何ら影響力を行使することはできない。
 よしんば、しようと思ったところで、彼女にその気力はない。全身が性器のようになっているまひるには、手足を生まれたときから奪われた巨大な海鼠以外のどんな存在価値があるというのだ。
 それにしても、この女性キャリア警官は、そんなまひるが可愛らしくてたまらないのである。いじめれば、いじめるほどに味わいが出てくる。
 そもそも、彼女に嗜虐という趣味はなかったはずだが、この女子中学生を目の当たりにした瞬間に、その感情が芽生えてしまった。何かを嗅ぎつけたのだが、現在の晴海に、具体的な理由を見つけ出すことはできない。
ただ、欲望が要求するままに、残酷な行為を続けているだけなのだ。

「まひるちゃん、起きてる?まひるちゃん!」
 車が止まったとき、少女は軽く意識を失っていた。
「あ、朝ですか・・・・・!?」
「何を寝ぼけているの?ほら、起きなさい!」
 まひるの股間に邪悪な指が侵入していた。
「えぐ?グウ・・・・・」
 意識を取り戻してみて、自分が悪夢の中にいることを知った。あるいは、現実そのものが悪意に満ちていることを知らされた。
「あ、安藤さん・・・・・」
「まだ、寝ぼけているのよ、ついたわよ。テニスコートに、折角、テニスウェアもあるけど中身が見えちゃうし」
「アヒイ・・・・ア・・・・・はあ、はあ!?」
 晴海の掌がまひるの大腿を摑んだ。それだけのことで、少女の性器に負担がかかるのだ。まさに全身性器である。
「このいやらしい足が見えちゃわね、仕方ないわ、今日はジャージで楽しみましょう」
 女性捜査官の美貌が、月夜によく映える。まひるはぞっとなった。だが、安藤たちに感ずる圧倒的な恐怖とそれに基づく拒否とは違う感情を、この年上の女性に感じていた。当然のことながら、姉に対する感情とは完全に異なる。

 かつて、体験したことのない感情に、まひるは戸惑っていた。それをどう受け取って、反応したらいいのか、皆目検討がつかない。
 全身を覆うぬめぬめした化け物は、情け容赦なく美少女を強姦していく。少女は身動きするたびに官能の疼きに耐えねばならない。あたかも、ボンデージ服は固有の意思を持っているかのような動きで、彼女を捕らえて放さない。
 ホテルのような高級感溢れるエントランスを通って、更衣室に入ったはずだが、その記憶はあやふやで頼りない。
いつの間にか、少女の虚ろな目はぼんやりとした光の束を見つけていた。
 テニスコートだ。
 夜の闇に咲く奇妙な都市である。天上まで続く柱とネットは、あたかも、少女を閉じ込める牢獄を構成しているように思えた。
「はあ、はあぁ・・・・・あぁ」
 いつの間にか、硬い地面に手をついていた。
「だ、駄目です・・・・・テ、テニスなんて、ハア、で、できません・・・・ハア」
「何言っているのよ、立ちなさい!」
 棒のようなものが少女の頬に突きささる。言うまでもなく、テニスラケットだ。
 まひるの位置からはちょうど逆光になっていて、晴海は闇の女王のように見えた。
「ハイ・・・・ハア・・ハアぁ」
 力無く答えると、少女は半病人のように立ち上がろうとした。右膝を地面に立てて、ようやく上半身を持ち上げる。
「ウウ・ウ・ウうう?!」
 たったそれだけの衝撃で、いきなり股間に指を突っ込まれたような官能が、少女の下半身を襲う。
 顔を上げると、既に、晴海はテニスコートに立っていた。
 本能的に、そう、かつて、テニスに打ち込んでいた記憶の残り滓が、少女を反対のコートに足を運ばせていた。
小さい頃から叩き込まれてきた教育によって、ほぼ無意識のうちに、まひるはボールを待つ体勢に入っていた。
テニスは大好きだった。小さい頃から、プロテニスプレイヤーになることだけを夢見て、辛い練習にも打ち込んできた。
 それが、彼女がテニスコートに出現することによって、内的にも、外的にも、少女を打ちのめす結果となった。妹が天賦の才脳を開花させるに至って、懸命に努力してきたことで勝ち取ってきた家族の関心は完全に奪われ、孤立した彼女たけがぽつんと取り残された。
 いまの、まひるのように。

 ボールは、情け容赦なく、右、左と放たれる。
 テニスボールがはずむ音は、少女に苦痛な既視感を与える。性器を襲う官能は、少女に、新たな道を示す。それらを同時に与えられた場合、少女の中で一体何が起こるというのだろう。
 過去と現在をつなぐもの。
 まるで、酔っぱらいのように千鳥足でボールを追いながら、あるいは、チョウのようにか弱い身体に凶悪なボールを受けながら、女子中学生は、過去と現在を行ったり来たりしていた。
すると、目の前に立ちはだかるテニスプレイヤーは何者だろう。
 妹か?
 いや、違う。それにしては背が高すぎる。
「ウウ・ウ・ウ・・うう?!」
 思わず、右膝を付いてしまった。
 股間のことはもうわからない。もう自分ではないようだ。得体の知れない宇宙生物に乗っ取られてしまったかのようだ。
「どうしたの?まだ始まったばかりなのよ」
 残酷な言葉が、ボールにもまして怖ろしい速度で飛んでくる。
 このまま得体の知れない化け物に、全身を乗っ取られてしまえばいい。脳にまでその汚らわしい触手が伸びれば、精神まで支配されることは必至だ。そうなれば、もう、まひるは苦しまないだろう。
 何となれば、まひるなどと言う少女はこの世の何処にもいなくなるからである。
 しかし、そうは問屋が卸さない。
 残酷なまでに美しい声が天頂から降ってきた。





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