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『マザーエルザの物語・終章 8』

「そうだ、家政婦、忘れ物、あんたの夕御飯よ!」
「茉莉!」
  残照を切り裂くような声とともに、あおいの頬に飛んできたものは、500円硬貨だった。榊家の浴室は広大で、目標までかなり距離があるにもかかわらず、それは、的を誤らなかった。あおいの眉間に当たって、タイルの床に転がった。
  犠牲者の目には、それが螺旋に回転しながら、堕ちる様が、まるで、自分の運命を暗示しているように見えたかもしれない。
たしかに、見えない血が、少女の白い眉間に、不気味な糸を垂らしていたのである。それは、少女が美しいだけに、その不気味さを際だたせていたのである。その血は、心が流した血だったかもしれない。
  悲しければ、心は涙を流したりもするし、血も流したりもするのだ。


 しかし、あおいは、血まみれになった顔で、硬貨を見続けていた。それは、タイルの床に異次元の音と、奇妙な残像のハーモニーを造りながら、回転を終えた。
――――夕御飯?
 最初、少女はその言葉の意味を理解できなかった。
「茉莉?」
 あおいは、叫んだが、その意味を問うべき相手は、あっという間に消え去ってしまった。
「ウウ・・ウ・ウ、ゆ、有希江お姉ちゃん?!」
 だから、それを有希江にぶつけるしかなかった。

「私にもわからない、一体どういうこと?」
 有希江は途方にくれた。何が起こっているのだろう。茉莉が、あおいに対する不満を溜めていることは、端から見ていても、わかった。だから、いつか注意しようと、機会を見つけようとしていたのだ。しかし、いざ、爆発してみて、これほどとは思っていなかった。

 いや、家族全体の、あおいに対する態度が、こんなに急変するとは、とてもついて行けなかった。だが、有希江自身、妹に対して、感情が変わっていくことに気付きはじめていた。敵意や憎しみというのではないが、熱意が失せようとしている。
 それは、肉親なら会って当たり前の熱意だ。例え、互いの感情が愛情やいたわりといったプラスでなくてもよい。憎しみや殺意といった、一般的にはマイナスのエネルギーであっても、そこには、他人にはない熱意があるはずなのだ。
 いま、その熱意が失せようとしている。今、有希江の膝で、おいおい泣いているあおいを見ても、(かわいそう)と思うだけだ。それは他人に対する憐憫である。街を歩いていて、誰も知らない小学生が、いじめられていたとする。その子を哀れむのと同程度の(かわいそう)にすぎない。それは、いくら払ってもただの、同情であって、おのれの身を切り売りしても、与えたいと思う、肉親の情ではない。

―――わかったわよ! あなたは、私たちよりも、何処の馬とも知れない人たちを選んだのね、汚らわしい有色人種の土民を!! だったら、いいわよ、あなたなんて、他人だわ! どうとれもすればいい!!

――――ええ?え?!有色人種だって? 土民?  何だって?私たら、こんなことを!?
 その時、有希江の脳裏に差し込んだのは、光の矢だった。その矢には、彼女が想像したこともない映像と音声が塗られていた。それは、毒だったかもしれない。一本の毒矢が、飛んできたのである。
「あれ? 私、何してたんだろう?」
「有希江お姉ちゃん! ウウ・ウ・ウ・ウ・・ウ!」
 気が付くと、あおいが、まだ泣き伏していた。有希江は、この場所にいながら、億万浄土の彼方へ旅をして、鳶帰りで戻ったような気がした。
 しかしながら、こともあろうに、つい、数秒前に見聞きしたすべての映像と音声を忘れてしまったというのである。
「あおい、それにしてもとんでもない寒さね――」
まだ、覚醒がしっくりと来ないのか、返事も何処か抜けている。
「有希江お姉ちゃん、どうしたらいいの? 私? 何がいけなかったの?」
「・・・・・・・・・・」

  その言葉に、有希江は敏感に反応した。その理由はわからない。しかし、億万浄土からやってきた通信のように思えた。
「あなたは、やっぱりそうなのよ! 人のことなんて何も考えないのよ!」
「有希江お姉・・・・・・!?」
 ふいをつかれた由加里は、姉の顔をまざまざと見た。急に、温かい膝から投げ出されて、あどけない顔は、苦痛と恐怖に歪んでいる。
 無性に腹が立ってくる。その理由がわからないのが、余計に有希江を苛立たせた。しかし、そんなことがあおいに通じるわけはない。何かわからないが、自分の態度が、姉を怒らせたらしい。由加里は、その理由を探ろうと、自分の体内に指を入れてみたが、答えらしい答えに手を触れることはできなかった。
「ど、どうしたの? ゆ、有希江お姉ちゃん!?」
「あなた、一体、みんなに何をしたの?!」
 それは、妹にではなく、自分に対しての問いだったかもしれない。

「あ、あおい、何もしてないよ!」
 おいは、500円硬貨を握りしめながら泣くばかりだ。母親がこんなことを、まさか本当にやるとは思っていなかった。腹立ちまぎれの冗談かと高をくくっていたのだ。しかし、同情の念がわき起こってこない。怒りが込み上げてこないのはどうしてだろう。
 自分は、この妹をとても可愛がっていたはずだ。わがままだけど、本当は人の気持ちがよくわかる優しい子。しかし、そのやり方がひとと違うために、数々の誤解を買っていた。そんなあおいをみんな好きだったはずだ。すくなくとも、自分は好きなはずだ。そういう認識を持っていたはずなのに。

「とりあえず、ママのところに言いに行くから」
「あおいも ―――」
「いや、あんたは一緒に行かないほうがいい」
  それは直感的に出した答えだった。有希江は、妹の顔を見た。完全に、顔面蒼白で、ほとんど生きた死体のようになっていた。息が白い。ふと視線を下げる。
「あおい、足が真っ赤じゃない」
「裸足で、やれって言われたから・・・・」
 あおいは、自らの足を改めて見つめた。その足はまるで蛸の足のようになっている。こんなに早く霜焼けになるものだろうか。いや、少女は生来、そんな病気になったことはない。そういう状況に堕ちいる機会がなかったのである。
「早く、出ないと本当に霜焼けになっちゃうよ。よく拭くんだよ。」
「うん ―――――」
 姉の優しい言葉に、あおいは、思わず目が潤んでしまった。こんな時でないと、感じない温かさだ。普段、自分はこんな温かい愛情に、守られていたのか。今更ながらに気づいて、涙の量が増える。
  姉に促されて、浴室を出ようとしたとき、聞き慣れたメロディが鳴った。携帯である。本人に似合わない、それはあくまで、あおいが言い続けた言葉だが、ショパンのノクターンは、赤木啓子の着信だった。

「あああ、啓子ちゃん?」
「どうしたの? 何かあったの? あおいちゃん?」
 携帯の向こうから、すっとんきょうな声が聞こえてくる。平時、冷静な彼女らしくない。しかし、その理由が、自分にあるとは、このときあおいは露ほどにも考えなかった。ただ、自分が急に着せられた服のひどさに、対応できなかった少女は、友人に気を遣う余裕などあるはずはなかった。

 しかし、有希江が背中を耳にして、聞いたあおいの声からすると、すでに、かつての元気さを取り戻しているのがわかる。だが、よく聞いてみれば、無理して、作っているのは、明かだった。
有希江はそれに気づかなかった。いや、気づこうとしていなかったのかもしれない。この時、彼女は、榊家が向かっている大きなベクトルに、無意識のうちに従うことにしていたのかもしれない。
「え? 行っていいの?」
 あおいの声は、たしかに浮き足だっていた。彼女が、浴室から出るとき、有希江の姿はなかった。

「もう、ママのところに行ったのかな」
 多分、うまく取りなしてくれるにちがいない。少女は姉に期待するほかはなかった。いまのところ、正気でいてくれているのは、有希江だけだった。彼女の主観からすれば、この家はほとんど狂っているとしか思えない。
 何か巨大な車輪が、回っているような気がする。何かが動いている。何かが変わろうとしている。昨日見た柱は、今日、見ている柱と、決して同じではない。
それを考えると、経験したことのない不安で押し潰されそうになる。
 あおいは意を決して、久子のところに行くことにした。啓子と交わした約束のことを話すためである。

 母親がいるはずのダイニングからは、家族の団欒の声が聞こえる。それはいつもと変わらない光景だった。たったひとつだけを除けば、昨日と全く同じである。そのたったひとつとは、あおいが抜けていることである。
――――私もあの輪に入りたい、いや、かならず、入れるはず。
根拠のない確信の元に、扉を開くと、一瞬で、笑い声が凍り付いた。四人のあおいに降り注ぐ視線は、かってのそれではない、家族に対するそれでなかった。
「あ、あの ――――」
「ご苦労さん、お掃除は終わったのね、あおいさん」
「・・・・・?!」
 久子の言いようはさらに酷薄で、辛辣だった。
「あおいさん、部屋に入るときはノックするのよ」
「・・・・うん、ごめん」
「ごめんだって?」
 久子は怪訝な顔をしたが、あおいはそれを無視することした。機先を制することにしたのだ。懐から、500円硬貨を取り出すと、母親の前に置いた。コトリという音は、あおいに耳には、なぜか、とても大きく聞こえた。まるで、鼓膜が破れそうになるほどだった。
「ママ、これって、冗談だよね、夕御飯って、冗談きついよ! それに、あした、啓子ちゃんに誘われたんだ、泊まりにいってもいい?」
 一気に用件を言い終わると、あおいは笑ってみせた。今までのように笑ったつもりだったが、口の端当たりが、微妙に引きつるのを防ぐことはできなかった。

「度重なる失言ね、あおいさんは、他人をママって呼ぶの? それにごめんですって? とんでもない家政婦ね、今すぐにでも出て行ってもいいのよ」
「・・・・・・・・」
 凍り付いた空気に、罅が入った。すくなくとも、あおいの網膜は、そのような情景を映した。
「・・・・・なんの。なんの冗談なの!? ねえ! もうヤメテよ!! いや!ねえ! 有希江お姉ちゃん?!」
 あおいは、藁を摑む思いで、有希江に救いを求めた。
「・・・・あおい」
「有希江お姉ちゃん!」
 何かが違う。確かに、さきほどの彼女は、あおいに同情的だったはずだ。それが、どうしたというのだろう。たった数分に、何があったというのだろう。まるで、あおいを憎む病原菌があって、次々と感染してしまったかのようだ。

「何を世迷い言を言っているの? この子は、あなたのお姉さんじゃないのよ、もしかして、頭がおかしくなったのかしら? 実家のご両親にそう報告してもいいかしら?」
 決して、芝居をしているように見えない。久子にそういう趣味はなかったはずだ。あおいの知っている範囲では、少なくとも、そうだった。もしかして、学生時代に、演劇部にでも所属していたのだろうか。

 有希江は、変わり果ててしまった母親を見つめた。あおいは、涙で部屋中が濡れてしまうのえはないかと思われるほどの剣幕で、泣きわめいている。
「ごめんなさい! 本当に、ごめんなさい!ねえ、教えて、ママ! あおいが何をしたっていうの!?」
「・・・・・・・・・」
 有希江はある事実を見逃さなかった。茉莉がかすかに笑っているのである。その笑みは悪魔のそれを彷彿とさせた。いままで、有希江が知っている茉莉ではなかった。
―――やはり、あのことが、茉莉を追いつめていたのかしら? でも、ずっとそんな風には見えなかったのに。
 有希江には、それが榊家に刺さった棘のように思えてならなかった。しかし、そのことで、あおいが茉莉をいじめたことはなかったはずだ。少なくとも、彼女が知る限りでは、見たことがない。

「その啓子ちゃんって子しらないけど、そんなに行きたいなら、言ってもいいわよ、ただし、もう帰ってこなくてもいいわ」
久子は、泣きじゃくる我が子を足下にして、ごく自然に言いのけた。
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウ!ママ!?」
 その小さな躰が、涙で溶けそうになる勢いで、泣きじゃくるあおい。仕方あるまい、産まれてからずっと、虐待を受けてきたならともかく、今日の今日まで、温かい愛情の毛布にくるまれて育ってきたのだ。それが、急に寒風吹き荒む大地に、放り出されたのだ。動転しない方が異常だろう。

 しかし、久子は、溺死寸前の娘に、情け容赦なく次ぎの言葉を吐いたのである。
「いいわよ、帰ってきても。だけど、条件があるわ、明日までに、主人である、私たちに奉仕しなさい」
「な、何すれば、ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウウ・・・・・・・!」
「それは自分で考えなさい。もしも、みんなが満足できたら、行ってもいいわよ、特別に、休暇を上げる。だけど交通費は、毎日の食事代から貰いますからね」
 有希江は、久子が目をつり上げているのが、背後からでも、手に取るようにわかった。妹は、水の全く存在しない部屋で、溺死していた。


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